えぷろんクリニック|からだの話と日常

インスリンの種類と使い分け|糖尿病の注射治療を食事・血糖から解説

基礎・食事時・混合型・週1回製剤を、生活と血糖パターンから考える

医学情報確認:2026年10月17日

インスリンを選ぶときに大切なのは、「いつインスリンが足りないのか」「自分の膵臓からどの程度出ているのか」「どの方法なら安全に続けられるのか」を考えることです。同じHbA1cでも、朝の血糖が高い方と、食後だけ大きく上がる方では、必要な治療が変わります。

この記事では、超速効型・持効型・混合型・週1回製剤の違い、商品名ごとの特徴、血糖パターンに合わせた治療法、低血糖への対応まで解説します。

先に押さえたい4つのポイント

  • 基礎インスリンは、夜間や食間を含む1日を通したインスリンの必要量を支えます。
  • 食事時インスリンは、食事に伴って増える必要量を補います。
  • 朝の血糖が目標内でも、食後高血糖や夜間低血糖が残ることがあります。
  • 注射回数、腎機能、食事量、低血糖の経験、家族の支援まで含めて選びます。

※成人の外来治療を中心とした解説です。用量や変更方法は個別に決めます。医師と取り決めた調整方法がある方はその指示に従い、この記事を使って独自に製剤を切り替えたり、注射を中止したりしないでください。

目次から読む 18項目

1.インスリンの基本は「基礎分泌」と「追加分泌」

食事をしていない間も、肝臓は蓄えた糖を放出したり、新しく糖を作ったりして、脳などにエネルギーを供給しています。その糖の供給が過剰にならないよう、膵臓から少量ずつ出ているのが基礎分泌です。

一方、食事で糖質が吸収されると、それに合わせてインスリンの分泌が増えます。これを追加分泌と呼びます。インスリン治療では、この2つの必要量を考えて補充します。2

補う役割主に使う製剤・方法血糖を確認するときの手掛かり
基礎分泌を補う持効型、中間型、週1回基礎インスリン。ポンプでは超速効型の少量持続投与夜間・起床時・食間にどう変化するか
追加分泌を補う超速効型・速効型インスリンの食事時投与食前から食後にどの程度上がるか、その後下がりすぎないか
1日の必要量を、2つの役割で補う
食事に合わせた追加補充
朝食食事時のインスリン
昼食食事時のインスリン
夕食食事時のインスリン
基礎インスリン朝・昼・夜・睡眠中を通して支える

役割を理解するための模式図です。実際の投与量や薬の作用の強さを表すグラフではありません。

ここでの区別は、薬が担当する役割です。持効型も日中に作用し、超速効型も食後数時間は作用が残ります。食事が終わった直後に薬の作用が消えるわけではありません。

2.どのようなときにインスリンが必要になる?

自分で作るインスリンが大きく不足しているとき

1型糖尿病や、膵臓の病気・手術後などでインスリンが大きく不足している場合は、基礎と食事時の両方を補う治療が必要になります。インスリン依存状態では、食事ができない日にも基礎インスリンの補充が必要です。2, 22

病名だけでなく、現在の分泌能力も確認します。その手掛かりになるのがCペプチドです。体内でインスリンが作られる際に一緒に分泌される物質ですが、同時の血糖値や腎機能に影響されるため、数値1つで病型や治療を決めません。長く経過した2型糖尿病でも分泌が減ることがあります。3

2型糖尿病で、高血糖を改善する必要があるとき

内服薬などで十分に管理できない場合に加え、強い口渇・多尿・体重減少を伴う高血糖、重い感染症、手術などでは、インスリンを積極的に検討します。妊娠に関連する糖代謝異常でも、病状に応じて専門医療機関で使用します。

高血糖が続くことでインスリンの分泌や働きがさらに悪くなる「糖毒性」が関係している場合は、インスリンで血糖を改善したあと、注射量を減らしたり、ほかの薬へ移行したりできることがあります。継続の必要性は、その後の分泌能力と血糖の経過から判断します。1, 31

3.食後高血糖を抑える:超速効型・速効型の使い分け

食事時に使うインスリンでは、食べ物から糖が吸収されるタイミングと、薬が効くタイミングを合わせることが重要です。一般名が同じでも、添加剤などの工夫で吸収の速さが異なる製剤があります。

