えぷろんクリニックからだの話と日常

糖尿病と薬のはなし

糖尿病の薬の種類と使い分け

飲み薬・注射薬から、心不全・腎臓病・肥満がある場合の選び方まで

姫路市の内科・循環器内科資料確認:

「糖尿病の薬が増えたのは、病気が悪くなったからでしょうか」「同じ糖尿病なのに、家族とは違う薬が処方されています」「飲み薬と週1回の注射は、どう違うのでしょうか」。薬の名前や種類が増えると、自分の治療がどのような目的で選ばれているのか分かりにくくなることがあります。

糖尿病の薬を選ぶときに見るのは、血糖値やHbA1cだけではありません。インスリンがどれくらい作られているか、体重、心不全や腎臓病の有無、低血糖の危険、食事や仕事の時間、治療を続けられる費用と負担まで含めて考えます。同じHbA1cでも、適した薬が違うことには理由があります。1

この記事では、主に成人の2型糖尿病を対象に、代表的な飲み薬・注射薬と、病態に応じた使い分けを説明します。1型糖尿病などでインスリンが不可欠な場合、妊娠中、小児の治療には別の判断が必要です。2

先に押さえたい4つのポイント

  • 糖尿病薬には、インスリンの分泌を助ける薬、効きを改善する薬、糖の吸収や排泄に働く薬があります。
  • 心不全・慢性腎臓病がある場合は、血糖を下げる効果に加えて、臓器への効果が確認された薬を検討します。
  • 体重が減る薬も、食事量が少ない方や筋力が落ちた方には負担になることがあります。
  • 飲み合わせ、低血糖、食事がとれない日の対応まで含めて、自分に合った治療を選びます。

1.糖尿病の薬は、何を改善するために使うのでしょうか

インスリンの「量」と「効き方」は別の問題です

インスリンは、膵臓のβ細胞から分泌され、血液中の糖を筋肉などで利用しやすくしたり、肝臓から余分な糖が放出されるのを抑えたりするホルモンです。2型糖尿病では、インスリンを十分に分泌できない分泌低下と、インスリンが効きにくいインスリン抵抗性が、さまざまな割合で重なります。

日本人の2型糖尿病では、強い肥満がなくても分泌低下が目立つことがあります。一方、やせているから抵抗性がない、太っているから分泌は十分、とは限りません。体格や経過を確認し、必要に応じてCペプチドなどを測定して、薬が働く余地を考えます。1

血糖を整える目的と、心臓・腎臓への効果を考える目的

高血糖を改善することは、糖尿病網膜症、腎症、神経障害などの予防・進行抑制に重要です。一般的な合併症予防の目安はHbA1c 7.0%未満ですが、年齢、低血糖の危険、認知機能、生活動作、併存疾患などに応じて個別に目標を決めます。3

さらに現在は、心不全や慢性腎臓病(CKD)、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)がある患者さんでは、将来の入院や心血管イベント、腎機能悪化を減らす効果も薬剤選択に反映します。ただし、その効果は薬剤・対象患者・評価した病気ごとに確認されたものです。HbA1cがよく下がる薬ほど、どの臓器にも優れた効果があるわけではありません。4

2.糖尿病の薬の種類を一覧で比較

以下は国内で使われる主な分類と代表例です。商品名は一部のみを示しています。低血糖・体重への影響は一般的な傾向であり、用量、併用薬、腎機能、食事量などによって変わります。5

