専門的な解説。一般の方も導入・要点から読める構成。

一つの町を長く見つめることで、日本人の病気の姿が見えてきました。研究方法、代表的な原著論文、診療への応用、そして解釈の限界まで読み解きます。

この記事の要点

  • 久山町研究は、1961年に始まった地域住民を対象とする前向きコホート研究です。病気の発症と、その前から存在する危険因子を結び付けて調べます。
  • 高い追跡精度に加え、歴史的には剖検による診断確認が大きな特徴でした。ただし、町の剖検事業は2023年3月31日に終了しています。
  • 脳卒中、糖尿病、慢性腎臓病、認知症を別々の問題として扱わず、長期的な健康リスクのつながりを理解する手掛かりを提供しています。
  • 2025年公表の認知症研究と心血管リスクモデルの外部検証も紹介します。関連が見つかったことと、治療による予防効果が証明されたことは区別します。

01久山町研究とは――始まりは死亡統計への疑問

久山町研究(Hisayama Study)は、福岡県糟屋郡久山町の住民と九州大学、地域の医療機関・行政が協力し、1961年から続けてきた疫学研究です。疫学とは、集団の中で「どのような人に、どの病気が、どれくらい起こるのか」を調べ、その背景を明らかにする学問です。[1]

出発点には、日本人の脳卒中死亡を正確に把握したいという課題がありました。九州大学の公式解説によれば、当時の全国死亡統計では脳出血による死亡率が脳梗塞の12.4倍とされていました。一方、剖検を重視した久山町研究の初期集団では、その比は約1.1倍でした。診断書に書かれた病名だけでは、脳卒中の内訳を正しく捉えられない可能性が示されたのです。[1]

ただし、全国統計と一地域の集団は母集団も集計条件も異なります。この比の違いから、そのまま全国の誤診率を計算することはできません。ここから得られる教訓は、大量の記録があっても、病気を正しく分類できているかを確かめなければならないということです。

研究対象は、その後、冠動脈疾患、高血圧、糖尿病、腎臓病、認知症などへ広がりました。久山町研究は一つの論文や一回限りの調査を指す名前ではなく、地域住民の長期追跡を土台とする、多数の研究から成る研究基盤です。[2]

02なぜ信頼されるのか――研究デザインと診断精度

「病気になってから聞く」だけでなく、発症前から追いかける

前向きコホート研究では、まず住民の血圧、血糖、脂質、喫煙、身体活動などを調べ、その後の発症を追跡します。久山町研究では、40歳以上を対象とする複数のコホートが異なる年代に設定され、健診、医療機関の診療情報、電話・郵便などを組み合わせて追跡されてきました。公式資料では、各集団のおおむね70~80%という健診参加率と99%以上の追跡率が紹介されています。これらの数字は研究や時期ごとに確認すべき値であり、すべての解析に一律に当てはまるわけではありません。[2]

久山町研究を読むときに区別したい研究方法
方法答えられる主な問い注意点
前向き追跡高血圧や糖尿病がある人は、その後にどの病気を発症しやすいか薬や生活習慣を無作為に割り付けた試験ではない
繰り返し横断調査各調査時点で、病気を持つ人の割合がどう変化したか有病率の変化は発症率だけでは説明できない
異なる年代のコホート比較1960年代と2000年代で、発症しやすさは変わったか年齢構成、診断技術、治療環境の違いを考慮する
臨床・病理の対応生前の危険因子と、実際の臓器病変は関連するか剖検例には選択があり、一般住民全員を代表するとは限らない

剖検がもたらした、病名の裏付け

剖検とは、亡くなった方の身体を病理学的に調べ、死因や病変を確かめることです。過去の公式資料では、長期間の平均剖検率は約75%とされています。病気の発症を丁寧に把握する追跡体制と、病理による診断確認を組み合わせたことが、久山町研究の重要な強みでした。[2]

