えぷろんクリニック|医療と社会

日本と世界の医療保険の違い
10か国・地域から考える「皆保険」の意味

保険料、税金、窓口負担、専門医へのかかり方。制度を分けて見ると、日本の医療の特徴が見えてきます。

情報確認日:2026年10月16日|日本・米国・英国(主にイングランド)・ドイツ・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ・台湾・シンガポールを比較

えぷろんクリニックの医療コラム|医師紹介

日本では、病気で医療機関を受診すると、年齢や所得に応じて医療費の一部を窓口で支払います。ところが海外では、窓口で原則支払わない診療がある一方、保険に入っていても、まず一定額を自分で負担する制度もあります。

この違いを「日本は安い」「海外は無料」「米国には公的保険がない」といった言葉だけで説明すると、大切な部分を見落とします。医療費を誰が集め、誰に給付し、どの医療を、どの条件で受けられるかが国によって異なるからです。

この記事では、各国政府・保険制度の公式資料を中心に、制度の成り立ちから慢性疾患の通院への影響まで解説します。

最初に押さえたい3つのこと

  • 皆保険は「すべての医療が無料」という意味ではありません。対象者、給付範囲、自己負担を分けて見る必要があります。
  • 窓口負担と社会全体の医療費は別です。受診時に支払わない診療も、税金や保険料などで支えられています。
  • 加入できることと、必要なときに受診できることは別です。医師の配置、予約、紹介、交通手段も医療へのアクセスを左右します。

比較の対象は、各制度の加入・受給要件を満たす通常の住民を基本とします。旅行者、短期滞在者、在留資格による扱いは別です。英国の制度は地域で異なるため、本文では主にイングランドのNHSを扱います。

1.医療保険の違いは、5つの軸で見ると分かりやすい

WHOが掲げるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は、すべての人が必要な質の高い保健医療サービスを、経済的困難に陥ることなく受けられることを目指す考え方です。保険証を持つことだけでなく、予防から治療、リハビリテーション、緩和ケアまでの実際の利用を問題にします。[4]

① 誰を保障するか

全国民・一定の住民を対象とするのか、年齢、所得、雇用、在留条件などで対象が分かれるのか。

② 何で費用を集めるか

保険料、税金、個人の積立、患者の自己負担を、どのように組み合わせるのか。

③ 何を、どこまで保障するか

診察や入院だけでなく、外来薬、歯科、眼鏡、リハビリ、在宅サービスなどをどこまで含むのか。

④ いくら・どう負担するか

定率負担、定額負担、免責額、自己負担上限、低所得者への支援をどう設計するのか。

⑤ どの医療機関を、どの経路で受診できるかも重要です。専門医へ直接相談できるのか、まず家庭医へ相談するのか、保険会社の契約医療機関を選ぶ必要があるのかによって、同じ症状でも受診の流れは変わります。

「保険」と「病院の運営」は別の話です

医療費を公的制度が負担していても、診療を行う医療機関がすべて国公立とは限りません。反対に、民間の保険会社が運営していても、国が加入や給付のルールを厳しく定めれば、普遍的な保障を担う仕組みになり得ます。資金を集める仕組みと、診療を提供する仕組みを分けて理解しましょう。

2.医療保険の歴史:働く人の保険から、住民全体の保障へ

各国の医療制度は、白紙から最も合理的な形を選んだものではありません。労働者保護、戦後復興、雇用制度、自治体の役割などを背景に、制度を積み重ねてきました。

1883年|ドイツ

労働者の疾病保険に関する法律が成立しました。保険料を拠出して医療を保障する社会保険の出発点の一つです。当初から現在のように住民全体を対象にした制度だったわけではありません。[5]

1948年|英国

NHSが発足しました。必要な医療を支払い能力によらず利用できるようにする考え方を、主に税で支える仕組みとして具体化しました。[6]

1961年|日本

被用者保険に加え、農家・自営業者などを国民健康保険が支えることで、国民皆保険を実現しました。単一の保険へ統合せず、複数の制度で住民をカバーする道を選んだ点が特徴です。[7]

1995年|台湾

それまで分かれていた医療保障を統合し、全民健康保険を開始しました。日本と同じく広く住民を保障しながら、主な保険者を一つに集約した点が異なります。[8]

