糖尿病と医療の歴史
えぷろんクリニック からだの話と日常
インスリン注射針の歴史と進化
ガラスの注射器から、ペン型と極細針へ。
毎日の治療を支える、ものづくりの歴史。
「インスリンの注射は、毎日痛いのでしょうか」
注射が苦手な方にとって、針のことは気になる問題です。
今回は、ガラスの注射器から極細の針へと続く開発の歴史をたどります。薬を届ける小さな道具にも、治療を少しでも続けやすくしようとした工夫が詰まっています。
インスリン注射の始まりとガラスの注射器
1922年、カナダでレナード・トンプソン少年にインスリンが投与され、臨床使用の歴史が始まりました。1924年には、BD社がインスリン用の注射器を発売しています。[1][2]
初期にはガラス製の注射器と金属製の針が使われ、器具を煮沸して繰り返し使用していました。注射だけでなく、器具を清潔に保つ手入れも、毎日の治療の一部だったのです。[1][3]
※これは過去の器具についての説明です。現在の使い捨て針を煮沸・消毒して再使用することはできません。[11]
使い捨てからペン型へ。注射の負担を減らした転換点
1960年代には、プラスチック製の使い捨て注射器への転換が進みます。日本では、テルモが1963年に単回使用の注射器を発売しました。これはインスリン専用針ではなく、注射器全般の歴史上の節目です。[2][4]
1985年には、ペン型注入器「ノボペン」が登場しました。瓶から薬液を毎回吸い上げる手間を減らし、持ち運びや自己注射をしやすくする工夫です。薬の性能だけでなく、日常生活での使いやすさも改良されてきました。[1]
年表は代表的な節目を抜粋しています。発売年と、各国で広く使われるようになった時期は同じではありません。
インスリンの極細針を生んだ、日本のものづくり
細くするだけでは、薬が流れにくくなる
針を細くしても、中の薬の通り道まで狭くなると、注入に必要な力が増えます。そこで採用されたのが、根元を太くし、先端に向かって細くする「ダブルテーパー構造」です。針の外側だけでなく内側の太さも変え、先端の細さと薬液の通りやすさを両立させる設計でした。[7]
鍵になったのは、薄い金属板を曲げる技術
難題は、この形を安定して大量に作ることでした。テルモの開発記録によると、協力先を探して100社を超える会社を訪ねた頃、東京・墨田区の岡野工業にたどり着きます。[5]
用いられたのは、薄いステンレス板を精密な金型で段階的に曲げ、先細の筒にする方法です。中がつぶれたり、厚みに偏りができたりしないよう検証を重ね、数百個の金型を作り直しました。その後も、針先の加工や溶接、組み立てに改良が必要でした。[6]
太さ・長さ・針先を、それぞれ改良
日本では2005年に「ナノパス33」、2012年に「ナノパス34」、2019年に「ナノパスJr.」が発売されました。後の2製品は先端外径0.18mmで、長さはそれぞれ4mmと3mmです。[4][7]
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| 国内発売年 | 製品名 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 2005年 | ナノパス33 | 33Gの極細針を発売 |
| 2012年 | ナノパス34 | 先端外径0.18mm・長さ4mm |
| 2019年 | ナノパスJr. | 先端外径0.18mm・長さ3mm |
出典:テルモの沿革・製品発表資料[4・7]。製品名は開発史の説明のために記載し、特定製品を推奨するものではありません。
皮膚に入りやすくするため、針先を左右非対称に加工する工夫も採用されました。針の進化は、単なる細さの競争ではなく、刺しやすさ・薬液の流れやすさ・強度を両立させる取り組みなのです。[6][7]
短いインスリン針でも、薬は届くのでしょうか
インスリンの自己注射で目指すのは、皮膚の下にある皮下組織です。筋肉の奥まで刺す必要はありません。[10]
2010年の成人対象の短期比較試験では、4mm針で5mm・8mm針と同等の血糖管理が得られました。適切に皮下へ届けられれば、短い針でも治療に使えることを示す結果です。[8]
ただし、4mm針の研究結果を、そのまますべての3mm針やすべての患者さんに当てはめることはできません。年齢、体格、注射部位、使用する器具に応じて、針と打ち方を確認します。[8][10][11]
針が進化しても、正しい使い方は大切です
使い捨て針は毎回新品に交換し、消毒して使い直さないでください。また、同じ場所への注射を繰り返すと皮膚の下が硬くなり、薬の吸収に影響することがあります。注射位置のずらし方や皮膚の状態も、医師・看護師と確認しましょう。[10][11]
こんなときは、医療者にご相談ください
- 注射の痛みや怖さで、治療を続けることがつらい。
- 注射する場所にしこりがある、薬液が漏れることが多い。
- 低血糖を繰り返す、血糖値が大きく変動する。
針だけを原因と決めつけず、注射手技、皮膚の状態、治療内容などを確認します。低血糖を繰り返す場合は、次の定期受診を待たず、早めに医療機関へご相談ください。[10][12]
インスリン注射針についてのよくある質問
インスリンの針は、昔から使い捨てだったのですか?