主な商品名と注射のタイミング

分類代表的な商品名一般名・成分国内の注射タイミングの基本
速効型ヒューマリンRなどヒトインスリン通常、食事の約30分前
超速効型ヒューマログインスリン リスプロ食直前。添付文書では食前15分以内
超速効型ノボラピッドインスリン アスパルト食直前
超速効型アピドラインスリン グルリジン食直前。添付文書では食前15分以内
作用発現を速めた超速効型フィアスプインスリン アスパルト食事開始前2分以内。必要な場合は開始後20分以内
作用発現を速めた超速効型ルムジェブインスリン リスプロ食事開始前2分以内。必要な場合は開始後20分以内

表は皮下注射での一般的な用法を整理したものです。商品名の末尾にあるペンの名称や剤形も確認してください。4, 5, 6, 7, 8, 9, 32

フィアスプとノボラピッド、ルムジェブとヒューマログはどう違う?

フィアスプとノボラピッドは、ともにインスリン アスパルトです。ルムジェブとヒューマログは、ともにインスリン リスプロです。フィアスプとルムジェブでは、注射した場所からの吸収を速める工夫が加えられています。

食事直後から血糖が急に上がる場合には、この立ち上がりの速さが選択理由になります。一方、食事量が決まらない、食事開始が遅れる、胃から食物が送り出される速度が遅いといった場合は、インスリンの作用が先行して低血糖になる可能性があります。注射時刻と食事の関係を確認する必要があります。8, 9

「食事開始後20分以内」の起点は、食べ始めた時刻です。食べ終わった時刻から数えないようにしてください。食事開始後に投与する用法を使う場合も、どのような状況で使うかを事前に決めます。

速効型ヒトインスリンには、どのような出番がある?

速効型は超速効型より作用の立ち上がりが遅く、食事前に時間を空ける必要があります。規則的な食事ができる方などで選択肢になりますが、食後の遅い時間帯にも作用が残ることに配慮します。

入院中の持続静注などにも速効型が使われますが、投与経路は製剤・剤形ごとに異なります。家庭で使用するペン製剤は、指示された方法で皮下注射します。4

4.空腹時・夜間の血糖を支える:基礎インスリンの使い分け

基礎インスリンでは、必要な時間を十分にカバーできることと、夜間・食間に効きすぎないことの両方を考えます。

分類・成分代表的な商品名作用時間の大まかな特徴選択時に考えること
中間型:NPHヒューマリンNなど数時間後に作用の山があり、持効型より変動しやすい作用の山を利用する場面がある。白濁製剤で混和が必要
持効型:グラルギンU100ランタス、グラルギンのバイオシミラーなどおおむね1日をカバー血糖の経過、費用、使いやすいペンなどを考慮
持効型:グラルギンU300ランタスXRU100より緩やかで、24時間を超えて作用夜間低血糖や日々の変動に配慮して検討
持効型:デグルデクトレシーバ定常状態の試験では42時間を超える作用持続長く安定した基礎補充を考える。投与は原則1日1回
持効型:デテミルレベミル用量などにより持続時間が異なり、1日2回の場合もある現在の治療状況と販売中止予定も確認
週1回持効型:イコデクアウィクリ1週間を通して基礎分泌を補う注射負担と、長く作用する薬の調整・観察体制を検討

作用時間は試験条件、投与量、個人差で変わります。数値を、そのまま「次の注射まで空けてよい時間」として使うことはできません。表は成人の一般的な位置付けで、全製品・全剤形を網羅していません。10, 11, 12, 13, 14, 33

トレシーバは長く効いても、原則1日1回

長い作用が重なり合うことで、安定した基礎補充が得られます。トレシーバは成人でも原則として毎日一定時刻に使用し、時刻を変更する必要がある場合には添付文書で定められた条件があります。自己判断で隔日投与に変更する薬ではありません。12

ランタスとランタスXR:同じ成分でも単純な置き換えはできない

U100は1mL中100単位、U300は1mL中300単位という濃度です。ランタスXRは皮下での吸収のされ方も異なり、ランタスと薬物動態が同じではありません。

専用ペンでは、医師から指示された単位数をそのまま表示窓で設定します。患者さんが3倍・3分の1に換算する必要はありません。一方、製剤を変更したあとの必要単位数は同じとは限らず、血糖を確認して調整します。11

