HFpEFを詳しく読む。診断・心エコー・治療

医療従事者向けの詳しい解説

診断・心エコーの読み方・治療ESC 2026心不全ガイドラインとASE 2025拡張機能評価を踏まえて

医療従事者向け解説|えぷろんクリニック|情報確認日:2026年10月10日

「EFは60%なので、心不全ではないと思います」
「e′が低下しているので、HFpEFです」

どちらも、診断としては不十分です。左室駆出率(EF)、左室拡張障害、充満圧上昇、臨床的な心不全は、関連しながらも異なる概念だからです。

心エコーはHFpEF診療の中心ですが、一つの数値から診断を確定したり、除外したりする検査ではありません。安静時の画像を読むだけでなく、「この患者は、どの条件で、なぜ息切れするのか」を考える必要があります。

本記事では、専門研修中の医師が外来や病棟で使えるよう、疑うところから測定、統合、追加検査、治療までを整理します。一般の方は、息切れ・むくみの受診目安や当院の心不全診療ページもご覧ください。

最初に押さえたい3点
  • EFが保たれていても、心不全は起こる。
  • 拡張障害があっても、臨床的な心不全とは限らない。
  • 安静時の充満圧が正常でも、運動時の異常は残り得る。

1.ESC 2026で何が変わったのか

2026年8月28日に公表されたESC心不全ガイドラインでは、従来のHFmrEFという区分が廃止され、EFによる分類は次の二つに整理されました。[1]

ESC 2026の分類LVEF
HFrEF:左室駆出率が低下した心不全50%未満
HFpEF:左室駆出率が保たれた心不全50%以上

これはESC 2026で採用された分類です。過去の試験や他のガイドラインに登場する「HFrEF」「HFmrEF」「HFpEF」を、同じEF範囲だと読み替えてはいけません。

もちろん、EFが50%以上ならHFpEFというわけではありません。現在または過去の心不全症状・徴候と、それを説明する客観的な心臓の構造・機能異常を統合して診断します。特に重要なのは、安静時または運動時の充満圧上昇を示す、あるいはそれに整合する根拠です。

過去にEF 35%で心不全を発症し、治療後に55%へ改善した患者も、最初からEFが保たれていた患者と同一には扱いません。現在値だけでなく、EFの経過と心不全の既往を確認することが必要です。

2.EF・拡張障害・充満圧・HFpEFを分けて考える

EFは「量」ではなく「割合」

EFは、左室拡張末期容積に対する、収縮に伴う左室容積減少の割合です。

EF(%)=(左室拡張末期容積 − 左室収縮末期容積)÷ 左室拡張末期容積 × 100

例えば、左室拡張末期容積120 mLから72 mLを駆出する場合と、60 mLから36 mLを駆出する場合は、どちらもEF 60%です。EFが同じでも一回拍出量が同じとは限りません。

スマートフォンでは図を横にスクロールできます
EFがどちらも60%でも、左室容積が異なれば一回拍出量は72mLと36mLに分かれる計算例
図1.同じEFでも、駆出する量は同じではない。有意な弁逆流・シャントを考慮しない単純化した計算例。HFpEFの全例で一回拍出量が少ないという意味ではありません。

さらに、弁逆流があれば容積から求めた拍出量と有効な前方拍出量は一致しません。「EF正常=心筋の収縮機能がすべて正常=循環が正常」ではない、という点まで理解しておきましょう。

心室が硬いことだけで説明しない

HFpEFでは、左室弛緩の遅延やスティフネス増大に加え、左房機能低下、右室・肺循環の異常、変時性不全、末梢循環や骨格筋の問題などが関与します。安静時には代償できても、運動時に心拍出量を十分に増やせず、左房圧・肺静脈圧が上昇して息切れが現れることがあります。

表は横にスクロールできます →
概念何を評価しているか診断上の注意
EF左室が一回の収縮で駆出する割合正常値だけで心不全を除外しない
左室拡張障害弛緩や充満特性の異常無症候性でも認められる
充満圧上昇心腔を満たすために必要な圧の上昇安静時と運動時で異なり得る
HFpEFEFが保たれた患者の臨床的心不全症候群症状と客観的根拠を統合する