社会保険中心の制度は「ビスマルク型」、税財源中心の制度は「ベヴァリッジ型」と呼ばれることがあります。ただし、現在は多くの国で保険料・税・民間保険が併用されており、この分類だけで個々の患者さんの負担まで説明することはできません。

3.日本の医療保険:複数の保険で支える国民皆保険

勤務先・年齢などで制度は分かれても、基本的な保険診療は共通

日本では、会社員などの被用者保険、自営業者などの国民健康保険、原則75歳以上の後期高齢者医療制度などが、住民の医療を支えています。保険料や独自の付加給付には制度・保険者による違いがありますが、基本的な保険診療の範囲や診療報酬は国のルールに基づきます。[1][2]

保険診療の価格は、診療報酬点数や薬価などによって定められます。そのため、米国の一部の民間保険のように、保険会社と医療機関との個別契約を中心として価格が決まる仕組みとは構造が異なります。ただし、実際の会計は検査内容、医療機関の機能、加算などによって変わるため、「同じ症状ならどこでも同額」という意味ではありません。

日本の窓口負担は、一律3割ではない

日本の保険診療における基本的な患者負担
年齢区分基本的な負担割合
義務教育就学前2割
義務教育就学後~69歳3割
70~74歳原則2割、現役並み所得者は3割
75歳以上所得等に応じて1割・2割・3割

公費負担医療、自治体の子ども医療費助成などにより、実際の窓口負担は異なる場合があります。出典:厚生労働省。[2]

例えば、3割負担の方が総額1万円の保険診療を受けると、窓口負担は基本的に3,000円です。ただし、これは保険料や税負担まで含む「総負担」を示したものではありません。

高額療養費とフリーアクセスが、患者さんを支える

保険診療の自己負担が高額になった場合には、年齢・所得などに応じた限度額を設ける高額療養費制度があります。窓口の負担割合が3割でも、高額な治療費の3割を際限なく支払い続ける仕組みではありません。[3]

2026年の制度改正に注意

2026年8月から高額療養費制度が見直され、月単位の限度額の変更に加えて、年間上限が設けられました。年間の区切りは8月から翌年7月です。2027年8月以降の見直しも公表されているため、受診月、所得区分、多数回該当、加入する保険者の案内を確認してください。差額ベッド代、食事の標準負担額、保険外診療などは原則として高額療養費の対象外です。[3]

もう一つの特徴が、患者さんが受診先を比較的自由に選べるフリーアクセスです。専門領域を持つ地域のクリニックにも直接相談しやすい一方、紹介状なしで一定の大病院を受診する場合の特別料金や、予約・紹介の運用はあります。「どこへでも、いつでも、同じ条件で受診できる」という意味ではありません。

4.日本と各国の医療保険の違い【10か国・地域の比較表】

制度の骨格を比べる:加入・財源・患者負担
国・地域制度の中心主な財源患者負担を読むポイント
日本複数の公的保険による皆保険保険料・公費・患者負担年齢・所得に応じた1~3割負担。高額療養費あり
米国雇用主経由・個人の民間保険と公的制度の併存保険料・雇用主負担・税等免責額、定額・定率負担、契約ネットワーク、加入制度で大きく異なる
英国NHSによる公的な医療サービス保障主に税対象者の診察・入院は原則窓口無料。薬・歯科などには例外
ドイツ法定疾病保険が中心。一部は代替的な民間保険所得に応じた保険料・公費等外来、薬、入院で負担の仕組みが異なる。法定自己負担の軽減制度あり
フランス公的医療保険と補完保険社会保険拠出・CSG等の税基準額への償還率、定額負担、補完保険、超過料金を確認
カナダ州・準州ごとの公的保障主に税対象となる医師・病院サービスは原則窓口負担なし。外来薬・歯科等は別の仕組み
オーストラリア公的Medicareと民間保険税・Medicare levy等公立病院の公的患者と、外来の差額負担を分ける
オランダ規制された民間保険者による基礎保険の加入義務定額保険料・所得連動拠出・公費等成人には年間免責額。家庭医診察などは免責の対象外
台湾単一保険者による全民健康保険保険料・政府負担等診療内容、施設区分、紹介の有無などで自己負担が異なる
シンガポール公費補助・医療積立・基本保険・救済制度の組み合わせ税・個人等の積立・保険料・自己負担国籍・居住資格、所得、病棟区分、保険給付範囲で異なる