「日本人の平均に近い集団」の意味

年齢・職業構成などが全国と近いことは、日本人への応用を考えるうえで利点です。ただし、全国から無作為抽出した標本ではありません。地域の生活環境や医療との関わり方が、別の地域と同じとは限らないため、診断の正確さと、全国への一般化のしやすさは別々に評価します。[1]

03脳卒中はどう変化したか

1960年代から1970年代に、発症率が大きく低下

Hataらの2013年の報告では、1961年、1974年、1983年、1993年、2002年に設定した40歳以上の5集団を、それぞれ7年間追跡して比較しました。年齢調整後の脳卒中発症率は、1960年代の集団から1970年代の集団にかけて、男性で51%、女性で43%低下しました。その後の年代では、減少の速度が鈍化しています。[4]

ここでいう年齢調整は、集団の年齢構成の違いによる影響を統計的にそろえる操作です。高齢者が多くなれば、危険因子の管理が改善していても患者数は増え得ます。そのため、人口全体の患者数と、年齢構成をそろえた発症率を混同しないことが大切です。

血圧管理の改善と、代謝性リスクの増加

同じ研究では、血圧管理の改善や喫煙の減少がみられた一方、耐糖能異常、高コレステロール血症、肥満が増加しました。急性心筋梗塞の発症率には、男女とも明確な低下がみられませんでした。これらは、脳卒中と心筋梗塞が同じようには変化しなかったことを示しています。[4]

この結果からは、血圧を管理するだけで予防が完成するわけではなく、血糖・脂質・喫煙なども合わせて評価する必要性が読み取れます。ただし、時代の変化を比較した観察研究なので、「脳卒中減少の何%が特定の降圧薬の効果だったか」まで直接証明したものではありません。

04脂質と脳梗塞――病型を分けて考える

脳卒中には、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞があります。さらに脳梗塞にも、太い動脈の粥状硬化に関係するアテローム血栓性脳梗塞、細い血管が障害されるラクナ梗塞、心臓でできた血栓などが飛ぶ心原性脳塞栓症といった病型があります。[14]

Imamuraらは、LDLコレステロールと脳卒中の関係を病型別に検討しました。アテローム血栓性脳梗塞では、LDLが最も高い四分位群の発症ハザードは、最も低い群の2.84倍(95%信頼区間1.17~6.93)でした。[5]

異なる病型をすべて「脳卒中」にまとめると、ある危険因子との関係が薄まって見えることがあります。一つの病名に集約せず、病態に応じて評価することが、病型診断を重視する久山町研究の価値です。

05糖尿病、食後高血糖と認知症

糖尿病の増加を、糖負荷試験で捉えた

Mukaiらは、1988年の2,490人と2002年の2,852人について、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を用いて耐糖能を評価しました。対象は40~79歳です。年齢調整後の2型糖尿病有病率は、男性で14.6%から20.8%、女性で9.1%から11.2%へ増加しました。[6]

OGTTでは、空腹時だけでなく、一定量のブドウ糖を飲んだ後の血糖上昇を調べます。病院で既に診断された人だけを数える方法に比べ、まだ気付かれていない耐糖能異常も把握しやすい方法です。ただし、この数字は当時の久山町の対象集団における値であり、現在の日本全体の糖尿病有病率ではありません。

糖尿病とアルツハイマー型認知症の関連

Oharaらの2011年の研究は、認知症のない60歳以上の1,017人を15年間追跡しました。正常耐糖能の人と比べた、糖尿病の人の多変量調整後ハザード比は次の通りでした。[7]

糖尿病と、その後の認知症発症との関連
評価した認知症調整後HR95%信頼区間この研究での読み方
全認知症1.741.19~2.53統計学的に有意な関連
アルツハイマー型認知症2.051.18~3.57統計学的に有意な関連
血管性認知症1.820.89~3.71高い推定値だが、調整後は有意ではない