「最も良い基礎インスリン」は1つに決められない

心血管リスクが高い2型糖尿病を対象としたDEVOTE試験では、デグルデクはグラルギンU100に対して心血管安全性の非劣性が示され、重症低血糖を経験した患者の割合は4.9%対6.6%でした。

この結果は、製剤選択で低血糖リスクを考える根拠になります。ただし、比較相手はU100であり、この試験だけでU300との優劣や、心不全を予防する効果まで判断することはできません。患者背景、比較相手、評価した項目を確認して結果を読みます。26

5.混合型・配合溶解インスリン:注射回数と調整の自由度を考える

従来の混合型

混合型は、食事時に働く成分と、ゆっくり働く中間型成分を一定の比率で組み合わせています。ヒューマログミックス25・50、ノボラピッド30ミックスなどが代表例です。ミックス25・50の数字は超速効型成分の割合を表し、注射する単位数やU100・U300のような濃度とは区別します。注射のタイミングも製剤ごとに確認します。

注射回数を抑えながら両方を補える一方、食事時成分と基礎成分を別々に増減できないという制約があります。食事の時刻と量が比較的一定の生活に合わせやすく、欠食や食事量の変動が大きい場合は調整が難しくなることがあります。白く濁る懸濁製剤は、決められた方法で均一に混和してから使います。1, 34

ライゾデグは「デグルデク70%+アスパルト30%」

ライゾデグは、中間型ではなく、持効型のデグルデクと超速効型のアスパルトを組み合わせた配合溶解インスリンです。無色透明で、従来の白濁した混合型とは性状も異なります。

食事時の成分を含むため、注射は食事直前です。2型糖尿病で1日1回使う場合は、主たる食事を毎日同じ食事に決め、その直前に注射します。1日2回の場合は朝食・夕食の直前が基本です。1型などインスリン依存状態では、他のインスリン製剤を併用し、ライゾデグは1日1回という用法です。

ライゾデグも配合比率は固定されています。「朝の空腹時だけを下げたい」「夕食分だけを増やしたい」ときには、各成分を分けて投与する方法の方が調整しやすいことがあります。15

6.2型糖尿病では、どの注射パターンを選ぶ?

治療は、全員が同じ順番で進むわけではありません。分泌能力、血糖の時間帯、生活に応じて、最初から複数回の注射が必要な場合も、治療を簡素化できる場合もあります。

治療パターンどのような方法か検討しやすい状況・注意点
BOT内服薬などに基礎インスリンを追加空腹時高血糖が目立つ。食後への効果が不足する場合がある
基礎インスリン+GLP-1受容体作動薬など基礎補充に、食事に関連する血糖や体重にも働く薬を併用肥満や体重増加も考慮する2型。消化器症状や分泌能力を確認
Basal-plus基礎に、特定の食事のインスリンを追加ある1食後の上昇が特に大きい
Basal-bolus/強化インスリン療法基礎と各食事のインスリンを分けて投与分泌不足が強い、各食後が高い、食事ごとの調整が必要
混合型・配合溶解型基礎と食事時成分をまとめて投与注射回数を抑えたい。固定比率と食事の規則性を考慮

BOTは「Basal supported Oral Therapy」の略です。一般的には持効型の1日1回投与などを組み合わせますが、現在は併用薬や週1回製剤を含め、実際の治療内容を確認することが大切です。1, 20, 31

1型糖尿病などでは、基礎と各食事を補う治療が基本です。1日4回前後の注射やポンプ療法によって、それぞれの必要量に合わせます。回数は重症度だけで決まるものではなく、柔軟に調整するためにも選ばれます。2

