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高血圧の治療目標は?SPRINT試験の結果と注意点を詳しく解説

高血圧の治療で目指すのは、将来の脳卒中、心臓病、腎臓病などを減らし、元気に生活できる時間を守ることです。そのために、血圧をどこまで下げれば利益が大きく、どこから副作用への注意が必要になるのかを考えます。

この問いに大きな影響を与えたのが、SPRINT〈スプリント〉試験です。心血管病のリスクが高い、糖尿病のない成人を対象に、収縮期血圧を「120mmHg未満にする治療戦略」と「140mmHg未満にする治療戦略」を比較し、厳格な降圧による心血管イベントと死亡の減少を示しました。一方で、急性腎障害や低血圧などは増えました。[1]

血圧の測り方、患者さんの背景、利益と害を一緒に評価することが、SPRINTを実際の診療に生かす条件です。 高血圧の基本から試験の数値、現在の降圧目標まで、順に解説します。

目次

1.高血圧とは――診断基準と治療目標を区別する

血圧は、血液が動脈の内側から壁を押す圧力です。心臓が収縮して血液を送り出すときの最大値が「収縮期血圧〈上の血圧〉」、心臓が拡張しているときの最小値が「拡張期血圧〈下の血圧〉」です。

血圧は心臓が送り出す血液量、細い動脈の収縮、腎臓による塩分・水分調整などに左右されます。加齢などで大動脈のしなやかさが失われると、上の血圧が高くなり、上下の血圧の差〈脈圧〉が広がることもあります。塩分のとりすぎ、肥満、飲酒、運動不足、遺伝的な体質などが重なって高血圧になります。[2]

高血圧は、症状がなくても治療の対象になる

高血圧は、かなり進行するまで自覚症状がないことが珍しくありません。高い圧力が長く続くと、血管と心臓に負担がかかり、脳卒中、冠動脈疾患、心不全、腎機能障害などのリスクが高くなります。頭痛や肩こりの有無だけでは、治療が必要かどうかを判断できません。[2][3]

心臓では、血液を押し出すための負荷が増えることで左室肥大が起こり、さらに心筋が硬くなって、血液を受け入れにくくなることがあります。心臓の駆出率〈EF〉が保たれていても心不全になる、HFpEFにつながる経路の一つです。

日本の診断基準と、治療中に目指す血圧

日本高血圧学会のJSH2025では、成人の一般的な診断基準と治療目標は次のように整理されます。[4]

1.高血圧とは――診断基準と治療目標を区別するの表 1
測定する場所高血圧の診断基準治療中の原則的な目標
診察室上140以上、または下90以上上130未満、かつ下80未満
家庭上135以上、または下85以上上125未満、かつ下75未満

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

単位はmmHgです。診断は原則として適切な条件で繰り返した測定から判断します。診断基準は「高血圧と分類する境界」、治療目標は「治療によって目指す水準」で、同じ数値である必要はありません。 たとえば診察室で135/85mmHgでも、治療中であれば原則的な目標に達していない場合があります。

目標は年齢だけで一律に緩めず、症候性低血圧、立ちくらみ、腎機能、電解質、生活機能などを確認しながら調整します。妊娠などの特殊な状況は、別の判断が必要です。[4]

2.SPRINT試験は、何を明らかにしようとしたのか

高血圧を治療すると脳卒中や心不全が減ることは、SPRINT以前から知られていました。しかし、「かなり高い血圧を下げる利益」と「ある程度管理できている血圧を、さらに低くする利益」は、別に検証する必要があります。

観察研究で、低めの血圧の人ほど病気が少ないという関連があっても、薬を増やしてその血圧まで下げれば同じ利益が得られるとは限りません。そこでSPRINTは、血圧の目標を無作為に割り付け、治療方針として比較しました。正式名称はSystolic Blood Pressure Intervention Trialです。[5]

2.SPRINT試験は、何を明らかにしようとしたのかの表 2
項目内容
実施地域米国・プエルトリコの102施設
参加者9,361人
年齢50歳以上。平均約68歳
強化治療群4,678人。上の血圧120mmHg未満を目標
標準治療群4,683人。上の血圧140mmHg未満を目標
比較したもの降圧の目標を変えた治療戦略
主な評価項目心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、急性非代償性心不全、心血管死の複合