これは制度の概要です。各国のすべての保険・例外を示すものではありません。根拠と詳細は次節および参考資料をご確認ください。英国は主にイングランドを記載しています。

5.各国の医療保険を詳しく見る

米国:一つの国の中に、異なる保障の仕組みが並ぶ

米国では、勤務先を通じた民間保険、個人で加入する保険、主に65歳以上や一定の障害・疾患を持つ方を対象とするMedicare、所得などの条件に応じたMedicaidなどが併存します。Medicaidは州によって加入条件等が異なります。「米国には公的医療保険がない」は誤りですが、日本と同じ形で全国民を一つながりに保障する制度でもありません。[9][10]

民間保険を読む際には、毎月の保険料だけでなく、次の用語が重要です。[11][12]

  • Deductible(免責額):対象の医療について、保険給付が始まる前に自分で負担する一定額。予防サービスなど、免責を適用しない医療もあります。
  • Copayment(定額自己負担):診察1回、処方1件などに対して支払う定額。
  • Coinsurance(定率自己負担):給付条件に従い、医療費の一定割合を負担する仕組み。
  • Network(契約医療機関の範囲):契約内か契約外かによって、給付や負担が変わることがあります。

Marketplaceの保険には、契約内の対象診療について年間自己負担上限があります。ただし、保険料、対象外診療、原則として契約外の費用などはその上限に含まれません。また、Original MedicareのPart A・Bには、それ単独で年間自己負担の包括的な上限がありません。民間保険やMedicare Advantageと一括りにしないことが大切です。[13][14]

英国:保険給付よりも、NHSを通じたサービス保障が中心

英国のNHSは、主に税で医療サービスを支える仕組みです。イングランドではGP(General Practitioner:地域で幅広い健康問題を診る家庭医・一般医)への相談は窓口無料で、病院診療も通常の居住要件などを満たす方には原則として無料です。GPにはNHSと契約する独立した診療所もあり、医師が全員公務員というわけではありません。[15]

専門医診療は一般にGPなどからの紹介を経ます。NHSで紹介された場合にも、条件を満たせば病院や診療チームを選べる権利があります。日本のような直接受診の自由度とは異なりますが、「患者さんに選択権がない」とするのも正確ではありません。[16]

処方薬、歯科、眼鏡などには自己負担や免除制度があり、英国の構成地域ごとに扱いも異なります。窓口負担が軽いことと、予約・検査・予定手術を希望どおりの日程で受けられることは別の問題です。[17]

ドイツ:社会保険を中心に、法定保険と民間保険が併存

ドイツでは医療保険への加入が義務づけられ、多数の疾病金庫による法定疾病保険(GKV)が人口の大部分を保障しています。所得や職業など一定の条件を満たす人には、法定保険に代わって民間医療保険へ加入する選択肢があります。日本の入院給付金型の医療保険と同じ役割ではありません。[18]

法定保険の保険診療は、診察ごとに日本と同じ一律3割を払う仕組みではなく、薬剤や入院などに個別の自己負担が設定されています。例えば、一般的な処方薬では薬価の10%、原則5~10ユーロの負担で、実際の薬価を超えないように定められています。入院には1日10ユーロ、暦年28日までという負担があります。[19]

法定自己負担には、家族の所得や控除を踏まえた年間限度があります。一般には計算対象となる世帯総所得の2%、一定の重い慢性疾患等の条件を満たす場合は1%が目安です。申請が必要であり、保険料や保険外サービスまで含む「医療関連支出すべての上限」ではありません。

フランス:公的保険と補完保険の組み合わせを理解する

フランスでは、就労や適法で安定した居住などの条件に基づいて、公的医療保障が継続されます。財源には社会保険の拠出だけでなく、広い所得に課される一般社会拠出金(CSG)なども使われます。「社会保険の国だから、給与からの保険料だけで支えている」とは限りません。[20][21]

