高齢者の心不全。食事と安全な運動

患者さん・ご家族向け

HEART FAILURE × HEALTHY AGING

姫路市の循環器専門医が解説

心不全の生活管理というと「塩分を控えて安静にする」と思われがちです。しかし高齢の方では、厳しすぎる食事制限で体重と筋肉が落ちたり、必要以上に動かないことで心不全に耐える力が低下したりすることがあります。大切なのは、うっ血を防ぎながら、食べる力と動ける体を守ることです。

この記事の結論:「減塩」「低栄養の予防」「安全な運動」は3つを同時に考えます。食塩・水分・蛋白質・運動量の正解は、心不全の重症度、腎機能、むくみ、体格、食欲によって変わります。
ためすぎない過剰な塩分と水分を避け、体重を毎日確認
減らしすぎないエネルギーと蛋白質を確保し、筋肉を守る
休みすぎない安定期には有酸素・筋力・バランス運動

高齢者の心不全は「心臓だけ」の問題ではありません

心不全は、心臓の構造や働きの異常によって、息切れ、むくみ、疲れやすさなどが生じる状態です。高齢になると、心不全に加えて腎機能低下、貧血、糖尿病、関節疾患、食欲低下、嚥下機能の低下などが重なりやすくなります。

さらに、息切れを避けて動かなくなると筋肉が減り、同じ動作でも息切れしやすくなります。食欲が落ちてエネルギーや蛋白質が不足すると、この悪循環が加速します。

心不全・息切れ→活動量低下→筋肉量・筋力低下→さらに動けない→食欲低下・再増悪

サルコペニア、フレイル、心臓悪液質の違い

状態主な特徴気づく手がかり
サルコペニア筋肉量と筋力、身体機能が低下した状態握力低下、歩く速度が遅い、椅子から立ちにくい
フレイル身体・認知心理・社会面を含め、健康障害を起こしやすい状態疲れやすい、外出が減る、体重減少、物忘れ、独居・孤立
心臓悪液質心不全に伴う炎症や代謝異常などで、意図せず体重が減る状態食べているのにやせる、食欲低下、筋肉と脂肪が減る

とくに半年から1年で意図せず体重が減った、ベルトや服がゆるくなった、握力や歩く速さが落ちた場合は、心不全が落ち着いているように見えても相談が必要です。なお、心不全ではむくみで体重が増えるため、体重だけでは栄養状態を正確に判断できません。

高齢者の心不全の食事|「減塩だけ」にしない

食事の目標は、①過剰な塩分で水分をため込まない、②必要なエネルギーと蛋白質を確保する、③糖尿病・腎臓病などの併存疾患にも合わせる、の3点です。

1.塩分:厳しすぎる制限より、過剰摂取を確実に減らす

塩分を多くとると喉が渇きやすくなり、水分摂取が増え、むくみや肺うっ血につながることがあります。一方で、心不全患者さんにとって最適な塩分量は一律に決まっておらず、JCS/JHFS 2025心不全診療ガイドラインも食習慣や栄養状態を踏まえた個別介入を重視しています。

実際の診療では、食塩5〜6g/日前後を出発点にすることがあります。ただし、これは全員に機械的に当てはめる数値ではありません。低栄養の方が「味がしないから食べられない」状態になるなら、食事全体を見直す必要があります。

まず減らしたい「見えない塩分」麺類の汁、味噌汁・スープ、漬物、練り物、ハム・ソーセージ、干物、佃煮、惣菜、弁当、レトルト食品には塩分が重なりやすく含まれます。商品ごとの差が大きいため、包装の「食塩相当量」を確認しましょう。
  • 麺の汁は飲み干さず、味わう量を決める
  • 汁物は回数と量を決め、具を多くする
  • しょうゆ・たれは「かける」より小皿で「つける」
  • 酢、柑橘、香辛料、だし、香味野菜を活用する
  • 主菜は加工品より、生の魚・肉・卵・大豆食品を選ぶ
  • 1品だけ味をはっきりさせ、全品を濃くしない
減塩しお・低ナトリウム塩に注意カリウムを多く含む製品があります。腎機能が低い方や、ACE阻害薬、ARB、ARNI、MRAなどを使用中の方では高カリウム血症の危険があるため、自己判断で置き換えないでください。