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

治療する医師と参加者は割付を知っていましたが、イベントを判定する委員会は割付を知らない状態で評価しました。主要解析は、最初に割り付けられた群に基づくintention-to-treat解析で、最初の主要イベントが起こるまでの時間を比較しています。[5][1]

3.SPRINTの対象患者――誰に当てはめやすいか

参加条件の大枠は、50歳以上、収縮期血圧130~180mmHgで、次のいずれかを満たすことでした。血圧の上限は、服用している降圧薬の数によって調整されていました。[6]

  • 心血管疾患、または検査で確認された無症候性の心血管疾患がある。
  • 慢性腎臓病〈eGFR 20以上60未満mL/min/1.73m²〉がある。
  • Framinghamスコアによる10年間の心血管病リスクが15%以上。
  • 75歳以上である。

つまり、比較的リスクの高い集団を対象にした試験です。若年でほかの危険因子がない方まで、同じ絶対的な利益があると保証するものではありません。

特に重要な除外条件

3.SPRINTの対象患者――誰に当てはめやすいかの表 3
対象外となった主な背景診療での読み方
糖尿病糖尿病患者への判断には、別の試験も必要
脳卒中の既往脳卒中再発予防や急性期治療へ直接当てはめない
過去6か月の症候性心不全、またはLVEF35%未満既存の症候性心不全の降圧目標を決める試験ではない
立位1分後の上の血圧が110mmHg未満立位で血圧が低い方への適用に注意
eGFR20未満、著しい蛋白尿など重症腎臓病への一般化に限界がある
認知症、ナーシングホーム入所、予測余命3年未満など高度な介護を要する方や予後が限られる方では個別判断が必要

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

これは主な条件の抜粋です。「施設に住んでいる人をすべて除外した」という意味ではなく、支援付き住宅などは条件を満たせば参加できました。[6]

4.最も重要な前提――SPRINTの血圧測定方法

SPRINTでは、座って5分間静かに安静にした後、自動血圧計で3回測った平均値に基づいて治療を調整しました。測定条件をそろえることが、目標値を解釈するうえで欠かせません。[7]

歩いて診察室に入り、座った直後に、会話しながら1回だけ測った値は、この条件と一致しません。腕の位置、カフの大きさ、会話、直前の活動なども測定値に影響します。

「SPRINTは全員無人測定だった」は正確ではない

SPRINTは、医療者がいない部屋で測定する「無人の自動診察室血圧」の試験として紹介されることがあります。しかし、研究者による後の調査では、全過程で患者だけだった施設と、スタッフが同席していた施設の両方がありました。[7]

全過程が無人だった施設と、全過程でスタッフが同席した施設では、到達血圧と治療効果はおおむね同様でした。ただし、同席の有無を無作為に比較した試験ではなく、測定状況を細かく分けた解析にはばらつきもありました。SPRINTの120に一律に10を足して「普通の外来なら130」と換算することも、家庭血圧120と同じとみなすこともできません。

実際の診療では、診察室でも正しい方法で測定し、家庭血圧や必要に応じた24時間血圧測定と突き合わせます。日本の家庭血圧目標125/75mmHg未満も、SPRINTの目標を単純換算した数字ではありません。[7][4]

5.実際に、どのくらい血圧が下がったのか

2015年本報の1年時点の平均収縮期血圧は、強化治療群121.4mmHg、標準治療群136.2mmHgでした。追跡期間全体では、平均降圧薬数はそれぞれ2.8剤と1.8剤でした。[1]

この結果からわかるのは、「120未満を目指す戦略」と「すべての患者が、毎回120未満だったこと」は異なるという点です。目標値が120だったことは、119と121の間に急に安全性や効果の境界があることを意味しません。

また、SPRINTは特定の薬が優れているかを比べた試験ではありません。複数の薬を組み合わせて目標を達成する方針を評価しました。標準群も治療されており、実際には135~139mmHgを狙って調整し、低くなりすぎた場合には減薬する規定がありました。[6]

したがって、SPRINTは「120未満と130未満のどちらがよいか」を直接検証した試験ではありません。 現在の130/80mmHg未満という目標と比較するときには、この点が重要です。

