血液検査の読み方
からだの話と日常 / 検査の読み方
「健診でHbA1cが高いといわれた」「血糖値はそれほど高くないのに、なぜ?」
この検査を理解するには、血糖だけでなく、血液の中の赤血球にも目を向ける必要があります。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)は、過去の血糖状態を知るための大切な指標です。ただし、貧血の種類によって、実際の血糖状態から予想される値より高くも低くもなることがあります。発見の歴史から検査の仕組み、結果の読み方まで解説します。[1][2]
01HbA1cとは? 血糖の「過去の記録」を調べる検査
赤血球の中で、ヘモグロビンとブドウ糖が結びつく
血液中の赤血球には、酸素を運ぶ「ヘモグロビン」というたんぱく質が含まれています。ヘモグロビンにブドウ糖が酵素を使わずに結びつく反応を糖化といい、HbA1cは糖化したヘモグロビンの一種です。血糖が高い状態が続くほど、HbA1cも高くなりやすくなります。[1][5]
HbA1cの「%」は、ヘモグロビンの糖化の程度を標準化して表した数値です。血液の何%が糖なのか、赤血球の何%が糖に変わったのかを表すものではありません。[1][5]
表は左右にスクロールできます。
| 検査 | 単位 | 何を調べる? |
|---|---|---|
| HbA1c | % | ヘモグロビンの糖化の程度。過去の血糖状態を評価する指標です。 |
| 血糖値 | mg/dL | 採血した時点の、血液中のブドウ糖濃度です。 |
| Hb (ヘモグロビン) | g/dL | 血液中のヘモグロビン濃度。貧血の評価に使います。 |
HbとHbA1cは別の検査項目です。Hbが低いからHbA1cも同じように低くなる、という関係ではありません。[1][2]
赤血球の寿命は約120日。でも「4か月の単純平均」ではありません
赤血球は血液中を循環しながら血糖の影響を受け、通常は約120日で入れ替わります。そのためHbA1cには、採血より前の血糖の影響が残っています。[3]
一般には過去約2〜3か月の血糖を反映し、とくに直近1か月の影響を強く受けると説明されます。「120日前から今日までを、同じ重みで平均した数値」ではありません。赤血球が新しく作られることや、古い赤血球が取り除かれることも関係します。[1][3]
採血前日だけ食事を控えても、過去の記録は消えません
一方で、血糖が改善すれば、HbA1cも3か月を待たずに変化し始めます。「すぐには全部変わらない」と「3か月間まったく変わらない」は違います。[3]
採血で測定します。HbA1cだけなら絶食は原則不要です
HbA1cは、採取した血液を分析して測定します。成分を分離する方法や、抗体・酵素を利用する方法などがあります。HbA1c単独の検査では、通常、食事を抜く必要はありません。ただし、空腹時血糖などを一緒に測るときは、医療機関の指示に従ってください。[1][2]
02HbA1cはいつ発見された? 糖尿病検査になるまでの歴史
「発見された年」を一つだけ答えると、少し誤解が生じます。ヘモグロビンの成分を分けた研究、糖尿病との関連を示した研究、診療への応用は、別々の段階を経て進みました。
- 1958年
少量のヘモグロビン成分を分離
Allenらが、正常なヘモグロビンにも主要成分とは異なる少量の成分があることを、クロマトグラフィーという分離技術で示しました。HbA1cを理解する土台となった研究です。[6]
- 1968年
糖尿病との関連が見つかる
Rahbarは、糖尿病の人の赤血球で特定のヘモグロビン成分が増えていることを報告しました。糖尿病とHbA1cを結びつけた重要な発見です。[7]
- 1976年
血糖管理の「記録」として診療へ
Koenigらが、血糖管理の改善に伴ってHbA1cも低下することを報告しました。過去の数週間から数か月の血糖状態を評価し、治療経過をみる指標としての有用性が示されました。[8]
つまり、HbA1cは最初から糖尿病専用に設計された検査ではなく、血液の成分を調べる研究が、日々の治療を評価する道具につながったのです。この年表は主な節目をまとめたもので、すべての関連研究を列挙したものではありません。[6][7][8]
03貧血があるとHbA1cは高くなる? 低くなる?
