えぷろんクリニック姫路市|内科・循環器内科・呼吸器内科

DELIRIUM CARE · 症状と治療を知る

せん妄の対応と
薬の使い分け

症状・原因・家族のケアを詳しく解説

情報確認日:2026年10月17日

「昨日まで普通に話せていた家族が、急につじつまの合わないことを言う」「入院してから夜に落ち着かなくなった」「反対に、ぼんやりして食事も進まなくなった」。こうした変化では、せん妄を考えます。

せん妄は、身体の病気や薬の影響などで注意・意識・認知の働きが急に乱れる状態です。対応の中心は、原因を見つけて治療し、安心して過ごせる環境を整えること。薬は、強い苦痛や危険な興奮を和らげるために、必要な場面を選んで使います。1,2

本記事では、患者さん・ご家族に知っていただきたい対応から、医療者向けの薬剤選択、国内添付文書、主要研究まで解説します。薬に関する記載は一般的な情報であり、自己判断での追加・増量・中止を勧めるものではありません。

目次:知りたい項目から読む

1.せん妄とは? 認知症との違いと見逃されやすい症状

特徴は「急な変化」「注意の障害」「症状の変動」

せん妄では、数時間から数日の間に普段と違う状態になり、会話に集中できない、話の流れを追えない、周囲の状況を正しく捉えにくい、といった変化が起こります。同じ日でも良い時間と悪い時間があり、夜間に目立つことがありますが、夜だけの病気ではありません。1,3

「話せるから意識は正常」「名前を答えられたからせん妄ではない」とは判断できません。見当識だけでなく、注意を向け続けられるか、普段の状態からどのように変わったかを確認します。

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タイプ目立つ様子対応で気をつけること
過活動型落ち着かない、興奮する、幻覚を訴える、点滴を抜こうとする安全を確保し、痛みや恐怖、身体の異常を探す
低活動型ぼんやりする、反応が遅い、口数が減る、食事が進まない「静かだから大丈夫」と見過ごさない
混合型興奮する時間と、ぼんやりする時間が入れ替わる一場面だけで判断せず、時間経過を共有する

低活動型でも、本人が幻覚や不安に苦しんでいることがあります。 活動性と苦痛の強さは別々に評価します。1,32

認知症にせん妄が重なることもある

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観点せん妄認知症の典型的な経過
始まり方数時間〜数日で変化多くは月〜年単位で変化
日内変動目立ちやすい病型や進行度によって異なる
注意・覚醒急に乱れやすい初期には比較的保たれる場合がある
治療の考え方急な変化を起こした原因を探す認知症の病型や経過に応じて支援する

認知症がある方はせん妄を起こしやすく、両者は併存します。また、レビー小体型認知症では認知機能の変動や幻視も起こるため、表だけで区別することはできません。「その人にとって新しい変化か」を家族・介護者から確認することが重要です。1,3

2.急な混乱が起きたとき、受診を急ぐ症状

次の症状を伴うときは119番を含む救急対応を

  • 呼びかけても反応が乏しい、急に意識が悪くなった。
  • 顔のゆがみ、片側の手足の力が入らない、言葉が出ないなど、新しい神経症状がある。
  • 強い息苦しさ、胸痛、唇が紫色になるなどの症状がある。
  • けいれん、強い頭痛、頭を打った後の意識や行動の変化がある。
  • 高熱に加えてぐったりしている、冷汗や血圧低下があるなど、全身状態が悪い。
  • 本人や周囲に差し迫った危険があり、家族だけでは安全を確保できない。

これらがなくても、新たに起きた急な混乱や反応の低下は、気づいた時点で直ちに医療機関へ連絡し、速やかな評価を受けてください。 夜間も翌朝まで自己判断で待たないことが大切です。脳卒中、低血糖、低酸素、重い感染症などを、せん妄という言葉だけで片づけないようにします。連絡先につながらない場合や、安全な移動が難しい場合にも、119番を含む救急対応を検討してください。2,36

受診までの間は、できるだけ一人にせず、転倒しやすい物を片づけます。反応が悪い、むせる、飲み込めない場合は、薬・食べ物・水を無理に口へ入れないでください。

3.せん妄の原因は? 身体・薬・環境を一緒に確認する

せん妄は、一つの原因だけで起こるとは限りません。高齢、認知症、以前のせん妄、視力・聴力の低下などの背景に、感染症、薬の変更、睡眠不足などが重なって発症します。本人の性格や、ご家族の接し方だけで起こるものではありません。2,5,32