糖尿病薬の分類と特徴
分類代表的な一般名・商品名主な働き・特徴単独使用時の低血糖体重への傾向
ビグアナイド薬メトホルミン(メトグルコなど)肝臓からの糖放出を抑え、インスリンの効きを改善起こしにくいおおむね不変〜減少
DPP-4阻害薬シタグリプチン(ジャヌビア)、リナグリプチン(トラゼンタ)など体内のインクレチンを分解されにくくする起こしにくいおおむね不変
SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(フォシーガ)、エンパグリフロジン(ジャディアンス)など尿への糖排泄を増やす。一部は心不全・CKDにも使用起こしにくい減少することがある
GLP-1受容体作動薬セマグルチド(リベルサス/オゼンピック)、デュラグルチド(トルリシティ)など血糖に応じたインスリン分泌、食欲などに働く起こしにくい減少することがある
GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(マンジャロ)2種類の受容体に作用し、血糖・体重を改善起こしにくい減少することがある
SU薬グリメピリド(アマリール)、グリクラジド(グリミクロン)など膵臓からのインスリン分泌を促す起こりやすい増加することがある
グリニド薬ミチグリニド(グルファスト)、レパグリニドなど短時間の分泌促進で食後高血糖に対応起こることがある増加することがある
α-グルコシダーゼ阻害薬ボグリボース(ベイスン)、ミグリトール(セイブル)など糖質の分解を遅らせ、食後の上昇を緩やかにする起こしにくいおおむね不変
チアゾリジン薬ピオグリタゾン(アクトスなど)インスリン抵抗性を改善起こしにくい増加・むくみに注意
イメグリミンイメグリミン(ツイミーグ)分泌促進と抵抗性改善の両面に作用起こしにくいおおむね不変
インスリン製剤インスリン アスパルト、グラルギン、デグルデク、イコデクなど足りないインスリンを体外から補う起こることがある増加することがある

「起こしにくい」は「起こらない」という意味ではありません。 特にSU薬、グリニド薬、インスリンを組み合わせるときは、低血糖を避けるための調整が必要です。5,6

3.それぞれの糖尿病薬の働きと使いどころ

① メトホルミン:肝臓からの糖放出を抑える基本的な選択肢

メトホルミンは、肝臓での糖の産生を抑え、インスリンが働きやすい状態にする薬です。単独では低血糖を起こしにくく、体重が増えにくいことが特徴です。肥満やインスリン抵抗性がある場合によく検討されますが、非肥満の2型糖尿病でも選択肢になります。5

開始時や増量時には、下痢、吐き気、腹部の不快感などが出ることがあり、少量から調整します。長期使用ではビタミンB12低下にも注意が必要です。貧血やしびれがある場合、糖尿病だけが原因と決めつけず評価します。7,33

安全面で重要なのは、薬の蓄積や乳酸の増加につながる状態を避けることです。eGFR 30未満・透析中、重い肝障害、低酸素を伴いやすい高度の心肺機能障害、脱水などでは使用できません。 心不全については、国内添付文書の禁忌条件に沿って状態を判断します。心不全患者に一律に使えると考えるのは適切ではありません。7,8

② DPP-4阻害薬:体内のインクレチンを長持ちさせる

食事をすると、腸からGIPやGLP-1という「インクレチン」が分泌されます。これらは血糖に応じて膵臓の働きを助けます。DPP-4阻害薬は、インクレチンを分解する酵素を抑えて、その作用を保つ薬です。5

体重への影響が比較的小さく、単独での低血糖が少ないため、体重を落としたくない方や低血糖を避けたい方でも検討できます。ただし、分泌能が著しく低下した状態を十分に補えるとは限りません。

同じ分類でも、腎機能に応じた用量調節は異なります。例えば、リナグリプチンは腎機能による用量調節を要しない選択肢ですが、他の多くのDPP-4阻害薬では調節が必要です。水ぶくれを伴う皮膚病変である類天疱瘡や、急性膵炎などにも注意します。9

心血管安全性が確認されたことと、心不全や腎臓病の進行を積極的に抑える効果が証明されたことは区別します。サキサグリプチンでは心不全入院増加が報告されており、クラス内の違いも考慮します。5

③ SGLT2阻害薬:尿から糖を出し、一部は心不全・腎臓病にも用いる

腎臓は血液をろ過した後、ブドウ糖の多くを再び血液に戻しています。SGLT2阻害薬は、その再吸収を抑えて尿からの糖排泄を増やします。インスリン分泌を直接増やす薬ではなく、体重が減少することもあります。10

フォシーガやジャディアンスの一部製剤には、糖尿病に加えて慢性心不全・慢性腎臓病の適応があります。心不全やCKDがある場合は、HbA1cが目標に近くても、病気の経過を改善する目的で検討することがあります。 同じSGLT2阻害薬でも適応は共通ではなく、処方目的に合った薬剤・用量を選びます。10,11

注意点は、脱水、性器感染・尿路感染、ケトアシドーシスです。とくに食事がとれない日、極端な糖質制限、インスリンの中断・過度の減量には注意が必要です。血糖値があまり高くなくてもケトアシドーシスを起こすことがあるため、強い倦怠感、吐き気、腹痛、息苦しさを「血糖が高くないから大丈夫」と判断しないでください。12