2.水分:心不全だから全員が制限するわけではありません

水分制限は、強いうっ血、低ナトリウム血症、重症心不全などで必要になることがあります。しかし、安定している方まで一律に厳しく制限すると、脱水、腎機能悪化、便秘、ふらつき、熱中症につながります。高齢者は喉の渇きを感じにくく、利尿薬やSGLT2阻害薬を使用していることもあるため、「飲みすぎ」と「脱水」の両方を避ける必要があります。

水分量は主治医が個別に決めます医師から具体的な上限を指示されている場合は、飲み物だけでなく、汁物、ゼリー、アイス、牛乳なども水分として考えます。指示がない方は、自己判断で1日1Lなどの厳しい制限を始めないでください。夏場、発熱、下痢、嘔吐時は必要量が変わります。

3.エネルギー:やせている方ほど「食べる治療」が必要

高齢者の一般的な目安として、エネルギーは約30kcal/kg/日が出発点になります。例えば基準とする体重が50kgなら約1,500kcal/日です。ただし、肥満、活動量、発熱、低栄養、むくみの有無で必要量は変わります。心不全の体重は水分で変動するため、現在の体重をそのまま計算に使えないこともあります。

1回量を食べられないときは、3食にこだわらず、少量の食事や間食を組み合わせます。おにぎり、ヨーグルト、牛乳、卵、豆腐、果物など、少ない量でエネルギーや蛋白質を確保できる食品を選びます。

4.蛋白質:筋肉を守るために、毎食分けてとる

JCS/JHFS 2025ガイドラインでは、中等度以上の腎機能障害がなければ、高齢の心不全患者さんの蛋白質は1.2〜1.5g/kg/日が目安とされています。基準体重50kgなら60〜75g/日に相当します。1食に偏らせず、朝・昼・夕に分けることがポイントです。

食品の例蛋白質量の概算心不全での工夫
卵 1個約6g塩を足さず、だし巻き・温泉卵などに
牛乳 200mL約6〜7g水分制限中は水分量に含める
納豆 1パック約7g付属たれは全量使わない工夫を。ワルファリン服用中は納豆を避けます
木綿豆腐 150g約10gしょうゆを控え、薬味や酢を利用
魚 80g約16g前後干物・塩魚より生魚を選ぶ
鶏肉 80g約14〜18g加工肉より素材から調理する

※食品成分は種類や調理法で変わるため概算です。

腎臓病がある場合は自己判断で蛋白質を増減しない腎機能、尿蛋白、透析の有無によって適切な蛋白質量は異なります。「腎臓が悪いから肉や魚を全部減らす」と、サルコペニアを進めることがあります。医師・管理栄養士と目標量を決めてください。

5.カリウム・鉄・ビタミンは「検査して補う」

利尿薬ではカリウムやマグネシウムが低下することがあり、反対に腎機能低下や一部の心不全治療薬ではカリウムが上がることがあります。バナナや野菜を一律に増やす・減らすのではなく、採血結果に合わせます。

鉄欠乏や貧血は、息切れや疲れやすさを強めます。食事だけで改善しない場合もあるため、血算、フェリチン、トランスフェリン飽和度などを確認し、必要な治療を検討します。サプリメントも、薬との相互作用や過量の問題があるため自己判断で開始しないでください。