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確認する領域主な原因・きっかけ診療で確認したいこと
呼吸・循環低酸素、二酸化炭素の蓄積、心不全、血圧低下呼吸、酸素飽和度、血圧、うっ血・脱水の所見
感染症肺炎、症状を伴う尿路感染症、敗血症など発熱だけでなく呼吸状態、排尿症状、全身状態
代謝・臓器機能低血糖、著しい高血糖、Na・Caなどの異常、腎・肝機能悪化食事・水分摂取、採血、薬の蓄積の可能性
薬・離脱鎮静薬、抗コリン作用のある薬、オピオイド、一部の薬の中断など処方薬・市販薬・頓服、新規開始、増減量、飲み忘れ
痛み・排泄疼痛、尿閉、便秘・便塞栓痛みを言葉で伝えにくい人も、表情や動作を確認
環境・感覚不眠、昼夜逆転、騒音、移室、眼鏡・補聴器が使えない普段との環境の違い、睡眠、孤立
脳・神経脳卒中、頭部外傷、けいれん性疾患など新しい神経症状、転倒・打撲、抗凝固薬の使用

特に、**「落ち着かないので鎮静薬を追加する前に、尿が出ているか、便がたまっていないか、痛みや息苦しさがないか」**を確認すると、対応の方向が変わることがあります。2

「尿に細菌がいる=せん妄の原因」とは限らない

高齢者には、排尿症状がなくても尿から細菌が見つかる方がいます。尿の細菌と混乱だけを根拠に、尿路感染症と決めつけることはできません。

IDSAのガイドラインでは、細菌尿とせん妄があっても、局所の尿路症状や発熱・循環不安定などの全身所見がなければ、他の原因を評価し慎重に観察することを勧めています。一方、敗血症が疑われる場合には、感染源の検索と必要な治療を急ぎます。4

原因になりうる薬を「全部すぐ中止」するのも危険

睡眠薬・抗不安薬、市販の睡眠改善薬やかぜ薬に含まれる鎮静性抗ヒスタミン薬、抗コリン作用のある薬、オピオイドなどは、薬剤の見直しで確認する対象です。しかし、長く服用しているベンゾジアゼピン系薬を急にやめると、離脱によるせん妄やけいれんが起こることがあります。何を減らすかと、どの速さで減らすかを、服薬歴に基づいて判断します。2,29,33

4.医療機関ではどう評価する? 4AT・CAMと必要な検査

家族からの情報が診断の手がかりになる

「いつから」「普段はどこまで自分でできるか」「一日の中で変わるか」「薬が変わったか」「食事・排尿・排便・睡眠はどうか」を確認します。診察時に一時的に落ち着いていても、前夜の様子を伝えることが役立ちます。2,3

一般病棟や救急などでは、せん妄を見つけるために4ATなどの評価法を用います。4ATは、覚醒状態、年齢・生年月日・場所・年の確認、注意力、急な変化・変動の4領域から成り、4点以上はせん妄を疑う目安です。ただし、点数だけで診断は確定せず、0点でも完全には除外できません。難聴、失語、重度の認知症なども考慮します。3

CAMでは「急性発症・変動」と「注意障害」に加えて、「まとまりのない思考」または「意識水準の変化」を評価します。ICUや術後回復室では、CAM-ICUやICDSCが用いられます。深い鎮静や昏睡の状態は、単に「せん妄なし」と扱わず、覚醒状態を含めて評価します。1,7,8

検査は症状に合わせて選ぶ

診察とバイタルサイン、血糖、酸素飽和度を確認し、必要に応じて血算、炎症反応、Na・K・Ca・Mg、腎・肝機能、心電図、胸部画像などを組み合わせます。二酸化炭素の蓄積が疑われれば血液ガス、脳卒中・頭部外傷などが疑われれば頭部画像、非けいれん性の発作が疑われれば脳波などを検討します。