④ GLP-1受容体作動薬:血糖と食欲の両方に働く

GLP-1受容体作動薬は、受容体を薬で直接刺激し、血糖に応じたインスリン分泌を促します。グルカゴン分泌、胃から腸への内容物の移動、食欲などにも作用します。血糖改善と体重管理を両立したい2型糖尿病で検討されます。5,6

代表例は、セマグルチドのリベルサス(飲み薬)・オゼンピック(週1回注射)、デュラグルチドのトルリシティ(週1回注射)です。注射薬でもインスリンとは作用が異なります。

リベルサスは、飲み方が効果に影響します。その日最初の食事・飲水の前に空腹で、約120mL以下の水とともに服用し、少なくとも30分は飲食や他の内服薬を避けます。 錠剤を割る、砕く、かみ砕くことも避けます。朝の生活や他の薬との調整まで考えて選びます。13

吐き気、便秘、下痢、食欲低下が出ることがあり、栄養状態を見ながら調整します。高血糖を急速に改善すると網膜症が一時的に悪化する場合もあるため、眼科での評価も継続します。持続する強い腹痛や繰り返す嘔吐は、よくある胃腸症状として放置せず医療機関に連絡してください。6,13

⑤ チルゼパチド:GIPとGLP-1の2つの受容体に作用

マンジャロの成分であるチルゼパチドは、GIP/GLP-1受容体作動薬です。2種類の受容体に働く週1回の注射で、2型糖尿病の血糖改善に用います。血糖低下と体重減少を期待できる一方、食事がとれなくなるほどの食欲低下や嘔吐、脱水には注意します。14

とくに、もともとやせている方や高齢で筋肉量が少ない方では、体重が落ちることが不利益になる場合があります。添付文書ではBMI 23未満の患者で有効性・安全性が検討されていないことにも言及しており、体重・食事量・筋力を含めて判断します。14

同じ成分を含んでいても、マンジャロとゼップバウンド、オゼンピック/リベルサスとウゴービでは、承認された対象や用量・使用条件が異なります。糖尿病治療用の製剤を、自己判断で美容目的に使ったり、別製品へ置き換えたりすることはできません。 本記事は糖尿病治療における使い分けの解説です。13,14,15

GLP-1受容体作動薬やチルゼパチドは、インスリンが著しく不足している方にとって、インスリンの代わりにはなりません。 変更を検討する際は体内のインスリン分泌を確認します。週1回の注射を始めたからといって、現在のインスリンを自己判断で中止しないでください。6,14

⑥ SU薬:インスリン分泌をしっかり促すが、低血糖に注意

SU薬は、膵β細胞のATP感受性カリウムチャネルを介してインスリン分泌を促します。血糖を下げる力があり、残っている分泌能を利用したい場合の選択肢です。代表例はグリメピリド、グリクラジドです。30

インクレチン関連薬と比べ、血糖が低いときにも作用が続きやすく、食事を抜いたとき、高齢者、腎機能が低下している方では低血糖に特に注意します。グリメピリドなどは重篤な腎機能障害では使用できません。体重増加も起こり得ます。新しい薬を追加した際には、SU薬を減らすことで安全性を高められる場合があります。30,6

「古い薬なので使わない」と決めるのでも、「よく効くから増量を続ける」と考えるのでもなく、効果・低血糖・費用を比べて位置づけます。

⑦ グリニド薬:食後の上昇に合わせて短時間働く

グリニド薬は、インスリン分泌を速やかに促し、主に食後高血糖を抑えます。ミチグリニド、レパグリニドなどがあり、基本的に食直前に服用します。食後に飲む薬との違いを理解することが大切です。31

作用が短くても低血糖は起こり得ます。食事をとらないときの扱いは事前に確認しておきます。腎機能による注意点は薬剤ごとに異なり、作用が重複するSU薬とは併用しません。31,5

⑧ α-グルコシダーゼ阻害薬:糖質の吸収を緩やかにする

ボグリボース、ミグリトールなどは、小腸で糖質を分解する酵素を抑え、糖が吸収される速度を緩やかにします。食後の血糖上昇を抑える薬で、基本的に食直前に服用します。食べた糖質をなかったことにする薬ではありません。32

