APRON CLINIC · MEDICAL COLUMN

脂肪酸を、
「よい油・悪い油」で終わらせない。

構造・β酸化・心筋代謝から、EPA・DHAと心血管疾患のエビデンスまで

えぷろんクリニック|内科・循環器内科  情報確認日:2026年10月16日

脂肪酸は、心臓を動かす燃料であり、細胞膜の材料であり、炎症や血小板機能を調節する分子の出発点でもあります。健康を考えるうえでは、量に加えて、構造、運ばれ方、代謝される場所、そして何と置き換えて食べるかが重要です。

「魚の油は心臓によい」「植物油なら安心」「ω6は炎症を起こす」。こうした説明には、一部の事実と大きな省略が混在しています。本稿では脂肪酸を分子の構造からたどり、代謝の仕組みと、実際の患者さんを対象にした臨床試験をつなげて解説します。

STRUCTURE構造で働きが変わる

炭素鎖の長さ、二重結合の数と位置、シス・トランスが性質を左右します。

METABOLISM心臓の重要な燃料

脂肪酸は多くのATPを生みますが、利用にはミトコンドリアと酸素が必要です。

CLINICAL EVIDENCE製剤と対象を確かめる

魚を食べること、サプリ、処方EPA製剤では、評価されている条件が異なります。

1.脂肪酸と中性脂肪、コレステロールは何が違う?

脂肪酸(fatty acid)は、炭素と水素が並ぶ鎖に、カルボキシ基という部分が付いた分子です。この脂肪酸がグリセロールに3本結合したものが、中性脂肪(トリアシルグリセロール、TG)です。食用油や体脂肪の大部分は、脂肪酸そのものではなく、この形で存在します。

一方、コレステロールは環状の骨格をもつ別の脂質です。細胞膜や胆汁酸、ステロイドホルモンの材料になります。脂肪酸はコレステロールエステルの一部として結合することもありますが、両者を同じ物質として扱うことはできません。[1]

健診の「脂質」を読むための整理
名称何を指すか主な役割・臨床的な意味
脂肪酸脂質を構成する分子の一群エネルギー産生、膜構成、シグナル分子の材料
中性脂肪(TG)グリセロール+脂肪酸3本エネルギーの貯蔵・運搬。著明な高値では膵炎にも注意
コレステロールステロールという別系統の脂質膜、胆汁酸、ホルモンの材料
LDL・HDL脂質を血液中で運ぶリポ蛋白粒子LDL-C・HDL-Cは、それぞれの粒子に含まれるコレステロールの量

したがって、健診でLDL-Cが高い人とTGが高い人では、食事の確認点や治療の優先順位が同じとは限りません。脂肪酸の種類を理解することは大切ですが、採血結果は血圧、糖尿病、喫煙、腎機能、心血管病の既往などと合わせて判断します。[2]

2.脂肪酸の性質は、炭素鎖と二重結合で決まる

「18:2 n-6」は分子の見取り図です

脂肪酸は、まず炭素数と二重結合の数で分類します。18:2 n-6なら、炭素が18個、二重結合が2個あり、メチル基側の末端から数えて最初の二重結合が6番目にある、という意味です。n-6とω6は同じ分類を表します。カルボキシ基側から数えるΔ表記とは、数え始める側が異なります。

二重結合がないものが飽和脂肪酸、1個あるものが一価不飽和脂肪酸、2個以上あるものが多価不飽和脂肪酸です。ω3・ω6は後者の代表的な系列です。[1]

図1.二重結合の「数」と「立体配置」は、別の情報です

飽和・シス型不飽和・トランス型不飽和脂肪酸の模式図飽和は二重結合を持たず、シス型は二重結合の両側の炭素鎖が同じ側、トランス型は反対側に配置される。全炭素と水素の表示を省略した模式図。 飽和脂肪酸二重結合なし シス型炭素鎖が同じ側 トランス型炭素鎖が反対側 鎖が折れ曲がる比較的まっすぐ模式図:炭素・水素の表示と鎖の一部を省略。実際の立体構造は動的です。
二重結合があるだけで健康への影響が一律に決まるわけではありません。立体配置と、食品中での量・組み合わせも関係します。[1,3]

