医療従事者向け

酸素化を補う

循環・左室を支える

試験と患者選択

本記事は医療従事者向けの解説です。機器操作や侵襲的検査は、適応、最新電子添文、施設の手順と患者さんの状態を踏まえて専門医療機関で判断します。

一般の方で突然の強い胸痛・呼吸困難、失神や意識の異常がある場合は119番へ。通常のWEB予約を待たず救急要請してください。

医療従事者向け解説|情報確認日:2026年10月13日

重症心不全や心原性ショックの診療では、ECMO、Impella〈インペラ〉、IABP〈大動脈内バルーンパンピング〉などのデバイスが用いられます。

しかし、これらは単純に「補助能力の弱い装置から強い装置へ」と並べられるものではありません。

酸素化を改善すること、全身の血流を確保すること、左室の負担を減らすことは、それぞれ異なる治療目標です。 例えばVA-ECMOは全身灌流を支えられますが、条件によっては左室の後負荷を増加させます。一方、Impellaは左室から直接脱血しますが、人工肺を持たず、重症呼吸不全を単独では補えません。[1]

本記事では、成人の一時的な呼吸・循環補助を中心に、各デバイスの血行動態、使い分け、合併症、主要な臨床試験を整理します。

なお、VV-ECMOは厳密には直接的な循環補助ではなく、体外式の呼吸補助です。ECMOという名称が共通していても、VA-ECMOとは担う役割が異なります。[2]

1.まず押さえたい、各デバイスの違い

デバイス血液の流れ・作用ガス交換直接的な体循環補助左室への主な作用
VV-ECMO静脈から脱血し、人工肺を通して静脈へ返すありなし直接の減負荷はしない
VA-ECMO静脈から脱血し、人工肺を通して動脈へ返すありあり静脈脱血で前負荷を減らす一方、動脈送血で後負荷を増加させ得る
V-AV ECMO静脈脱血後、人工肺を通した血液を動脈と静脈の両方へ返すあり動脈送血部分が担う送血配分によって変化。左室減負荷装置ではない
Impella左室から吸引し、上行大動脈へ送血するなしあり左室を直接アンロードする
IABP大動脈内バルーンの拡張・収縮で圧波形を変えるなし独立したポンプ送血はしない収縮期後負荷を軽減するが、左室から直接脱血はしない

ECMOの回路構成はELSOの命名法、Impellaの作用は国内添付文書、IABPの作用はカウンターパルセーションの原理に基づいています。[3]

デバイスを選ぶ際には、「何L/min出せるか」だけでなく、どこから血液を取り、どこへ返すのか。その結果、どの心腔の圧・容量が変わるのかを考える必要があります。

2.VV-ECMO:肺のガス交換を補うが、心臓のポンプ機能は代行しない

VV-ECMOの基本構造

VVはveno-venous、つまり静脈脱血・静脈送血です。

静脈血を体外へ取り出し、人工肺で酸素を加え、二酸化炭素を除去したうえで静脈側へ戻します。その血液を全身へ送り出すのは、患者自身の右心系と左心系です。

したがって、VV-ECMOの回路流量を上げても、その流量がそのまま患者の心拍出量に加算されるわけではありません。 重度のポンプ不全による低灌流が主病態であれば、VV-ECMOだけでは不十分です。[2]

酸素化とCO₂除去では、調整する要素が異なる

酸素化には、回路流量そのものに加え、自己心拍出量に対する有効なECMO血流の割合、ヘモグロビン濃度、自己肺のガス交換、再循環が関係します。

一方、CO₂除去は主としてスイープガス流量によって調整します。ただし、血流量や人工肺の性能も無関係ではありません。

ここで重要なのが再循環〈recirculation〉です。静脈へ返した酸素化血が全身へ運ばれる前に再び脱血されると、回路上の流量が多くても、有効な呼吸補助は小さくなります。低酸素血症に対して単純に回転数を上げるだけでは、問題を解決できない場合があります。[2]

VV-ECMOで右心機能が改善することはある

VV-ECMOに直接的な循環補助作用はありませんが、循環への影響がないわけではありません。

低酸素血症、高CO₂血症、アシドーシスの改善によって肺血管抵抗が低下し、人工呼吸器による過大な胸腔内圧負荷を減らせれば、右室機能が改善する可能性があります。

「右室を機械的にバイパスする作用」と「呼吸状態の改善を介した間接的な右室負荷軽減」は区別する必要があります。[2]

