APRON CLINIC / HEALTH JOURNAL
易怒性の治療とレキサルティ
効果・適応・副作用を詳しく解説
「怒りっぽくなった」「ささいなことで興奮する」。
その背景を見極め、本人のつらさと生活を支えるために。
易怒性(いどせい)とは、ささいなきっかけで怒りが生じやすい状態です。睡眠不足や痛みから、うつ病、双極症、認知症、せん妄まで、さまざまな背景で起こります。周囲が困る言動に目を向けるだけでなく、本人が何に苦しんでいるかを確かめることが治療の出発点です。
レキサルティ®(一般名:ブレクスピプラゾール)は、易怒性全般に使う薬ではありません。特に重要な位置づけは、アルツハイマー型認知症に伴う一定の興奮・攻撃的言動への治療です。この記事では原因別の考え方から、薬の作用、臨床試験、使い方、安全性まで解説します。[1]
01 / WORDS易怒性・易刺激性・アジテーションは同じ?
| 言葉 | 意味と見え方 |
|---|---|
| 易怒性 | 怒りが起こりやすい状態。「すぐ怒る」「以前より怒りを抑えにくい」などです。 |
| 易刺激性 | 音や声かけなど、刺激に反応しやすい状態。怒り以外に、不安や不快感として表れることもあります。 |
| 焦燥感 | 内側からせかされるような、いらだちや落ち着かなさです。 |
| アジテーション | 認知症の文脈では、感情的な苦痛を伴う過剰な運動活動、言語的・身体的攻撃などを含む症候群を指します。背景の病気や身体状態も評価します。 |
認知症に伴う行動・心理症状を総称してBPSDと呼びます。アジテーションはその一部であり、BPSDすべてを意味しません。たとえば、興奮や苦痛を伴わずに歩いていることと、強い焦りで歩き続けて危険が生じている状態では、対応が異なります。[2] [5]
02 / ASSESSMENT易怒性の原因は?最初に確認すること
年齢だけで原因は決まりません。「いつから」「急か徐々にか」「どの場面か」「睡眠や意識は普段と同じか」「何の薬を飲んでいるか」を組み合わせて考えます。
| 考える背景 | 手がかり | 治療の軸 |
|---|---|---|
| 睡眠不足・痛み・生活上の負担 | 眠れない、痛みが続く、負担が増えた。特定の場面や時間帯で悪化する。 | 睡眠、痛み、負担や環境への対応。薬が必要かは原因と重症度で判断します。 |
| せん妄・身体疾患 | 数時間〜数日で変化し、注意力や意識が揺れる。感染、脱水、低酸素、血糖・電解質異常など。 | 急性疾患の評価と原因治療が優先。鎮静薬を足すだけでは不十分です。 |
| アルツハイマー型認知症 | 認知機能の低下を背景に、不安、混乱、過活動、攻撃的言動が生じる。 | 身体要因・環境の調整とケア。一定の症状ではレキサルティなどを検討します。 |
| うつ病・不安症など | 抑うつ、不安、不眠、生活機能の低下などが重なる。 | 精神疾患として評価し、心理的支援や原因疾患に応じた薬物療法を行います。 |
| 双極症の躁・混合状態 | 睡眠が少なくても平気、活動や発言が増える、浪費、強いいらだちなど。 | 精神科で評価。抗うつ薬を単純に増やすと適切でない場合があります。 |
| 薬剤・飲酒など | 薬の開始・増減後、飲酒状況の変化と時間的に一致。抗コリン作用のある薬なども確認。 | 処方薬、市販薬、サプリメントまで見直します。継続薬を自己判断で急にやめないでください。 |
原因の頻度は年齢や診療場面で大きく異なるため、この表は頻度順ではありません。認知症とせん妄、うつ病と身体疾患など、複数の要因が重なることもあります。[2] [10] [11]
高齢者では、痛み・便秘・尿の出にくさも確認します
言葉で不調を伝えにくい方は、腹痛、便秘、排尿の問題、口の中の痛みなどを、拒否や怒りとして示すことがあります。難聴のため説明が伝わらず、急に体に触れられて驚いている場合もあります。症状を抑える前に、不快や恐怖の原因を探します。[10] [12]
検査は全員一律ではありません
診察では体温、呼吸、血圧、神経症状、脱水、痛み、服薬状況などを確認します。必要に応じて血糖、血算、電解質、腎・肝機能、甲状腺機能などを調べます。脳卒中や頭部外傷が疑われる場合は画像検査が必要です。尿検査などの結果だけで原因を決めず、症状と合わせて判断します。