鎖の長さでも短鎖・中鎖・長鎖などに分類されます。例えば酢酸は炭素2個、酪酸は4個、MCTでよく用いられるカプリル酸は8個、カプリン酸は10個です。分類の境界には資料による違いがあるため、代謝を論じる際は「中鎖」という名称だけでなく、具体的な炭素数を確認することが重要です。

シス型の二重結合は鎖を曲げ、脂肪酸同士が密に並ぶのを妨げます。一般に融点を下げ、膜の流動性にも影響します。ただし、融点には炭素鎖の長さや脂質の組み合わせも関わります。「常温で固い油はすべて悪い」「液体ならよい」とは判断できません。

代表的な脂肪酸と食品の例
脂肪酸構造表記分類比較的多く含む食品の例
パルミチン酸16:0飽和肉の脂、パーム油など
ステアリン酸18:0飽和肉の脂、カカオ脂など
オレイン酸18:1 n-9一価不飽和オリーブ油、菜種油など
リノール酸(LA)18:2 n-6ω6・多価不飽和大豆油、コーン油、種実類など
α-リノレン酸(ALA)18:3 n-3ω3・多価不飽和亜麻仁油、えごま油、くるみなど
アラキドン酸(AA)20:4 n-6ω6・多価不飽和肉、卵など
EPA20:5 n-3ω3・多価不飽和サバ、イワシなどの魚介類
DHA22:6 n-3ω3・多価不飽和魚介類など

食品は複数の脂肪酸を含む混合物です。「オリーブ油=オレイン酸だけ」「肉=飽和脂肪酸だけ」ではありません。表は分類と代表例の整理です。[1,4]

3.「単なるカロリー」から必須栄養素へ――脂肪酸研究の転換点

1929年:脂肪を除くと、カロリーだけでは健康を保てないGeorge BurrとMildred Burrは、脂肪を厳密に除いた食餌によってラットに成長障害や皮膚の異常が生じることを報告しました。脂肪には、他の栄養素で代替できない役割があるという、必須脂肪酸研究の出発点です。[5]

1963年:糖と脂肪酸は、代謝のなかで競合するRandleらはグルコース・脂肪酸サイクルを提唱しました。細胞がどの燃料を使うかは相互に調節されており、糖尿病や心筋代謝を考える重要な枠組みになりました。[6]

2007〜2024年:生理作用から、患者さんの予後を確かめる段階へJELIS、REDUCE-IT、STRENGTH、RESPECT-EPAなどが、特定のω3製剤による心血管イベントへの影響を検証しました。代謝指標の改善と、病気の発症・再発の減少を分けて評価する必要性が明確になっています。[12–15]

この歴史が教えるのは、脂肪酸を「不要な脂」と考えることも、ある種類を多く摂れば健康になると考えることも、十分ではないということです。

4.食べた脂肪酸は、どのように心臓まで届くのか

食事中の中性脂肪は、小腸で胆汁酸の助けを受け、膵リパーゼなどによって脂肪酸とモノアシルグリセロールに分解されます。腸管の細胞に取り込まれた長鎖脂肪酸の多くは、再び中性脂肪に組み立てられ、カイロミクロンという粒子としてリンパ管を経由し、血液へ入ります。

筋肉や脂肪組織の毛細血管にあるリポ蛋白リパーゼ(LPL)が、粒子中の中性脂肪を分解します。放出された脂肪酸は、筋肉では燃料に、脂肪組織では貯蔵に利用されます。肝臓から供給される中性脂肪は、主にVLDLという別の粒子で運ばれます。[7]

図2.脂肪酸の供給には、食後と空腹時で異なる経路があります

食後:食事からの供給
食事中の中性脂肪
↓消化・吸収・再合成
小腸 → カイロミクロンリンパ管を経て血液中へ
↓LPLによる中性脂肪の分解
筋肉で利用/脂肪組織に貯蔵
空腹時:貯蔵脂肪からの供給
脂肪細胞の中性脂肪
↓ATGL・HSLなどによる脂肪分解
非エステル化脂肪酸(NEFA)血液中では主にアルブミンに結合
↓心筋・骨格筋・肝臓などへ
酸化して利用/肝臓でケトン体生成
長鎖脂肪酸の主要経路を示した模式図です。肝臓からのVLDL供給などは省略しています。食後も空腹時も両経路は併存し、寄与が変化します。[7,8]

