心筋炎・劇症型。症状・検査・治療

患者さん・ご家族向け

風邪のような症状のあとに、胸の痛みや息切れ、動悸が出てきた――。

多くは別の原因ですが、心臓の筋肉に炎症が起こる「心筋炎」が隠れていることがあります。まれに数時間〜数日で心臓の働きが急激に低下する劇症型心筋炎へ進むため、危険なサインを知っておくことが大切です。姫路市のえぷろんクリニックが、症状・検査・治療・受診の目安を循環器内科の視点から解説します。

01心筋炎とは?心臓の筋肉に炎症が起こる病気

心筋炎は、心臓を動かす筋肉である「心筋」に炎症が起こり、心筋細胞が傷つく病気です。原因は一つではありません。ウイルスなどの感染をきっかけとするものが多い一方、薬剤への過敏反応、自己免疫疾患、サルコイドーシス、がん治療に用いる免疫チェックポイント阻害薬などが関係することもあります。検査をしても原因を特定できない例は少なくありません。

症状がほとんどなく自然に軽快する場合から、胸痛や不整脈、心不全を起こす場合まで、現れ方には大きな幅があります。心膜にも炎症が及ぶ「心膜心筋炎」では、息を吸う・咳をする・横になると悪化し、前かがみで軽くなる胸痛がみられることがあります。

心筋炎でみられる典型的な経過
感染などのきっかけ発熱・のどの痛み・咳
嘔吐・下痢など
心筋の炎症心筋細胞の傷害
むくみ・電気的不安定
心臓の症状胸痛・息切れ・動悸
失神・強いだるさ
多くは治療と安静で改善
一部は急速に劇症化
前ぶれの感染症状がない心筋炎もあります。症状だけで診断することはできません。

心筋炎で起こりやすい症状

  • 感染症状:発熱、のどの痛み、咳、筋肉痛、嘔吐、下痢
  • 胸の症状:胸痛、胸の圧迫感、動悸、脈の乱れ
  • 心不全症状:息切れ、横になると苦しい、むくみ、急な体重増加、強い倦怠感
  • 循環不全・不整脈:ふらつき、失神、冷汗、手足の冷たさ、意識がぼんやりする

これらは心筋梗塞、肺塞栓症、肺炎、心膜炎などでも起こります。症状だけで決めつけず、緊急性の評価を含めて医療機関で確認する必要があります。

02劇症型心筋炎とは?時間単位で悪化することがある

劇症型心筋炎は、日本循環器学会のガイドラインで「血行動態の破綻を急激にきたし、致死的経過をとる急性心筋炎」と定義されています。簡単にいえば、炎症によって心臓のポンプ機能や電気の流れが急速に障害され、血圧と全身の血流を保てなくなる状態です。ESC 2025ガイドラインでは、心筋炎のうち劇症型は約3〜9%とされています。

重要なのは、初診時には歩いて会話できる程度でも、日単位、ときに時間単位で心原性ショック、完全房室ブロック、心室頻拍・心室細動へ進むことがある点です。「若いから大丈夫」「風邪の治りかけだから」とは限りません。

比較血行動態が安定した心筋炎劇症型心筋炎
全身の血流保たれている低血圧・臓器低灌流を起こす
主な問題胸痛、軽度心不全、不整脈など心原性ショック、致死性不整脈、高度房室ブロック
変化の速さ比較的安定していることが多い数時間〜数日で急変し得る
必要な治療場所原則として入院で監視・評価集中治療と高度循環補助が可能な病院
治療の中心安静、心不全・不整脈への治療、原因別治療循環と呼吸を支え、回復まで橋渡しする治療
劇症型でも「回復の可能性」がある

劇症型は命に関わる重症病態ですが、炎症のピークを越えると心機能が大きく回復する例があります。そのため急性期には、適切なタイミングで循環を支え、心筋が回復するまで全身の臓器を守ることが重要です。

03この症状は救急要請を―劇症型心筋炎の危険サイン

次の症状は心筋炎に限りませんが、心筋梗塞や重い不整脈なども含め、緊急性の高い循環器疾患の可能性があります。

  • 胸の強い痛み・圧迫感が続く、または繰り返す
  • 安静にしていても息苦しい、横になれない、急に呼吸が悪化した
  • 失神した、意識が遠のいた、受け答えがおかしい
  • 動悸に加えて、胸痛・息切れ・ふらつき・冷汗がある
  • 顔色が悪い、手足が冷たい、唇が紫色、尿が極端に少ない
  • 風邪や胃腸炎のような症状の後に、胸痛・息切れ・動悸が新しく出た
受診先に迷ったら

強い症状・急な悪化・失神があれば119番です。症状は軽いものの、感染症の後に胸痛や動悸、息切れが続く場合は、その日のうちに医療機関へ相談してください。

04心筋炎の検査―心電図が正常でも完全には否定できません

心筋炎が疑われるときは、症状と経過に加えて複数の検査を組み合わせます。心電図、心エコー、心筋トロポニンはいずれも重要ですが、一つの検査が正常というだけで心筋炎を完全に否定することはできません。