すべての人に同じ検査を行うのではなく、診察所見と経過で選びます。頭部CTも、せん妄という理由だけで全例に必要になるわけではありません。2

5.せん妄への基本対応:薬を使わないケアを具体的に

環境調整は、薬が効くまで待つ間の対応という位置づけではありません。身体治療と並行して行う、せん妄ケアの重要な柱です。1,2,5

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対応具体的な工夫
安心できる声かけ正面から名乗り、ゆっくり短い文で、一度に一つのことを伝える
今いる場所を伝える時計・カレンダーを見やすく置き、「今日は○日、ここは○○です」と穏やかに説明する
昼夜の区別朝は自然光を取り入れ、日中は状態に応じて活動し、夜は照明・騒音・不要な中断を減らす
視力・聴力の支援普段の眼鏡、補聴器を使えるようにし、電池や装着状態も確認する
痛み・排泄への対応鎮痛、トイレ誘導、尿閉や便秘の評価を行い、不快感を減らす
水分・栄養・口腔ケア嚥下と全身状態を確認して必要量を確保する。心不全・腎不全では一律に水分を増やさない
安全な離床医療者・介助者と相談して、座る・立つ・歩く機会を確保する
不要な刺激を減らす不要な移室、処置、ライン類を見直し、落ち着いて過ごせる人・場所を確保する
家族・チームの共有普段の生活、安心する話題、症状が強い時間帯、対応後の変化を共有する

複数の危険因子に介入したElder Life Programの比較研究では、70歳以上の入院患者852人で、せん妄発症は介入群9.9%、通常ケア群15.0%でした。これは無作為化試験ではありませんが、睡眠・移動・感覚・水分などをまとめて整えるケアの重要性を示した研究です。発症予防の結果を、発症後のせん妄が必ず同じ程度改善する証拠と取り違えないことも大切です。5

幻覚を訴えたときは、恐怖に対応する

例えば「部屋に誰かがいる」と訴える場合、強く言い争ったり、幻覚の内容に同意したりする必要はありません。

「怖かったですね。私はここにいます。一緒に周りを確認しましょう」のように、本人の不安を受け止め、照明や物陰など誤認につながるものも確認します。周囲が大勢で取り囲むと刺激が強くなるため、対応する人を絞り、距離にも配慮します。1,2

身体拘束を安易な予防策にしない

身体拘束は恐怖・混乱・不動を強めることがあります。見守り、ベッド周囲の整備、排泄の支援、不要なラインの見直しを優先します。差し迫った危険への対応が必要な場合も、医療チームで必要性を繰り返し評価し、最小限・最短時間にすることが重要です。2

6.せん妄に薬を使うのはどんなとき?

薬で何を改善したいかを決める

薬を検討するのは、例えば強い幻覚・妄想によって本人が苦しんでいる、激しい興奮に伴って転倒や重要な治療器具の自己抜去などの重大な危険が切迫している、不可欠な治療を安全に行えず重大な不利益が生じる、といった場合です。原因への対応と安心させる働きかけを行い、それでも不十分なときに利益と危険性を比較します。転倒リスクがある、夜に起きている、点滴に触るといった理由だけで、予防的に鎮静薬を追加することは避けます。1,6

「眠った」「動かなくなった」だけで、せん妄が治ったとは判断できません。 興奮の程度、本人の苦痛、注意・会話の回復、呼吸や嚥下、日中の活動性を分けて確認します。

低活動型という理由で、鎮静薬や抗精神病薬を一律に追加することは勧められません。静かな患者さんにも苦痛はあり得るため、痛み・尿閉・息苦しさ・幻覚などを評価します。強い幻覚・妄想による苦痛が非薬物的対応で和らがない場合は、抗精神病薬による短期の症状緩和を個別に検討しますが、眠気や覚醒低下を強めないよう慎重に判断します。1

ガイドラインは「全員に抗精神病薬」ではない

NICEは、強い苦痛や本人・周囲への危険があり、声かけなどでの対応が無効または不適切な場合、短期間のハロペリドールを考慮するとしています。期間の目安は通常1週間以内ですが、1週間投与し続けるという意味ではなく、早く不要になれば終了を検討します。1

SCCMの2025年PADIS更新では、成人ICUのせん妄治療に抗精神病薬を通常ケアへ追加することについて、賛成・反対いずれの推奨も出せないとしています。エビデンスの確実性は低く、一律の効果を保証する内容ではありません。7

日本の承認適応と保険審査を区別する

ハロペリドール、リスペリドン、クエチアピンなどの「せん妄」への使用は、国内では承認適応外です。一方、器質的疾患に伴うせん妄などに対して、保険審査上の取扱いを示した公的事例があります。承認適応外であることと、必ず自費になることは同じではありません。 保険上の扱いが示されていても、効果や安全性が保証されるわけではありません。17,18,19,34