エビデンス:EOLIA試験をどう読むか

EOLIA試験は、重症ARDS患者249例を対象に、早期VV-ECMOと従来治療を比較しました。

60日死亡率はECMO群35%、対照群46%でしたが、主要評価項目の差は統計学的有意には達しませんでした。相対リスクは0.76、95%信頼区間0.55~1.04、P=0.09です。また、対照群の28%が救済的ECMOへ移行しました。[4]

したがって、EOLIA単独から「死亡率改善が確定した」とするのも、「VV-ECMOは無効」とするのも不適切です。救済的移行を認める比較であったことを踏まえ、他の研究と合わせて解釈する必要があります。

2024年のATSガイドラインは、選択された重症ARDS患者に対するVV-ECMOを条件付きで推奨しています。対象選択と、肺保護換気や適応のある患者への腹臥位療法など、標準治療の実施が前提になります。[5]

3.VA-ECMO:全身灌流を支える一方、左室を必ずしも休ませない

VA-ECMOの基本構造

VAはveno-arterial、静脈脱血・動脈送血です。

静脈血を脱血し、人工肺を通して動脈へ返すため、患者の心肺を迂回して全身へ酸素化血を供給できます。以下では、主に大腿動脈送血による末梢VA-ECMOを想定します。[1]

なぜVA-ECMOで左室が拡張するのか

VA-ECMOには、左室に対して反対方向に働く作用があります。

静脈脱血は、右心系への還流と肺を経由する左室流入を減らします。一方、動脈送血は大動脈圧を上げ、左室が血液を駆出する際の後負荷を増加させます。

左室収縮力が著しく低下していると、この後負荷に打ち勝てず、大動脈弁が開きにくくなります。それでも左室への流入が完全にゼロになるわけではないため、左室拡張、左房圧上昇、肺うっ血、血液うっ滞が問題になります。負荷変化の程度は自己心機能や回路流量などに依存し、全例で同じではありません。[1]

「血圧が上がった」と「左室がアンロードされた」は同義ではありません。

VA-ECMO中は全身灌流だけでなく、左室径、大動脈弁の開放、肺うっ血、左心系の充満圧、心腔内うっ滞を合わせて評価します。[1]

Differential hypoxemia:心機能の回復途中に上半身が低酸素になる

大腿動脈送血のVA-ECMOでは、ECMOからの逆行性血流と、自己左室からの順行性血流が大動脈内で混合します。

肺のガス交換が悪いまま自己心拍出が回復すると、左室から低酸素の血液が駆出され、冠循環や上半身へ流れる一方、下半身にはECMO由来の酸素化血が供給されることがあります。

これがdifferential hypoxemia〈分離低酸素血症〉で、Harlequin syndrome、North–South syndromeとも呼ばれます。回路出口の酸素化が良好でも、患者の全身が均一に酸素化されているとは限りません。[1]

評価には右上肢のSpO₂や右橈骨動脈血液ガスなどが用いられます。ただし、混合部位によって各臓器に届く血液が異なるため、右橈骨動脈の良好な値だけで冠循環の酸素化まで完全に保証することはできません。これは、二つの血流が並存する回路構造から生じる問題です。[1]

4.V-AV ECMO:動脈送血と静脈送血を組み合わせるハイブリッド構成

「VAV」より、脱血と送血を区別する表記が重要

V-AV ECMOは、静脈から脱血し、人工肺を通した血液を動脈側と静脈側の両方へ返す構成です。

ELSOの命名法では、ハイフンの左側が脱血、右側が送血を示します。

表記構成
V-AV静脈脱血、動脈+静脈送血
V-VA静脈脱血、静脈+動脈送血。V-AVと生理学的には同じ構成
VV-A2本の静脈脱血、動脈送血

V-AVとV-VAの違いは、元の回路構成や追加の経緯を反映する場合があります。一方、VV-Aは脱血を増やした構成であり、V-AVとは別物です。[3]