7.血糖パターンから考える、使い分けの実際

次の表は、医療者が原因を整理するための考え方です。個々の患者さんへの増減指示ではありません。

血糖のパターン診察で確認すること治療を見直す方向
朝の空腹時が高い前夜からの推移、夕食・夜食、注射忘れ、明け方の上昇基礎不足なら基礎を、前夜から高ければ夕食対策も評価。夜間低血糖があれば増量せず再検討
朝は目標内だが食後が高い食事内容、注射時刻、食事時の分泌不足食事時の薬や追加インスリンを検討
夕食後は高いが夜間に下がりすぎる夕食時と基礎のバランス、遅れて残る薬の作用食事時成分と基礎成分を分けて再評価
ある食事のあとだけ上がるその食事の糖質量、吸収、活動、投与時刻特定の食事に対応する調整を検討
日によって大きく違う食事・運動、注射部位の硬さ、手技、保管、体調原因を整えてから製剤・用量を再検討

食事時の量と、補正の量をどう考える?

食事時の量は、食事の糖質量、食前の血糖、これからの運動、すでに投与したインスリンの残りの作用などから考えます。糖質量を見積もって投与に役立てる方法が「カーボカウント」です。

食事に対応する分と、すでに高い血糖を下げるための補正分は、目的が異なります。どの程度の糖質に何単位が必要か、どの条件で補正するかは個別に設定するため、他の人の換算方法をそのまま使うことはできません。20

基礎インスリンを増やしすぎる「overbasalization」

空腹時の血糖がすでに目標内なのに、HbA1cが高いことを理由に基礎インスリンだけを増やすと、夜間や食間の低血糖につながることがあります。食後に必要な治療を、基礎の増量で補おうとしている可能性があるためです。

ADAの2026年基準では、夜間の大きな血糖低下、低血糖、大きな血糖変動などを再評価のサインに挙げています。体重当たりの単位数1つだけで過量と決めず、実際の血糖推移を見て判断します。20

朝の高血糖についても、基礎不足、前夜から続く高血糖、明け方のホルモン変化などを分けて考えます。夜間低血糖の有無を確認せずに、原因を決めつけて増量しないことが重要です。

8.基礎インスリン+GLP-1受容体作動薬の配合剤

基礎インスリンとGLP-1受容体作動薬を1本にまとめた薬もあります。GLP-1受容体作動薬は、血糖に応じたインスリン分泌の促進、グルカゴンの抑制、胃内容排出への作用などを通じて働きます。

商品名配合されている成分投与の基本
ゾルトファイデグルデク+リラグルチド1日1回、原則毎日一定時刻
ソリクアグラルギン+リキシセナチド1日1回、朝食前1時間以内

いずれも、所定の治療で効果が不十分な、インスリン療法が必要な2型糖尿病に用いる薬です。1型糖尿病には使用しません。固定比率なので、一方の成分だけを増減できず、製剤ごとの上限もあります。吐き気、食欲低下などにも配慮します。16, 17

注射薬として基礎インスリンを使用し、GLP-1関連薬をまだ使用していない2型糖尿病では、分泌能力や体格などに応じて、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬の併用も検討します。上記の配合剤を選ぶ場合は、GLP-1成分が重複しないよう、ほかの注射薬も整理します。高度なインスリン欠乏がある場合は、必要なインスリン補充を確保します。16, 17, 20, 31

2026年の関連情報:週1回のイコデクとセマグルチドを配合した「キーンス配合注」は、2026年2月19日に国内承認が公表されています。本記事で確認できた一次資料では発売を確認できていないため、承認情報として紹介します。18, 19

9.週1回のアウィクリは、どのような方で検討する?

アウィクリの一般名はインスリン イコデクです。1週間を通して基礎インスリンを補うため、毎日の注射が負担になっている方では、治療方法を検討する際の選択肢になります。1型糖尿病などで食事時の補充も必要な方は、基礎が週1回になっても食事時インスリンを継続します。

国内の適応は2型糖尿病に限定されていません。ただし、1型糖尿病では連日投与の基礎インスリンも検討したうえで、慎重に適用を判断すると添付文書に記載されています。1型の比較試験では、毎日投与のデグルデクと比べ、臨床的に重要な低血糖と重症低血糖を合わせた発生率が高かったためです。14

注射の支援と、血糖を観察できる体制を一緒に考える

高齢者では、家族や訪問看護による週1回の投与支援が、自己注射の難しさを補える場合があります。2026年3月改訂の日本糖尿病学会・日本老年医学会のRecommendationも、その意義と注意点を示しています。