03 / CARE易怒性の治療は、薬以外の対応も重要です
認知症に伴う症状では、非薬物的介入が基本です。家族の努力不足という意味ではなく、本人が落ち着きやすい条件を、医療・介護のチームで作ります。薬を始めても続けます。[2] [6]
- 何が起きた直後かを記録する入浴、着替え、食事、夕方、騒音など、きっかけを探します。拒否は、痛みや怖さの表現かもしれません。
- 声かけと手順を変える正面から、一度に一つずつ説明します。言い争いを避け、危険がなければ間を置きます。
- 身体の不快と感覚障害を整える痛み、便秘、排尿、空腹、室温、眼鏡や補聴器を確認します。水分管理は心不全などの指示に合わせます。
- 睡眠と日中の過ごし方を見直す昼夜のメリハリ、無理のない活動、本人が好む過ごし方を考えます。
- 介護者の休息を治療計画に入れるケアマネジャー、通所サービス、短期入所などを活用し、一人で抱え込まない体制を作ります。
自傷・他害の危険が高い場合や、強い苦痛で生活が成立しない場合は、専門医療機関と連携して速やかに対応します。長く家庭だけで試行錯誤する必要はありません。[5]
04 / INDICATIONレキサルティは、どのような易怒性に使う薬?
レキサルティは非定型抗精神病薬です。日本では統合失調症、既存治療で十分な効果がないうつ病・うつ状態、そして下記の認知症に伴う症状に適応があります。認知症に関する適応は、2024年9月に追加されました。[1] [7]
国内で承認された認知症に関する効能・効果
アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動
「怒りやすい」という印象だけでなく、診断、症状の由来、生活への影響を確認します。[1]
アルツハイマー型認知症と診断され、該当する症状があり、非薬物的介入で十分な効果が得られない場合に、その介入に加えて検討します。治療は、この病態・診断・治療に精通した医師、またはその医師との連携のもとで行います。[1]
対象を広げすぎないことが重要です
- 認知症のない方の、日常的なイライラを理由に使う薬ではありません。
- アルツハイマー型以外の認知症に伴う同様の症状では、有効性・安全性は確認されていません。
- 認知症の記憶障害そのものを改善したり、進行を抑えたりする目的の薬ではありません。
- 幻覚・妄想だけ、または焦燥感・易刺激性・興奮に起因しない徘徊だけを、この適応に含めることはできません。
- せん妄の原因治療や、急な興奮をその場で抑える頓服として使う薬ではありません。
うつ病で使う場合も「イライラだけ」が適応ではありません
うつ病・うつ状態では、適切な抗うつ薬治療を複数回行っても十分な効果がない場合に、抗うつ薬へ追加する治療です。単独投与での有効性は確認されていません。躁状態など別の病態がないかも含め、精神科での診断と治療計画が重要です。[1]
05 / MECHANISMレキサルティの作用機序と特徴
ブレクスピプラゾールは、脳内のドパミン、セロトニン、ノルアドレナリン系に関係する複数の受容体へ作用します。受容体は、神経伝達物質の情報を受け取る場所です。[8]
| 受容体 | 作用 | 読み解くときの注意 |
|---|---|---|
| ドパミンD₂ | 部分作動作用 | 受容体を一定程度刺激する性質です。「不足を必ず補い、過剰を必ず正常化する」という単純な説明では、臨床効果を言い表せません。 |
| セロトニン5-HT₁A | 部分作動作用 | |
| セロトニン5-HT₂A アドレナリンα₁B・α₂C | 遮断作用 | 複数の神経伝達系への作用が、効果と副作用の双方に関係すると考えられます。 |
ただし、認知症の興奮症状に効く仕組みが、受容体レベルですべて解明されたわけではありません。「部分作動薬だから錐体外路症状が起きない」「ほかの薬より必ず安全」とは言えず、実際の患者さんで利益と不利益を評価する必要があります。
06 / EVIDENCEレキサルティの効果:国内外の臨床試験
国内試験:410人を対象とした10週間の比較