もう一つ、エコーで推定する平均左房圧と、カテーテルで測る左室拡張末期圧(LVEDP)は同じではありません。LVEDPが上昇していても、平均左房圧はまだ高くないことがあります。E/e′を、そのままLVEDPの測定値として扱うことはできません。[2]

3.エコーを見る前に、HFpEFの可能性を考える

労作時の症状を具体的に聞く

肺水腫や浮腫が明らかな患者だけが対象ではありません。「平地は歩けるが坂道で息切れする」「買い物の途中で休むようになった」という変化も拾います。活動を避けることで、本人が息切れを自覚しにくくなっている場合もあります。

発症時期、症状を誘発する負荷、起坐呼吸、夜間の呼吸困難、体重変化、浮腫、動悸、胸部症状を確認します。高齢、肥満、高血圧、心房細動などは診断確率を高めますが、単独では診断根拠になりません。

同時に、貧血、呼吸器疾患、虚血性心疾患、弁膜症、身体的不活動なども評価します。「HFpEFか、肺疾患か」という二択ではなく、複数の病態が息切れに寄与している可能性を考えます。

BNP・NT-proBNPを単独の判定装置にしない

ナトリウム利尿ペプチドは重要ですが、肥満では低値になりやすく、心房細動や腎機能障害などでは高値になり得ます。BNPとNT-proBNPは異なる検査であり、同じ数値基準を使いません。

ESC 2026は、慢性心不全を疑う外来診断で年齢を考慮したNT-proBNP閾値を扱っています。ただし、これは症状のある患者を追加評価につなげるための診断経路の一部です。閾値を超えただけでHFpEFが確定するわけではなく、下回っていても臨床的な疑いが強ければ評価を続けます。非代償性心不全の診断経路とも区別します。[1]

検査前確率を残したまま、結果を読む

「BNPが低いから終了」でも、「肥満があるからHFpEF」でもありません。検査結果が症状をどこまで説明できるかを考え、説明できない部分を次の検査につなげます。

4.心エコーは「形態 → 弛緩 → 圧 → 右心」の順に読む

4-1.最初にEF以外の形態と原因疾患を見る

E/e′を計算する前に、左室内腔、壁厚、局所壁運動、左房、右室、弁膜症を確認します。左室容積・EFは、心尖部の短縮像を避け、原則として二腔像・四腔像によるbiplane Simpson法などで評価します。測定法と画質も記録します。

EFが保たれていても、左室長軸方向グローバルストレイン(GLS)などの収縮指標が低下していることがあります。左室壁が厚ければ、高血圧だけでなく、肥大型心筋症や心アミロイドーシスなどを考えます。有意な弁膜症、心膜疾患などがあれば、その病態に応じた評価が必要です。HFpEFという症候群名で、原因検索を止めてはいけません。

4-2.E/A:偽正常化を見逃さない

僧帽弁流入波形は、心尖部四腔像で僧帽弁尖端にパルスドプラのサンプルを置いて記録します。E波は拡張早期、A波は心房収縮に伴う流入です。E波・A波・E/Aに加え、E波減速時間も確認します。

E波は左室の弛緩だけではなく、左房と左室の圧較差に左右されます。弛緩が遅くなるとE波は低下しやすくなりますが、左房圧が上昇すると圧較差が増し、E波が再び高くなることがあります。

その結果、弛緩障害があるのに、E/Aは一見正常に近づく。これが偽正常化です。E/Aが1前後でも、e′、E/e′、左房所見などと整合するかを確認します。

スマートフォンでは図を横にスクロールできます
正常、弛緩遅延、偽正常化の僧帽弁流入波形の模式図。偽正常化ではE波が再上昇してもe′低下が残り得る
図2.僧帽弁流入波形の偽正常化。概念を説明する模式図であり、実測波形やASE判定フローの再現ではありません。E/A単独で拡張機能を判定しないことが要点です。

4-3.e′:弛緩の情報と圧の情報を混同しない

e′は僧帽弁輪の拡張早期運動速度です。組織ドプラで中隔側・側壁側を測定し、ビームと弁輪の運動方向をできるだけ平行にします。サンプル位置、ゲイン、角度、波形の融合を確認します。

e′低下は弛緩障害を支持しますが、年齢や局所的な弁輪運動制限にも影響されます。e′が低いことと、現在の平均左房圧が高いことは別の判断です。無症候性の高齢者にe′低下を認めても、それだけでHFpEFとは診断しません。