負荷後2時間血糖の高値も認知症発症と関連しました。一方、空腹時血糖では同様の関連が明確でなかったと報告されています。ただし、OGTTの2時間値は日常の食事後の血糖やCGMの変動指標と同一ではなく、「空腹時血糖は無意味」「食後血糖だけを下げれば認知症を防げる」という結論にはなりません。[7]

生前の代謝指標と、脳の病理を結ぶ研究

Matsuzakiらは、生前にOGTTを受け、後に剖検された135例を解析し、インスリン抵抗性に関わる指標とアルツハイマー病の老人斑との関連を検討しました。臨床上の認知症診断だけでなく、脳組織の変化を調べられる点に、この研究基盤の特色があります。[8]

もっとも、病理との関連は機序の仮説を補強するもので、糖尿病治療薬による認知症予防効果の証明ではありません。認知症の予防を理由に、個人の状態を無視して血糖を下げ過ぎることも適切ではありません。

06中年期の血圧と家庭血圧の変動

今の血圧だけでなく、長年の血圧歴が重要

Ninomiyaらの2011年の研究では、認知症のない65~79歳の668人を17年間追跡し、中年期・老年期の血圧と認知症の関係を検討しました。中年期の高血圧は、老年期の血圧の状態にかかわらず、その後の血管性認知症と強く関連しました。一方、この解析ではアルツハイマー型認知症との同様の関連は明確ではありませんでした。[9]

これは「高齢になってから血圧を考えればよい」とは言えないことを示唆します。また、老年期の一時点で血圧が低いからといって、それまでの血管への負荷が消えたことにはなりません。ただし、この研究のみから、すべての年代に共通する最適な降圧目標を決めることはできません。

平均血圧と、日ごとの変動は別の指標

Oishiらの2017年の研究では、認知症のない60歳以上の1,674人について家庭血圧を測定し、5年間追跡しました。家庭収縮期血圧の変動係数が最も高い四分位群では、最も低い群と比べ、全認知症の調整後HRは2.27(95%信頼区間1.45~3.55)でした。平均血圧などを調整しても関連が残っています。[10]

変動係数は「標準偏差÷平均値」を基にした指標です。したがって、これは「昨日より今日は20mmHg高かった」という一回の変化を、そのまま危険度に換算する研究ではありません。

血圧変動の大きさには、血管の状態、体調、測定条件、服薬状況など複数の要因が関わり得ます。関連が示されたことから、変動を薬で小さくすれば認知症が減るとまでは言えません。臨床では、条件をそろえて測った家庭血圧の記録を確認し、平均値とばらつきの両方を評価する視点につながります。

07認知症の動向――2025年論文による更新

久山町研究を「認知症は増え続けている」とだけ説明するのは、現在では不十分です。Oharaらが2025年12月に公表した論文は、65歳以上を対象とする1985~2022年の7回の横断調査と、3つの10年間追跡コホートを検討しています。[11]

近年の認知症有病率――久山町の65歳以上、粗有病率
調査年認知症有病率
2012年17.9%
2017年15.8%
2022年12.1%

2012年以降は有病率が低下し、年齢・性別を調整しても同様の傾向でした。発症についても、2002年開始のコホートに対する2012年開始のコホートの年齢・性別調整後HRは0.60(95%信頼区間0.51~0.70)でした。[11]

著者らは生活習慣病管理などの改善が背景にある可能性を述べていますが、減少の原因を一つに特定した研究ではありません。さらに、近年は画像・剖検による評価の割合が変化しており、認知症病型の比較にも注意が必要です。[11]

08腎臓と心血管疾患のつながり

慢性腎臓病(CKD)は、将来の透析リスクだけで評価する病気ではありません。Ninomiyaらは、心血管疾患の既往がない40歳以上の2,634人を12年間追跡しました。CKDは、男性の冠動脈疾患とHR 2.26(95%信頼区間1.06~4.79)、女性の虚血性脳卒中とHR 1.91(1.15~3.15)の関連を示しました。[12]