一方、食事量が不安定、体調が変わりやすい、低血糖に気づきにくい場合は、慎重な判断が必要です。注射後2~4日目に食前の血糖が下がりやすいことも示されており、週を通じて全く同じ効き方と考えることはできません。

誰が注射するかに加えて、誰が血糖と体調を確認し、異常時に誰へ連絡するかまで決めて選びます。24

アウィクリは専用ペンを使い、原則同じ曜日に投与します。切り替え時の初回量、2回目以降の量、打ち忘れ時には固有の規定があり、「毎日の単位数を自分で7倍する」方法では切り替えられません。毎日投与する誤りを防ぎ、クリック数ではなく表示窓の単位数を確認します。長く作用するため、低血糖が続いたり再発したりすることにも注意します。14, 24

別成分の週1回製剤の承認情報:2026年9月には、インスリン エフシトラ アルファを成分とする「オンスイク注」も国内承認されています。対象はインスリン療法が適応となる2型糖尿病で、1型糖尿病には使用しません。同月のメーカー承認案内では発売時期は別途案内とされており、ここでは承認情報として紹介します。アウィクリとは適応や切り替え方法が異なるため、同じ週1回製剤として自己判断で置き換えないでください。40

10.HbA1cに加えて、CGMで「いつ高く、いつ低いか」を見る

HbA1cは平均的な血糖状態を知る指標ですが、食後に高い時間と、夜間に低い時間が同時に存在していても、数値だけでは分かりません。

CGM(持続グルコースモニタリング)では、センサーが皮下の間質液のグルコースを測り、時間ごとの推移を確認します。インスリンの使い分けでは、食後の上昇、夜間の低下、運動後の変化などが手掛かりになります。

妊娠していない成人の多くでは、次の指標が参考になります。

指標一般的な目安
TIR:70~180mg/dLの範囲にある時間70%超
70mg/dL未満の時間4%未満
54mg/dL未満の時間1%未満

年齢、認知機能、併存疾患、低血糖リスクによって目標は変わります。高齢で身体機能などが低下している方では、低血糖回避をより重視します。21, 23

CGMの値は血液中の値と完全には一致しません。症状と表示が合わない場合や値の正確性に疑問がある場合は、機器の説明に従って指先の血糖測定で確認します。食後の上昇を見て短時間に注射を重ねると、先に打ったインスリンと作用が重なって低血糖になるため、追加補正は事前に決めた方法に従います。5, 28

11.腎機能低下・高齢者・心不全・ステロイド使用中の使い分け

腎機能が低下している方

腎臓はインスリンの代謝にも関わるため、腎機能が低下すると必要量が減り、以前と同じ量でも低血糖が起こる場合があります。ただし、感染症やインスリン抵抗性、食事量なども影響します。eGFRだけから一律に単位数を決めず、血糖と体調を確認して調整します。12, 23

高齢者・フレイル・認知機能が低下している方

食事量、視力、手指の動き、注射の手順を理解できるか、家族の支援を確認します。治療の簡素化は大切ですが、少ない注射回数でも食事に合わなければ低血糖が起こります。基礎インスリンと非インスリン薬を組み合わせるなど、必要な効果と実行しやすさの両方を考えます。23

心不全や慢性腎臓病がある方

2型糖尿病では、インスリンによる血糖管理と並行して、心臓や腎臓を守る治療を考えます。心不全・慢性腎臓病に適応のあるSGLT2阻害薬などは、禁忌や副作用、脱水などを確認しながら併用を判断します。インスリン開始後も、心臓・腎臓の状態に合わせた薬の選択が必要です。31

息切れやむくみが増えた場合は、血糖値だけでなく体重変化や心不全の状態も確認します。当院の心不全の診療案内もご覧ください。

ステロイドを使っている方

朝にプレドニゾロンを飲む場合は、午後から夕方に血糖が上がり、朝の空腹時だけでは変化を捉えにくいことがあります。NPHの作用の山を利用する方法や、食事時インスリンを加える方法などを検討します。

デキサメタゾンなど作用の長い薬や複数回投与では、夜間を含む管理も必要になる場合があります。ステロイドを減らしたり中止したりすると、インスリンの必要量も変わるため、低血糖に注意して調整します。25