また、チアプリドには「脳梗塞後遺症に伴うせん妄」という限定された承認適応があります。「せん妄に用いる薬はすべて適応外」と一括りにするのも不正確です。22

7.抗精神病薬の種類と使い分け【医療者向け詳説】

抗精神病薬は主にドパミンD2受容体への作用などを通じて、幻覚・興奮といった症状の緩和を目指します。薬ごとにセロトニン、ヒスタミン、α1受容体などへの作用が異なり、眠気、血圧低下、錐体外路症状などの出方も変わります。受容体への作用だけから、せん妄の治療効果の優劣を決めることはできません。17,18,19,20,21,22

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一般名・主な商品名検討される場面・特徴特に確認する点
ハロペリドール(セレネース)強い興奮や幻覚への短期の症状緩和。経口・注射製剤があるQT延長、不整脈、錐体外路症状、嚥下障害。経口製剤・注射剤ともに重症心不全・パーキンソン病・レビー小体型認知症が禁忌
リスペリドン(リスパダール)経口投与が可能で、幻覚・妄想・興奮が問題となる場合に検討される錐体外路症状、嚥下障害、起立性低血圧、QT延長。腎機能低下で曝露増加。糖尿病は禁忌ではないが血糖悪化に注意
クエチアピン(セロクエル)錐体外路症状のリスクなどを踏まえて検討されることがある。鎮静が強く出る場合がある糖尿病またはその既往は禁忌。眠気、起立性低血圧、転倒、QT、CYP3A4相互作用
オランザピン(ジプレキサ)幻覚・興奮などへの症状緩和として検討されることがある血糖、眠気、起立性低血圧、抗コリン作用による尿閉・便秘。糖尿病の添付文書上の扱いは下記を参照
チアプリド(グラマリール)脳梗塞後遺症に伴うせん妄などに限定した承認適応あらゆるせん妄に承認されているわけではない。腎排泄、腎機能低下で蓄積、QT延長、徐脈、低Kに注意

上表は「上から順に使う」「この症状なら必ずこの薬」という処方表ではありません。まず、その患者に抗精神病薬が必要かを判断し、必要であれば禁忌・副作用・投与経路を踏まえて選択します。1,6,17,18,19,20,21,22,37

ハロペリドール:心不全・不整脈・嚥下を確認する

ハロペリドールは長く使われてきた薬ですが、使用経験の長さは安全性の保証にはなりません。日本のセレネースは、錠・細粒・内服液・注射剤のいずれも、重症心不全、パーキンソン病、レビー小体型認知症が禁忌です。注射剤では、特に静注時に心電図や呼吸状態などの監視が求められています。17,37

また、身体のこわばり、動作の鈍さ、アカシジア(じっとしていられない落ち着かなさ)などの錐体外路症状が出ることがあります。薬によるアカシジアを「せん妄の興奮が悪化した」と誤認し、さらに増量することを避けます。 嚥下障害が誤嚥につながる点も重要です。6

パーキンソン病・レビー小体型認知症:単純な置き換えをしない

これらの疾患では抗精神病薬に強く反応し、運動症状や意識状態が悪化することがあります。ハロペリドールを避ければ他剤が自動的に安全、ということではありません。リスペリドンにも重い注意があり、クエチアピンも無条件に安全な薬ではないため、神経内科・精神科などと連携して判断します。6,17,18,19

オランザピンと糖尿病:2026年の改訂を正確に読む

2026年8月改訂のジプレキサ錠の電子添文では、統合失調症・双極性障害に対する使用では、糖尿病またはその既往が禁忌です。一方、抗がん薬による悪心・嘔吐に対しては、血糖コントロールが良好であること、必要最小限の投与、毎日頻回の血糖測定、緊急対応体制などを条件に、糖尿病患者への使用が例外的に扱われるようになりました。

ただし、この制吐目的の例外は、せん妄への使用を認めたものではありません。 せん妄は承認適応外であり、糖尿病患者へのせん妄治療として安易に選択しないことが重要です。20

8.睡眠薬・トラゾドン・抑肝散はどう位置づける?