国内第Ⅱ/Ⅲ相試験では、アジテーションを伴うアルツハイマー型認知症の患者410人を、1mg群112人、2mg群149人、プラセボ群149人へ無作為に割り付けました。主要評価項目は、29項目の興奮行動の頻度を評価するCMAIの10週後の変化です。点数が下がるほど改善を示します。[3]
| 群 | 変化量 調整済み平均値 | プラセボとの差 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| プラセボ | −8.0点 | 基準 |
| レキサルティ1mg/日 | −11.7点 | −3.7点[−6.8〜−0.7] |
| レキサルティ2mg/日 | −15.2点 | −7.2点[−10.0〜−4.3] |
1mg群・2mg群ともプラセボに対して統計学的に有意な改善。出典:Nakamuraら、2024年。数値は主要解析の最小二乗平均。点数の差であり、怒りの回数や改善率を示す数字ではありません。[3]
この結果は「全員の症状がなくなる」という意味ではありません。プラセボ群でも改善しており、薬の平均的な上乗せ効果と、個人にとっての効果は分けて考えます。2mg群の数値が大きいことだけを理由に、全員を2mgへ増量する結論にもなりません。
海外試験:345人、12週間の結果
2023年の海外無作為化比較試験では、2mgまたは3mg/日の投与群でCMAIが−22.6点、プラセボ群で−17.3点変化し、群間差は−5.32点[95%信頼区間−8.77〜−1.87]でした。効果量Cohen’s dは0.35で、平均効果の大きさは控えめです。[4]
海外の3mgという用量を日本へそのまま当てはめることはできません。日本のこの適応での承認上限は2mg/日です。また、国内外では対象患者、開始時の重症度、試験期間などが異なるため、改善点数や副作用率を単純比較できません。
試験から分からないこともあります
主要試験は10〜12週間で、長期の生活機能、入院や施設入所の回避、死亡への影響まで確立したわけではありません。重い併存疾患などで除外された患者もおり、複雑な病状をもつ方へ結果を当てはめる際には慎重さが必要です。両試験には製薬企業の資金提供・関与があります。[3] [4]
07 / TREATMENT PLANレキサルティの飲み方・効果判定・減量
少量から開始し、間隔をあけて調整します
以下はアルツハイマー型認知症に伴う承認対象症状に対する、国内添付文書の用量です。自己調整用の手順ではありません。併用薬や身体状態により変更が必要です。[1]
| 段階 | 1日量・回数 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 開始 | 0.5mg、1日1回 | 開始用量です。 |
| 1週間以上あけて増量 | 1mg、1日1回 | 通常用量。効果と忍容性を確認します。 |
| 必要な場合のみ追加増量 | 2mg、1日1回 | 忍容性に問題がなく、効果不十分な場合に限ります。前の増量から1週間以上あけます。 |
「早く効かせたいから数日ごとに増やす」「興奮したときだけ追加する」という使い方はしません。効果は一度の服用だけで判断せず、症状と生活機能の変化を数週間かけて評価します。副作用は効果判定の日を待たずに相談してください。OD錠でも誤嚥に注意し、寝たまま水なしで服用させないようにします。[6]
「何が改善したら続けるか」を最初に決めます
「入浴時にたたく回数」「夜に苦しそうに歩き続ける時間」など、対象の言動と本人の苦痛を具体的に記録します。治療後は、危険の減少に加え、覚醒、会話、食事、歩行が保たれているかを確かめます。
添付文書で確認する2つの期間
- 投与開始10週後までが効果判定の目安:効果が認められない場合は中止し、治療法を再考します。副作用や悪化があれば、もっと早く見直します。
- 24週間を超える継続投与の安全性は未確立:24週までは安全が保証される、あるいは24週で全員一律に中止する、という意味ではありません。続ける必要を繰り返し評価します。
2025年公表の国内BPSDガイドライン第3版は、抗精神病薬で症状が軽快した場合、投与開始4か月以内に減量・中止を試みる方針を示しています。これは診療上の推奨で、添付文書の10週の効果判定とは目的が異なります。再燃歴、危険性、生活環境を踏まえて主治医が計画し、自己判断で変更しないでください。[2]