血液検査でいう遊離脂肪酸(FFA)は、通常、この非エステル化脂肪酸(NEFA)を指します。「遊離」といっても、水に溶けにくいため、血中では主にアルブミンに結合しています。インスリンは脂肪分解を抑え、空腹やカテコールアミン刺激は貯蔵脂肪の動員を促します。

炭素数8・10の脂肪酸を主体とするMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)は、長鎖脂肪に比べ、吸収後に門脈経由で肝臓へ届きやすい性質があります。ただし、代謝されやすさだけで減量効果や心血管保護を保証できるわけではなく、必須脂肪酸を十分に供給するものでもありません。[22]

5.β酸化とは?脂肪酸からATPを取り出す仕組み

長鎖脂肪酸は、そのままミトコンドリア内膜を越えられません

細胞に入った脂肪酸は、まずCoAが結合した脂肪酸アシルCoAになります。長鎖脂肪酸をミトコンドリアの内部へ運ぶ際には、CPT1、カルニチン・アシルカルニチントランスロカーゼ、CPT2からなるカルニチンシャトルが働きます。カルニチンは運搬に必要ですが、必要な人に補充することと、一般の方が摂れば脂肪燃焼が増えることは別の命題です。[8]

β酸化は、炭素鎖を2個ずつ切り出す反応です

ミトコンドリア内では、脱水素、水和、再度の脱水素、チオール開裂という反応が繰り返され、炭素2個分のアセチルCoAが切り出されます。同時に生じるNADHとFADH₂は、電子伝達系に電子を供給します。パルミチン酸の7回のβ酸化では、両者がそれぞれ7分子生じます。アセチルCoAもTCA回路で代謝され、最終的なATP産生につながります。

パルミチン酸(炭素16個)
7回のβ酸化 → 8分子のアセチルCoA
完全酸化によるATP収支:約106分子

約106 ATPは、NADH=2.5 ATP、FADH₂=1.5 ATP、アセチルCoAのTCA回路での酸化=10 ATP、活性化コスト=2 ATP相当として求める理論値です。実際の細胞での産生量は、共役効率などに左右されます。[8,9]

脂肪酸には還元された炭素が多く、栄養学的にも脂質は約9 kcal/gと高いエネルギー密度をもちます。一方、β酸化で生じた電子を処理する電子伝達系は酸素に依存します。したがって、脂肪酸は酸素が不足した状況でATPを急速に供給できる燃料ではありません。

β酸化と、脂質の「過酸化」は異なる現象です

多価不飽和脂肪酸を含む膜リン脂質は、酸化ストレスの条件下で過酸化を受けることがあります。脂質過酸化が制御を超えると、鉄依存性の細胞死であるフェロトーシスに関与します。これは、酵素反応でATP産生につなげるβ酸化とは異なります。実験で示された膜脂質の酸化感受性から、通常量の食用油の摂取が直ちに同じ障害を起こすとは結論できません。[21]

なお、炭素数が非常に多い脂肪酸では、ペルオキシソームによる短鎖化が重要です。すべての脂肪酸が同じ輸送系・同じ場所だけで処理されるわけではありません。[8]

「脂肪を燃やせば、そのまま糖になる」わけではありません。

ヒトでは、偶数鎖脂肪酸から生じるアセチルCoAは、正味のグルコース産生にはなりません。中性脂肪のグリセロール部分や、奇数鎖脂肪酸に由来するプロピオニルCoAは糖新生に寄与できます。肝臓は脂肪酸由来のアセチルCoAからケトン体を作り、心筋などへ別の燃料として供給することもできます。[9]

6.脂肪酸は食事だけで決まらない――合成と燃焼の調節

ヒトは多くの脂肪酸を体内で合成できます。主に肝臓などで、アセチルCoAからアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)によってマロニルCoAが作られ、脂肪酸合成酵素がNADPHを利用して炭素鎖を伸ばします。代表的な最終産物はパルミチン酸です。糖質などに由来する炭素も、このde novo lipogenesis(新規脂肪酸合成)の材料になり得ます。

ここで重要なのが、マロニルCoAはCPT1を阻害するという仕組みです。合成が進むときにはミトコンドリアへの長鎖脂肪酸の流入を抑え、同時に作って燃やす無駄を減らします。エネルギー不足時にはAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)によるACCの抑制などを通じ、酸化へ傾きます。[8],[9]