ラメルテオン:睡眠覚醒リズムへの働きかけ

ラメルテオン(ロゼレム)はメラトニン受容体に作用し、国内承認適応は「不眠症における入眠困難の改善」です。強い興奮をその場で抑える救済薬としての位置づけではありません。23

せん妄予防については、日本の67例の試験で良好な結果が得られましたが、整形外科手術患者を対象としたRECOVER試験などでは有意差が出ておらず、結果は一貫していません。「せん妄を確実に予防する薬」とは言えません。12,13

高度の肝機能障害やフルボキサミンとの併用は禁忌で、翌朝の眠気・注意力低下にも注意します。また、PADIS 2025のメラトニンに関する条件付き推奨を、そのままラメルテオンの推奨に置き換えることはできません。7,23

オレキシン受容体拮抗薬:不眠治療とせん妄治療を分ける

スボレキサント(ベルソムラ)、レンボレキサント(デエビゴ)、ダリドレキサント(クービビック)などは、覚醒に関わるオレキシンの働きを抑える不眠症治療薬です。せん妄の予防・治療を目的とした承認ではありません。24,25,35

2024年に公表された日本の高リスク入院高齢者203例の試験では、スボレキサント群のせん妄発症は16.8%、プラセボ群は26.5%でしたが、主要評価項目の差は統計学的に有意ではありませんでした(P=0.13)。予防効果が確立したとも、発症後のせん妄が治るとも言えず、この結果を同じ薬効群の別の薬にそのまま当てはめることもできません。11

翌朝の眠気、転倒、併用薬には注意が必要です。特に、スボレキサントとクラリスロマイシンなどには併用禁忌があり、ジルチアゼム・ベラパミルなどでは減量が検討されます。相互作用の区分は薬剤ごとに異なるため、「オレキシン系ならすべて同じ」と扱いません。24,25,35

トラゾドン:鎮静作用があっても、せん妄の標準治療ではない

トラゾドン(デジレル、レスリンなど)は抗うつ薬で、国内承認適応はうつ病・うつ状態です。鎮静作用を期待して不眠や夜間の落ち着かなさに使われることがありますが、不眠・せん妄への使用は承認適応外です。21

眠気、起立性低血圧、失神に加え、QT延長、Torsades de pointesなどの重い不整脈にも注意が必要です。セロトニン作用のある他剤との併用も確認します。「抗精神病薬ではないから、心臓病がある人にも安全」とは判断できません。21

抑肝散:甘草による低K・浮腫・心不全に注意

抑肝散は神経のたかぶりや不眠などに使われる漢方薬ですが、せん妄そのものに対する承認適応はなく、急性せん妄の原因評価や危険な興奮への対応に置き換えられる薬ではありません。27

甘草による偽アルドステロン症では、低カリウム血症、血圧上昇、体液貯留・浮腫が起こり、心不全につながることがあります。利尿薬を使用している方では、K、体重、血圧、むくみ、他の甘草を含む薬の重複を確認します。漢方薬でも副作用の評価は必要です。27

9.ベンゾジアゼピン・ICUの鎮静・終末期では考え方が変わる

ベンゾジアゼピン系:一般的なせん妄と離脱せん妄を区別する

一般的な身体疾患に伴うせん妄に、ベンゾジアゼピン系薬を「落ち着かないから」という理由で追加すると、混乱、過鎮静、呼吸抑制、転倒などが問題になることがあります。通常のせん妄に対する安易な第一選択にはしません。2,33

一方、アルコール離脱せん妄ではベンゾジアゼピン系薬が治療の中心になります。ベンゾジアゼピン離脱でも、服薬歴を踏まえた補充・漸減などが必要です。離脱ではけいれんや自律神経症状も評価し、重症例は監視できる環境で治療します。抗精神病薬だけで離脱の病態に対応しようとすることは適切ではありません。28,29

アルコール多飲や低栄養があればビタミンB1欠乏も評価し、必要なチアミン投与を行います。低血糖の緊急治療をチアミンの準備のために遅らせる必要はなく、ASAMはブドウ糖とチアミンを同時またはいずれの順でも投与できるとしています。28

デクスメデトミジン:監視下で使う鎮静薬

デクスメデトミジン(プレセデックス)はα2受容体に作用する鎮静薬です。人工呼吸管理などの状況で、浅い鎮静や興奮制御を目指して用いられます。SCCM 2025は、浅い鎮静やせん妄低減を特に重視する人工呼吸患者では、プロポフォールより優先することを条件付きで提案しています。7

2025年の4D試験は、非挿管の過活動型ICUせん妄151例を対象とし、主に興奮制御までの時間の短縮を示しました。ただし、せん妄持続期間や挿管について、それぞれ有意な改善を示したわけではありません。10