どのような場面で検討するのか

代表的なのは、VA-ECMO中に自己心拍出が回復してきたものの、呼吸不全が強く、上半身の低酸素血症が残る場面です。

静脈側にも酸素化血を返すことで、右心系、肺循環、左心系を経由する血液の酸素含量を改善し、自己左室から駆出される血液の酸素化改善を図ります。

また、VV-ECMO中に循環不全が加わり、動脈送血を追加する場合にも、このハイブリッド構成が用いられます。[6]

総流量だけでは管理できない

V-AVでは、概念的に次の関係になります。

総ECMO流量 = 動脈送血流量 + 静脈送血流量

したがって、総流量を一定にしたまま静脈側へ多く返せば、直接的な循環補助を担う動脈送血は減少します。そのとき全身灌流がどう変わるかは、自己心拍出や再循環にも左右されます。

静脈側へ戻す血液が増えると、右室を経て肺循環・左室へ流れる血液も増え得ます。つまり、V-AVは酸素化の分配を調整する構成であって、左室アンローディングを保証する構成ではありません。 回路構造上、酸素化改善と心室の容量負荷の両方を見る必要があります。[3]

動脈・静脈の各送血枝には異なる抵抗があるため、総流量だけでなく分枝流量を確認します。「常に半分ずつ」といった固定的な配分ではなく、循環、酸素化、心機能を踏まえた調整が必要です。[6]

V-AVのエビデンスは、主に観察研究

欧州5施設、32例の報告では、VAまたはVVからV-AVへの変更後に、酸素化や一部の循環指標の改善が認められました。

ただし、小規模な後ろ向き研究であり、V-AVへの変更が死亡率を改善することを証明した研究ではありません。生理学的に妥当な救済手段であることと、予後改善が確立していることは分けて考えるべきです。[6]

5.Impella〈インペラ〉:左室を直接アンロードしながら大動脈へ送血する

VA-ECMOとの本質的な違い

左心補助用Impellaは大動脈弁をまたいで留置し、左室内の血液を吸引して上行大動脈へ送ります。

VA-ECMOが静脈側から血液を取り出すのに対し、Impellaは左室そのものから脱血することが特徴です。体循環を補助すると同時に、左室の容量・圧負荷を軽減することを目的とします。[7]

ただし、Impellaには人工肺がありません。左室内の血液が十分に酸素化されていなければ、その血液を大動脈へ送るだけです。

この構造から、重症呼吸不全を伴う場合に、Impellaの流量を増やすだけで酸素化の問題を解決できるとは限りません。[8]

Impella CPと5.5の違い

項目Impella CP SmartAssistImpella 5.5 SmartAssist
国内資料上の最大補助流量3.7 L/min5.5 L/min
特徴経皮的なアクセスを含む迅速な導入が可能外科的アクセスを伴い、より大きな補助流量を確保する設計
留意点右心機能、前負荷、位置、後負荷によって実流量が変わるより大きな流量が得られることと、生存利益の優越性は別問題

流量は日本の製品情報・添付文書に基づきます。海外資料では異なる表記があるため、国内で使用する機種の最新資料を確認する必要があります。[9]

また、最大補助流量は、実際の患者で常に得られる値でも、そのまま全身心拍出量に加算できる値でもありません。

Impellaの低流量を「脱水」と決めつけない

Impellaが左室から血液を吸引するためには、右心系と肺循環を通って左室へ血液が届く必要があります。

低流量や吸引イベントが生じた場合には、循環血液量不足だけでなく、右室不全、心タンポナーデ、デバイス位置の異常、左室内腔の過小化などを検討します。右室不全によって左室への流入が減っている患者に、反射的に輸液を追加する判断は適切とは限りません。 回路構造と心エコー所見を照合する必要があります。[8]

国内の適応と施設要件を確認する

日本のImpellaの使用目的は、心原性ショックなどの薬物療法抵抗性の急性心不全に対する体循環補助です。適正使用指針では、従来のIABPまたはPCPSだけでは循環補助が不十分と想定される病態で使用を考慮します。IABP、PCPSを決まった順に使用するという意味ではありません。

国内指針では、PCI中のみの補助には使用しないことが定められています。海外の計画的高リスクPCIにおける予防的使用と国内適応を同一視せず、指針の施設要件を満たしたハートチームによる検討・管理を前提とします。[32][8][33]