心不全の食事を無理なく続ける7つの実践策

「禁止食品」を増やすより、塩分の大きい1品を見つける毎日の漬物、汁物、麺の汁など、頻度が高いものを1つ変える方が続きます。
毎食、手のひらサイズの蛋白源を置く魚、肉、卵、豆腐、乳製品を組み合わせ、朝食も「ご飯と漬物だけ」にしないようにします。
食欲がない日は小分けにする3回で食べ切れなければ、5〜6回に分けます。食前に水分で満腹にならない工夫も有効です。
噛む・飲み込む力を確認するむせる、食事に時間がかかる、口の中に残る、体重が減る場合は、歯科・嚥下評価も検討します。
買い物が難しい場合は環境を整える配食サービス、家族の作り置き、訪問看護・介護サービスを活用し、「食べる努力」だけを本人に求めないことが大切です。
朝の体重を記録する起床後・排尿後・朝食前に、同じ体重計と同程度の服装で測ります。増加は水分貯留、減少は脱水や低栄養の手がかりになります。
食事量と症状を一緒に記録する食欲、息切れ、むくみ、血圧、脈拍、尿量の変化を短く記録すると、薬と食事の調整に役立ちます。

高齢者の心不全の運動|安定期には「休みすぎない」

心不全では、安定した状態で適切に運動すると、運動耐容能、筋力、生活の質の改善が期待できます。日本の心臓リハビリテーションガイドラインは、高齢の心不全患者さんに対し、有酸素運動、筋力運動、バランス運動、柔軟運動を組み合わせることを推奨しています。

ただし、運動できるのは心不全が安定しているときです。退院直後、最近症状が悪化した方、重い弁膜症や不整脈がある方は、主治医や心臓リハビリテーションスタッフに運動強度を確認してください。

運動前の5項目チェック

  • 安静時の息苦しさや胸痛がない
  • 発熱・感染症状がない
  • 体重が数日で急増していない
  • むくみや横になると苦しい症状が増えていない
  • 血圧・脈拍が普段から大きく外れていない

運動強度は「楽〜ややきつい」が基本

心不全ではβ遮断薬、心房細動、ペースメーカーなどの影響で、脈拍だけでは運動強度を判断しにくいことがあります。そこで、会話が続けられる速さ、自覚的運動強度(Borg指数)で11〜13:楽〜ややきついを目安にします。息が弾んでも短い会話ができる程度です。

種類始め方の例安定後の目安注意点
有酸素運動歩行5〜10分を1日1〜2回20〜30分/日、週3〜5日を目標に段階的に速度より継続。坂道や暑熱・寒冷環境は避ける
筋力運動椅子立ち、かかと上げ、座位膝伸ばしを各5〜10回10〜15回×1〜3セット、週2〜3日息を止めない。反動をつけず、翌日に強い疲労を残さない
バランス運動支持物のそばで足踏み、左右への重心移動短時間をできれば毎日転倒予防を優先。家族の見守りや手すりを活用
柔軟運動ふくらはぎ、太もも、肩周囲をゆっくり伸ばす準備・整理運動として5〜10分痛みの出ない範囲。呼吸を止めない

初めての1週間モデル

医師から運動を許可されている、安定した方の一例 月・水・金:準備運動5分 → 会話できる速さで歩行5〜10分 → 椅子立ち5回・かかと上げ10回 → 整理運動5分
火・木・土:室内歩行または生活活動をこまめに行い、軽い柔軟・バランス運動
日:疲労を確認しながら休養。完全に動かないのではなく、日常生活の範囲で体を動かす

「歩行10分を1回」が難しければ、2〜3分を数回でも構いません。高齢者では、運動時間を達成することより、翌日まで疲労や息切れを持ち越さず、少しずつ反復することが重要です。

運動と栄養はセットで考える

筋力運動だけしても、エネルギーと蛋白質が不足していれば筋肉はつきにくくなります。反対に、蛋白質を増やしても動かなければ筋力改善は限定的です。食欲がある時間帯に蛋白質を含む食事をとり、無理のない範囲で運動を組み合わせます。

運動を中止し、受診・救急要請を考える症状

今すぐ119番を考える症状

  • 突然の強い息苦しさ、会話ができない、横になれない
  • 強い胸痛や圧迫感が続く(15〜20分経つまで待たない)
  • 胸部症状に冷や汗、吐き気、顔面蒼白を伴う
  • 失神、意識がもうろうとする、唇が紫色になる