低血圧、徐脈、心停止、呼吸抑制などに対応できる監視体制が必要です。一般家庭で使う睡眠薬の延長として扱う薬ではありません。 国内の承認適応には「集中治療における人工呼吸中及び離脱後の鎮静」などがありますが、ICUにいる非挿管患者のせん妄全般に承認があることを意味しません。実際には患者の状況と投与目的を確認します。26

終末期のせん妄:回復の可能性と苦痛緩和の目標を話し合う

終末期でも、痛み、尿閉、便秘、薬の副作用など、改善できる原因を評価します。そのうえで、病状から回復が難しく、強い苦痛や興奮が続く場合には、本人の希望と療養の目標を踏まえて緩和を優先することがあります。

2017年のAgar試験では、主に軽〜中等度のせん妄がある緩和ケア患者に抗精神病薬を一律に追加することの問題が示されました。一方、持続する強い興奮を対象としたHuiらの2017年・2025年の試験では、ロラゼパムを用いた治療による興奮制御が示されています。対象患者と治療目標が違うため、単純な矛盾ではありません。14,15,16

可逆的原因への対応と通常の症状緩和を行っても、本人にとって耐え難い苦痛が続き、許容できる時間と負担の範囲では十分な緩和が難しい場合には、苦痛に応じて鎮静の深さを調整する「比例的鎮静」を検討します。目標は、必要最小限の鎮静で苦痛を和らげることです。せん妄が回復しにくいことだけでは、鎮静の適応は決まりません。38

会話や意思疎通への影響も含めて療養の希望を確認し、本人が意思を示せないときは、これまでの希望や家族から得た情報を踏まえて、緩和ケアに習熟したチームで判断します。研究で使用した注射薬の用量を、在宅高齢者への通常の処方量として転用しないことが重要です。15,16,38

10.主要研究から分かること、まだ分からないこと

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研究対象と結果臨床への読み方
MIND-USA、2018年ICUせん妄566例。ハロペリドール・ジプラシドンは、プラセボと比較して「せん妄・昏睡のない生存日数」を有意に増やさなかったせん妄全体へのルーチン投与を支持しない。危険な興奮の短期緩和への利益がすべて否定されたわけではない
AID-ICU、2022年1,000例を無作為化、最終解析987例。ハロペリドールは90日間の生存・院外日数を有意に増やさなかった主要評価項目は陰性。90日死亡の副次的な利益の所見だけから標準治療とは決められない
4D、2025年非挿管ICU患者151例。デクスメデトミジンの効果は、主に興奮持続の中央値2時間から1時間への短縮に表れたせん妄そのものの回復や生存改善を示したと解釈しない。早期中止試験という限界もある
スボレキサント第3相、2024年高リスク入院高齢者203例。発症16.8%対26.5%、主要評価P=0.13発症予防の有意差は未達。発症後の治療効果を示す試験でもない
Agarら、2017年緩和ケア247例。リスペリドン・ハロペリドールで、プラセボより主要症状スコアが悪化全例への機械的な追加に注意。予測余命7日以内は除外されており、死の直前の難治性興奮にそのまま当てはめない
Huiら・RECORD、2025年進行がんの持続興奮、主要解析72例。ロラゼパム群・併用群でハロペリドール群よりRASSが低下苦痛に応じた鎮静の研究。注意・認知機能が回復したという意味ではない

これらの研究は、患者の背景、病棟、投与経路、評価項目が異なります。薬が「せん妄に効くか」を一つの言葉で判断せず、発症予防、興奮の緩和、認知の回復、生活機能、生存を分けて読む必要があります。8,9,10,11,14,16

11.薬を始める前後の確認と、やめるタイミング

心電図・電解質・併用薬を確認する

抗精神病薬などを使用する際は、QTc、徐脈、低K・低Mg、心不全、腎・肝機能、他のQT延長薬を確認します。抗不整脈薬、抗菌薬、向精神薬などが重なる場合には、薬剤師とも相談して評価します。6,17,18,19,20,21,22

循環器診療では、心不全、利尿薬による電解質変化、低血圧、腎機能悪化が重なっていないかが特に重要です。脱水が疑われても、心不全・腎不全の方に一律の大量補液を行うことは適切ではなく、うっ血と循環状態を見て調整します。1,2,6