禁忌・合併症を補助流量と同じ重さで評価する

国内添付文書では、大動脈弁の機械弁と中等度以上の大動脈弁閉鎖不全が禁忌として記載されています。大動脈弁狭窄、アクセス血管や大動脈の病変、心室の形態についても評価が必要です。

出血、血管障害、溶血、心室損傷などは重要なリスクです。持続的な溶血が確認された場合は、国内添付文書に従い、速やかに他の既存の補助循環法へ移行します。位置・作動条件の確認だけで対応を長く続けないことが重要です。[8]

6.IABP:独立した送血ポンプではなく、自己心拍を助ける装置

拡張期に膨らみ、収縮直前にしぼむ

IABPは大動脈内のバルーンを心周期に合わせて作動させます。

拡張期の膨張では大動脈拡張期圧を高め、冠灌流を支えます。収縮期駆出直前の収縮では大動脈圧を低下させ、左室が駆出する際の後負荷を軽減します。

つまり、IABPは左室の血液を直接吸引する装置でも、体外から一定量の血液を送る装置でもありません。自己心拍を利用し、その仕事を助ける装置です。[10]

「何L/minの補助」と単純比較しにくい理由

IABPによる血行動態の改善は、自己心機能、心拍数、調律、血管の性状、作動タイミングなどに依存します。

そのため、ImpellaやECMOのポンプ流量と同じ意味で、固定的な「補助流量」を割り当てるのは適切ではありません。また、タイミングが不適切であれば、期待した後負荷軽減が得られない可能性があります。[10]

IABPは「不要になった」のか

急性心筋梗塞に伴う心原性ショックに対して、IABPをルーチンに追加しても死亡率改善を示せなかったことは、IABP-SHOCK IIの重要な結論です。[11]

一方、それを「すべての病態で使用する意味がない」と読み替えることはできません。急性心筋梗塞の機械的合併症などで、根本治療までの安定化手段として検討される場合があります。ただし、このような個別使用の合理性と、死亡率改善の確立を混同してはいけません。[12]

さらに2025年のAltshock-2は、心臓代替療法への橋渡しの適応がある心不全関連ショック(SCAIステージB~D)101例を対象としました。早期IABPのルーチン導入は、60日生存または心臓代替療法への橋渡し成功という主要評価項目を有意に改善しませんでした。「AMI以外なら早期IABPの予後改善が証明されている」とも言えません。[13]

7.ECPELLA・ECMELLA:VA-ECMOとImpellaの併用をどう考えるか

生理学的には相補的だが、侵襲も加算される

VA-ECMOとImpellaの併用は、ECPELLAまたはECMELLAと呼ばれます。

VA-ECMOで全身灌流とガス交換を支え、Impellaで左室を直接アンロードするため、両者には相補的な関係があります。しかし、追加の血管アクセスとデバイス管理を要し、出血、虚血性合併症、溶血などのリスクも考慮しなければなりません。[14]

この併用を検討するときは、次の二つの問いを分ける必要があります。

明らかな左室拡張や肺うっ血が生じている患者に、減負荷が必要か。

左室負荷の問題がまだ明らかでない患者を含め、全例に予防的な減負荷を追加すべきか。

前者の治療判断を支える生理学と、後者のルーチン戦略を検証する臨床試験は、同じものではありません。

観察研究の良好な結果を、因果関係と断定しない

Schrageらによる686例の国際多施設観察研究では、VA-ECMOにImpellaによる左室減負荷を併用することが、低い30日死亡リスクと関連していました。一方で、合併症の増加も認められました。[14]

ただし、観察研究では、患者選択、導入時期、施設経験などによる交絡を完全には取り除けません。「併用群の成績が良かった」ことと、「併用そのものが成績を改善した」ことは区別する必要があります。

EARLY-UNLOADは、Impellaの無作為化試験ではない

EARLY-UNLOAD試験は、VA-ECMO患者116例を対象に、早期のルーチン左室減負荷戦略と、必要時に減負荷を行う戦略を比較しました。

重要なのは、減負荷方法が経中隔的な左房ドレナージであった点です。30日死亡率は46.6%対44.8%で、有意差を認めませんでした。[15]