この結果は、腎機能の低下を全身の血管リスクの一部として捉える根拠の一つです。ただし、「男性のCKDは心臓だけ、女性のCKDは脳だけに影響する」という意味ではありません。男女で有意だったかどうかが違うだけでは、男女の作用の差が統計学的に証明されたことにはならず、イベント数や推定精度も確認する必要があります。

さらに、久山町の剖検例を用いた研究では、eGFRの低下と冠動脈の進行した動脈硬化病変の頻度との関連が報告されています。発症の追跡と病理学的な検討が、異なる角度から心腎連関を支えている点が特徴です。[13]

診療への含意は、採血のクレアチニンだけを単独で見るのではなく、eGFR、尿蛋白・尿アルブミン、血圧、糖尿病、脂質、過去の検査値の推移を合わせて評価することです。一度の検査異常だけで慢性の病気と決めつけず、持続性や原因を確認します。

09久山町スコア――診療への応用と外部検証

予測するのは「すべての心臓病」ではない

Hondaらの動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)予測モデルは、心血管疾患の既往がない40~84歳の2,454人を基に開発されました。追跡期間中央値は24年で、初回ASCVDイベントは270件でした。ここでのASCVDは、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の発症です。心不全、心房細動、心原性脳塞栓症などをすべて含む総合的な心臓病スコアではありません。[14]

原著モデルの予測因子には、年齢、性別、収縮期血圧、糖尿病、HDL・LDLコレステロール、蛋白尿、喫煙、運動習慣が含まれます。長期追跡データからモデルを作り、10年間の発症確率を推定する設計です。[14]

原著モデルと、ガイドラインの使い方を区別する

日本動脈硬化学会の2022年版ガイドラインでは、久山町研究に基づくスコアがリスク評価に採用されました。ただし、診療では最初に既往歴や高リスク病態を確認します。糖尿病、CKD、末梢動脈疾患などがあれば、単に一般向けの点数表に入れるだけではなく、ガイドラインの該当する管理区分で判断します。[15]

スコアには原著モデルやガイドライン用の運用があり、「久山町スコア」という名称だけで入力項目や対象年齢が同じだと考えないことが必要です。原著の簡易スコア図には2023年の訂正もあるため、診療に使用する際は訂正版や学会が公開するツールを確認します。[22]

2025年の外部検証――識別は良好でも、確率は過大推定し得る

2025年のHondaらの研究は、全国の健診・レセプトデータを用い、ASCVDのない40~74歳の420,552人でモデルを外部検証しました。追跡期間中央値4.4年で3,998人にASCVDが発症し、UnoのC統計量は0.759(95%信頼区間0.751~0.766)でした。一方、原モデルは絶対リスクを過大推定する傾向があり、再較正で改善しました。[16]

予測モデルの性能は、二つの軸で考える
評価何を見ているか診療での意味
識別能将来のイベントが起こりやすい人を、起こりにくい人より高く順位付けできるか注意して管理する人を見分ける助けになる
較正予測した確率と、実際に観察された頻度が合うか患者さんに伝える「何%」の妥当性に関わる

C統計量0.759は、「75.9%の人の将来を正しく診断できた」という意味ではありません。また、外部検証は中央値4.4年の追跡であり、個々の人の10年後の確率が完全に確かめられたと説明するのも不適切です。研究時代、集団、発症の確認方法が変われば、確率の調整が必要になることがあります。

予測因子と治療標的も同義ではありません。ある項目が予測モデルに入っていても、その値を人為的に変える治療が同じ割合の予防効果をもたらすとは限りません。スコアは、診察・既往歴・治療の根拠と組み合わせて使う補助情報です。

10食事と歯の研究は何を示したか

食事研究は「一つの食品」より、食事全体の組み合わせを見ている

Ozawaらは、認知症のない60~79歳の1,006人を中央値15年追跡しました。大豆・大豆製品、野菜、海藻、乳製品の摂取が多く、米の摂取が少ないという特徴を持つ食事パターンでは、全認知症の発症が少ない関連がみられました。パターンへの当てはまりが最も高い群の、最も低い群に対する調整後HRは0.66(95%信頼区間0.46~0.95)でした。[17]