腹部の張り、放屁、下痢などが起こり得るため、消化器症状や腹部手術・腸閉塞の既往も確認します。他の薬との併用で低血糖が起きた場合は、砂糖の分解も遅れるため、砂糖ではなくブドウ糖で対処することが重要です。32

⑨ ピオグリタゾン:抵抗性を改善するが、むくみ・心不全に注意

ピオグリタゾンは、PPARγという受容体を介して、脂肪組織などでインスリンの効き方を改善する薬です。インスリン抵抗性が目立つ場合に検討されます。16

一方、体液がたまりやすくなり、体重増加やむくみ、心不全の悪化を起こすことがあります。心不全がある方だけでなく、心不全の既往がある方にも禁忌です。 骨折リスクにも注意し、重篤な腎機能障害などの禁忌条件も確認します。糖尿病とむくみを同時に診る際には、とくに見落とせない薬です。16

⑩ イメグリミン:分泌促進と抵抗性改善の両面に働く

ツイミーグの成分であるイメグリミンは、血糖に応じたインスリン分泌促進と、インスリン抵抗性改善の作用を持ちます。ミトコンドリアを介した作用が想定されていますが、膵臓そのものを元どおりにする薬と説明するのは正確ではありません。17

メトホルミンとの併用では消化器症状が増えることがあり、重い食欲低下・嘔吐から脱水に至ることにも注意します。腎機能による用量条件は改訂されているため、古い一覧表ではなく現行の添付文書を確認します。腎機能が低い方に調整して使用できることと、腎臓を保護する効果が証明されていることは別です。17

⑪ インスリン:必要な分泌量を体外から補う

インスリンは、体内で十分に作れない量を補う治療です。1型糖尿病などのインスリン依存状態に不可欠で、2型糖尿病でも著しい高血糖、体重減少、重症感染症、手術などで必要になる場合があります。高血糖自体が分泌や作用を悪化させる「糖毒性」を解除するため、一時的に用いることもあります。2

インスリンの種類と役割
インスリンの役割・種類主な使い方の考え方
超速効型・速効型食事に伴う追加分泌を補い、食後高血糖に対応する
持効型溶解・中間型食事と関係なく必要な基礎分泌を補い、空腹時や夜間の血糖を整える
混合型・配合溶解基礎分と食事分をまとめる。注射回数と、食事時間・量の安定性を考える
基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬の配合製剤作用の違いを組み合わせる。各成分を独立して調節できない点に注意する
週1回持効型のインスリン イコデク(アウィクリ)基礎分泌を週1回の注射で補う。食事用インスリンが不要になるとは限らない

インスリンの導入は、患者さんの努力不足を意味しません。必要量は病型・分泌能・体調により変わります。低血糖、体重増加、注射部位の硬結を防ぐため、血糖測定や注射手技の確認を一緒に行います。2

週1回のインスリンは、週1回のGLP-1関連薬とは別の薬です。 投与間隔が長いため、低血糖が長引く場合があります。2026年改訂の日本糖尿病学会・日本老年医学会のRecommendationでも、投与間違いへの注意、血糖モニタリング、家族・訪問看護との連携が重視されています。毎日投与のインスリンと取り違えないことが重要です。18,19

4.心不全・腎臓病・肥満がある場合の使い分け

心不全がある場合:SGLT2阻害薬を中心に、体液量と低血糖を確認

心不全を合併した2型糖尿病では、適応のあるSGLT2阻害薬が重要な候補です。血糖改善に加え、心不全の臨床経過を改善する効果を踏まえて選びます。心不全治療の一部として用いるので、血圧、腎機能、利尿薬、脱水の有無を合わせて評価します。4,10,11

ピオグリタゾンは心不全・心不全既往で使用できません。メトホルミンも国内添付文書の心肺機能・低酸素に関する禁忌条件を確認します。糖尿病薬の選択によって、心不全を悪化させないことが先に必要です。7,16

肥満を伴うHFpEF(左室駆出率が保たれた心不全)では、チルゼパチドの有効性を検討したSUMMIT試験があります。ただし、対象はBMI 30以上、左室駆出率50%以上の心不全患者です。HFrEF(左室駆出率が低下した心不全)や、試験と異なる体格・病態にそのまま結果を広げることはできません。GLP-1関連薬は心不全全般の標準治療に置き換わるものではありません。4,22