この結果を「ECPELLAの無効性が証明された」と表現するのは誤りです。一方、「生理学的に有利だから全例に早期減負荷すべき」と断定する根拠にもなりません。

ECPELLAにしても、低酸素血症は別に評価する

Impellaは人工肺を持たないため、左室へ届く血液の酸素化が悪ければ、その血液を大動脈へ送ります。

したがって、左室アンローディングが達成されても、上半身の酸素化が十分とは限りません。 ECPELLA中も、肺機能と血流の混合を別の問題として評価します。[8]

8.主要試験から分かること、分からないこと

無作為化比較試験の整理

試験対象・規模主な結果解釈
IABP-SHOCK II/2012早期血行再建を予定するAMI関連心原性ショック。600例を無作為化30日死亡:IABP 39.7%、対照41.3%。RR 0.96、95%CI 0.79~1.17AMI-CSへのルーチンIABPで死亡率改善を示さず。[11]
EOLIA/2018重症ARDS、249例60日死亡:VV-ECMO 35%、対照46%。RR 0.76、95%CI 0.55~1.04主要評価項目は有意差なし。対照群の救済的ECMO移行を含めた解釈が必要。[16]
ECLS-SHOCK/2023早期血行再建を予定するAMI-CS。解析417例30日死亡:ECLS 47.8%、対照49.0%。RR 0.98、95%CI 0.80~1.19早期ルーチンVA-ECMOで死亡率改善を示さず。[17]
DanGer Shock/2024選択されたSTEMI関連心原性ショック。解析355例180日死亡:Impella CP 45.8%、標準治療58.5%。HR 0.74、95%CI 0.55~0.99対象条件を満たす集団で生存利益を示したが、合併症も増加。[18]
EARLY-UNLOAD/2023VA-ECMO患者116例30日死亡:早期左房ドレナージ46.6%、通常戦略44.8%ルーチン早期左房ドレナージの優越性を示さず。ImpellaのRCTではない。[15]
Altshock-2/2025心不全関連心原性ショック、101例60日生存または心臓代替療法への橋渡し成功:IABP 81%、対照75%、P=0.45早期ルーチンIABPの主要評価項目改善を示さず。中間解析で無益性により早期終了。[19]

※AMI:急性心筋梗塞、STEMI:ST上昇型心筋梗塞、CS:心原性ショック。各試験は対象と追跡期間が異なるため、この表の死亡率を横並びにしてデバイスの優劣を決めることはできません。

ECLS-SHOCK:VA-ECMOを否定したのではなく、ルーチン戦略の利益を示せなかった

ECLS-SHOCKでは、中等度・重度出血が23.4%対9.6%、介入を要する末梢血管合併症が11.0%対3.8%と、ECLS群で多く認められました。[20]

この結果は、AMI-CSに対して「早期にVA-ECMOを追加すれば、広く予後が改善する」という考えを支持しません。

ただし、劇症型心筋炎、肺塞栓症、開心術後ショック、心停止中のECPRなど、異なる病態・治療場面のすべてを否定する試験ではありません。試験が実際に検証した患者集団と戦略の範囲を守って解釈する必要があります。

DanGer Shock:利益と有害事象を同時に読む

DanGer Shockでは180日死亡が減少した一方、複合安全性イベントは24.0%対6.2%、腎代替療法は41.9%対26.7%と、Impella群で多くなりました。複合安全性イベントは、重度出血、下肢虚血、溶血、機器不具合、大動脈弁閉鎖不全の悪化から成ります。[21]

対象は選択されたSTEMI関連ショック患者で、重症右室不全、機械的合併症、院外心停止後に昏睡が持続する患者などは除外されました。「心原性ショックなら誰でもImpellaで予後が改善する」という結果ではありません。[21]

また、DanGer ShockはImpellaとVA-ECMOの直接比較ではありません。ImpellaとIABPを直接比較した小規模なIMPRESS試験では死亡率の有意差が示されておらず、異なる試験の結果から全患者に共通する順位を付けることはできません。[22]

2025年のACC/AHA急性冠症候群ガイドラインも、選択されたAMI-CS患者へのmicroaxial flow pump使用を合理的な選択肢とする一方、IABPやVA-ECMOのルーチン使用による利益は支持していません。[12]

日本の実臨床への外挿:J-PVADからの重要な示唆

2026年のJ-PVAD解析では、Impellaを使用したAMI-CS患者3,975例のうち、研究で定義した実用的なDanGer Shock適格基準を満たしたのは35.6%でした。