6.2015年の主要結果――「25%減」を正確に読む

まず、広く引用される2015年の初回報告を示します。追跡期間中央値は3.26年で、予定された有効性の判定基準を満たしたため、降圧介入は当初の予定より早く終了しました。[1]

6.2015年の主要結果――「25%減」を正確に読むの表 4
評価項目強化治療群標準治療群ハザード比〈95%信頼区間〉
主要複合心血管イベント243人〈5.2%〉319人〈6.8%〉0.75〈0.64–0.89〉
全死亡155人〈3.3%〉210人〈4.5%〉0.73〈0.60–0.90〉
心不全62人〈1.3%〉100人〈2.1%〉0.62〈0.45–0.84〉
脳卒中62人〈1.3%〉70人〈1.5%〉0.89〈0.63–1.25〉

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

分母は強化群4,678人、標準群4,683人です。表の割合は「イベントが起きた人数÷割付人数」の粗割合であり、年間発症率ではありません。[1]

相対的な減少と、絶対的な減少

主要評価項目のハザード比0.75が、「心血管イベント25%減」と説明される根拠です。厳密には、追跡中のイベント発生のハザードが相対的に25%低いという推定です。

一方、表の粗割合は6.8%から5.2%へ低下しています。絶対差は約1.6パーセントポイントで、参加者1,000人あたりに換算すると、試験期間中の主要イベントが約16人少ない計算です。25%減は、100人のうち25人が新たに助かるという意味ではありません。

同じ相対効果でも、もともとの発症リスクが高い方ほど、絶対的な利益は大きくなります。これは、若年の低リスク患者と、慢性腎臓病などがある高リスク患者とで、治療の利益の大きさを分けて考える理由です。

NNTは、追跡期間と比較相手を含めて読む

原著が報告したNNT〈1件のイベントを追加で防ぐために治療する人数〉は、主要心血管イベントで61人、全死亡で90人です。いずれも、中央値3.26年の試験で、標準治療に代えて強化治療を行った場合の原著報告値です。粗割合の絶対差から求める単純な逆数とは区別します。[1]

このNNTを、1年間の値、無治療との比較、あるいはすべての高血圧患者に共通する値として使うことはできません。

複合評価項目が減っても、すべての病気で有意差が出たわけではない

主要評価項目には複数の病気が含まれます。2015年本報では心不全と心血管死の減少が目立ちましたが、脳卒中や心筋梗塞を個別にみた差は統計学的に有意ではありませんでした。「SPRINTで脳卒中が25%減った」という説明は誤りです。 また、個別項目の人数は重なり得るため、足し算して主要評価項目の人数にすることもできません。[1]

7.2021年の最終報告では何が変わったのか

2021年には、介入期間中に起きたイベントの確認・判定を完了し、試験終了後の観察も加えた最終報告が公表されました。2015年と2021年は同じ試験の異なる報告で、数値を混ぜないことが大切です。[8]

7.2021年の最終報告では何が変わったのかの表 5
報告・解析期間主要心血管イベント全死亡
2015年本報:中央値3.26年243対319人、HR 0.75155対210人、HR 0.73
2021年最終報告の更新介入期:中央値3.33年264対354人、HR 0.73〈0.63–0.86〉163対215人、HR 0.75〈0.61–0.92〉

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

人数は強化群対標準群、括弧内は95%信頼区間です。最終報告の介入期では、主要イベントの発生率は1.77対2.40%/年、全死亡は1.06対1.41%/年でした。利益があるという結論は維持されました。[8]

最終報告では、心筋梗塞単独の差も有意になりました。また、非致死性心不全を除いた事後解析でも主要複合転帰の減少が認められ、「主要結果は心不全の差だけによる」とは言い切れません。ただし、事後解析は事前に定めた主要解析と同じ位置づけではありません。[8]

介入終了後を含めた合計中央値3.88年の解析でも、主要イベントと全死亡の差は保たれました。一方、心不全の差は有意でなくなりました。介入後の観察期間だけで効果が有意に持続したと示されたわけではなく、一度下げれば、その後の治療を続けなくてもよいという意味にはなりません。[8]

さらに、2022年に報告された長期観察追跡では、当初の死亡減少の効果は減弱していました。試験後に外来血圧が上昇していたことも確認されており、強化治療を同じ条件で継続した長期の無作為化比較試験ではありません。長期の効果を考える際には、実際の治療と血圧管理が続いていたかを区別する必要があります。[9]