答えは「貧血の原因と治療状況によって異なる」です。HbA1cには血糖だけでなく、赤血球がどれくらい長く血液中にいるか、若い赤血球がどれくらい増えているかも影響します。[2][4]
ここでいう「高め・低め」は、実際の血糖状態から予想されるHbA1cと比較した場合の話です。貧血があっても糖尿病を合併していることはあるため、高値を貧血だけのせいにしないことも大切です。
表は左右にスクロールできます。
| 状態 | HbA1cへの影響 | 読み取るときの注意点 |
|---|---|---|
| 鉄欠乏性貧血 | 高めになることがある | 鉄の補充後、血糖が変わらなくてもHbA1cが下がる場合があります。[2][9] |
| 溶血性貧血 | 低めになる | 赤血球の寿命が短くなります。この生体側の影響は、測定法を変えるだけでは解消しません。[2] |
| 大きな出血からの回復期 | 低めになることがある | 若い赤血球の割合が増えるためです。慢性的な出血による鉄欠乏とは区別します。[2][4] |
| 透析中・造血刺激薬で治療中の腎性貧血 | 低めになることがある | 赤血球の寿命や新しく作られる量が変わります。軽い腎機能低下のすべてに同じ影響が出るわけではありません。[9][11] |
| ビタミンB12欠乏性貧血 | 高めになる場合がある | 補充治療後にHbA1cが低下した報告がありますが、すべての人に同じ変化が起こるとは限りません。[10] |
| 輸血後 | 単純には判断できない | 輸血された赤血球の影響を受けます。輸血歴を確認し、HbA1c単独で血糖状態を判断しません。[1][4] |
| 異常ヘモグロビンなど | 高め・低め・測定困難など | ヘモグロビンの種類と測定法によって影響が異なります。貧血を伴わない場合にも起こります。[2] |
鉄欠乏性貧血は「一定の数値を引けばよい」わけではありません
鉄欠乏でHbA1cが高くなる理由は、赤血球の寿命だけでは説明しきれず、糖化反応の変化なども関係すると考えられています。影響の大きさも人によって違うため、「貧血があるのでHbA1cから一律に0.5%を引く」といった補正はできません。[2][9]
また、「出血したら必ずHbA1cが低くなる」ともいえません。大きな出血から回復している時期と、長期間の出血によって鉄が不足している場合では、赤血球の状態が異なります。[2][4]
貧血を治しただけでHbA1cが下がることもあります
糖尿病と慢性腎臓病がある患者さんを対象とした研究では、鉄剤や赤血球を作る働きを促す薬の治療後に、平均血糖は変化していないのにHbA1cが低下しました。HbA1cだけを見て「糖尿病が改善した」と判断すると、血糖状態を見誤ることがあります。[9]
研究では、どのような変化が報告されたのでしょうか?
2010年の前向き研究では、2型糖尿病と慢性腎臓病(ステージ3b〜4)がある患者さんを、静注鉄剤の群と造血刺激薬(ESA)の群で、それぞれ15人ずつ評価しました。HbA1cは鉄剤の群で7.40%から6.96%、ESAの群で7.31%から6.63%へ低下しましたが、平均血糖に有意な変化はありませんでした。[9]
少人数の特定の患者さんを対象にした研究です。この低下幅を、すべての貧血患者さんの予測値や補正値として使うことはできません。
HbA1cだけで薬を増減しないことが大切です
貧血の治療前後や、輸血後などは、実際の血糖値も合わせて判断します。検査結果の見方に迷った場合も、糖尿病の薬や鉄剤を自己判断で増減せず、主治医にご相談ください。
04HbA1cと血糖値が合わないときは、どう調べる?