ただし、この分類は原試験の組み入れ・除外条件を完全に再現したものではなく、例えば院外心停止患者の扱いにも違いがあります。また、全例がImpella使用患者であり、非使用群との比較ではありません。[23]

この研究が示すのは、国内でImpellaを使用する患者集団の幅広さと、RCT結果をそのまま一般化する難しさです。適格群・非適格群の予後の違いだけで、各群に対する治療効果を判定することはできません。

9.デバイス選択は「病態」と「改善したい指標」から考える

以下は回路の作用から整理した選択の考え方であり、個々の患者に対する固定的な導入基準ではありません。重症度、悪化速度、原因治療、血管アクセス、神経学的予後、施設の経験を合わせて判断します。[24]

主な問題検討する補助選択時の重要点
重症呼吸不全が主体で、自己循環が保たれるVV-ECMO呼吸補助であり、独立した循環補助ではない
左室優位のポンプ不全で、右心機能と酸素化が比較的保たれるImpellaなどの左心補助RCTの対象との一致、右室機能、禁忌、出血リスクを確認
高度な循環不全で、右心系を含む広い補助やガス交換補助が必要VA-ECMOなど全身灌流と同時に左室負荷・上半身酸素化を監視
VA-ECMO中、自己心拍出の回復とともに上半身低酸素血症が問題になる肺治療の最適化、V-AV化や送血構成変更の検討酸素化と動脈送血量の両立が必要
VA-ECMO中に左室拡張・肺うっ血が問題になる左心系の減負荷戦略Impella、左房・左室ドレナージなどを病態と施設体制で選択
自己心拍があり、比較的限定的な後負荷軽減などを橋渡しとして期待するIABPを個別に検討ルーチン使用の生存利益が証明されているわけではない

この整理はELSOガイドライン、国内Impella添付文書、カウンターパルセーションの原理と主要RCTに基づきます。[2]

同じ患者でも、必要なデバイスは時間とともに変わります。 導入時には循環補助が最優先でも、数日後には肺機能の回復遅延が主な問題になる場合があります。初期選択が適切でも、その構成を維持し続けることが最適とは限りません。[3]

10.導入後は「血圧が上がった」だけで成功と判断しない

灌流、うっ血、酸素化、デバイス合併症を分けて評価する

補助循環管理では、少なくとも次の四つの観点を並行して追います。

観点評価する内容
全身灌流血圧・脈圧、乳酸の推移、尿量、末梢循環、臓器機能
心臓の負荷左右心室の大きさと機能、弁機能、肺うっ血、充満圧
酸素化・換気採血部位を踏まえた血液ガス、自己肺機能、人工肺前後のガス交換
合併症出血、下肢虚血、溶血、血栓、感染、神経学的異常

これらは単独の数値より、補助条件や治療変更に対する経時的な反応が重要です。[24]

肺動脈カテーテルの数値も、回路構成を踏まえて読む

肺動脈カテーテルは左心系充満圧などの評価に役立つ場合がありますが、VA-ECMO中の心拍出量測定値を、そのまま全身への総血流量と解釈してはいけません。

静脈脱血や送血部位により、熱希釈法による測定や静脈血酸素飽和度の意味が変わります。「どの血液を、どの場所で測っているか」が、補助循環中には特に重要です。[1]

抗凝固管理も装置ごとに確認が必要です。Impellaではパージ液を含む管理が必要であり、ECMOとの併用患者に一律の目標値を当てはめるのではなく、添付文書、出血・血栓リスク、施設手順に沿って調整します。[7]

11.離脱では、デバイスが代行していた機能の回復を確認する

VV-ECMO:自己肺のガス交換を評価する

VV-ECMOからの離脱では、自己肺で酸素化とCO₂排出を維持できるかを確認します。

中心となるのは、人工肺の酸素濃度やスイープガスを調整したときのガス交換、呼吸仕事量、人工呼吸条件の評価です。循環補助の離脱と同じ発想で、単純に血液流量を下げ続ける方法ではありません。 回路血流の低下に伴う血栓リスクにも配慮します。[2]