8.厳格に下げると、有害事象はどれくらい増えたか

SPRINTの意義を理解するには、利益と同じくらい、有害事象を丁寧に確認する必要があります。次の表は2015年本報の重篤な有害事象〈SAE〉のみです。[1]

8.厳格に下げると、有害事象はどれくらい増えたかの表 6
重篤な有害事象強化治療群標準治療群P値
全体38.3%37.1%0.25
低血圧2.4%1.4%0.001
失神2.3%1.7%0.05
電解質異常3.1%2.3%0.02
急性腎障害・急性腎不全4.1%2.5%0.001未満
傷害を伴う転倒2.2%2.3%0.71

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

SAEは、入院、生命の危険、重大な障害などに関わる事象です。治療との因果関係が確定した副作用だけの集計ではありません。この急性腎障害の集計は、主に入院時・入院中の重要な診断として記録されたもので、軽微な採血変化をすべて集計した値ではありません。失神のSAEのみの差はP=0.05と境界でしたが、救急受診またはSAEまで含めた集計では、3.5%対2.4%、P=0.003でした。[1]

低血圧や失神と、傷害を伴う転倒は別の評価項目です。傷害性転倒が有意に増えなかったことは、日常のあらゆる転倒や、対象外だったナーシングホーム入所者でも安全だと証明したことにはなりません。

腎機能低下を、軽く考えすぎない

降圧による腎臓内の血流・ろ過圧の変化で、クレアチニンが上がることがあります。しかし、SPRINTで集計された急性腎障害を、すべて「無害な一時的変化」と扱うことはできません。

急性腎障害の追加解析では、強化治療群で発生が増え、多くは軽症で、腎機能も回復していました。それでも、急性腎障害が起こる負担と、回復後の経過を評価する必要があります。心血管イベントを減らした結果を、そのまま「腎臓の悪化も防いだ」と言い換えるのは不適切です。[10]

実際の診療では、血圧だけでなく、クレアチニン・eGFR、Na・K、脱水、食事量、下痢・発熱、併用薬などを確認します。心血管イベント、急性腎障害、低血圧は重症度も重複も異なるため、件数を単純に足し引きして治療の良し悪しを決めることはできません。

9.75歳以上でも、血圧を下げる利益はあるのか

2016年に公表されたSPRINTの75歳以上の解析には2,636人が参加し、平均年齢は約80歳でした。中央値3.14年の追跡で、主要心血管イベントは102対148人〈HR 0.66〉、全死亡は73対107人〈HR 0.67〉と、強化治療群で少なくなりました。[11]

この結果は、高齢であることだけを理由に高血圧を放置する考えを支持しません。一方、ナーシングホーム入所者、認知症、予後が限られる方、立位で血圧が低い方などは対象外でした。

「フレイルの人は全員除外された」という説明も正確ではありません。 この高齢者集団の約31%は、試験内の指標ではフレイルに分類されていました。探索的な解析では、フレイルの程度による治療効果の明確な違いは認められませんでした。ただし、この結果から高度な要介護状態の方まで一律に120未満を目指せるとはいえません。[11]

年齢に加え、歩行、立ちくらみ、食事・水分摂取、認知機能、服薬管理、生活の目標を含めて考えることが必要です。

10.SPRINT MIND――認知症予防は証明されたのか

SPRINT MINDは、認知機能への影響を検討した研究です。2019年報告では、軽度認知障害〈MCI〉の発症は減りましたが、認知症〈probable dementia〉単独の減少は統計学的に有意ではありませんでした。[12]

10.SPRINT MIND――認知症予防は証明されたのかの表 7
認知機能の評価項目2019年報告のHR〈95%信頼区間〉解釈
認知症単独0.83〈0.67–1.04〉有意差なし
軽度認知障害〈MCI〉0.81〈0.69–0.95〉減少を認めた
MCIまたは認知症0.85〈0.74–0.97〉減少を認めた

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

2025年に公表された中央値7年の追跡でも、認知症単独のHRは0.86〈0.72–1.02〉で、有意差はありませんでした。MCIを含む複合評価項目では減少が認められました。これは約3.3年間の割付介入の後も認知機能の追跡を延ばした研究で、7年間ずっと同じ強化治療を維持した比較ではありません。[13]