「一度の血糖値」と「過去の血糖状態」は同じではありません
空腹時血糖がそれほど高くなくても、食後に血糖が上がっていることがあります。また、治療を始めたばかりなら、今の血糖は下がっていても、HbA1cには以前の高血糖の影響が残ります。反対に、急に糖尿病が発症・悪化した場合は、HbA1cの上昇が追いつかないこともあります。[1][3][4]
診察では、採血と食事の時間、最近の体調や治療の変化、貧血、出血・輸血歴などを確認します。必要に応じて、血糖の再検査やブドウ糖負荷試験、貧血の種類・鉄の状態・腎機能などの評価を組み合わせます。数値が合わない原因を、一つに決めつけないことが大切です。[2][4]
HbA1cを補う検査にも、得意なことと限界があります
表は左右にスクロールできます。
| 検査・方法 | 役立つ場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 医療機関での血糖検査・75gブドウ糖負荷試験 | 糖尿病の診断や、空腹時・糖負荷後の血糖の確認。 | HbA1cが血糖を正しく反映しにくい場合は、血糖値に基づく診断が重要です。[4] |
| 自己血糖測定・持続血糖測定(CGM) | 治療中の血糖の動き、食後の上昇、低血糖の確認。 | CGMは皮下の間質液の糖濃度を測ります。糖尿病の確定診断に用いる検査室での血糖測定とは区別します。[4][11] |
| グリコアルブミン(GA) | 赤血球の影響を受けず、過去約2〜4週間の血糖状態を補助的に評価。 | アルブミンの代謝や喪失の影響を受けます。大量の蛋白尿や低アルブミン血症などがある場合は注意が必要です。[11] |
「HbA1cが使いにくいなら、GAやCGMの数値だけで必ず正しく判断できる」というわけではありません。検査ごとの性質を踏まえて、症状・経過・実際の血糖を組み合わせます。[11]
05HbA1cが6.5%以上なら糖尿病ですか?
日本の診断基準では、HbA1c(NGSP値)6.5%以上は「糖尿病型」に該当します。ただし、HbA1cだけを繰り返し測っても、糖尿病の確定診断はできません。診断には血糖検査を含めて判断する必要があります。[4]
表は左右にスクロールできます。
| 検査 | 糖尿病型の値 |
|---|---|
| HbA1c(NGSP値) | 6.5%以上 |
| 空腹時血糖値 | 126 mg/dL以上 |
| 75gブドウ糖負荷試験の2時間値 | 200 mg/dL以上 |
| 随時血糖値 | 200 mg/dL以上 |
血糖値は静脈血漿による検査値です。この表は検査値の区分であり、患者さんごとの確定診断は、検査の組み合わせや症状などを踏まえて行います。[4]
たとえば、同じ採血で測定した血糖値とHbA1cの両方が糖尿病型なら、1回の検査でも診断できます。一方、どちらか一方だけが糖尿病型の場合などは、症状や経過を確認し、必要に応じて別の日の検査を行います。HbA1cが血糖を正しく反映しない病態では、血糖値を重視します。[4]
「診断の基準」と「治療の目標」は別です
糖尿病治療では、合併症予防のために一般にHbA1c 7.0%未満を目標とします。ただし、年齢、低血糖の危険性、持病などに合わせて個別に設定します。「低ければ低いほどよい」という意味ではありません。[12]
06HbA1cについてよくあるご質問
Q.HbA1cが6.0〜6.4%なら、受診しなくてもよいですか?
この値だけで糖尿病と診断はできませんが、放置せずご相談ください。血糖状態を詳しく確認するため、必要に応じて75gブドウ糖負荷試験などを検討します。6.5%未満でも、糖尿病や食後の高血糖を否定できるわけではありません。[4]
Q.HbA1cが正常なら、高血糖や低血糖の心配はありませんか?
HbA1cだけでは、一時的な高血糖や低血糖は十分に分かりません。急激に血糖が上がった場合にも、HbA1cの変化が遅れることがあります。症状や実際の血糖値も確認する必要があります。[1][4][12]
Q.検査の日は朝食を抜く必要がありますか?
HbA1cだけなら、原則として絶食は不要です。ただし、空腹時血糖などを同時に測定する場合は別です。予約時や前回の診察で説明された食事・薬の指示に従ってください。[1]
Q.鉄剤を飲み始めてHbA1cが下がりました。糖尿病も改善したのでしょうか?
改善している可能性はありますが、貧血の治療によってHbA1cだけが下がった可能性もあります。血糖値や治療経過を合わせて判断し、HbA1cの変化だけで薬を自己調整しないでください。[2][9]
Q.姫路市でHbA1cと貧血を一緒に相談できますか?