「効いたか」だけでなく、何ができなくなったかも見る

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再評価する項目確認する変化
治療の対象症状本人の恐怖・幻覚、危険な興奮が軽くなったか
注意・会話話を追えるか、周囲とのやり取りが戻っているか
過鎮静日中に起きられない、食事・リハビリができない状態になっていないか
呼吸・嚥下呼吸が弱い、むせる、飲み込みにくい、新たな肺炎徴候がないか
運動・循環こわばり、じっとしていられない、ふらつき、低血圧、徐脈がないか
新しい副作用発熱と筋強剛、意識悪化、失神、著しい血糖変化などがないか

投与量は、年齢、フレイル、腎・肝機能、心電図、併用薬などを踏まえて個別に決め、最小有効量・最短期間を目指します。他疾患の常用量を、そのまま高齢者のせん妄へ当てはめることはできません。内服が難しい場合は、嚥下・意識状態と監視の必要性も再評価します。6,17,18,19,20,21,22,23

開始時から「何を目標にするか」「いつ再評価するか」「どうなれば減量・中止するか」を決めます。救急・集中治療などで監視下に必要な処置を行う場合を除き、複数の鎮静薬を短時間で重ねることを避け、作用の出方と副作用を確認します。1,6

高齢の認知症患者を対象とした試験では、抗精神病薬使用時の死亡や脳血管障害の増加も報告されています。ただし、急性せん妄への短期投与に同じ危険度をそのまま当てはめることはできません。必要性を厳しく判断し、漫然と続けない理由の一つとして理解します。20

急性期だけに開始した薬が、そのまま退院処方や施設での定期薬として続くことがあります。せん妄が落ち着いたら継続理由を見直し、処方意図と中止計画を引き継ぎます。 以前から治療目的で服用していた薬や、依存・離脱の可能性がある薬は別に評価します。1,6,29

12.在宅・施設で家族ができることと、回復後の支援

在宅で急な変化が起きたら、原因確認のための医療連絡を優先します。「環境が変わっただけ」「認知症が進んだだけ」と判断して、睡眠薬の追加だけで数日様子を見ることは避けてください。2,32

医師や訪問看護師には、次の情報を伝えると評価に役立ちます。

  • 最後に普段どおりだった日時と、変化に気づいた日時。
  • 具体的な発言・行動と、その時間帯。
  • 発熱、息苦しさ、痛み、転倒・頭部打撲の有無。
  • 食事、水分、排尿、排便、睡眠の変化。
  • 定期薬、頓服、市販薬の服用と、最近の変更・中断。

せん妄は改善する可能性がありますが、数日で元に戻る方もいれば、回復が長引く方もいます。原因が改善しても変化が続く場合には、持続するせん妄、薬の影響、認知症などを再評価します。本人が体験した恐怖や、ご家族の疲労への支援も大切です。1,2,32

姫路市で、ご家族の変化や在宅療養について相談したい方へ

えぷろんクリニックでは、内科・循環器内科・呼吸器内科の診療を行い、診察、必要に応じた採血・心電図などで全身状態を評価し、病状に応じて専門医療機関と連携します。通院が難しい方の訪問診療についても相談できます。30,31

新たな急な混乱や意識・反応の変化は、通常の予約を待たず、直ちに医療機関へ連絡してください。意識低下、片麻痺、強い呼吸困難、けいれんなどがあれば119番を含む救急対応を優先します。36

姫路市でご家族の体調や服薬の見直し、せん妄の回復後の生活、在宅療養についてお困りの方は、えぷろんクリニックへご相談ください。症状と経過を確認し、必要な検査や専門医療機関との連携を検討します。

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13.せん妄についてよくある質問

Q1.認知症がなくても、せん妄になりますか?

はい。感染症、手術、低酸素、薬の影響などによって、認知症のない方にも起こります。普段との急な違いを確認することが重要です。1,2

Q2.夜だけ落ち着かない場合も、せん妄ですか?

可能性はありますが、夜間の不眠や興奮だけでは診断できません。注意の障害、日内変動、身体の病気や薬の影響を評価します。1,3

Q3.睡眠薬を増やせば改善しますか?

必ずしも改善しません。薬によっては混乱・転倒・呼吸抑制が問題になり、原因の発見が遅れることもあります。自己判断で追加せず、処方医へ相談してください。2,6,33

Q4.抗精神病薬を使うと、せん妄が早く治りますか?

せん妄全体の経過を一律に短くする効果は確立していません。強い苦痛や危険な興奮の緩和を目的に、患者さんの状態に合わせて短期間使うことがあります。1,7,8,9

Q5.姫路市で、急に混乱した家族をどこへ相談すればよいですか?