したがって、認知機能を守る可能性を支持する結果はありますが、SPRINT MINDだけで「認知症を予防できる」「アルツハイマー病が減る」と断定することはできません。 有意差がないことも、効果が全くないことの証明ではなく、追跡期間、症例数、追跡できなかった方の影響を考慮します。

11.糖尿病・アジアの患者さんには、その後の試験が重要

SPRINTが糖尿病患者を除外したからといって、糖尿病患者には厳格な降圧が無効だという結論にはなりません。対象を広げた別の無作為化試験を確認する必要があります。

11.糖尿病・アジアの患者さんには、その後の試験が重要の表 8
試験主な対象上の血圧の目標〈mmHg〉主要心血管転帰のHR〈95%信頼区間〉
ACCORD BP〈2010年〉2型糖尿病・高リスク、4,733人120未満 対 140未満0.88〈0.73–1.06〉。有意差なし
STEP〈2021年〉中国の60~80歳、8,511人110以上130未満 対 130以上150未満0.74〈0.60–0.92〉
ESPRIT〈2024年〉中国の高リスク患者、11,255人。糖尿病・脳卒中既往も含む120未満 対 140未満0.88〈0.78–0.99〉
BPROAD〈2024年オンライン/2025年誌面〉中国の2型糖尿病・高リスク、12,821人120未満 対 140未満0.79〈0.69–0.90〉

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

各試験の原著に基づきます。STEPは120未満を目標とした試験ではありません。[14][15][16][17]

ACCORD BPでは主要評価項目の有意差がありませんでしたが、その後の大規模なBPROADでは、糖尿病患者でも心血管イベントが減少しました。「ACCORDが陰性だったので、糖尿病では厳格降圧は無効」と説明するのは、現在の証拠を十分に反映していません。[14][17]

一方、試験間で主要評価項目の定義は異なります。ACCORD BPは心筋梗塞・脳卒中・心血管死が中心で、SPRINTは心不全を含み、STEPは心房細動や冠血行再建、ESPRITも血行再建を含みます。HRの数字だけを並べて、どの患者集団で最もよく効くかを順位づけることはできません。

BPROADでも症候性低血圧や高K血症への注意が必要でした。対象が広がっても、血圧・腎機能・電解質・症状を確認しながら治療するという原則は変わりません。[17]

12.現在のガイドラインにどうつながっているか

現在の目標値は、SPRINT一つだけで決まったものではなく、その後の臨床試験や複数研究の統合評価も踏まえています。

12.現在のガイドラインにどうつながっているかの表 9
ガイドライン成人の主な降圧目標読み方
日本・JSH2025診察室130/80未満、家庭125/75未満年齢だけで区切らず、症状や安全性を確認して個別化
欧州・ESC2024薬物治療中の多くの成人で上120~129、下70~79を目指す忍容性が条件。症候性起立性低血圧、85歳以上、中等度以上のフレイルなどに配慮
米国・AHA/ACC2025原則130/80未満施設での介護、余命、妊娠などを別途考慮

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

単位はmmHgです。表は診断基準や薬を開始する基準ではなく、治療目標の比較です。[4][18][19]

SPRINTから実務上読み取るべきなのは、適切な患者さんでは、十分に降圧する利益を積極的に考えること、その実施には標準化した測定と安全性の確認が伴うことです。

13.結果を診療に当てはめる際の、五つの注意点

① 高リスク患者の利益を、そのまま低リスク患者の利益にしない

若い方で軽度の高血圧だけの場合と、腎臓病や心血管病のある方では、数年間の絶対的な発症リスクが違います。SPRINTのNNTを、背景の異なる患者さんへそのまま渡すことはできません。

② 早期終了は、長期の安全性まで保証するものではない

SPRINTは、事前に定めた監視手順に従い、利益が示されたため介入を早く終了しました。この判断自体は正当なものですが、一般に早期終了試験では効果量を大きめに推定する可能性や、長期の安全性情報が少なくなる点に留意します。後続研究と合わせて評価する理由です。[1]

③ 心不全の予防と、すでにある心不全の治療目標を分ける

高血圧による心負荷を減らすことは心不全予防に役立ちます。しかし、SPRINTでは最近の症候性心不全やLVEF35%未満は対象外でした。既存のHFrEFでは、予後を改善する薬をどこまで使えるか、うっ血や低灌流がないかなどを含めた心不全診療として判断します。[6]