4-4.E/e′:高値は圧上昇を支持するが、単位はmmHgではない

平均E/e′を用いる場合、通常は中隔側と側壁側のe′の平均でEを除します。計算時は単位をそろえます。

E=100 cm/s、平均e′=5 cm/sなら、E/e′=20です。しかし、「平均左房圧20 mmHg」という意味ではありません。 E/e′は圧を推定するための指標であり、直接測定ではありません。

正常域にあることだけでHFpEFを除外できない点も重要です。安静時には圧が上がらず、運動時に初めて異常が現れる患者がいるからです。

4-5.LAVI:慢性的な負荷の痕跡として読む

左房容積係数(LAVI)は、左房最大容積を体表面積で補正した指標です。原則として収縮末期の左房最大容積を、左房に適した心尖部二腔像・四腔像で測定します。肺静脈や左心耳を含めず、左房前後径だけで代用しません。

左房拡大は慢性的な負荷を支持しますが、今日の左房圧を直接示しません。心房細動や僧帽弁疾患などでも拡大するため、「いつから、何によって大きくなったのか」を考えます。

4-6.TRV・PASP:肺循環と右室まで読む

三尖弁逆流最大速度(TRV)は連続波ドプラで測定します。複数断面から、完全で良好な波形を探します。不完全な波形を無理に計測したり、TRが取れないことを正常所見として扱ったりしません。

右室流出路・肺動脈弁に有意な狭窄がない場合、推定肺動脈収縮期圧(PASP)は概ね以下で求めます。

推定PASP ≒ 4 × TRV² + 推定右房圧
TRV:m/s、圧:mmHg

肺動脈圧上昇の原因は左房圧上昇だけではありません。肺実質疾患や肺血管疾患も考えます。右室のサイズ・収縮機能、三尖弁逆流、下大静脈を合わせて評価します。下大静脈から主に推定しているのは右房圧であり、左房圧ではありません。[2]

5.ASE 2025を「数値の一覧」で終わらせない

拡張障害の有無と、左房圧・グレードの判定は別の手順

ASE 2025では、Figure 2が左室拡張障害の診断、Figure 3が平均左房圧の推定とグレード評価を扱います。Figure 2では、e′低下だけで完結せず、別の機能・形態所見を組み合わせます。

以下は、洞調律患者を対象とするFigure 3の最初の評価項目です。これだけでフローチャート全体を代用するものではありません。[2]

評価軸Figure 3の基準
e′低下中隔側 ≤6 cm/s、または側壁側 ≤7 cm/s、または平均 ≤6.5 cm/s
E/e′上昇中隔側 ≥15、または側壁側 ≥13、または平均 ≥14
肺動脈圧上昇を支持TRV ≥2.8 m/s、またはPASP ≥35 mmHg

右房圧を推定できる場合は、PASPに基づいて判断します。e′には年齢別正常下限を用いる方法も示されています。以前の「中隔側7、側壁側10」を、どの年齢・どの評価法にも一律に当てはめないようにします。

三項目中二項目の異常で、直ちに確定しない

三つすべてが異常なら平均左房圧上昇を支持します。一方、二つが異常の場合などは、左房リザーバーストレイン(LARS)、肺静脈血流、LAVI、等容弛緩時間(IVRT)などの追加所見を確認します。

e′低下のみの場合も、E/Aなどによって次の手順が異なります。「e′・E/e′・TRVの多数決」という簡略化では、原法と異なる判定になることに注意してください。

判定臨床的に理解しておきたい意味
Grade I弛緩障害があり、安静時平均左房圧は通常上昇していない
Grade II平均左房圧上昇を伴う拡張障害
Grade III平均左房圧上昇を伴い、拘束型流入を示す

Figure 3では左房圧上昇を判断した後、E/A<2ならGrade II、E/A≥2ならGrade IIIとします。健康な若年者をE/A≥2という数値だけでGrade IIIにするわけではありません。また、Grade Iは「心不全ではない」という意味ではありません。

アルゴリズムをそのまま適用できない状況

心房細動ではA波がなく、心周期ごとの変動も大きいため、AF用の評価が必要です。代表的な複数心拍を評価し、左房拡大やLARS低下がAF自体の影響を受けることにも注意します。