慢性腎臓病がある場合:eGFRと尿アルブミンを一緒に見る

腎臓病では、血液検査のeGFRに加えて、尿に漏れるアルブミンも重要です。腎機能の低下により薬や代謝物が体にたまりやすくなる薬もあれば、腎機能による用量調節を要しない薬もあります。安全に使うための調整と、腎機能悪化を抑える目的での薬剤選択を分けて考えます。4,7,9

SGLT2阻害薬は、腎機能が低下すると血糖を下げる力が弱まりますが、それだけで心臓・腎臓を目的とした使用の意味がなくなるわけではありません。開始と継続の条件も、薬剤・適応・腎機能により異なります。透析中や末期腎不全を含め、どこまで低下しても使えるという意味ではありません。10,11

以下は、腎機能で扱いが変わる代表例です。eGFRの単位はmL/min/1.73m²です。患者さんが自分で用量を変更するための表ではなく、診察で確認するための目安です。

腎機能による薬の選択
薬腎機能に応じた考え方
メトホルミンeGFR 30未満・透析中は禁忌。30以上60未満では腎機能に応じて用量上限や使用の適否を調整する
DPP-4阻害薬多くは用量調節が必要。リナグリプチンなど、調節を要しない薬もある
イメグリミン現行添文ではeGFR 15以上45未満は1回500mg・1日2回。10以上15未満は有益性が危険性を上回る場合のみ1回500mg・1日1回。10未満・透析中は推奨されない
SU薬グリメピリドなどは重篤な腎機能障害では禁忌。軽度〜中等度の低下でも低血糖に注意して選択・調整する
インスリン腎機能低下により必要量が変わり、低血糖の危険が高まることがある。必要な場合は重度の腎障害でも、血糖を確認しながら使用する

イメグリミンの上記条件は2026年1月改訂の添付文書で確認しています。「eGFR 45未満では一律に推奨されない」という古い条件とは異なります。7,9,17,30

心筋梗塞・脳梗塞などの既往がある場合

動脈硬化性心血管疾患がある2型糖尿病では、その患者群で心血管アウトカムを検討したGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬などを考慮します。薬剤間の比較では、体重やHbA1cの改善と、心筋梗塞・脳卒中などを減らした結果を分けて読みます。4

血糖だけが目標に入っていても、血圧・LDLコレステロール・喫煙などの管理は必要です。糖尿病薬は、それらの治療を置き換えるものではありません。4

肥満・インスリン抵抗性が目立つ場合

メトホルミン、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チルゼパチドなどが、病態と安全性に応じた候補です。体重の変化だけでなく、食事の質、筋肉量、体調、治療を続ける負担まで確認します。1,5

体重が減っていても、食事がほとんどとれず、筋力が落ち、脱水があるなら調整が必要です。高齢の方には、栄養を保つ視点がとくに重要です。20

高齢者・やせ型・フレイルがある場合

優先するのは、低血糖、転倒、低栄養、脱水、複雑な服薬による間違いを減らすことです。年齢だけで薬を決めず、認知機能、生活動作、食事量、腎機能、家族の支援まで確認します。体重への影響が小さいDPP-4阻害薬などが候補になる一方、インスリン不足が強ければ、支援体制を整えてインスリンを使用します。20

HbA1cが低いほどよいとは限りません。低血糖を繰り返す場合は、薬を減らす、目標を調整することも治療の一部です。20

空腹時血糖と食後血糖のどちらが高いか

食後高血糖が中心なら、食事内容・時間を確認し、α-グルコシダーゼ阻害薬、グリニド薬、インクレチン関連薬、必要に応じて食事用インスリンなどを検討します。空腹時高血糖では、肝臓からの糖放出や基礎インスリン不足も考えます。2,5

空腹時血糖がすでに低めなのにHbA1cが高い場合、基礎インスリンだけを増やすと夜間低血糖につながることがあります。血糖自己測定やCGMを用いて、どの時間帯が課題かを確認します。CGMについては、当院の糖尿病薬と持続血糖測定器の解説もご参照ください。2,3

5.最近の研究で、何が分かってきたのでしょうか

心臓や腎臓への効果を理解するときは、「どの薬を、どの患者さんに、何と比べたか」が大切です。以下は代表的な研究です。別々の試験の数字を並べて、薬の強さを順位づけすることはできません。