運動を休み、当日〜早めに相談する変化

  • 3日で2kg前後の体重増加、または主治医と決めた警戒体重を超えた
  • 足のむくみ、夜間の咳、横になると苦しい症状が増えた
  • 同じ運動で以前より息切れ、動悸、疲労が強い
  • めまい、ふらつき、転倒、尿量の明らかな減少
  • 食欲低下が続く、薬が飲めない、発熱・下痢・嘔吐がある

利尿薬を自己判断で増減しないでください。あらかじめ主治医から調整方法を指示されている場合は、その計画に従います。

家族・介護者が確認したいポイント

  • 冷蔵庫に食べられる食品があるか
  • 薬を正しく飲めているか
  • 体重・血圧の測定を続けられているか
  • 買い物・調理・片付けが負担になっていないか
  • 食事中のむせ、義歯、口腔乾燥がないか
  • 外出や会話が減り、気分が落ち込んでいないか

「本人が頑張ればできる」という問題ではないことがあります。認知機能、経済状況、独居、介護力、交通手段まで含めて支援を組み立てることが、心不全の再入院予防につながります。通院が難しい場合は、訪問診療も選択肢になります。

姫路市で心不全の食事・運動にお悩みの方へ

えぷろんクリニックでは、症状と身体所見に加え、家庭血圧・体重記録、内服薬、食事量、活動量、腎機能、電解質、貧血などを確認し、生活管理を一緒に調整します。

  • 診察、血圧・脈拍・むくみ・呼吸状態の確認
  • 心電図、血液検査、BNP、腎機能・電解質・貧血の評価
  • 胸部レントゲン、心エコーによる心不全・弁膜症などの評価
  • 低栄養、体重減少、フレイル・サルコペニアの確認
  • 食塩・水分・蛋白質、家庭での運動に関する個別相談
  • 心臓リハビリテーションや入院治療が必要な場合の医療機関連携
  • 通院が難しい方への訪問診療

姫路市で高齢者の心不全、息切れ、むくみ、食欲低下、体重変化にお悩みの方は、えぷろんクリニックへご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要に応じて適切な検査や専門医療機関との連携を行います。

高齢者の心不全・食事・運動に関するよくある質問

心不全では水を1日1Lまでに制限すべきですか?

全員に必要なわけではありません。強いうっ血、低ナトリウム血症、重症心不全などでは制限することがありますが、高齢者では脱水や腎機能悪化にも注意が必要です。主治医から上限を指示されていない場合は、自己判断で厳しい制限を始めず相談してください。

高齢の心不全では蛋白質をどれくらいとればよいですか?

中等度以上の腎機能障害がなければ、1.2〜1.5g/kg/日が一つの目安です。ただし、むくみ、肥満、腎臓病の程度で計算に使う体重や目標量が変わるため、個別に決めます。

むくみがあるので、食事を減らした方がよいですか?

むくみは脂肪ではなく水分の貯留で体重が増えている可能性があります。食事を極端に減らすと低栄養が進みます。塩分・水分・利尿薬・腎機能を含めた評価が必要です。

心不全でも散歩をしてよいですか?

心不全が安定していれば、会話できる強さの歩行は有用です。ただし、最近の症状悪化、急な体重増加、安静時の息苦しさ、胸痛、発熱などがある日は中止し、医療機関へ相談してください。

心不全の運動は、歩くだけで十分ですか?

歩行に加えて、椅子立ちなどの筋力運動、転倒予防のバランス運動、柔軟運動を組み合わせることが勧められます。高齢者では関節疾患や転倒リスクもあるため、初めは個別評価を受けると安全です。

主な参考文献・ガイドライン

  1. Kitai T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025;89:1278-1444. J-STAGE
  2. Makita S, et al. JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients With Cardiovascular Disease. Circ J. 2023;87:155-235. J-STAGE
  3. Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41:958-989. ESPEN
  4. Izawa H, et al. Standard Cardiac Rehabilitation Program for Heart Failure. Circ J. 2019;83:2394-2398. J-STAGE

本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の診断・治療・運動処方を代替するものではありません。食事・水分・運動の目標は、心不全の重症度、腎機能、内服薬、栄養状態により異なります。記載内容は2026年10月時点の情報に基づきます。