VA-ECMO:左室だけでなく、右室と肺を評価する

VA-ECMOでは補助流量を段階的に減らし、自己循環が保たれるかを評価します。

その際、LVEFだけでなく、左右心室機能、LVOT VTI、充満圧、弁機能、酸素化、臓器灌流を合わせて確認します。低流量でも静脈脱血による右室の前負荷軽減が残るため、左室の指標が改善しただけで右心機能の回復まで確認できたとは限りません。[1]

導入時から、回復しない場合の方針も考える

一時的補助は、装置を動かし続けること自体が目的ではありません。

自己心機能の回復、長期補助人工心臓や移植などへの橋渡し、回復可能性を判断するための時間確保など、何を目標に使用するかを明確にします。回復の見込みや次の治療選択肢が乏しい場合には、本人の意思や価値観を踏まえ、治療目標を再検討することも必要です。[1]

12.まとめ:補助能力ではなく、補う機能と患者集団で理解する

VV-ECMOは呼吸補助、VA-ECMOは呼吸・循環補助、V-AVは動脈・静脈への酸素化血の分配を調整する構成です。Impellaは左室からの直接脱血、IABPは自己心拍に同期した圧波形の調整によって作用します。[3]

臨床で特に混同してはいけないのは、次の三点です。

第一に、生理学的な改善と、患者の生存利益は同じではありません。

第二に、ルーチン使用を支持しない試験結果は、すべての個別使用を否定するものではありません。

第三に、選択された集団で得られた有効性は、別の原因・重症度・合併症を持つ患者へ自動的には広がりません。

IABP-SHOCK II、ECLS-SHOCK、DanGer Shockが伝えるのは、デバイスの単純な順位ではなく、誰に、どの時点で、何を補う目的で用いるかを具体化する必要性です。[11]

よくある質問

Q1.VV-ECMOとVA-ECMOは、どちらも心臓を補助しますか?

VV-ECMOには直接的な体循環補助作用がなく、酸素化した血液を全身へ送るために自己心拍出が必要です。VA-ECMOは動脈へ送血するため、直接的な循環補助を行います。[2]

Q2.VAV ECMOは、VA-ECMOより強い補助ですか?

単純な上位機種ではありません。総流量を動脈側と静脈側に分配する構成で、酸素化と循環補助のバランスを調整します。左室アンローディングを保証するものでもありません。[3]

Q3.Impellaを入れれば、人工肺は不要になりますか?

Impellaにはガス交換機能がありません。自己肺の酸素化が不十分な患者では、呼吸補助が別途必要になる場合があります。[8]

Q4.IABPは、もう使用しない治療なのでしょうか?

AMI関連ショックや心不全関連ショックへのルーチン早期使用による利益は主要試験で示されていません。ただし、特定の病態で根本治療までの橋渡しとして個別に検討することと、ルーチン使用は別の判断です。[11]

Q5.ECMOやImpellaが必要になる前に、姫路市のクリニックで相談できますか?

息切れ、むくみ、動悸、胸痛、生活習慣病などは、内科・循環器内科で相談する症状や病気です。えぷろんクリニックでも診察と必要な評価を行い、専門医療が必要な場合には病院との連携を進めます。ただし、急な強い症状では通常の外来受診を待たないことが重要です。[25]

姫路市で心不全・息切れ・むくみが気になる方へ

この記事で取り上げたECMOやImpellaによる急性期治療は、専門設備と管理体制を備えた医療機関で行われる治療です。[26]

一方、その前後には、生活習慣病の管理、心不全の評価、退院後の継続診療など、地域の内科・循環器内科が関わる場面があります。姫路市のえぷろんクリニックでは、内科・循環器内科・呼吸器内科の診療と訪問診療を行っています。[25]

次の症状では、通常の予約を待たず、119番による救急要請を検討してください。

  • 突然の強い胸痛や、胸が締め付けられるような痛みが続く。
  • 急に息苦しくなった、強い呼吸困難がある。
  • 意識がない、意識がもうろうとしている。[27]

姫路市で息切れやむくみにお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでお気軽にご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

主要原著・ガイドライン

文献書誌情報
IABP-SHOCK IIThiele H, et al. N Engl J Med. 2012;367:1287–1296. DOI:10.1056/NEJMoa1208410. [11]
IMPRESSOuweneel DM, et al. J Am Coll Cardiol. 2017;69:278–287. DOI:10.1016/j.jacc.2016.10.022. [22]
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