特徴は、公的保険による償還と、残る負担の一部を補う補完保険を組み合わせることです。公式資料の一般的な例では、所定の受診経路に沿った基準額30ユーロの一般医診察に対し、公的保険は70%に当たる21ユーロから定額負担2ユーロを差し引き、19ユーロを償還します。残る9ユーロは補完保険の対象となり得ますが、2ユーロの定額負担は責任ある契約の補完保険では償還されません。免除対象者は別の扱いです。[22]

また、基準額と医師が実際に請求する額が同じとは限りません。超過料金や補完保険の契約内容でも最終負担が変わります。登録した主治医を中心とする受診経路を外れると、原則として公的保険の償還が低くなる仕組みがあり、一部の専門診療などには例外があります。[23]

カナダ:医師・病院への厚い保障と、給付範囲の違い

カナダの医療保障は、税を財源に州・準州が運営します。資格のある住民について、公的保険の対象となる医学的に必要な医師・病院サービスは、原則として窓口負担なしで利用できます。一方、国が一つの保険者としてすべての費用を支払う制度ではありません。[24]

日本との比較で見落としやすいのが、外来処方薬、一般歯科、視力関連サービス、救急搬送、在宅サービスなどの扱いです。これらには別の公的支援や民間保険が関わり、対象者・地域・条件により給付が変わります。「医療費が無料の国だから、薬も歯科もすべて無料」とは言えません。

公的制度の名称にMedicareが使われることがありますが、米国の高齢者等を対象にしたMedicareとは、対象も制度の構造も異なります。

オーストラリア:公立病院の保障と、外来の差額を分ける

オーストラリアのMedicareは、多くの住民を対象にする公的保障です。公立病院で公的患者として診療を受ける場合には、対象となる医療費が保障されます。私的患者としての診療や民間病院の利用では、負担の仕組みが異なります。[25]

外来では、医療者がMedicare給付をその診療の全額として受け取るbulk billingを行うと、そのサービスについて患者負担はありません。一方、すべての医療者・すべてのサービスがbulk billingを行うわけではなく、請求額と給付額の差額が患者負担になることがあります。同じ日に受けた診療でも、一部だけがbulk billingの対象という場合があります。[26]

つまり、「Medicareがあるかどうか」に加えて、「公的患者か私的患者か」「その診療はbulk billingか」を確認する必要があります。

オランダ:民間保険者が、加入義務のある基礎保険を運営

オランダでは、原則として居住・就労する人に基礎医療保険への加入義務があります。運営するのは民間保険者ですが、基礎給付の範囲を政府が定め、保険者には基礎保険の加入申込みを受け入れる義務があります。年齢や健康状態によって同じ保険の保険料を変えることもできません。任意の追加保険とはルールが異なります。[27]

成人には、基礎保険の多くの診療について年間の強制免責額があります。公式案内では385ユーロですが、家庭医の診察はこの免責の対象外です。一方、家庭医が処方した薬や、診療所の外で行う採血などの検査は免責の対象になります。また、一部の医療には免責とは別の自己負担があるため、385ユーロを総負担の上限と考えないようにします。[28][37]

この制度から分かるのは、「民間が運営すること」と「加入や給付を個人の自由な契約に任せること」は、別の選択であるという点です。

台湾:一つの公的保険者に集約した全民健康保険

台湾は、全民健康保険を主な単一保険者が運営する方式です。保険料や政府負担などで財源を集め、広い住民を保障します。日本が複数の保険者・制度を組み合わせるのに対し、台湾は支払いの仕組みを大きく統合しています。[8]

受診先を比較的選びやすい一方、自己負担の設計によって病院と診療所の役割分担や紹介を促します。施設の区分、紹介の有無、診療内容などが負担に関わるため、「どの病院でも一律の少額負担」と捉えるのは不正確です。[29]

さらに、医療提供者への支払いでは、部門ごとの支出枠を設ける総額予算制度が重要です。単一保険者による保障と、医療費総額を管理する仕組みを組み合わせている点が、日本との比較で注目されます。[30]

シンガポール:積立だけで説明できない、多層的な保障

シンガポールは、政府補助と、いわゆる「3M」を組み合わせます。MediSaveは個人の医療用積立、MediShield Lifeは大きな医療費に備える基本保険、MediFundはそれでも支払いが難しい市民に対する安全網です。MediSaveで自分や対象家族の費用に備えることと、保険で多数の人のリスクを分かち合うことは、性質が異なります。[31]