08 / SAFETYレキサルティの副作用:特に注意すること
眠気・動作の遅さ・歩行の変化
「声を荒らげなくなった」一方で、一日中眠る、食事が進まない、歩けなくなる場合は、利益より不利益が大きい可能性があります。転倒や誤嚥につながるため、単なる落ち着きと区別します。
| 事象 | プラセボ 149人 | 1mg群 112人 | 2mg群 149人 |
|---|---|---|---|
| 傾眠 | 2.0% | 8.0% | 16.1% |
| 動作が遅い 運動緩慢 | 0% | 7.1% | 13.4% |
| 歩行障害 | 0.7% | 4.5% | 10.1% |
出典:Nakamuraら、2024年。薬との因果関係を問わない「有害事象」の割合で、添付文書に載る「副作用」の割合とは集計が異なります。他試験との単純比較はできません。[3]
アカシジアを「興奮が悪化した」と取り違えない
じっとしていられない、足を動かし続ける、立ったり座ったりする、内側から落ち着かないといった症状は、アカシジアという副作用かもしれません。開始・増量後に現れた場合、病気の悪化と考えてさらに増量すると悪化させる可能性があります。時期を記録し、早めに処方医へ連絡してください。[6]
高齢認知症患者の死亡リスクも共有します
高齢認知症患者への抗精神病薬投与には、死亡リスク増加に関する注意喚起があります。国内試験でも、レキサルティ1mg群で死亡2例、2mg群とプラセボ群で0例でした。研究担当医は2例を薬剤と関連なしと判断しましたが、症例数が少なく、薬が原因とも、危険がないとも断定できません。国内添付文書も慎重な患者選択と観察を求めています。[3] [1] [9]
嚥下障害・代謝異常などにも注意します
- むせ、唾液の増加、食事時間の延長、発熱:嚥下障害や誤嚥性肺炎を考えます。
- 立ちくらみ、ふらつき、転倒:起立性低血圧や鎮静の影響を確認します。
- 口や舌が勝手に動く、体がこわばる、震える:遅発性ジスキネジアやパーキンソン症状などを確認します。
- 強い口渇、多飲、多尿:高血糖などの可能性があり、血糖・体重も確認します。
高熱と強い筋肉のこわばり、意識の変化は悪性症候群など、急な息切れ・胸痛は肺塞栓症などの重い病態も考え、緊急に評価します。添付文書には、けいれん、横紋筋融解症、白血球減少なども記載されています。服用中は自動車運転や危険を伴う機械操作を行わないでください。[5] [6]
慎重に判断する患者背景・飲み合わせ
レビー小体型認知症では抗精神病薬への強い過敏性があり、安易に使用しません。心・血管疾患や低血圧、嚥下機能低下、転倒歴、糖尿病、けいれんの既往、重い腎機能障害や肝機能障害も、治療計画に影響します。重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30mL/分未満)や中等度〜重度の肝機能障害(Child-Pugh分類B・C)では、減量や投与間隔の延長などを検討します。[2] [8]
主な代謝酵素はCYP3A4とCYP2D6です。クラリスロマイシン、イトラコナゾール、パロキセチンなどで血中濃度が上がることがあり、カルバマゼピン、リファンピシンでは下がることがあります。降圧薬や眠気を起こす薬、飲酒の影響も確認します。新しい薬を処方されるときは、服用中であることを伝えてください。[8]
添付文書上の禁忌には、昏睡状態、中枢神経抑制剤の強い影響下、成分への過敏症歴、一定のアドレナリン併用があります。アドレナリンにはアナフィラキシー救急治療等の例外があり、救急時の使用を一律に避けるという意味ではありません。処方医・薬剤師が最新の添付文書を確認します。[5]
09 / OTHER OPTIONS抑肝散・ほかの抗精神病薬との使い分け
薬の選択は、対象の症状、認知症の種類、併存疾患、リスクによって変わります。試験の結果が異なる薬を、同じ「イライラの薬」として一括りにはできません。レキサルティの主要な根拠はプラセボとの比較であり、ほかの抗精神病薬より優れていると結論づけるものではありません。