Figure 3は、重症一次性僧帽弁逆流、程度を問わない僧帽弁狭窄、中等度以上の僧帽弁輪石灰化、僧帽弁形成・置換・TEER後、非心原性肺高血圧、収縮性心膜炎などには、そのまま適用しません。心移植後やLVAD患者も適用外です。

E/e′の「9」と「14」は、目的の違う閾値

ESC 2026のHFpEFを支持する所見には、安静時E/e′>9が挙げられています。一方、ASE 2025の平均E/e′≥14は、平均左房圧を推定するアルゴリズムの一部です。疾患を疑うための情報と、圧を推定するための情報を混同せず、何を判定するための閾値なのかを確認します。[1], [2]

6.安静時エコーで説明できない息切れをどう評価するか

H₂FPEFスコア:追加検査の必要性を考える

H₂FPEFは、原因不明の労作時呼吸困難に対してHFpEFの可能性を考えるために開発されたスコアです。[3]

項目点数
BMI >30 kg/m²2
降圧薬2剤以上1
心房細動3
推定PASP >35 mmHg1
年齢 >60歳1
E/e′ >91

合計0~9点で、一般に0~1点は低確率、2~5点は中間、6~9点は高確率として扱います。原著のE/e′は中隔側e′を用いています。BMIの基準を日本の肥満判定に合わせて25へ変更したり、E/e′をASEの閾値に置き換えたりすると、元のスコアではなくなります。

HFA-PEFFは、機能・形態・ナトリウム利尿ペプチドの三領域を評価し、各領域最大2点、合計6点です。同じ領域の異常をすべて足し合わせる方式ではありません。2~4点では追加の機能評価を考えます。スコアの高低だけで、原因疾患や非心原性の息切れの評価を省略しません。[4]

運動負荷エコー:症状が出る条件に近づける

安静時の充満圧が正常または判定困難で、労作時症状が説明できない場合、運動負荷エコーが選択肢になります。拡張機能評価には運動負荷を用い、ドブタミン負荷で代用しません。

ASE 2025のKey Pointsは、運動中の平均E/e′≥14、または中隔側E/e′≥15に加え、TRV≥3.2 m/sを満たす場合を陽性としています。TRVの単独上昇は肺血流増加でも起こるため、単独では判断しません。なお、同文書の説明本文はTRV>3.2 m/sと記載しています。境界値だけで判定を反転させず、測定精度と所見全体を評価します。[2]

頻脈でE波とA波が融合すると評価が難しくなります。負荷中・終了直後のどの時点で、どの心拍を測定したかも記録します。HFA-PEFFの運動負荷基準とは混ぜて使いません。

スマートフォンでは図を横にスクロールできます
症状と検査前確率を出発点に、安静時検査で診断を統合し、不明な場合は運動負荷検査や必要に応じた侵襲的評価へ進む考え方
図3.労作時呼吸困難の評価を進める考え方。本記事の概念図であり、個別ガイドラインの完全な診断アルゴリズムではありません。CPETは心肺運動負荷試験を指します。

2026年の検証研究が示した、陰性所見の限界

Haradaらは、侵襲的に確認された外来・代償期HFpEF 756例を評価しました。ASE 2025で正常と判定されたのが248例、Grade Iが263例で、合わせて約68%が正常またはGrade Iでした。

また、Grade Iで同時運動負荷血行動態・画像評価を行った116例のうち、推奨運動負荷基準を満たしたのは11例でした。これは選択された患者群の結果であり、全診療場面にその数値を一般化はできません。しかし、低い拡張機能グレードや陰性の運動負荷エコーだけでHFpEFを除外しないという教訓は重要です。[5]

診断が治療方針を変える場合は、侵襲的評価を考える

非侵襲的検査で判断が定まらず、診断の違いが治療に影響する場合、運動負荷を含む右心カテーテル検査を専門施設で検討します。代表的な基準は、安静時の肺動脈楔入圧(PCWP)≥15 mmHg、または仰臥位運動時PCWP≥25 mmHgです。安静時LVEDP≥16 mmHgも客観的根拠になります。