MediShield Lifeは、市民・永住者に生涯の基本的保障を提供しますが、あらゆる外来医療費を全額支払う保険ではありません。主に大きな入院費と、一部の高額外来治療が対象です。給付は公的補助のある公立病院の病棟などを基準に設計され、上位病棟や民間病院を選ぶと請求額に占める給付の割合が小さくなる場合があります。[32]

「自己責任の積立だけで医療を賄う国」という説明も、「国民全員が同条件で無料になる国」という説明も、制度の実態を捉えていません。

6.同じ「民間医療保険」でも、役割は大きく違う

日本で医療保険と聞くと、公的健康保険のほかに「入院1日につき一定額を受け取る保険」を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、国際比較では民間保険が医療保障のどの部分を担当するかを確認する必要があります。

民間保険の役割は、国・契約によって異なる
役割主な例比較で注意する点
基本的な医療保障を担う米国の雇用主経由の保険、オランダの基礎保険両者の加入義務、給付規制、加入受入れのルールは同一ではない
公的制度を代替するドイツの一定の加入者の民間保険公的保険に上乗せするだけとは限らない
公的給付後の負担を補うフランスの補完保険すべての残額が必ず償還されるわけではない
公的給付の範囲外などを補うカナダの外来薬・歯科などの保険公的支援の対象範囲と併せて確認する

したがって、民間保険への加入率だけを見て「その国は公的保障が弱い」と判断することはできません。何の費用を、どの順番で負担する保険なのかを読むことが先です。

7.日本の医療費は本当に安い?国際比較の読み方

窓口で支払う額と、国全体が使う額を分ける

患者さんの家計にとっては、窓口負担だけでなく、保険料、税、給付対象外の費用、通院交通費、休業による収入減も問題になります。一方、国際統計でいう保健医療支出は、誰が支払ったかにかかわらず医療等に使われた費用を集計します。両者は同じ指標ではありません。

保健医療支出のGDP比|OECD Health at a Glance 2025
国・集計GDPに対する割合
米国17.2%
ドイツ12.3%
日本10.6%
OECD平均9.3%

2024年または直近年のデータで、推計を含みます。2026年の実績値ではありません。OECDの「経常保健医療支出」は、日本の「国民医療費」と集計範囲が同一ではありません。[33][34]

この比較では、日本は米国やドイツよりGDP比が低い一方、OECD平均よりは高くなっています。したがって、「日本の医療費は世界的に見て常に極端に低い」と断定するのも適切ではありません。

支出の大小だけでは、制度の良さを決められない

医療費の多さは、患者負担の重さと同義ではありません。医療サービスや薬の価格、利用量、人口構成、医療従事者の賃金、制度の管理費などが総額に関わります。また、GDPが変化すれば、医療費が同じでもGDP比は変わります。

平均寿命が長い国でも、その理由を保険制度だけに帰すことはできません。生活習慣、所得、教育、住環境なども健康に関わります。制度を評価するには、治療の質、必要な医療を受けられない人の割合、家計への影響、受診までの時間、地域差などを併せて見る必要があります。

8.高血圧・糖尿病・心不全の通院では、何が違ってくるのか

急な入院への備えだけでなく、毎月・毎年の通院を続けられるかも、医療保障の重要な役割です。ここからは、各制度の構造を臨床場面に当てはめた考察です。特定の患者さんの費用を試算したものではありません。

「診察を受けられる」と「治療を継続できる」は同じではない

例えば、高血圧と糖尿病がある方では、診察に加えて処方薬、採血、必要に応じた眼科や腎臓の評価などが関わります。診察料の負担が軽くても、薬や検査の給付が別の仕組みであれば、治療全体の費用は変わります。

心不全の方では、病院の専門外来、地域の内科、薬局、訪問看護、介護サービスなどの連携が必要になる場合があります。入院費が保障されても、退院後の移動や生活支援まで同じ制度がすべて負担するとは限りません。医療保険と介護・福祉制度の境界を確認する必要があります。