| 薬・薬の群 | 検討される場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| レキサルティ | アルツハイマー型認知症の承認対象症状。非薬物的介入に追加。 | 眠気、錐体外路症状、誤嚥、死亡リスクなど。認知症全般や易怒性全般へ拡大しません。 |
| リスペリドン・クエチアピンなど | 症状、診断、既治療を踏まえ、専門医が検討する場合があります。 | レキサルティと同じ国内承認適応ではありません。一部には器質的疾患に伴う症状への審査上の取扱いがありますが、承認とは区別します。抗精神病薬の多剤併用は避けます。 |
| メマンチンなどの抗認知症薬 | 認知症の診断と適応に基づく治療を見直します。興奮・易刺激性に役立つ場合もあります。 | 即時の鎮静を目的とする薬ではありません。薬によっては興奮を誘発・増悪することもあります。 |
| 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏 | 症状や体質を踏まえて検討される選択肢。 | 認知症の症状に対する根拠は十分ではありません。低カリウム血症、血圧上昇、浮腫などに注意します。 |
| SSRIなどの抗うつ薬 | うつ病・不安症などがある場合は、その疾患への適切な治療を行います。 | 認知症の興奮に対して、どのSSRIでも有効という根拠はありません。低Na血症や心電図への影響なども考慮します。 |
| ベンゾジアゼピン系抗不安薬 | 個別の適応はありますが、認知症の不安への日常的使用は原則推奨されません。 | せん妄、過鎮静、転倒、依存に注意。継続中の薬を急に中止せず、医師が減量を計画します。 |
国内BPSDガイドライン第3版などに基づく整理です。実際の適応・禁忌は製剤ごとに確認します。たとえば、国内ではクエチアピンは糖尿病またはその既往のある患者に禁忌です。[2] [13]
「漢方なら安全」とは限りません
抑肝散に含まれる甘草は、低カリウム血症、血圧上昇、体液貯留などを起こす偽アルドステロン症の原因になります。むくみや筋力低下が出ることもあり、心不全や利尿薬使用中の方では特に注意が必要です。ほかの甘草含有薬との重複を避け、必要な採血を行います。[13]
抗うつ薬の試験は、結果が一様ではありません
2014年のCitAD試験ではシタロプラムによる改善がみられましたが、試験用量では認知機能の悪化とQT延長が問題になりました。一方、2025年のS-CitAD試験ではエスシタロプラムの有効性は示されず、心臓の伝導への影響も報告されました。予定より小規模な試験だった点を含めて解釈する必要があり、薬の群全体へ効果を一般化できません。[14] [15]
双極症などで用いる気分安定薬も、認知症の興奮へそのまま当てはめられません。NICEは、別の疾患への適応がある場合を除き、認知症の興奮・攻撃性にバルプロ酸を使用しないよう推奨しています。[12]
10 / DAILY LIFE家族が記録すると診療に役立つこと
薬の効果は、診察室で落ち着いているかだけでは分かりません。簡単なメモを共有すると、原因と治療効果を評価しやすくなります。次の項目は家庭用の観察メモで、正式な診断尺度ではありません。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| きっかけ・時間 | 何時ごろ、どんな場面で起きたか。直前に声かけ、ケア、騒音などがあったか。 |
| 対象の言動・苦痛 | 具体的な言動、回数、続いた時間、本人の不安・怖さ・痛み。危険の有無。 |
| 生活機能 | 会話、日中の眠気、食事量、むせ、歩行、転倒。治療前と比べてどうか。 |
| 身体・服薬の変化 | 発熱、便通、排尿、睡眠、薬の開始・増減、飲み忘れ。 |
| 介護者の状態 | 眠れているか、支援が足りているか、危険や負担を一人で抱えていないか。 |
治療の目標は、苦痛と危険を減らしながら、
本人が過ごせる時間と生活を守ることです。
薬が役立つ方はいます。ただし、原因が違えば適切な治療も違います。本人の意思を可能な範囲で確認し、家族・介護者・医療者が、期待する効果と許容できない副作用を共有して進めます。
11 / FAQ易怒性とレキサルティのよくある質問
Q1. 怒りっぽくなっただけで、レキサルティを飲めますか?