ただし、体位、呼吸、測定波形、運動プロトコルを含めた解釈が必要です。PCWPとLVEDPを同じ指標として扱わず、すべての息切れ患者に侵襲的検査を行うわけではありません。CPETも運動制限の機序を考えるのに役立ちますが、非侵襲的CPET単独で充満圧を直接測れるわけではありません。[4]

7.症例で考える、二つの読み方

以下は教育目的の架空症例であり、実在の患者の診療経過ではありません。

症例1:E/Aが1.1でも、拡張機能は正常ではない

76歳女性。高血圧があり、労作時呼吸困難と起坐呼吸を認めます。洞調律で、有意な僧帽弁疾患や非心原性肺高血圧を示唆する所見はありません。

指標所見
LVEF63%
E/A1.1
中隔側e′/側壁側e′4/6 cm/s
E/平均E/e′95 cm/s/19
LAVI46 mL/m²
TRV3.0 m/s

平均e′は5 cm/sなので、平均E/e′は95÷5=19です。e′低下、E/e′上昇、TRV上昇がそろいます。適切な計測と適用条件を確認したうえで、安静時平均左房圧上昇を伴うGrade II拡張障害を支持する所見と解釈します。

臨床症状と合わせるとHFpEFを強く疑います。E/Aが1.1という見た目に安心せず、原因疾患の評価と、うっ血への対応を進めます。

症例2:BNPも安静時エコーも目立たない

68歳女性。BMI 33 kg/m²、降圧薬2剤。坂道で息切れします。洞調律で、安静時に浮腫やラ音はなく、LVEF 65%、中隔側E/e′ 8、LAVI 30 mL/m²、推定PASP 28 mmHg、BNP 28 pg/mLです。

この情報だけでHFpEFとは診断できません。一方、H₂FPEFは肥満2点、降圧薬1点、年齢1点の合計4点で、中間の診断確率です。

したがって「EF正常・BNP低値だから心臓は問題なし」とは終了しません。呼吸器疾患や貧血などを評価し、必要に応じてCPETや運動負荷エコーへ進みます。それでも不明で、臨床的な疑いが残る場合は侵襲的評価を検討します。

8.ESC 2026を踏まえたHFpEFの治療

うっ血を取る治療と、イベントを減らす治療を分ける

うっ血があれば利尿薬で体液量を適正化します。ただし、利尿薬で息切れが軽減したことだけをHFpEFの診断根拠にはしません。同時に、心不全イベントを減らす治療と、併存疾患への対応を進めます。

ESC 2026では、症候性HFpEFに対するSGLT2阻害薬とMRAが基盤治療に位置づけられ、いずれもClass I・エビデンスレベルAです。[1]

治療役割と考え方
ループ利尿薬うっ血・体液過剰に応じて調整する
SGLT2阻害薬エンパグリフロジン、ダパグリフロジン。心不全イベント抑制を目的に検討する
MRA腎機能・血清Kなどを確認し、薬剤ごとの適応・根拠を踏まえて選ぶ
併存疾患への治療高血圧、心房細動、肥満、糖尿病、腎疾患などに対応する

導入時も増量後も、症状、血圧、体液量、腎機能、電解質を追います。ここで示すのは国際ガイドラインと試験結果の整理です。国内での処方は、各薬剤の最新の承認適応・用法用量・電子添文を確認して判断します。

主要試験は「対象EF」と「評価項目」をそろえて読む

表は横にスクロールできます →
試験薬剤・対象EF主要評価項目と結果
EMPEROR-Preservedエンパグリフロジン、EF >40%心血管死または心不全入院:HR 0.79(95%CI 0.69–0.90)
DELIVERダパグリフロジン、EF >40%心血管死または心不全増悪:HR 0.82(0.73–0.92)
FINEARTS-HFフィネレノン、EF ≥40%心不全増悪の総イベントと心血管死:rate ratio 0.84(0.74–0.95)
TOPCATスピロノラクトン、EF ≥45%心血管死・蘇生された心停止・心不全入院:HR 0.89(0.77–1.04)、全体解析で有意差なし

試験対象には、従来のHFmrEFに相当する患者も含まれます。全員がEF≥50%だったわけではありません。また、反復イベントを含むFINEARTS-HFのrate ratioを、HRと書き換えないことも大切です。[6]–[9]