12.インスリンポンプ・AIDという選択肢

インスリンポンプは、対応する超速効型などを少量ずつ連続投与して基礎の必要量を補い、食事時に追加投与する方法です。持効型を注射していなくても、基礎インスリンの補充は行われています。

CGMの情報に基づいて投与を調整するAID(自動インスリン投与)もあります。国内のミニメド780Gは、基礎量の自動調整や条件に応じた補正投与を行う機器の一例です。食事の入力など、使用者が行う操作もあります。30

一方、チューブの閉塞や注入不良で供給が途切れると、特にインスリン分泌が少ない方では急速な欠乏につながります。使用できるインスリンは機器・剤形ごとに確認し、異常時の血糖・ケトン確認と代替投与の方法を、導入施設で決めておく必要があります。1, 22

フィアスプのバイアルでは、2026年7月の添付文書に、高温によるゲル化・ポンプ閉塞と、それに伴う高血糖などへの注意が追記されています。ポンプを使う方は、対応製剤と機器に定められた温度管理も確認します。36

13.製剤を変える前に確認したい「注射の質」

血糖が安定しないときは、薬の種類や量に加えて、実際の使い方も確認します。

  • 製品名と単位数:ペンの色だけで判断せず、毎回ラベルと表示窓を確認する。
  • 注射部位:同じ場所に繰り返し打つことを避け、硬いしこりや脂肪の盛り上がりがないか確認する。
  • 注入操作:空打ち、針の扱い、注入後に針を保持する時間などは製品ごとの説明に従う。
  • ペンと注射針:針は毎回交換し、ペンを他人と共用しない。ペンから薬液を注射器で抜き取ったり、別のインスリンを加えたりしない。
  • 混和:NPHや従来の混合型は均一に混和する。透明な持効型やライゾデグとは手順が異なる。
  • 保管:凍結や高温を避ける。使用開始後の温度・使用期限は製品ごとに確認する。

同じ硬い部分に打ち続けると、インスリンの吸収が不安定になることがあります。正常な部位に変えたあとに吸収が改善して、従来量では効きすぎる場合もあるため、しこりがある方は医療者に見せてください。5, 11, 13

14.低血糖が起きたときの対応

冷汗、手の震え、動悸、強い空腹感、ぼんやりする、普段と様子が違うといった症状は、低血糖の可能性があります。高齢者では典型的な症状が目立たない場合もあります。血糖値が70mg/dL未満のときや低血糖が疑われるときは、速やかに対応します。22, 29

意識がはっきりしていて、飲み込める場合

  1. 動作を中断し、可能なら血糖を測定します。対応を遅らせないことが大切です。
  2. 主治医と決めた量のブドウ糖を摂ります。一般的には10g程度が目安です。
  3. 約15分後に血糖を再測定し、低血糖が続く場合は再度ブドウ糖を摂ります。CGMの表示と症状が合わない場合は、可能なら指先測定で確認します。
  4. 改善しない、繰り返す、様子がおかしい場合は医療機関に連絡します。

αグルコシダーゼ阻害薬を併用している方は、砂糖などではなくブドウ糖を使います。低血糖時は運転を中止してください。22, 29, 39

意識が悪い・けいれん・飲み込めない場合

119番で救急要請してください。口に飲み物や食べ物を無理に入れると、誤嚥する危険があります。あらかじめグルカゴンが処方され、使い方を教わっている家族などがいる場合は、指示に従って使用します。

いったん回復しても低血糖が再発する場合があります。重症だった場合は、改善しても医療機関での評価が必要です。22, 29

15.発熱・嘔吐・食べられない日:シックデイの注意

食べられない日は低血糖に注意が必要ですが、感染症やストレスで血糖が上がることもあります。特に1型糖尿病などのインスリン依存状態では、基礎インスリンを自己判断で中止すると、ケトアシドーシスにつながる危険があります。

基礎インスリンの必要性を確保しながら、食事時の量やほかの薬を、食事量・血糖・ケトン体に応じて調整します。通常量を全員にそのまま続ける、という意味でもありません。普段から、体調が悪い日の対応と連絡先を主治医と決めておきましょう。22