症状だけでは決まりません。睡眠、痛み、身体疾患、精神疾患、認知症、薬の影響などを評価します。認知症に関する適応は、アルツハイマー型認知症に伴う特定の症状に限られます。
Q2. レキサルティは興奮したときだけ飲む薬ですか?
この治療では、医師の指示に従い1日1回服用し、段階的に調整します。急な興奮への頓服として自己追加する薬ではありません。飲み忘れ時も、まとめて2回分を飲まないでください。
Q3. 飲んでから、むしろ落ち着かなくなりました。
アカシジアなどの副作用や、別の原因が考えられます。開始・増量との時間関係を記録し、処方医へ早めに連絡してください。自己判断で増量しないことが重要です。
Q4. レキサルティは認知症の進行を抑えますか?
その目的の薬ではありません。認知症に伴う一定の過活動・攻撃的言動が治療対象です。記憶障害や認知症自体の治療とは分けて考えます。
Q5. 姫路市で家族の急な怒りっぽさを相談するなら?
急な変化では、かかりつけ医などへ身体状態や薬の影響を相談してください。もの忘れや精神症状が中心の場合は、脳神経内科、精神科、認知症疾患医療センターなどでの評価につなげます。意識や呼吸の異常、差し迫った危険がある場合は通常受診を待たず緊急対応が必要です。
REFERENCES参考文献・確認資料
- PMDA/大塚製薬.レキサルティOD錠0.5mg・1mg・2mg 電子添文.2024年9月改訂版(確認日にPMDA製品ページで提供されている版).効能・効果、用法・用量、注意事項、臨床成績.電子添文/PMDA製品情報.
- 令和6年度厚生労働科学特別研究事業.かかりつけ医・認知症サポート医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン 第3版.2025年公表.日本認知症学会等6学会監修.厚生労働省掲載PDF.
- Nakamura Y, et al. Brexpiprazole treatment for agitation in Alzheimer’s dementia: A randomized study. Alzheimer’s & Dementia. 2024. doi:10.1002/alz.14282. 国内10週無作為化比較試験.原著全文.
- Lee D, et al. Brexpiprazole for the Treatment of Agitation in Alzheimer Dementia: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurology. 2023;80:1307–1316. doi:10.1001/jamaneurol.2023.3810. 原著.
- 大塚製薬.レキサルティ適正使用ガイド:アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動.PMDA掲載RMP資材.適正使用ガイド.
- 大塚製薬.レキサルティを服用されるアルツハイマー型認知症の方とご家族・介護者の方へQ&A.2025年3月改訂.PMDA掲載RMP資材.患者・家族向け資料.
- 大塚製薬.抗精神病薬「レキサルティ」日本における効能追加の承認取得について.2024年9月24日.承認に関する発表.
- 大塚製薬.レキサルティOD錠 医薬品インタビューフォーム.PMDA掲載版.薬効薬理、薬物動態、安全性・相互作用.インタビューフォーム.
- FDA. FDA Approves First Drug to Treat Agitation Symptoms Associated with Dementia due to Alzheimer’s Disease. May 11, 2023. 承認時の公式情報.米国用量は日本と異なる.
- NICE. Delirium: prevention, diagnosis and management in hospital and long-term care. CG103, recommendations. ガイドライン.
- National Institute of Mental Health. Bipolar Disorder. 双極症の症状と治療の公的解説.
- NICE. Dementia: assessment, management and support for people living with dementia and their carers. NG97, recommendations. ガイドライン.
- PMDA/ツムラ.ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)電子添文.偽アルドステロン症、低カリウム血症等.PMDA製品情報.
- Porsteinsson AP, et al. Effect of Citalopram on Agitation in Alzheimer Disease: The CitAD Randomized Clinical Trial. JAMA. 2014;311:682–691. doi:10.1001/jama.2014.93. 原著.
- Rajji TK, et al. Escitalopram for agitation in Alzheimer’s dementia: a randomized controlled phase 3 trial. Nature Medicine. 2025;31:1586–1591. doi:10.1038/s41591-025-03569-y. PubMed.