代表的な臨床試験
試験対象・比較主な結果と読み方
FLOW(2024)アルブミン尿を伴う2型糖尿病+CKD。週1回注射セマグルチド1.0mg対プラセボ腎不全、持続的なeGFR 50%以上低下、腎・心血管死の複合評価項目が減少。HR 0.76、95%CI 0.66–0.88。すべてのGLP-1薬や非糖尿病CKDに同じ結果を広げない。21
SOUL(2025)ASCVDまたはCKDを伴う高リスク2型糖尿病。経口セマグルチド対プラセボ心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中の複合が減少。HR 0.86、95%CI 0.77–0.96。経口製剤にも心血管エビデンスがある。23
SURPASS-CVOT(2025)ASCVD既往の2型糖尿病。チルゼパチド対デュラグルチド週1回1.5mg心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合について非劣性を確認。HR 0.92、95.3%CI 0.83–1.01。優越性は示されておらず、「より心血管イベントを減らした」とは結論しない。24
SUMMIT(2024年オンライン公表)BMI 30以上、左室駆出率50%以上のHFpEF。チルゼパチド対プラセボ心血管死または心不全増悪の複合が減少。HR 0.62、95%CI 0.41–0.95。主に心不全増悪の差であり、心血管死亡単独の低下やHFrEFへの有効性を意味しない。22

HRはハザード比、CIは信頼区間です。HR 0.76は観察期間中のイベント発生ハザードの相対比較であり、100人中24人の発症を防げるという意味ではありません。利益の大きさを個人に当てはめるには、元のリスクや治療期間も考えます。

6.糖尿病の薬を組み合わせる理由と、避ける組み合わせ

2型糖尿病では複数の仕組みが重なるため、作用の異なる薬を組み合わせることがあります。1つの薬だけを増やすより、異なる作用を補い合う方が目的に合う場合があります。5

作用の異なる薬の組み合わせ
組み合わせの例考え方
メトホルミン+SGLT2阻害薬肝臓の糖産生と、腎臓での糖再吸収という異なる経路に働く
DPP-4阻害薬+メトホルミン/SGLT2阻害薬インクレチン作用に、異なる作用を組み合わせる
GLP-1受容体作動薬+SGLT2阻害薬血糖、体重、併存疾患を考えて検討。全員に必要ではなく、心血管保護効果が単純に足し算になるとは限らない
基礎インスリン+GLP-1受容体作動薬基礎分泌の補充と、食後血糖・食欲への作用を組み合わせる

一方、DPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬、またはチルゼパチドの併用は、追加の血糖改善効果が乏しく推奨されません。 これは「併用禁忌」という意味ではなく、重ねる合理性が乏しいという位置づけです。25

SU薬とグリニド薬は作用が重複するため併用しません。複数成分の配合錠は錠数を減らせますが、成分ごとの増減やシックデイの扱いを確認する必要があります。5

薬の数だけで重症度は決まりません。血糖だけでなく心不全・腎臓病を考えて薬が追加されることもあります。治療開始・変更後はおよそ3か月を目安に効果を再評価しますが、強い高血糖症状や副作用があれば、それより早く見直します。1,5

7.低血糖と、食事がとれない日の対応

低血糖が疑われたら、すぐに対応

冷や汗、手の震え、動悸、強い空腹感、頭がぼんやりする、いつもと違う言動などは低血糖のサインです。症状が出にくい方もいます。血糖値70mg/dL未満は、症状がなくても対応が必要な目安です。26

  • 意識がはっきりして飲み込める場合:ブドウ糖10g程度をとり、約15分後に血糖・症状を再確認します。血糖が低いまま、または症状が続く場合は同程度のブドウ糖を追加します。改善しない、繰り返す場合は医療機関に連絡してください。
  • α-グルコシダーゼ阻害薬を服用中の場合:砂糖ではなくブドウ糖を使います。
  • 意識がおかしい、けいれんする、飲み込めない場合:口から飲食物を与えず、119番へ連絡してください。処方され、使い方を教わっているグルカゴン製剤があれば、指導どおりに使用します。

一度回復しても再び下がることがあります。低血糖を繰り返す場合は、薬の種類・量・食事・腎機能を見直す必要があります。26

シックデイは、薬ごとに対応が異なります

発熱、下痢、嘔吐などで食事や水分が十分にとれない日を「シックデイ」と呼びます。食べていないから血糖が必ず下がるわけではなく、感染症などの影響で高血糖になる場合もあります。27