④ 下の血圧が低い方も、上の血圧だけで判断しない

上が高く、下が低い方では、動脈の硬さや脈圧も考慮します。冠動脈疾患、胸部症状、ふらつき、立位血圧を確認し、治療を調整します。

低い拡張期血圧と心血管イベントが関連する「Jカーブ」が観察されても、病気や動脈硬化のために血圧が低くなっている可能性があり、降圧そのものが原因とは限りません。SPRINTの事後解析でも、開始時の拡張期血圧が低い方はイベントが多い一方、開始時の拡張期血圧によって強化治療の効果が明らかに異なるという証拠は得られませんでした。症状、冠動脈疾患、立位血圧などを確認し、個別に判断します。[20]

⑤ 薬を増やす前に、測定法・服薬状況・二次性高血圧を確認する

病院だけ高い白衣高血圧、家で高い仮面高血圧、飲み忘れ、塩分過多、併用薬の影響を確かめます。若年発症、急な悪化、複数の薬でも下がらない場合などには、腎臓病、原発性アルドステロン症、睡眠時無呼吸、腎動脈狭窄、薬剤性などの原因も検討します。[2][21]

高血圧に低K血症を伴う場合は、原発性アルドステロン症や、甘草を含む薬による偽性アルドステロン症、利尿薬の影響などが重要です。 原発性アルドステロン症はKが正常でも否定できず、アルドステロンとレニンなどを評価します。検査は服薬やK値の影響を受けるため、条件を整えて解釈します。[22][4]

14.高血圧治療は、家庭血圧・生活習慣・薬を組み合わせる

家庭血圧の測り方

14.高血圧治療は、家庭血圧・生活習慣・薬を組み合わせるの表 10
項目基本的な方法
血圧計上腕で測るタイプを使用し、腕に合ったカフを選ぶ
朝起床後1時間以内、排尿後、朝食前・服薬前
夜就寝前
測定前椅子に座って1~2分安静。背を支え、腕を心臓の高さに置く
回数1回の機会に原則2回測り、平均を記録する
記録週5日以上を目安に続け、診察時に持参する

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

日本高血圧学会の家庭血圧測定資料に基づく方法です。低い数値が出るまで何度も測って、その値だけを採用しないようにします。[21]

生活習慣の改善は、服薬を始めても続ける

  • **減塩:**高血圧の方は食塩6g/日未満を目標にします。汁物、麺の汁、漬物、加工食品、調味料を見直します。
  • **運動:**体調に合った歩行などを継続します。心臓病がある方や血圧が著しく高い方は、運動強度を相談します。
  • **体重管理:**肥満がある場合は減量を検討します。高齢でやせている方では、栄養不足や筋肉の減少を避けます。
  • **飲酒・喫煙:**飲酒量を減らし、禁煙で心血管病のリスクを抑えます。
  • **睡眠・薬の確認:**睡眠時無呼吸や、血圧に影響する市販薬・漢方薬などを確認します。

野菜や果物を含めた食事も大切ですが、腎機能低下や高K血症がある方では、Kの摂取を個別に調整します。[3][19][4]

薬は、作用と合併症を考えて選ぶ

14.高血圧治療は、家庭血圧・生活習慣・薬を組み合わせるの表 11
薬の種類主な役割主な注意点
長時間作用型Ca拮抗薬血管を広げて血圧を下げる足のむくみ、ほてりなど
ARB・ACE阻害薬レニン・アンジオテンシン系の作用を抑える。蛋白尿なども考慮して選択腎機能・Kの確認。ACE阻害薬では咳。妊娠中は使用できない
少量のサイアザイド系・類似利尿薬Na排泄を促し、塩分・体液に関わる高血圧を改善する低Na・低K血症、尿酸上昇、脱水など
β遮断薬心拍や交感神経の作用を抑える。心疾患や頻脈などを考慮徐脈、伝導障害、喘息などに注意
MR拮抗薬アルドステロンの作用を抑える。治療抵抗性高血圧などで検討高K血症・腎機能悪化に注意