この研究は「米を減らす試験」や「牛乳を飲ませる試験」ではありません。複数の食品、摂取量、生活背景が組み合わさっています。したがって、米が認知症の原因だと断定したり、特定の食品だけで認知症を予防できると説明したりすることはできません。

歯の本数と認知症――関連と介入効果の間にある距離

Takeuchiらは、認知症のない60歳以上の1,566人を5年間追跡し、残存歯が少ないことと認知症発症との関連を報告しました。口腔機能や歯の健康が、全身の健康を考えるうえでも重要な観察項目になり得る研究です。[18]

ただし、歯が少ない人では、栄養、社会経済的背景、喫煙、生活習慣なども異なる可能性があります。認知機能低下が先に始まり、口腔ケアに影響した可能性も考慮します。この結果だけから、「歯を治療すれば認知症が何%減る」とは計算できません。

11専門家が確認したい、解釈の落とし穴

久山町研究の価値を理解するには、成果だけでなく、その結論がどの条件で成り立つかも読む必要があります。以下は、本記事で取り上げた研究を臨床に適用するときの方法論上の確認事項です。

1.ハザード比は、発症確率や治療効果そのものではない

HRは、追跡中の各時点におけるイベント発生の起こりやすさを比較する指標です。HR 2.0を「必ず2倍の人数が発症する」、HR 0.60を「生活改善で40%予防できる」と読み替えることはできません。絶対的な発症確率には、元の発症頻度、追跡期間、死亡などの競合イベントが関わります。

95%信頼区間も確認します。たとえば血管性認知症のHR 1.82でも、信頼区間が0.89~3.71なら、推定には幅があり、通常の基準では統計学的に有意とは言えません。逆に、有意でないことだけで「関連は存在しない」と断定することもできません。

2.多変量調整をしても、因果関係が確定するわけではない

年齢、血圧、喫煙などを統計的に調整しても、測定していない要因や測定誤差は残ります。食事、運動、歯の状態などの研究では、生活環境や医療へのアクセスの違いも問題になります。「独立した関連」とは、基本的にはその解析で考慮した変数では説明し切れない関連を意味します。

3.認知症では、逆因果と競合リスクに注意する

認知症は診断よりかなり前から変化が始まることがあります。そのため、食生活や活動性の変化が認知症の原因なのか、前段階の結果なのかを見分けにくい場合があります。追跡開始直後の発症例を除く解析は有用ですが、逆因果を完全には除けません。

また、認知症になる前に死亡した人は、その後の認知症を観察できません。通常のCoxモデルのHRと、死亡を競合イベントとして扱った累積発症確率は、異なる問いへの答えです。高齢者で「生涯に何%」と伝える際には、この違いが特に重要です。

4.長期追跡では、時代と測定方法の変化を避けられない

血圧や血糖は、追跡開始時から20年間同じではありません。治療開始や禁煙などが起これば、ベースラインの値だけでは曝露を十分に表せない可能性があります。画像診断の普及、病型分類、治療の進歩も、時代比較やモデルの較正に影響し得ます。

5.論文の数と、独立した検証の数は同じではない

同じ住民集団から多くの解析が行われています。複数の論文で似た結果があっても、対象者が重なっていれば、それぞれが完全に独立した再現研究とは限りません。別地域・別時代での検証、介入試験、機序研究と照合すると、結論をより立体的に評価できます。

研究結果を患者説明へ置き換えるときの表現
避けたい説明より正確な説明
糖尿病があれば認知症になる糖尿病は将来の認知症発症と関連しますが、発症が決まるわけではありません
家庭血圧の変動を減らせば認知症を防げる変動の大きさと認知症の関連はありますが、変動を減らす介入の効果とは別です
認知症は全国でも減り始めた久山町では近年の有病率・発症率の低下が報告されています。全国の患者数とは区別します
久山町スコアは心不全や不整脈も予測するここで紹介したモデルは、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の発症を予測します
スコアが低ければ、異常値を放置してよい既往歴、高リスク病態、個別の検査異常を確認したうえでスコアを使います