家庭医を経由する制度には、調整役を明確にする意味がある

英国のように紹介を基本とする制度では、幅広い健康問題を最初に受け止める医師を明確にします。フランスでは、紹介経路を守ることが償還の条件に関わります。日本は地域の専門医にも直接相談しやすい一方、複数の医療機関を利用するときには、誰が治療全体を整理するかが課題になります。

これは、一つの方式がすべての患者さんに優れるという話ではありません。直接受診のしやすさ、専門診療の必要性、情報共有、通院負担を、病状や地域の体制に合わせて調整することが大切です。

受診の自由を、治療のつながりに変える

複数の医療機関を受診するときは、お薬手帳、検査結果、紹介状を活用し、「どこで何を診てもらっているか」を共有しましょう。新しい医療機関でも、継続している薬や過去の検査を確認しやすくなります。

9.各国との比較から、日本の医療保険をどう考えるか

日本には、加入する保険が変わっても基本的な保険診療につながりやすいこと、地域の医療機関を選びやすいこと、高額な医療費への安全網があることなどの特徴があります。一方、制度上の保障があっても、近くに診療所がない、交通手段がない、仕事を休めない、費用が不安で相談できないといった問題は残ります。

窓口負担を上げれば、必要な受診だけを選別できるのか

患者負担には利用を抑える方向の働きが考えられますが、患者さんが受診前に「必要な診療」と「不要な診療」を正確に見分けられるとは限りません。制度を考える際には、財政だけでなく、低所得者や継続治療が必要な人への影響も評価する必要があります。

医療費の効率化と、単純な支出削減を区別する

ここで述べるのは制度比較を踏まえた考察ですが、重複する検査の見直し、薬剤情報の共有、病院と地域医療の役割分担を進めることと、必要な医療の利用自体を抑えることは、区別すべきです。予防や早期介入も、健康改善の価値と費用への効果を分けて評価する必要があり、「予防なら必ず医療費が減る」とは言えません。

地域の診療を維持する仕組みも、皆保険の一部として考える

保険の加入率を高く保つだけでは、医療従事者や施設、交通手段は自動的には確保されません。WHOもUHCの実現には、地域に根ざした医療と医療従事者の体制が必要だとしています。[4]

国際比較で目指したいのは、外国の制度に単純な順位をつけることではなく、日本の受診しやすさを保ちながら、治療の継続、家計の保護、地域の医療提供をどう両立するかを考えることです。

10.医療費が心配なときも、治療をやめる前に相談を

医療費への不安で通院や服薬を続けにくい場合は、自己判断で治療を中断する前に、医療機関や加入する保険者へご相談ください。高額療養費、自治体の助成、公費負担など、利用できる制度は年齢、所得、病状、加入保険によって異なります。全員が同じ支援を受けられるわけではありません。

診察では、費用や通院回数についての事情もお伝えください。病状や治療の安全性を踏まえて、検査・受診の予定などを検討します。高血圧や糖尿病など、症状が乏しくても治療の継続が大切な病気があります。

費用の確認より、救急対応を優先する症状

強い胸痛、急な息苦しさ、片側の手足の麻痺、意識障害などがある場合は、通常の予約や制度確認を待たず、119番などで救急対応を求めてください。

姫路市のえぷろんクリニックで相談できること

えぷろんクリニックでは、内科・循環器内科・呼吸器内科の診療を行い、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病や、動悸、息切れ、むくみなどを相談できます。診察に基づき、採血・心電図などの必要な検査、専門医療機関への紹介、通院が難しい方の訪問診療の相談に対応します。[35][36]

姫路市で生活習慣病や心臓の病気にお悩みの方、通院の継続について相談したい方は、えぷろんクリニックへご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

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11.日本と海外の医療保険について、よくある質問

Q1.国民皆保険があるのは日本だけですか?

いいえ。ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリア、台湾などにも、広い住民を対象とする公的な医療保障があります。英国はNHSによるサービス保障、オランダは規制された民間の基礎保険というように、保障を実現する方法が異なります。

Q2.英国やカナダは、本当に医療費が無料ですか?