シックデイの対応
薬・状況シックデイでの基本的な考え方
SGLT2阻害薬・メトホルミン発熱・嘔吐・下痢、十分な食事がとれない状態などでは一時休薬し、医療機関に連絡する。再開は体調・摂取量を確認して判断する
SU薬・グリニド薬食事量低下で低血糖が起きやすいため、減量・休薬を個別に判断する
α-グルコシダーゼ阻害薬食事がとれない場合や消化器症状が強い場合は、休薬について確認する
GLP-1関連薬食事・水分がとれない、嘔吐が続く場合は当日中に連絡し、休薬や次回投与を個別に判断する。次の投与日まで待たない
イメグリミン摂取不良・脱水が懸念されるシックデイでは、休薬して連絡する対応を事前に確認しておく。学会指針では中止が望ましいとされる
インスリン基礎インスリンを自己判断で中断しない。 とくにインスリン分泌が少ない方ではケトアシドーシスの危険がある。食事用インスリンの調整は血糖・食事量に応じて指示を受ける

普段から「どの薬を休むか」「いつ連絡するか」「どう再開するか」を書面で確認しておくと役立ちます。水分制限がある心不全・腎臓病の方は、飲水量についても個別の指示を受けてください。手術、麻酔、内視鏡、造影検査の予定がある場合も、お薬手帳を提示して休薬の要否を確認します。7,12,13,27,28

8.糖尿病の治療中に受診をすすめる症状

119番や救急受診を考える症状

  • 意識がはっきりしない、けいれん、呼びかけへの反応がおかしい。
  • 強い息苦しさ、持続する強い胸痛がある。
  • 飲み込めないほどの低血糖症状や、急激な状態の悪化がある。

当日、速やかに医療機関へ連絡・受診したい症状

  • 嘔吐・下痢が続き、水分を保てない。
  • 強い口渇、多尿、急な体重減少など、高血糖を疑う変化がある。
  • SGLT2阻害薬の使用中に、強い倦怠感、吐き気、腹痛、息苦しさが出た。血糖が高くなくても相談が必要です。
  • 注射薬の使用中などに、持続する強い腹痛や繰り返す嘔吐がある。
  • 低血糖を繰り返す、むくみ・息切れが急に増える。

症状が強い場合は、予約日を待たず早めに医療機関へ相談してください。重症度に応じて救急対応が必要です。12,13,26,27

9.姫路市のえぷろんクリニックで相談できること

えぷろんクリニックでは、糖尿病・高血糖・HbA1c異常の相談に加え、血圧、脂質、腎機能、心血管リスクを含めて評価します。公式の糖尿病診療案内では、インスリン治療の継続管理や、CGMを用いた血糖管理についてもご案内しています。

薬を相談するときは、お薬手帳、最近の採血結果、自宅の血糖・血圧・体重の記録、低血糖が起きた時間や食事内容をお持ちください。「注射が不安」「仕事の時間と合わない」「費用が負担」「食欲が落ちて困る」といったことも、薬選びに大切な情報です。

循環器専門医の視点から、息切れ・むくみ・動悸などを伴う場合も評価し、必要に応じて心電図などの検査や専門医療機関との連携を行います。通院が難しい方は、訪問診療についてもご相談いただけます。29

姫路市で糖尿病のお薬や血糖管理にお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックまでお気軽にご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

よくあるご質問

Q1.糖尿病の薬は、最初にメトホルミンを使うのでしょうか?

メトホルミンは重要な選択肢ですが、日本ではインスリン分泌、肥満の程度、腎機能、心不全、低血糖リスクなどから個別に選びます。すべての方に同じ順番で使用するわけではありません。1

Q2.糖尿病の薬が増えるのは、重症になったからですか?

必ずしもそうではありません。作用の異なる薬を組み合わせて血糖を整える場合や、心不全・腎臓病への効果を考えて追加する場合があります。追加する目的を確認することが大切です。4,5

Q3.体重が減る糖尿病薬を使えば、誰でも健康的にやせられますか?

いいえ。適した対象や使用条件があり、食欲低下・脱水・低栄養が問題になる場合もあります。糖尿病治療と肥満症治療では製剤・適応条件が異なります。自分に合うか医師に相談してください。6,14,15

Q4.インスリンを始めると、一生やめられませんか?