12日常診療・受診判断にどう生かすか

久山町研究が日常診療にもたらす大きな視点は、血圧・血糖・脂質・腎機能を、将来の脳・心臓の健康まで含めて見ることです。ただし、具体的な薬の選択や治療目標は、一つのコホート研究だけで決めず、介入試験、診療ガイドライン、患者さんの年齢・体力・併存疾患に基づいて個別に判断します。

症状がなくても相談したいこと

  • 健診で血圧、血糖、HbA1c、LDLコレステロールの異常を指摘されたままになっている
  • 尿蛋白や腎機能低下が続いている、以前の検査より悪化している
  • 家庭血圧が高い日が続く、ばらつきが大きく測定方法や服薬が心配
  • もの忘れが増え、服薬、金銭管理、仕事や家事に支障が出ている

これらは、緊急症状がなければ通常の外来で相談できる内容です。健診結果、過去の採血、家庭血圧、お薬手帳を持参すると、長期的な変化を評価しやすくなります。

急な症状は、予防の相談と分けて対応する

新たな動悸、息切れ、むくみ、繰り返す胸部症状があるときも早めに医療機関へ相談してください。現在の症状がある人の診断に、長期予測スコアだけを使うことはできません。

えぷろんクリニックで相談できること

姫路市のえぷろんクリニックでは、内科・循環器内科・呼吸器内科の診療を行い、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの継続管理、症状に応じた心電図・採血などの検査、必要時の専門医療機関との連携に対応しています。通院が難しい方には訪問診療についてもご相談いただけます。[20]

姫路市で高血圧や健診異常にお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでお気軽にご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

診療のご案内を見る救急症状がある場合は119番をご利用ください。

13久山町研究について、よくある質問

Q1.久山町研究は、全員に同じ治療をした研究ですか?

いいえ。中心となるのは、地域住民の健康状態や生活習慣を調べ、その後の発症を追跡する観察研究です。特定の治療の効果を調べる無作為化比較試験とは、答えられる問いが異なります。

Q2.久山町研究の結果は、姫路市に住む人にも当てはまりますか?

日本人の病気のリスクを考える重要な資料になりますが、地域、年代、年齢、持病によってリスクは変わります。数値をそのまま個人の将来に当てはめず、診察や検査結果と合わせて評価します。

Q3.糖尿病を治療すれば、認知症を確実に予防できますか?

確実に予防できるとは言えません。糖尿病と認知症の関連は示されていますが、治療による予防効果の大きさとは別です。低血糖などにも配慮しながら、個人に適した管理を続けることが大切です。

Q4.久山町スコアが低ければ、受診しなくてもよいですか?

いいえ。スコアは現在の病気を診断する検査ではなく、予測対象の病気も限られます。胸痛・息切れ・動悸などの症状、明らかな検査異常、既往歴があれば、スコアの高低にかかわらず評価が必要です。

Q5.久山町研究では、今も高い割合で剖検していますか?