  • 12誘導心電図・心電図モニター:ST-T変化、房室ブロック、心室性不整脈などを確認します。
  • 血液検査:心筋トロポニン、BNP/NT-proBNP、炎症反応、肝腎機能、電解質などを調べます。
  • 心エコー図検査:左右の心室機能、壁運動、心筋のむくみを示唆する壁厚増加、心膜液などを評価します。
  • 冠動脈の評価:症状や心電図が似る急性冠症候群を、冠動脈CTや冠動脈造影で除外します。
  • 心臓MRI:血行動態が安定している場合に、心筋の浮腫・傷害・線維化を評価します。
  • 心内膜心筋生検:重症例では組織を調べ、巨細胞性・好酸球性など治療方針に影響する病型を確認します。
医療者向けの補足

診断は「トロポニン陽性=心筋炎」ではありません。ACS、MINOCA、たこつぼ症候群、肺塞栓症などを除外し、CMRは改訂Lake Louise Criteriaに沿ってT1-based/T2-based所見を評価します。心原性ショック、持続性心室性不整脈、高度伝導障害を伴う場合は、病因特異的治療につながる早期EMBを検討します。

05劇症型心筋炎の治療―ECMOやIMPELLAは「回復までの橋渡し」

劇症型心筋炎は、集中治療・心臓カテーテル・補助循環に対応できる専門病院で治療します。最優先は、低下した心拍出量を補い、脳・腎臓・肝臓などへの血流を保つことです。

STEP 1呼吸・循環の監視
原因と病型の評価
STEP 2強心薬・昇圧薬
除細動・一時ペーシング
STEP 3VA-ECMO、IMPELLA
IABPなどの補助循環
STEP 4回復・離脱を目指す
難治例はVAD・移植を検討

VA-ECMOは心臓と肺の働きを体外で補い、全身へ血液を送ります。IMPELLAは左室内から血液をくみ出して左室を休ませます。IABPを含め、右心機能、肺うっ血、血圧、不整脈、施設体制などに応じて組み合わせを選びます。どの装置を使うか以上に、悪化を先読みし、導入時機を逃さないことが重要です。

ステロイドや免疫抑制薬は「心筋炎なら全員」に使う治療ではありません。巨細胞性心筋炎、好酸球性心筋炎、心臓サルコイドーシス、免疫チェックポイント阻害薬関連心筋炎など、病型と原因を踏まえて検討します。一般的なウイルス性心筋炎に対する一律の抗ウイルス薬治療も確立していません。

06回復後も運動再開を急がない―心筋炎の経過観察

症状や心機能が改善しても、心筋に炎症や瘢痕が残ると不整脈や心機能低下の原因になります。退院後は心電図、心エコー、必要に応じてホルター心電図や心臓MRIなどで経過を確認します。

心筋炎後の激しい運動は自己判断で再開せず、一般には3〜6か月程度の運動制限が検討されます。症状、心機能、心筋傷害マーカー、不整脈の有無を再評価し、主治医と段階的な復帰を相談してください。日常生活への復帰時期は重症度と回復経過により異なります。

07姫路市で胸痛・動悸・息切れが気になる方へ

えぷろんクリニックでは、症状と経過を確認し、診察、12誘導心電図、採血、心エコー図検査などを組み合わせて緊急性を判断します。心筋炎や急性冠症候群など入院治療が必要な病気を疑う場合は、地域の基幹病院へ速やかに紹介・連携します。

ただし、劇症型心筋炎はクリニック外来で治療する病気ではありません。強い胸痛、安静時の息苦しさ、失神、急速な悪化がある場合は、WEB予約を取って待つのではなく119番へ連絡してください。

姫路市で心筋炎が心配な方はご相談ください

風邪や胃腸炎の後に胸痛・動悸・息切れが続く方、心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでご相談ください。症状や検査結果を確認し、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

08心筋炎・劇症型心筋炎のよくある質問

Q1. 風邪のあとに胸が痛いと、心筋炎ですか?

心筋炎とは限りません。ただし、感染症の後に新しい胸痛、息切れ、動悸、失神が出た場合は評価が必要です。強い症状なら救急要請してください。

Q2. 心電図が正常なら心筋炎ではありませんか?

正常な心電図だけでは完全に否定できません。症状と経過、心筋トロポニン、心エコー、必要に応じて心臓MRIなどを組み合わせて判断します。

Q3. 心筋炎は人にうつりますか?

心筋炎そのものが人から人へうつるわけではありません。ただし、原因となったウイルスなどの感染症は周囲へ感染する可能性があります。

Q4. 劇症型心筋炎は若い人にも起こりますか?

はい。年齢にかかわらず起こる可能性があります。若年で基礎疾患がなくても、急速に心不全や重い不整脈へ進むことがあります。

Q5. 心筋炎の後、いつから運動できますか?

自己判断で再開せず、一般に3〜6か月程度の制限が検討されます。症状、心機能、採血、不整脈などを再評価し、主治医の許可を得て段階的に再開します。

  1. 日本循環器学会ほか.2023年改訂版 心筋炎の診断・治療に関するガイドライン
  2. 2025 ESC Guidelines for the management of myocarditis and pericarditis
  3. 2024 ACC Expert Consensus Decision Pathway on Myocarditis: Key Points
  4. AHA Scientific Statement: Recognition and Initial Management of Fulminant Myocarditis

医師情報:えぷろんクリニック 院長 松尾晃樹(日本循環器学会 循環器専門医)
最終更新:2026年10月14日