内科でご相談いただけます。えぷろんクリニックでも、健診結果や症状を確認し、必要な検査や診療につなげます。過去の検査結果と、鉄剤を含めたお薬の情報をお持ちください。
07姫路市でHbA1c・血糖値を指摘された方へ
このような場合は、内科でご相談ください
- 健診でHbA1c・血糖値の高値や、再検査を指摘された。
- 貧血があり、HbA1cと血糖値が合わない。
- 強いのどの渇き、尿の増加、意図しない体重減少がある。
のどの渇き・尿の増加・体重減少が急に現れた場合は、早めに医療機関へご相談ください。強い症状がある場合は当日の受診を検討してください。[4][13]
えぷろんクリニックで相談できること
当院では、健診結果の相談、糖尿病・高血圧・脂質異常症などの生活習慣病の管理に対応しています。診察や必要な採血を通じて、HbA1cだけでなく、血圧、腎機能、貧血の有無なども確認しながら診療を進めます。
循環器内科の視点から、心臓や血管の病気の予防も考えます。動悸・息切れなどを伴う場合には、症状に応じた心電図などの検査を検討し、詳しい評価が必要な場合は専門医療機関と連携します。
当院の糖尿病診療についてはこちら / 当院の医師・診療体制について
えぷろんクリニック
姫路市でHbA1cや血糖値にお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでお気軽にご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。
受診の際は、健診結果・過去の採血結果・お薬手帳をお持ちください。緊急性の高い症状がある場合は、通常のWEB予約を待たず救急受診してください。
〒672-8048 兵庫県姫路市飾磨区三宅1丁目192 田中興産ビル1階内科・循環器内科・呼吸器内科
本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断・治療方針を決めるものではありません。検査結果の解釈や目標値は、症状、年齢、貧血、持病、治療内容などによって異なります。
参考文献・資料
本文は以下の資料を参考に構成しています。年表・比較表は説明のために独自に整理したもので、原図表の転載ではありません。資料確認日:2026年10月13日。
- NIDDK(米国国立糖尿病・消化器病・腎疾病研究所).The A1C Test & Diabetes.検査の基本、絶食、赤血球・輸血などの影響。日本の診断手順は文献4を参照。
- NGSP.Factors that Interfere with HbA1c Test Results.鉄欠乏、赤血球寿命、測定法・異常ヘモグロビンによる影響。
- NGSP.HbA1c and Estimated Average Glucose (eAG).赤血球の寿命と、直近の血糖の影響を強く受ける性質。
- 日本糖尿病学会 編.糖尿病診療ガイドライン2024「1 糖尿病診断の指針」(PDF).日本の診断基準、HbA1cのみでは確定診断できないこと、貧血等の影響。
- NGSP.IFCC Reference System;IFCC Standardization of HbA1c.HbA1cの定義とNGSP・IFCCの標準化。
- Allen DW, Schroeder WA, Balog J. Observations on the Chromatographic Heterogeneity of Normal Adult and Fetal Human Hemoglobin… J Am Chem Soc. 1958;80:1628–1634. doi:10.1021/ja01540a030.書誌・抄録:ミネソタ大学の研究業績ページ。論文名は省略表記。
- Rahbar S. An abnormal hemoglobin in red cells of diabetics. Clin Chim Acta. 1968;22:296–298. PubMed. doi:10.1016/0009-8981(68)90372-0.
- Koenig RJ, et al. Correlation of glucose regulation and hemoglobin AIc in diabetes mellitus. N Engl J Med. 1976;295:417–420. doi:10.1056/NEJM197608192950804.
- Ng JM, et al. The effect of iron and erythropoietin treatment on the A1C of patients with diabetes and chronic kidney disease. Diabetes Care. 2010;33:2310–2313. PubMed(抄録).鉄剤・ESA治療後のHbA1cと血糖値の変化を評価した前向き研究。
- Aydin B, et al. Relationship between glycosylated hemoglobin and vitamin B12 deficiency anemia. 2022. PubMed Central(全文).
- KDIGO.2022 Clinical Practice Guideline for Diabetes Management in Chronic Kidney Disease(PDF).Chapter 2.進行したCKDでのHbA1cの限界、CGM、グリコアルブミンの特性。
- 日本糖尿病学会 編.糖尿病診療ガイドライン2024「2 糖尿病治療の目標と指針」(PDF).血糖管理目標の個別化、HbA1cだけでは評価しきれない血糖変動。
- NHS(英国国民保健サービス).Diabetic ketoacidosis.高血糖に関連する緊急症状。本文の救急連絡先は日本の119番です。