新たな急な混乱は、気づいた時点で直ちに、かかりつけ医や医療機関へ連絡してください。夜間も翌朝まで自己判断で待たず、受診先と緊急性を確認します。意識低下、片麻痺、強い呼吸困難、けいれんなどがあれば119番を含む救急対応が必要です。訪問診療を利用中の方は、あらかじめ案内された連絡先へ速やかに状況を伝えてください。2,36

参考文献・ガイドライン・国内電子添文(38件)

2026年10月17日に内容を確認。国内の承認適応・禁忌は、本文に示した製剤の電子添文に基づきます。電子添文は改訂されるため、実際の診療では使用製剤の最新版を確認してください。

  1. NICE. Delirium: prevention, diagnosis and management in hospital and long-term care(CG103、診断部分2023年更新)
  2. SIGN 157. Risk reduction and management of delirium/Scottish Delirium Association care pathway
  3. 4AT. Clinical user guide:評価法とスコアの解釈
  4. IDSA. Clinical Practice Guideline for the Management of Asymptomatic Bacteriuria(2019)
  5. Inouye SK, et al. A Multicomponent Intervention to Prevent Delirium in Hospitalized Older Patients. N Engl J Med. 1999.
  6. MHRA. Haloperidol:高齢者の急性せん妄治療時の安全性(2021)
  7. SCCM. A Focused Update to the PADIS Guidelines for Adult Patients(2025)
  8. Girard TD, et al. Haloperidol and Ziprasidone for Treatment of Delirium in Critical Illness. N Engl J Med. 2018.(MIND-USA)
  9. Andersen-Ranberg NC, et al. Haloperidol for the Treatment of Delirium in ICU Patients. N Engl J Med. 2022.(AID-ICU)
  10. Dexmedetomidine for treatment of hyperactive delirium in non-intubated ICU patients: the 4D randomized clinical trial. Intensive Care Med. 2025.
  11. Suvorexant for Reduction of Delirium in Older Adults After Hospitalization: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024.
  12. Hatta K, et al. Preventive Effects of Ramelteon on Delirium: A Randomized Placebo-Controlled Trial. JAMA Psychiatry. 2014.
  13. Effects of Ramelteon on the Prevention of Postoperative Delirium in Older Patients Undergoing Orthopedic Surgery: The RECOVER Randomized Controlled Trial.
  14. Agar MR, et al. Efficacy of Oral Risperidone, Haloperidol, or Placebo for Symptoms of Delirium Among Patients in Palliative Care. JAMA Intern Med. 2017.
  15. Hui D, et al. Effect of Lorazepam With Haloperidol vs Haloperidol Alone on Agitated Delirium in Patients With Advanced Cancer Receiving Palliative Care. JAMA. 2017.
  16. Hui D, et al. Proportional Sedation for Persistent Agitated Delirium in Palliative Care: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol. 2025.(RECORD)
  17. PMDA. セレネース注5mg 電子添文
  18. PMDA. リスパダール錠・細粒 電子添文
  19. PMDA. セロクエル錠・細粒 電子添文
  20. PMDA. ジプレキサ錠 電子添文(2026年8月改訂)
  21. PMDA. デジレル錠 電子添文
  22. PMDA. グラマリール錠・細粒 電子添文
  23. PMDA. ロゼレム錠 電子添文
  24. PMDA. ベルソムラ錠 電子添文
  25. PMDA. デエビゴ錠 電子添文
  26. PMDA. プレセデックス静注液・シリンジ 電子添文
  27. PMDA. ツムラ抑肝散エキス顆粒 電子添文
  28. ASAM. The Clinical Practice Guideline on Alcohol Withdrawal Management(2020)
  29. ASAMほか. Joint Clinical Practice Guideline on Benzodiazepine Tapering(2025)
  30. えぷろんクリニック公式HP:内科の診療案内
  31. えぷろんクリニック公式HP:訪問診療・在宅医療
  32. 日本精神神経学会. 和田健先生に「せん妄」を訊く
  33. PMDA. ワイパックス錠 電子添文
  34. 公的審査情報提供事例:ハロペリドール(166)
  35. PMDA. クービビック錠 電子添文(2026年10月改訂)
  36. NHS. Sudden confusion(delirium):突然の混乱への対応
  37. PMDA. セレネース錠・細粒 電子添文(2026年7月改訂)
  38. Surges SM, et al. Revised European Association for Palliative Care(EAPC)recommended framework on palliative sedation. Palliat Med. 2024.