対象者が対象の診療を受けるとき、原則として窓口負担がないという意味です。税などで費用を支えており、薬、歯科、視力関連サービスなどの扱いも異なります。旅行者が住民と同じ条件で利用できるとは限りません。

Q3.日本で3割負担なら、入院費が高額でも必ず全額の3割を払うのですか?

保険診療には高額療養費制度があり、年齢・所得などに応じた自己負担の限度があります。ただし、保険外費用等は対象外です。2026年8月の見直しを含め、受診月の制度と加入保険者の案内を確認してください。

Q4.民間保険が中心なら、皆保険は実現できないのですか?

運営主体だけでは決まりません。オランダでは、民間保険者が加入義務のある基礎保険を運営し、加入受入れや給付に公的なルールを設けています。日本の任意の入院給付金型保険とは役割が異なります。

Q5.姫路市で医療費が心配な場合、どこへ相談すればよいですか?

高額療養費は加入する健康保険の窓口へ、自治体の助成は姫路市の担当窓口へ確認してください。受診や治療の継続が難しい事情は、かかりつけの医療機関にもお伝えください。適用される支援は個別の条件で異なります。

12.参考資料

各国の公的機関・公的保険制度の公式案内を中心に参照しました。制度情報は2026年10月16日に確認。統計には別の基準年があり、本文に記載しています。個別の加入・給付・費用は、その時点の保険者等の案内をご確認ください。

  1. 厚生労働省.我が国の医療保険について.
  2. 厚生労働省.日本の国民皆保険制度の特徴・患者負担等.
  3. 厚生労働省.高額療養費制度を利用される皆さまへ(2026年・2027年の見直しを含む).
  4. WHO.Universal health coverage(UHC), 2025.
  5. ドイツ連邦保健省.Geschichte der gesetzlichen Krankenversicherung.
  6. 英国政府.The founding of the NHS: 75 years on, 2023.
  7. 厚生労働省.昭和100年の社会保障 第3回(1961年の国民皆保険).
  8. 台湾衛生福利部.National Health Insurance’s Contribution in Combating COVID-19(制度の成り立ち).
  9. CMS.Original Medicare (Part A and B) Eligibility and Enrollment, 2026.
  10. Medicaid.gov.State Profiles.
  11. HealthCare.gov.Your total costs for health care.
  12. HealthCare.gov.Deductible.
  13. HealthCare.gov.Out-of-pocket maximum/limit.
  14. Medicare.gov.Compare Original Medicare & Medicare Advantage.
  15. 英国政府.NHS entitlements: migrant health guide.
  16. NHS.Referrals for specialist care.
  17. 英国政府.Get help with NHS prescriptions and health costs.
  18. ドイツ連邦保健省.Statutory health insurance (SHI).
  19. ドイツ連邦保健省の健康情報ポータル.Co-payments and exemption from co-payment.
  20. Assurance Maladie.La protection universelle maladie, 2026.
  21. CLEISS.The French Social Security System: Introduction.
  22. Assurance Maladie.La participation forfaitaire de 2 €.
  23. Assurance Maladie.Le rôle du médecin traitant et le parcours de soins coordonnés.
  24. カナダ政府.About Canada’s health care system, 2025.
  25. Services Australia.Health care and Medicare.
  26. Services Australia.Bulk billing, 2026.
  27. オランダ政府.Standard health insurance.
  28. オランダ政府.More Q&As about health insurance in the Netherlands.
  29. 台湾中央健康保険署.Encouraging Referral System and Healthcare Localization.
  30. 台湾中央健康保険署.The NHI payment system.
  31. シンガポール保健省.Managing medical bills.
  32. シンガポール保健省.MediShield Life.
  33. OECD.Health at a Glance 2025: Health expenditure in relation to GDP.
  34. OECD.Health at a Glance 2025: Japan.
  35. えぷろんクリニック.内科の診療案内.
  36. えぷろんクリニック.公式サイト(診療科・訪問診療等の案内).
  37. オランダ医療保険給付評価機関 Zorginstituut Nederland.Huisarts (Zvw)(家庭医診療・処方薬・検査と免責).

本記事は医療保障制度の一般的な解説です。個々の保険契約や給付資格の判断、費用の見積りを行うものではありません。制度や契約内容は改定されるため、実際の利用時には公的機関・保険者・医療機関の案内をご確認ください。