表中の括弧内は95%信頼区間です。HRはハザード比、rate ratioはイベント発生率の比を示します。対象患者や評価項目が異なるため、この表を薬剤の優劣ランキングとして使うことはできません。

複合評価項目の改善と、死亡単独の減少は同義ではありません。 HFpEF領域では、心不全イベント減少が重要な部分を占めます。ESC 2026のHFpEFに対するMRA推奨はステロイド型・非ステロイド型を含みますが、すべての薬剤が同じ試験結果を持つわけではありません。TOPCAT全体解析とFINEARTS-HFの結果の違いを説明できることが重要です。

肥満を伴うHFpEFでは、肥満自体が治療標的になる

ESC 2026は、症候性心不全、EF≥45%、BMI≥30 kg/m²の患者に対し、糖尿病の有無によらずセマグルチドまたはチルゼパチドを考慮することをClass IIaで示しています。ここでも、HFpEFの分類境界と、治療推奨の対象EFを混同しません。[1]

STEP-HFpEFでは、セマグルチドによる症状・身体的制限、体重、運動機能の改善が示されました。SUMMITでは、チルゼパチドによって心血管死または心不全増悪の複合評価項目が減少しました。ただし、これを死亡単独の減少や、肥満のないHFpEFでの有効性と読み替えることはできません。低体重・フレイル患者への一律の減量治療も適切ではありません。[10], [11]

HFrEFの処方を、そのまま全員に当てはめない

β遮断薬、ACE阻害薬、ARB、ARNIは、HFpEF全例にHFrEFと同じ位置づけで導入するのではなく、血圧、心房細動、虚血性心疾患などの適応も踏まえて選択します。薬剤名を埋めることを目的にせず、患者のうっ血、血圧、腎機能、血清K、併存疾患、生活機能を見ながら治療を調整します。

9.エコーレポートを「拡張障害あり」で終わらせない

レポートでは、拡張機能の評価と、安静時平均左房圧の推定を分けて記載します。確定できない場合も、「判定困難」と、その理由を残します。

【検査条件】
調律・心拍数・血圧:
画質・計測上の制約:

【左室・原因疾患】
LVEF: %[計測法:   ]
左室内腔・壁厚・局所壁運動:
有意な弁膜症・特異的所見:

【拡張機能・充満圧】
E: cm/s、A: cm/s、E/A:
中隔側e′: cm/s、側壁側e′: cm/s
E/e′: [中隔側/側壁側/平均を明記]
LAVI: mL/m²、TRV: m/s
推定PASP: mmHg[推定右房圧: mmHg]
必要時:LARS、肺静脈血流、IVRTなど

【右心系】
右室サイズ・収縮機能、三尖弁逆流、下大静脈:

【総合所見】
左室弛緩:
安静時平均左房圧:正常を支持/上昇を支持/判定困難
拡張機能グレード:
適用した評価法と限界:
臨床症状との整合性・追加評価の必要性:

例えば、結論は次のように書き分けます。

左室弛緩障害を認めるが、安静時平均左房圧上昇を支持する所見は乏しい。労作時症状の原因が本検査で説明できるとは限らず、臨床的な疑いに応じて追加評価を検討する。
LVEFは保持される。複数のドプラ指標から安静時平均左房圧上昇を伴う拡張障害を支持する。心不全症状との統合および原因疾患の評価を要する。

エコーで分かったことと、まだ分からないことを明確にする。それが次の診療判断につながるレポートです。

10.HFpEFについてよくある質問

Q1.EFが60%なら、心不全は否定できますか?

否定できません。EFは駆出する割合であり、充満圧や運動時の循環予備能を直接示しません。症状、採血、心エコーなどを合わせて判断します。

Q2.e′が低ければHFpEFですか?

いいえ。e′低下は弛緩障害を支持しますが、年齢や弁輪の状態にも影響されます。無症候性の所見だけで、臨床的心不全とは診断しません。

Q3.BNPが低いのに、息切れの精査が必要なことはありますか?

あります。肥満がある場合や運動時に異常が現れる場合などでは、BNP低値だけで評価を終了できません。心臓以外の原因も含めて検討します。

Q4.Grade Iなら、心不全の治療は不要ですか?