そのため、TGが高い場合、油の量だけを確認しても不十分です。総エネルギーの過剰、飲酒、糖質の摂り方、インスリン抵抗性、糖尿病の管理状態などを合わせて評価する必要があります。[2]

7.なぜリノール酸とα-リノレン酸は「必須」なのか

ヒトは飽和脂肪酸を作り、オレイン酸などへ変換できますが、ω6・ω3系列の起点となる二重結合を新しく導入する酵素をもちません。そのため、リノール酸とα-リノレン酸は食事から摂る必要がある必須脂肪酸です。欠乏すると、皮膚の異常や成長障害などが問題になります。[1],[4]

図3.ω6とω3は、それぞれ別の系列として代謝されます

ω6系列
リノール酸(18:2 n-6)食事から摂取する必須脂肪酸
↓不飽和化・鎖長延長/複数の中間体
アラキドン酸(20:4 n-6)膜リン脂質・脂質メディエーターの材料
ω3系列
α-リノレン酸(18:3 n-3)食事から摂取する必須脂肪酸
↓不飽和化・鎖長延長/変換量は限定的
EPA(20:5 n-3)
↓DPAなどを経る複数段階
DHA(22:6 n-3)合成経路の終盤ではペルオキシソームも関与
途中の反応を省略した系列図です。ヒトではω6系列をω3系列へ変換できません。EPA・DHA・AAは食品から直接摂取する経路もあります。[1,4,9]

α-リノレン酸からEPA、さらにDHAへの変換は可能ですが、効率は低く、性別、遺伝的要因、栄養状態などによっても変わります。特にDHAへの変換は限定的です。したがって、亜麻仁油を摂ることと、魚などからEPA・DHAを直接摂ることは同等ではありません。[4]

8.心臓は脂肪酸で動く――それでも「多く摂ればよい」とはいえない理由

心筋は、複数の燃料を使い分けています

心臓は休むことなくATPを消費します。ヒトの心臓で動脈血と冠静脈洞血を比較した研究でも、脂肪酸が主要な燃料であることが示されています。ただし心筋は、乳酸、グルコース、ケトン体なども使います。各燃料の寄与は食事、絶食、運動、ホルモン、病態によって変化し、固定した割合ではありません。[10]

脂肪酸は1分子当たり多くのATPを生む一方、酸素1分子当たりのATP産生は、一般にグルコースの完全酸化のほうが効率的です。大量のATPを得られることと、限られた酸素で効率よくATPを得られることは区別して考えます。

脂肪毒性は「脂肪があること」そのものではありません

供給される脂肪酸が処理能力を超えると、筋肉や肝臓などに脂質が蓄積し、ジアシルグリセロールやセラミドなどの代謝物が細胞内シグナルに影響することがあります。これが脂肪毒性(lipotoxicity)を考える基本です。ヒトの骨格筋研究では、ジアシルグリセロールとPKC活性化、インスリンシグナル低下との関連が示されています。

ただし、脂質の種類、細胞内の場所、運動習慣などによって意味は変わります。中性脂肪として安全に貯蔵できている状態と、反応性のある脂質中間体が増えた状態は同一ではありません。培養細胞への高濃度パルミチン酸添加の結果を、通常の食事摂取へそのまま当てはめることもできません。[11]

心不全では、代謝の変化も一様ではありません

進行した心不全では、脂肪酸の取り込みや酸化に関わる異常、ミトコンドリア機能の低下、ケトン体利用の変化などが観察されています。しかし、進行した拡張型心筋症、虚血性心疾患、肥満・糖尿病を伴う病態を、すべて同じ代謝像で説明できるわけではありません。[10],[18]

心臓が脂肪酸を使うという生理学的事実から、脂質を増やす食事療法やケトン体サプリによる心不全治療の有効性は導けません。生体で観察された代謝変化が、代償反応なのか、障害の原因なのか、治療標的になるのかは、それぞれ検証が必要です。

9.ω6は炎症を起こし、ω3は炎症を抑える――どこまで正しい?