SGLT2阻害薬を併用している方は、血糖が著しく高くなくてもケトアシドーシスを起こす場合があります。発熱・嘔吐・下痢や食事が十分取れないシックデイでは原則休薬し、主治医へ相談します。休薬指示を事前に確認し、必要なインスリンまで一緒に中止しないようにします。37

食事量が大きく減った場合は、早めに主治医へ連絡してください。水分が取れない、嘔吐が続く、高血糖やケトン体の上昇が改善しない場合は、診療時間外でも待たずに医療機関へ連絡し、速やかに受診してください。意識がはっきりしない、深く速い呼吸、著しい衰弱がある場合は119番で救急要請してください。22, 38

16.2026年時点での製剤の販売情報

2026年10月5日、製造販売元から、レベミルやノボリンの一部製剤など7製品について、2028年3月を目途とした販売中止予定が公表されています。ノボラピッドについても対象となる剤形がありますが、すべてのノボラピッド製剤が販売中止になるという意味ではありません。

また、2026年10月14日からヒューマリンR・Nの一部剤形などに限定出荷の案内が出ています。切り替え先についても供給状況の確認が必要です。35

販売終了予定日より前でも、剤形によって供給停止や限定出荷が生じています。使用中の方は「フレックスペン」「フレックスタッチ」などの剤形名も確認し、自己判断で中止せず、残量に余裕があるうちに主治医・薬剤師へ相談してください。供給状況は実際の処方時にも確認します。27, 35

17.姫路市でインスリン治療・血糖管理について相談したい方へ

次のような場合は、処方量を変える前に、血糖の記録を持ってご相談ください。

  • 朝の血糖や食後の血糖が高い状態が続く。
  • 低血糖、夜間の冷汗、朝の頭痛などを繰り返す。
  • 腎機能、食事量、体重、生活時間が変わった。
  • 注射の操作が難しい、打ち忘れが増えた、家族の支援が必要になった。
  • 転院に伴い、インスリン治療を途切れさせずに継続したい。

えぷろんクリニックでは、すでにインスリン治療を受けている方の継続管理と、CGMを用いた血糖管理に対応しています。血糖・HbA1cだけでなく、血圧、脂質、腎機能、心不全などの心血管リスクも踏まえて診療します。

受診時には、お薬手帳、インスリンの名前・単位数が分かるもの、血糖の記録をご持参ください。CGMを使用している方は、データを確認できる機器やレポートがあると役立ちます。病型や血糖変動、合併症に応じて、糖尿病専門医療機関と連携します。28

姫路市でインスリン治療や血糖管理にお悩みの方、生活習慣病や心臓の病気が心配な方は、えぷろんクリニックへご相談ください。症状や検査結果を確認しながら、必要な治療の継続と、専門医療機関との連携を行います。

糖尿病の診療案内 / WEB予約

よくある質問

Q1.インスリンを始めると、一生続ける必要がありますか?

インスリン依存状態では継続が必要です。一方、2型糖尿病で一時的な高血糖や糖毒性を改善するために使う場合は、経過によって減量やほかの薬への移行が可能なことがあります。分泌能力と血糖を確認して判断します。1, 3

Q2.トレシーバやランタスXRを使っていれば、食事時の注射は不要ですか?

必要性は、食事時に自分の膵臓がどの程度インスリンを出せるかで変わります。基礎インスリンで空腹時が改善しても、食後に必要な補充が残る場合があります。11, 12

Q3.週1回のインスリンにすれば、毎日の血糖確認は不要ですか?

注射回数が減っても、血糖を確認する必要性は残ります。必要な測定頻度は個別に決めますが、導入時、用量変更時、食事や体調が変わったときは特に注意が必要です。14, 24

Q4.食事を抜いたときは、インスリンを全部休んでもよいですか?

一括して休むことはできません。特にインスリン依存状態では、食事がなくても基礎補充が必要です。食事時の量、混合型、配合剤は対応が異なるため、普段から主治医と欠食時の方法を決めておきます。22

Q5.姫路市でインスリン治療の継続やCGMについて相談できますか?