表は左右にスクロールしてご覧いただけます。

JSH2025では、Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、少量サイアザイド系利尿薬、β遮断薬を主要なG1薬として整理しています。どの薬を優先するかは、合併症、腎機能、脈拍、妊娠の可能性、これまでの副作用などで変わります。[23]

SPRINTの結果だけから、特定の薬への変更を勧めることはできません。家庭血圧が高くても自己判断で増量せず、記録と症状を共有して調整します。

15.受診をすすめる症状と、救急受診の目安

通常の診療で相談したい場合

  • 健診で高血圧を指摘された。
  • 家庭血圧の平均が上135以上、または下85以上で続いている。
  • 治療中だが、主治医と決めた目標に達していない。
  • 薬を飲んでから立ちくらみ、だるさ、ふらつきが増えた。
  • むくみ、息切れ、動悸がある。
  • 血圧が急に上がった、複数の薬でも下がらない、Kが低いと指摘された。

胸痛・強い呼吸困難・神経症状がある場合

突然の強い胸痛・背部痛、強い息苦しさ、片側の手足の麻痺、言葉が出にくい、意識の異常があるときは、血圧値にかかわらず119番を含む救急対応が必要です。

安静にして測り直しても上180以上または下120以上が続く場合は、症状がなくても当日中に医療機関へ連絡してください。高血圧緊急症は、血圧の数字だけでなく急性の臓器障害の有無で判断します。自己判断で薬を追加して、急激に下げようとしないことが大切です。[19][24]

16.姫路市で高血圧を相談する方へ

えぷろんクリニックでは、家庭血圧、生活習慣、服薬状況、症状を確認し、採血、心電図、必要に応じた心エコーなどを通じて、血圧の背景と合併症を評価します。循環器内科と呼吸器内科の視点から、心不全や睡眠時無呼吸なども含めて考え、必要時には専門医療機関と連携します。[25]

姫路市で高血圧にお悩みの方は、えぷろんクリニックへご相談ください。 家庭血圧の記録、お薬手帳、健診結果があると、測定値の違いと治療の経過を確認しやすくなります。

高血圧、生活習慣病、心臓の病気が心配な方は、症状や検査結果を確認しながら、一人ひとりに合う検査と治療目標を考えていきましょう。

よくあるご質問

Q1.SPRINT試験があるなら、全員120mmHg未満にするべきですか?

一律には決められません。SPRINTは特定の高リスク集団を、標準化した測定と診療のもとで比較した試験です。日本では診察室130/80mmHg未満、家庭125/75mmHg未満を原則的な目標とし、症状や副作用、合併症などで個別に調整します。[4][6]

Q2.病院では高いのに、自宅では低い場合はどう考えますか?

白衣高血圧や白衣効果の可能性があります。家庭での測定法と血圧計を確認し、数日分の記録を診察室の値と比較します。逆に自宅で高い仮面高血圧にも注意が必要です。[21]

Q3.80歳でも、血圧は下げた方がよいのでしょうか?

SPRINTでは75歳以上でも利益が示されました。ただし、生活機能、認知機能、立ちくらみ、食事・水分摂取、腎機能などを含めて判断します。試験に参加した高齢者と、すべての高齢者の状態は同じではありません。[11]

Q4.血圧を下げると腎臓が悪くなることがありますか?

あります。特に薬の調整時や脱水があるときなどは注意が必要です。血圧を管理する長期的な意義と、治療中の急性腎障害や電解質異常を分けて考え、採血や症状を確認しながら調整します。[10]

Q5.姫路市で、症状がなくても高血圧の相談をしてよいですか?

はい。高血圧は症状がないことが多いため、健診や家庭血圧の記録が受診のきっかけになります。えぷろんクリニックでは、測定値と生活習慣、合併症を確認して治療方針を考えます。[25][2]