いいえ。初期にはガラスの注射器などを煮沸し、繰り返し使用していました。現在の使い捨て針とは異なる器具です。今の針を再使用することは避けてください。[3][11]
今のインスリン注射針なら、痛くありませんか?
負担を減らす工夫は進んでいますが、痛みがゼロになるとは限りません。痛みが続く場合は我慢せず、針や打ち方、注射部位について医療者に相談してください。[8][10]
太っていると、長い針が必要ですか?
必ずしも必要ではありません。2015年の肥満のある成人を対象とした研究では、4mm針と8mm・12.7mm針で同等の血糖管理が得られました。針と注射方法は個別に確認します。[9]
姫路市で糖尿病・インスリン治療のお悩みをご相談ください
姫路市飾磨区のえぷろんクリニックでは、血糖値・HbA1cなどの採血、糖尿病とインスリン治療の継続管理に加え、高血圧・脂質異常症などの生活習慣病もあわせて診療しています。詳しくは糖尿病の診療案内をご確認ください。
薬そのものだけでなく、毎日使う人の負担を減らす技術も、糖尿病治療を支えています。注射のつらさも、診察で相談していただきたいことの一つです。
注射の不安も、治療の相談のひとつです。
姫路市でインスリン注射や糖尿病の治療にお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでお気軽にご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。
兵庫県姫路市飾磨区三宅1丁目192 田中興産ビル1階
電話:079-226-3003 | アクセス・駐車場
参考文献・情報源
- Novo Nordisk:インスリン100年の歴史。1922年の臨床使用、初期の注射器、1985年のノボペンについて。
- BD:企業沿革。1924年のインスリン用注射器、1961年のプラスチック製注射器について。
- Worcester Medical Museums:インスリン注射器の収蔵品解説。煮沸して再使用していた器具と、その後の変化について。
- テルモ:100周年記念の製品沿革。1963年の単回使用注射器、2005年のナノパス33について。
- テルモ:極細針の開発記録・第2話。協力企業の探索、岡野工業の参画について。
- テルモ:極細針の開発記録・第3話。金型・プレス加工、針先・溶接・製造の工夫について。
- テルモ:ナノパスJr.発売時の発表資料(2019年2月25日)。2012年・2019年の発売、寸法、ダブルテーパー構造と非対称刃面について。
- Hirsch LJ, et al. 成人で4mm針と5mm・8mm針を比較したランダム化クロスオーバー試験。Current Medical Research and Opinion. 2010;26:1531–1541. PMID: 20429832. 各針の使用期間は3週間。
- Bergenstal RM, et al. 肥満のある成人で4mm針と8mm・12.7mm針を比較した試験。Mayo Clinic Proceedings. 2015;90:329–338. PMID: 25662503. 各針の使用期間は12週間。
- 糖尿病情報センター:血糖値を下げる注射薬。皮下注射、注射部位、しこり・薬の吸収、器具の取り扱いについて。
- ナノパスニードルII 添付文書(2019年1月改訂・第4版/PDF)。再使用・再滅菌の禁止、3mm針と4mm針の使い分けの注意について。実際の使用時は、お手元の製品の最新の説明書に従ってください。
- 糖尿病情報センター:低血糖。症状、重症時の対応、医療機関への相談について。
本記事は一般的な医療情報です。針の選択、注射方法、治療内容は、診察と検査結果に基づいて個別に判断します。処方の中断や、医師の指示の範囲を超える増減はしないでください。開発史の一部はメーカー自身の沿革・開発記録に基づきます。メーカー資料の製品寸法と、臨床研究で検証された結果を区別して記載しています。製品写真・メーカー図版の転載は行っていません。