えぷろんクリニックでは継続管理とCGMを用いた血糖管理に対応しています。現在の治療内容と記録をご持参ください。病状に応じて専門医療機関と連携します。28


医学情報の確認日:2026年10月17日。 国内の承認・用法はPMDA電子添文を優先し、学会の診療ガイドライン、Recommendation、原著論文を参照しています。

参考文献・確認資料

治療の考え方は学会資料、国内の用法・注意点は製剤ごとの電子添文を参照しています。

  1. 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第6章:インスリンによる治療
  2. 日本糖尿病学会:1型糖尿病はどのように治療するのか?
  3. 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第1章:糖尿病診断の指針
  4. PMDA:ヒューマリンR注カート/ミリオペン 電子添文
  5. PMDA:ヒューマログ注カート/ミリオペン/ミリオペンHD 電子添文
  6. PMDA:ノボラピッド注フレックスタッチ/フレックスペン 電子添文
  7. PMDA:アピドラ注ソロスター 電子添文
  8. PMDA:フィアスプ注フレックスタッチ/ペンフィル 電子添文
  9. PMDA:ルムジェブ注カート/ミリオペン/ミリオペンHD 電子添文
  10. PMDA:ランタス注ソロスター 電子添文
  11. PMDA:ランタスXR注ソロスター 電子添文
  12. PMDA:トレシーバ注フレックスタッチ 電子添文
  13. PMDA:ヒューマリンN注カート/ミリオペン 電子添文
  14. PMDA:アウィクリ注フレックスタッチ総量300単位/総量700単位 電子添文(2026年4月版)
  15. PMDA:ライゾデグ配合注フレックスタッチ 電子添文
  16. PMDA:ゾルトファイ配合注フレックスタッチ 電子添文
  17. PMDA:ソリクア配合注ソロスター 電子添文
  18. PMDA:キーンス配合注フレックスタッチ 電子添文(2026年2月版)
  19. ノボ ノルディスク:キーンス配合注の国内承認に関する発表(2026年2月19日)
  20. ADA. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S183–S215. doi:10.2337/dc26-S009.
  21. ADA. Glycemic Goals, Hypoglycemia, and Hyperglycemic Crises: Standards of Care in Diabetes—2026. doi:10.2337/dc26-S006.
  22. 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第20章:急性代謝失調・シックデイ
  23. 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』第19章:高齢者の糖尿病
  24. 日本糖尿病学会・日本老年医学会:高齢者における週1回持効型溶解インスリン製剤使用についてのRecommendation(2026年3月31日改訂)
  25. ADA. Diabetes Care in the Hospital: Standards of Care in Diabetes—2026. doi:10.2337/dc26-S016.
  26. Marso SP, et al. Efficacy and Safety of Degludec versus Glargine in Type 2 Diabetes(DEVOTE). N Engl J Med. 2017;377:723–732. doi:10.1056/NEJMoa1615692.
  27. ノボ ノルディスク:一部インスリン製剤の販売中止予定について(2026年10月5日、学会掲載原本)
  28. えぷろんクリニック:糖尿病の診療案内(継続管理・CGM・診療範囲の確認)
  29. JIHS 糖尿病情報センター:低血糖
  30. メドトロニック:ミニメド780Gシステム 国内医療者向け製品情報
  31. 日本糖尿病学会:2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版). 糖尿病. 2023;66:715–733.
  32. 日本イーライリリー:超速効型からヒューマリンRへ切り替える場合の方法と注意点
  33. PMDA:レベミル注フレックスペン 電子添文(2026年2月版)
  34. PMDA:ヒューマログミックス25注カート/ミリオペン 電子添文
  35. 日本イーライリリー:インスリン製剤の供給に関する案内(2026年10月14日からの限定出荷、学会掲載原本)
  36. PMDA:フィアスプ注100単位/mL(バイアル)電子添文(2026年7月版)
  37. 日本糖尿病学会:SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation
  38. JIHS 糖尿病情報センター:シックデイ(2025年10月23日更新)
  39. 日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド2018–2019』急性合併症・低血糖の対応(ブドウ糖摂取後の15分再確認)
  40. PMDA:オンスイク注ミリオペン総量1500単位 電子添文(2026年9月作成、第1版) / 日本イーライリリー:製造販売承認取得の案内(2026年9月。発売時期は別途案内)