病型とインスリン分泌能によります。1型糖尿病などでインスリンが不可欠な方は継続が必要です。2型糖尿病では、一時的に高血糖を改善した後、内服薬などへ変更できる場合もあります。自己判断で中断しないでください。2

Q5.姫路市で糖尿病の薬や、心不全・腎機能もまとめて相談できますか?

えぷろんクリニックでは、糖尿病の治療とともに、血圧・脂質・腎機能・心血管リスクを評価します。現在の処方内容と検査結果を確認し、必要に応じて専門医療機関と連携します。お薬手帳をお持ちください。29

参考文献・確認資料

学会指針、国内電子添付文書、臨床試験の原著をもとに構成しました。数値・適応条件は資料確認日時点の情報です。本文の番号から各資料へ移動できます。

  1. 日本糖尿病学会.2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版).糖尿病 66:715–733, 2023.
  2. 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024:第6章 インスリンによる治療.
  3. 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024:第2章 糖尿病治療の目標と指針.
  4. 日本循環器学会・日本糖尿病学会.糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサスステートメント2026(改訂第2版).
  5. 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024:第5章 血糖降下薬による治療.
  6. 日本糖尿病学会.インクレチン関連薬の安全な使用に関するRecommendation(2024年5月18日).
  7. PMDA.メトグルコ錠250mg・500mg 電子添付文書.
  8. 日本糖尿病学会.メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(2020年3月18日).
  9. PMDA.トラゼンタ錠5mg 電子添付文書.
  10. PMDA.フォシーガ錠5mg・10mg 電子添付文書(2025年4月第7版).
  11. PMDA.ジャディアンス錠10mg・25mg 電子添付文書.
  12. 日本糖尿病学会.糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation(2022年7月26日).
  13. PMDA.リベルサス錠3mg・7mg・14mg 電子添付文書(2026年5月第6版).
  14. PMDA.マンジャロ皮下注アテオス 電子添付文書(2026年9月第11版).
  15. 厚生労働省.チルゼパチド製剤(ゼップバウンド皮下注)の使用にあたっての留意事項について(2026年5月18日).
  16. PMDA.アクトス錠15・30 電子添付文書.
  17. PMDA.ツイミーグ錠500mg 電子添付文書(2026年1月第6版).
  18. PMDA.アウィクリ注フレックスタッチ 電子添付文書(2026年4月第5版).
  19. 日本糖尿病学会・日本老年医学会.高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation(2026年3月31日改訂).
  20. 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024:第19章 高齢者の糖尿病.
  21. Perkovic V, et al. Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2024. DOI:10.1056/NEJMoa2403347(FLOW).
  22. Packer M, et al. Tirzepatide for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity. N Engl J Med. 2025;392:427–437(2024年オンライン公表). DOI:10.1056/NEJMoa2410027(SUMMIT).
  23. McGuire DK, et al. Oral Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;392:2001–2012. DOI:10.1056/NEJMoa2501006(SOUL).
  24. Nicholls SJ, et al. Cardiovascular Outcomes with Tirzepatide versus Dulaglutide in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;393:2409–2420. DOI:10.1056/NEJMoa2505928(SURPASS-CVOT).
  25. American Diabetes Association. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026. Recommendation 9.18. DOI:10.2337/dc26-s009.
  26. 糖尿病情報センター.低血糖:対応図を含む一般向け資料.
  27. 糖尿病情報センター.シックデイ.
  28. 日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024:第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ.
  29. えぷろんクリニック.糖尿病診療案内(診療対応内容を確認). [医師紹介] [公式ホームページ]
  30. PMDA.アマリール錠 電子添付文書(グリメピリド).
  31. PMDA.グルファスト錠・OD錠 電子添付文書(ミチグリニド).
  32. PMDA.ベイスン錠 電子添付文書(ボグリボース).
  33. 英国MHRA.Metformin and reduced vitamin B12 levels: new advice for monitoring patients at risk(2022年6月20日).

本記事は、主に成人の2型糖尿病の治療について理解を深めるための一般情報です。薬の開始・変更・中止は、主治医と確認した指示に従ってください。症状が強い場合は、記事を読み進めるより受診を優先してください。

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