Grade Iだけで治療の要否は決められません。安静時の所見と、心不全の既往・現在の症状・治療経過を統合します。エコーのグレードだけを理由に治療を中止しません。

Q5.姫路市で息切れやむくみは、どこに相談すればよいですか?

内科・循環器内科で相談できます。えぷろんクリニックでは、診察、採血、心電図、心エコーなどを症状に応じて検討し、専門的な運動負荷検査やカテーテル検査が必要な場合は地域の医療機関と連携します。

息切れ・むくみの受診目安

  • 階段や坂道での息切れが以前より増えた
  • 足のむくみや、数日間での体重増加がある
  • 横になると苦しく、座ると楽になる
  • 動悸、疲れやすさ、活動量の低下が続く

こうした変化は早めに医療機関へ相談してください。安静にしていても強く息苦しい、突然の激しい胸痛、意識を失う、唇が紫色になる場合は、通常の予約を待たず119番などで救急対応を求めてください。

姫路市のえぷろんクリニックで相談できること

当院には循環器専門医と呼吸器専門医が在籍し、息切れ・むくみの原因を心臓と肺の両面から検討します。高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病管理、心不全の継続診療、必要時の専門医療機関への紹介、訪問診療にも対応しています。

姫路市で息切れやむくみにお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

「EFは何%か」の、その先へ。

HFpEF診療では、安静時の数値が目立たない患者を見逃さず、無症候性のエコー異常を心不全と呼びすぎないことが求められます。「どの条件で、なぜ息切れするのか」という問いを持ち、検査前確率、測定の限界、追加評価の意義を考えながら心エコーを読みましょう。

医師紹介:松尾 晃樹

えぷろんクリニック院長。日本循環器学会認定 循環器専門医。国立循環器病研究センター移植医療部、兵庫県立はりま姫路総合医療センター循環器内科などで診療に従事。心不全を中心に、生活習慣病から専門医療機関との連携まで対応しています。

詳しいプロフィール

参考文献・一次資料

  1. Køber L, Adamo M, et al. 2026 ESC Guidelines for the management of heart failure. Eur Heart J. 2026;47:5346–5457. doi:10.1093/eurheartj/ehag100 / ESC公式発表。分類、慢性心不全診断、Table 10、Recommendation Table 5などを参照。
  2. Nagueh SF, et al. Recommendations for the Evaluation of Left Ventricular Diastolic Function by Echocardiography and for Heart Failure With Preserved Ejection Fraction Diagnosis: An Update From the American Society of Echocardiography. J Am Soc Echocardiogr. 2025;38:537–569. ASE公式PDF。Figures 2・3、Table 6、運動負荷評価、特殊病態の節を参照。
  3. Reddy YNV, et al. A Simple, Evidence-Based Approach to Help Guide Diagnosis of Heart Failure With Preserved Ejection Fraction. Circulation. 2018;138:861–870. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.118.034646
  4. Pieske B, et al. How to diagnose heart failure with preserved ejection fraction: the HFA–PEFF diagnostic algorithm. Eur Heart J. 2019;40:3297–3317. doi:10.1093/eurheartj/ehz641 / 訂正文。
  5. Harada T, et al. Echocardiographic Diastolic Function Grading in HFpEF: Testing the Updated 2025 ASE Criteria. J Am Coll Cardiol. 2026;87:1261–1275. doi:10.1016/j.jacc.2025.11.024
  6. Anker SD, et al. Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2021. doi:10.1056/NEJMoa2107038
  7. Solomon SD, et al. Dapagliflozin in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2022. doi:10.1056/NEJMoa2206286
  8. Solomon SD, et al. Finerenone in Heart Failure with Mildly Reduced or Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2024. doi:10.1056/NEJMoa2407107
  9. Pitt B, et al. Spironolactone for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction. N Engl J Med. 2014. doi:10.1056/NEJMoa1313731
  10. Kosiborod MN, et al. Semaglutide in Patients with Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity. N Engl J Med. 2023. doi:10.1056/NEJMoa2306963
  11. Packer M, et al. Tirzepatide for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity. N Engl J Med. 2025. doi:10.1056/NEJMoa2410027

本記事は医療従事者向けの教育的解説です。個々の患者の診断・治療は、病歴、診察、検査結果、国内の承認適応などを踏まえて判断します。図は本記事のためのオリジナル模式図です。