細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼA₂などによって脂肪酸が切り出されると、シクロオキシゲナーゼ(COX)やリポキシゲナーゼ(LOX)などの経路を通じ、脂質メディエーターが作られます。アラキドン酸由来のトロンボキサンA₂は血小板凝集や血管収縮に、ロイコトリエンB₄は炎症細胞の動員に関わります。

しかし、アラキドン酸からは、血管拡張・血小板凝集抑制に関わるプロスタサイクリンや、炎症収束に関与するリポキシンも生じます。EPA・DHAも膜構成やメディエーター産生に関わり、レゾルビン、プロテクチン、マレシンなどの研究が進んでいますが、これらの機序だけでサプリの臨床効果を断定することはできません。[19]

実際、リノール酸の摂取を増やす介入をまとめた研究では、一般的な炎症マーカーが一貫して上昇するという結果にはなっていません。「ω6だから炎症性」「植物の種から作る油は一律に有害」とする説明は、ヒトの介入研究を十分に反映していません。[20]

ω6/ω3比だけで判断する方法にも限界があります。比率が同じでも、それぞれの絶対摂取量は大きく異なるからです。日本の食事摂取基準でも、ω6とω3は別々の目安量として示されています。魚、植物油、種実類などを含む食事全体の評価が必要です。[1]

10.飽和脂肪酸を減らすときは「何に置き換えるか」が重要

飽和脂肪酸を多く含む食事は、一般にLDL-Cを上昇させる方向に働きます。ただし、個々の脂肪酸や食品の構造によって影響は異なります。また、飽和脂肪酸を減らしても、その分を砂糖や精製された炭水化物で補えば、同じ利益を期待できるわけではありません。

WHOの2023年ガイドラインは、飽和脂肪酸を総エネルギーの10%以下、トランス脂肪酸を1%以下とし、飽和脂肪酸の置き換え先として多価不飽和脂肪酸、植物由来の一価不飽和脂肪酸、食物繊維を含む食品由来の炭水化物を挙げています。[3]

日本人の食事摂取基準(2025年版):成人の例
項目基準読み方
総脂質総エネルギーの20〜30%成人の目標量。必要エネルギー量から換算
飽和脂肪酸総エネルギーの7%以下成人の目標量。2,000 kcal/日なら約15.6 g/日以下に相当
n-3系脂肪酸30〜49歳:男性2.2 g/日、女性1.7 g/日目安量。ALA・EPA・DHAなどの合計
n-6系脂肪酸30〜49歳:男性11 g/日、女性9 g/日目安量。年齢等によって異なる

出典:[1]。15.6 gは2,000×0.07÷9による換算値です。目安量は、個人の必要量や治療量を直接示す数字ではありません。ω3の目安量を「EPA+DHAだけで摂る量」と読み替えないでください。

実生活では、肉の脂やバターを大量に使う料理の一部を、魚、適量の植物油、大豆製品などを使う料理へ置き換える、と考えると実行しやすくなります。油を追加するだけでは、総エネルギーが増えることにも注意が必要です。

トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種ですが、シス型とは区別され、摂取を低く抑える対象です。一方で、商品の組成はさまざまなので、「マーガリン」という名称だけから個々の商品の含有量は判断できません。加工食品を含めた食生活全体で考えます。[3]

11.EPA・DHAは心筋梗塞を防ぐのか――主要試験を読み分ける

EPA・DHAにはTGを下げる作用があります。しかし、TG低下という検査値の改善と、心筋梗塞や脳卒中などの減少は、別の評価項目です。製剤、用量、対象、比較群、背景治療によって、試験結果は異なっています。

代表的な無作為化比較試験:異なる条件の試験同士を直接比較する表ではありません
試験対象・治療条件主要な結果解釈の注意点
JELIS
2007年 [12]
日本人の高コレステロール血症18,645人。スタチン+EPA 1.8 g/日 対 スタチン単独。平均追跡4.6年主要冠動脈イベント:2.8% 対 3.5%。ハザード比0.81非盲検・エンドポイント盲検。現在とは背景のLDL管理が異なる
REDUCE-IT
2019年 [13]
心血管疾患の既往、または糖尿病と他の危険因子があり、スタチン治療中でTG 135〜499 mg/dL、LDL-C 41〜100 mg/dLの8,179人。イコサペント酸エチル4 g/日 対 ミネラルオイル。追跡中央値4.9年主要複合心血管イベント:17.2% 対 22.0%。ハザード比0.75(95%CI 0.68〜0.83)特定の高用量EPA製剤での結果。比較群のミネラルオイルの影響は解釈上の論点
STRENGTH
2020年 [14]
スタチン治療中の高リスク患者13,078人。EPA+DHAを含むカルボン酸製剤4 g/日 対 コーン油。主要評価追跡中央値約41か月主要複合心血管イベント:12.0% 対 12.2%。ハザード比0.99(95%CI 0.90〜1.09)有意な減少なし。REDUCE-ITとは製剤・対象・比較群が異なる
RESPECT-EPA
2024年 [15]
日本の安定冠動脈疾患でEPA/AA比<0.4、スタチン治療中の2,506人を無作為化。EPA 1.8 g/日 対 対照。追跡中央値5年主解析の主要複合心血管イベント:9.1% 対 12.6%。ハザード比0.79(95%CI 0.62〜1.00)、p=0.055主要評価項目は統計学的有意差に到達せず。非盲検・エンドポイント盲検