参考文献・一次資料

  1. SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015;373:2103–2116.https://doi.org/10.1056/NEJMoa1511939本文へ戻る
  2. 国立循環器病研究センター.高血圧.https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/hypertension-2/本文へ戻る
  3. 日本高血圧学会.高血圧の10のファクト.https://www.jpnsh.jp/10_facts.html本文へ戻る
  4. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Elevated Blood Pressure and Hypertension 2025 (JSH2025). Hypertens Res. 2026;49:9–235.https://www.nature.com/articles/s41440-025-02462-y本文へ戻る
  5. Ambrosius WT, et al. The design and rationale of a multicenter clinical trial comparing two strategies for control of systolic blood pressure: the Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT). Clin Trials. 2014;11:532–546.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24902920/本文へ戻る
  6. National Heart, Lung, and Blood Institute. SPRINT Protocol, Version 5.0.https://biolincc.nhlbi.nih.gov/media/studies/sprint/SPRINT_Protocol.pdf本文へ戻る
  7. Johnson KC, et al. Blood Pressure Measurement in SPRINT (Systolic Blood Pressure Intervention Trial). Hypertension. 2018;71:848–857.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29531173/本文へ戻る
  8. SPRINT Research Group. Final Report of a Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2021;384:1921–1930.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34010531/本文へ戻る
  9. Jaeger BC, et al. Longer-Term All-Cause and Cardiovascular Mortality With Intensive Blood Pressure Control: A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial. JAMA Cardiol. 2022;7:1138–1146.https://jamanetwork.com/journals/jamacardiology/fullarticle/2797064本文へ戻る
  10. Rocco MV, et al. Effects of Intensive Blood Pressure Treatment on Acute Kidney Injury Events in the Systolic Blood Pressure Intervention Trial (SPRINT). Am J Kidney Dis. 2018;71:352–361.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29162340/本文へ戻る
  11. Williamson JD, et al. Intensive vs Standard Blood Pressure Control and Cardiovascular Disease Outcomes in Adults Aged ≥75 Years: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016;315:2673–2682.https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2524266本文へ戻る
  12. SPRINT MIND Investigators. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;321:553–561.https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2723256本文へ戻る
  13. Long-Term Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Mild Cognitive Impairment and Probable Dementia in SPRINT. Neurology. 2025;104:e213334.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39819096/本文へ戻る
  14. ACCORD Study Group. Effects of Intensive Blood-Pressure Control in Type 2 Diabetes Mellitus. N Engl J Med. 2010;362:1575–1585.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20228401/本文へ戻る
  15. Zhang W, et al. Trial of Intensive Blood-Pressure Control in Older Patients with Hypertension. N Engl J Med. 2021;385:1268–1279.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34491661/本文へ戻る
  16. Liu J, et al. Lowering systolic blood pressure to less than 120 mm Hg versus less than 140 mm Hg in patients with high cardiovascular risk with and without diabetes or previous stroke: an open-label, blinded-outcome, randomised trial. Lancet. 2024;404:245–255.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38945140/本文へ戻る
  17. Bi Y, et al. Intensive Blood-Pressure Control in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;392:1155–1167. Online 2024.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39555827/本文へ戻る
  18. 2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension. Eur Heart J. 2024;45:3912–4018.https://academic.oup.com/eurheartj/article/45/38/3912/7741010本文へ戻る
  19. American Heart Association. 2025 High Blood Pressure Guideline: Top Things to Know.https://professional.heart.org/en/science-news/2025-high-blood-pressure-guideline/top-things-to-know本文へ戻る
  20. Beddhu S, et al. Influence of Baseline Diastolic Blood Pressure on Effects of Intensive Compared With Standard Blood Pressure Control. Circulation. 2018;137:134–143.https://biolincc.nhlbi.nih.gov/publications/f75ff0bd8bc344efa9c06d6f8bd2842c/本文へ戻る
  21. 日本高血圧学会.家庭で血圧を測りましょう.家庭血圧測定資料.https://www.jpnsh.jp/data/selfmonitoring.pdf本文へ戻る
  22. Endocrine Society. Primary Aldosteronism: Clinical Practice Guideline. 2025.https://www.endocrine.org/clinical-practice-guidelines/primary-aldosteronism-2本文へ戻る
  23. Ohya Y, et al. Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Elevated Blood Pressure and Hypertension 2025. Hypertens Res. 2025;48:2500–2511.https://www.nature.com/articles/s41440-025-02331-8本文へ戻る
  24. American Heart Association. When To Call 911 About High Blood Pressure. Reviewed August 14, 2025.https://www.heart.org/en/health-topics/high-blood-pressure/understanding-blood-pressure-readings/when-to-call-911-for-high-blood-pressure本文へ戻る
  25. えぷろんクリニック.公式サイト・診療案内.https://apron.clinic/本文へ戻る

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