高い剖検率は研究の歴史的な強みですが、久山町の剖検事業は2023年3月31日に終了しています。過去の剖検率を現在の実施状況として説明するのは正確ではありません。

本記事は代表的な原著論文・公式資料に基づく解説です。全研究を網羅した系統的レビューではありません。個別の診断や治療方針は症状・検査・併存疾患に応じて判断します。

14参考文献・一次資料

本文中の番号から対応する文献へ移動できます。研究の結果と、本記事における臨床・方法論上の解釈を区別して記載しています。

  1. 九州大学大学院医学研究院.久山町研究とは.研究の歴史・特徴に関する公式資料。
  2. 九州大学 久山町研究.Trends in cardiovascular diseases and diabetes mellitus.研究体制・コホートの公式説明。剖検率は過去の集計。
  3. 久山町.剖検事業.2023年4月1日更新。町の事業終了に関する公式発表。
  4. Hata J, et al. Secular trends in cardiovascular disease and its risk factors in Japanese: half-century data from the Hisayama Study (1961–2009). Circulation. 2013;128:1198–1205. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.113.002424.
  5. Imamura T, et al. LDL cholesterol and the development of stroke subtypes and coronary heart disease in a general Japanese population: the Hisayama study. Stroke. 2009;40:382–388.
  6. Mukai N, et al. Trends in the prevalence of type 2 diabetes and prediabetes in community-dwelling Japanese subjects: The Hisayama Study. J Diabetes Investig. 2014;5:162–169. DOI: 10.1111/jdi.12136.
  7. Ohara T, et al. Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: the Hisayama study. Neurology. 2011;77:1126–1134. DOI: 10.1212/WNL.0b013e31822f0435.
  8. Matsuzaki T, et al. Insulin resistance is associated with the pathology of Alzheimer disease: the Hisayama study. Neurology. 2010;75:764–770. DOI: 10.1212/WNL.0b013e3181eee25f.
  9. Ninomiya T, et al. Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study. Hypertension. 2011;58:22–28. DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.110.163055.
  10. Oishi E, et al. Day-to-Day Blood Pressure Variability and Risk of Dementia in a General Japanese Elderly Population: The Hisayama Study. Circulation. 2017;136:516–525. DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.116.025667.
  11. Ohara T, et al. Thirty-seven-year trends in the prevalence, incidence, and prognosis of dementia in a Japanese community: the Hisayama study. Alzheimer’s Research & Therapy. 2025;17:264. 公表:2025年12月29日。DOI: 10.1186/s13195-025-01909-1.
  12. Ninomiya T, et al. Chronic kidney disease and cardiovascular disease in a general Japanese population: the Hisayama Study. Kidney Int. 2005;68:228–236. DOI: 10.1111/j.1523-1755.2005.00397.x.
  13. Association of kidney function with coronary atherosclerosis and calcification in autopsy samples from Japanese elders: the Hisayama study. 原著論文、2009年。PMID: 19765871.
  14. Honda T, et al. Development and Validation of a Risk Prediction Model for Atherosclerotic Cardiovascular Disease in Japanese Adults: The Hisayama Study. J Atheroscler Thromb. 2022;29:345–361. 早期公開:2021年。DOI: 10.5551/jat.61960. 訂正は文献22。
  15. 日本動脈硬化学会.動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、第2章.あわせて脂質異常症診療のQ&A(Q18ほか)参照。
  16. Honda T, et al. External Validation of a Risk Prediction Model for Atherosclerotic Cardiovascular Diseases in a Large National Health-Checkup and Claim Database. J Am Heart Assoc. 2025;14:e040386. DOI: 10.1161/JAHA.124.040386.
  17. Ozawa M, et al. Dietary patterns and risk of dementia in an elderly Japanese population: the Hisayama Study. Am J Clin Nutr. 2013. PMID: 23553168.
  18. Takeuchi K, et al. Tooth Loss and Risk of Dementia in the Community: the Hisayama Study. J Am Geriatr Soc. 2017;65:e95–e100. DOI: 10.1111/jgs.14791.
  19. 総務省消防庁.救急車を上手に使いましょう.救急要請の目安。
  20. えぷろんクリニック.公式ホームページ.診療案内・医療体制。
  21. Ninomiya T. Japanese Legacy Cohort Studies: The Hisayama Study. J Epidemiol. 2018;28:444–451. DOI: 10.2188/jea.JE20180150. 研究全体を理解するための補足総説。現在の剖検体制・認知症動向は文献3・11を優先。
  22. Honda T, et al. Erratum: Development and Validation of a Risk Prediction Model for Atherosclerotic Cardiovascular Disease in Japanese Adults: The Hisayama Study. J Atheroscler Thromb. 2023;30:1966–1967. DOI: 10.5551/jat.ER61960.