表中の発生割合は各追跡期間中の値で、年間発生率ではありません。主要評価項目は試験ごとに異なります。JELISは冠動脈イベント、他3試験は心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、不安定狭心症、血行再建などの複合評価です。RESPECT-EPAの発生割合は論文の主解析集団(EPA群1,225人、対照群1,235人)に基づきます。海外試験の4 g/日は日本での処方指示ではありません。

相対的な低下と、絶対的な差を分けて読む

REDUCE-ITでは、ハザード比0.75という相対的な低下に加え、主要イベント発生割合に4.8パーセントポイントの絶対差がありました。この割合の差から単純計算したNNTは約21人/追跡中央値4.9年です。ただし、これは試験対象となった高リスク患者での値であり、健康な人や一般的な魚油サプリへそのまま当てはめることはできません。[13]

また、STRENGTHの結果だけで「DHAがEPAの利益を打ち消した」とは結論できません。EPA単剤とEPA+DHAを同じ対象集団で直接比較した試験ではないためです。RESPECT-EPAについても、主要評価項目が有意ではなかった以上、二次評価項目だけをもとに「有効性が確立した」と表現することは適切ではありません。

心房細動と出血も合わせて評価します

REDUCE-ITでは心房細動・心房粗動による入院が3.1%対2.1%、重篤な出血が2.7%対2.1%でした。出血の差はp=0.06で、統計学的有意差には達していません。STRENGTHでも新規心房細動の増加が報告されています。これらは高用量製剤の試験であり、通常の魚摂取の危険性を示す結果ではありませんが、高用量を自己判断で追加する根拠にもなりません。[13],[14]

魚・市販サプリ・処方薬は、同じ根拠で評価できません。

魚はたんぱく質などを含む食品です。サプリはEPA・DHAの含有量や組成が製品ごとに異なり、魚油の総重量が有効成分量とは限りません。処方製剤は、特定の製剤・用量・患者背景で得られた試験結果をもとに判断します。まずLDL-C、血圧、糖尿病、禁煙などの基本的なリスク管理を行い、追加治療の必要性を検討します。[2,4,12–15]

12.短鎖脂肪酸――腸内細菌から生まれる別の脂肪酸

酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)は、食物繊維などが大腸の細菌によって発酵されることでも生じます。腸上皮のエネルギー代謝や受容体を介したシグナルなど、通常の食用油の話とは異なる経路で研究されています。

ただし、「短鎖脂肪酸を増やせば血圧が下がる」とまではいえません。特殊な食物繊維を使った小規模試験では降圧が示された一方、2024年の無作為化試験では経口酪酸の投与で日中血圧が上昇しました。腸内で作られること、標的部位に届けること、成分を飲むことは区別が必要です。現段階で酪酸サプリを高血圧治療の代わりに勧める根拠にはなりません。[16],[17]

13.脂肪酸の知識を、毎日の食事と診療につなげる

実践の中心は、特定の油を大量に追加することではなく、食事全体を見直すことです。脂身の多い肉やバター中心の料理が続くなら、その一部を魚、大豆製品、適量の植物油や種実類を使う料理へ置き換えます。TGが高い方では、飲酒、甘い飲料、総エネルギーの過剰にも目を向けます。

一方、やせや食欲低下がある高齢者、心不全で体重が減っている方に、画一的な脂質制限を行うと、栄養不足を助長するおそれがあります。摂取基準は出発点であり、実際の食事は体重の推移、筋肉量、合併症、食べられる量に合わせて調整します。[1],[2]

次のようなときは、医療機関で相談してください

  • 健診でLDL-CやTGの高値を指摘され、再検査や治療につながっていない。
  • 糖尿病、高血圧、腎臓病、心筋梗塞・脳梗塞の既往があり、食事やサプリの選び方に迷っている。
  • EPA・DHA製剤や魚油サプリの使用中に、動悸、不規則な脈、出血が続くなどの変化がある。早めに医療機関へ相談してください。
  • 強い胸痛、冷汗、突然の強い息苦しさ、意識の異常がある場合は、通常の予約を待たず119番で救急要請してください。

姫路市で脂質異常症や食事の管理を相談したい方へ

えぷろんクリニックでは、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病と、心不全を含む循環器疾患を診療しています。診察や採血、必要に応じた心電図などを通じて、検査値だけでなく心血管リスク全体を確認し、治療や食生活の見直しを考えます。

姫路市で脂質異常症にお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

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14.脂肪酸について、よくある質問

Q.飽和脂肪酸は、まったく摂らないほうがよいですか?

ゼロを目指す必要はありません。日本人の食事摂取基準では、成人の目標量は総エネルギーの7%以下です。食事全体の量と置き換え先が重要で、低栄養の方では個別の調整が必要です。[1,3]

Q.えごま油や亜麻仁油を摂れば、魚を食べなくても同じですか?

同じではありません。これらに多いα-リノレン酸からEPA・DHAへの変換は限定的です。魚はEPA・DHAを直接含み、たんぱく質なども供給します。魚が食べられない場合は、食事全体から代替方法を考えます。[4]

Q.ω6脂肪酸は炎症を起こすので、植物油を避けるべきですか?

ω6を一律に避ける根拠はありません。リノール酸は必須脂肪酸で、摂取を増やした介入研究でも炎症マーカーの一貫した上昇は示されていません。過剰なエネルギー摂取を避けながら、油の種類と食事全体を評価します。[1,20]

Q.EPA・DHAサプリを飲めば、スタチンをやめられますか?

代わりにはできません。EPAの主要な試験はスタチン治療に追加する条件などで行われています。サプリへの置き換えや処方薬の中止は自己判断で行わず、主治医に相談してください。[12–15]

Q.姫路市で中性脂肪やコレステロールの高値は、どこに相談できますか?

内科や循環器内科が相談先になります。えぷろんクリニックでは、採血結果に加えて血圧、糖尿病、心臓病の既往などを確認し、脂質異常症の管理を行います。健診結果と薬・サプリの情報をお持ちください。

参考文献・一次資料

摂取基準・診療ガイドライン、原著論文を中心に、基礎代謝の解説資料を補足しています。文中の番号は以下の資料に対応します。

  1. 厚生労働省.日本人の食事摂取基準(2025年版):1–3 脂質.公式PDF
  2. 日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.英語版:Japan Atherosclerosis Society Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases 2022.学会誌掲載ページ(最終版)
  3. WHO.Saturated fatty acid and trans-fatty acid intake for adults and children.2023.公式ガイドライン
  4. NIH Office of Dietary Supplements.Omega-3 Fatty Acids: Health Professional Fact Sheet.公式資料
  5. Burr GO, Burr MM.A new deficiency disease produced by the rigid exclusion of fat from the diet.J Biol Chem.1929;82:345–367.原著を紹介するNutrition Classics(1973年)
  6. Randle PJ, et al.The glucose fatty-acid cycle. Its role in insulin sensitivity and the metabolic disturbances of diabetes mellitus.Lancet.1963;1:785–789.PubMed
  7. Feingold KR.Introduction to Lipids and Lipoproteins.Endotext.Updated January 14, 2024.NCBI Bookshelf
  8. Talley JT, Mohiuddin SS.Biochemistry, Fatty Acid Oxidation.StatPearls.Updated January 16, 2023.NCBI Bookshelf
  9. Chandel NS.Lipid Metabolism.Cold Spring Harb Perspect Biol.2021;13:a040576.doi:10.1101/cshperspect.a040576.PMC収載本文
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えぷろんクリニック|兵庫県姫路市飾磨区三宅1丁目192 田中興産ビル1階
内科・循環器内科・呼吸器内科 / 院長 松尾晃樹(日本循環器学会認定 循環器専門医)の紹介

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