心臓のはなし、やさしくお届けします

安定狭心症ってどんな病気? ― 「日常」のなかで付き合う、もうひとつの冠動脈の病気

安定狭心症ってどんな病気?
― 「日常」のなかで付き合う、もうひとつの冠動脈の病気 ―

「坂道や階段で、決まって胸が重くなる。でも、少し休むとすーっと楽になる」
「夜中や明け方に、胸が締めつけられて目が覚めることがある」
――前回お話しした急性心筋梗塞が「突然の緊急事態」だとすれば、今回の 安定狭心症 は、心臓が前もって出してくれる「予告サイン」。上手に付き合っていける病気です。今回は、その見分け方と、日常での付き合い方をやさしくお話しします。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01安定狭心症って、どんな病気?

心臓は、休むことなく全身に血液を送り出すポンプです。そのポンプ自身(心臓の筋肉)にも、酸素と栄養を運ぶ専用の血管が走っています。これを 冠動脈(かんどうみゃく) といいます(前回、第8回でお話ししたとおりです)。

狭心症(きょうしんしょう) とは、この冠動脈を通る血液が一時的に足りなくなって、心臓の筋肉が「酸素不足」におちいり、胸の痛みや圧迫感が起こる状態のことです。坂道や階段をのぼったときなど、心臓がふだんより一生けんめい働く場面で起こりやすくなります。

大切なのは、狭心症は あくまで一時的な「酸素不足」 だということです。少し休んで心臓の負担が減れば、血液の需要と供給のバランスが戻り、痛みはおさまります。心臓の筋肉が壊れてしまう急性心筋梗塞とは、ここが決定的に違います。

動脈硬化で狭くなった冠動脈が、安静時は足りていても労作時に酸素不足になる仕組みの図
図1 狭くなった血管でも、休んでいるときは足りています。がんばったときだけ酸素が足りず、痛みが出るのが労作性狭心症です

狭心症の痛みは、多くの場合 数分で治まり、予測もできます。「決まった坂道で、決まって胸が重くなる」――こうした くり返す・予測できる パターンが「安定」狭心症の特徴です。だからこそ、心臓からの大切な「予告サイン」として、早めに向き合うことが大切です。

022つのタイプ ― 労作性狭心症と冠攣縮性狭心症

ひとくちに狭心症といっても、大きく分けて 2つのタイプ があります。どちらのタイプかによって、症状が出る場面もお薬も変わってくるので、まずここを知っておいていただくと、ご自身の症状を理解しやすくなります。

① 労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)

動脈硬化によって冠動脈が 常に狭くなっている タイプです。ふだんは足りていても、坂道・階段・急ぎ足・食後・寒い屋外など、心臓がたくさん働く場面で酸素が足りなくなり、胸の症状が出ます。図1でお話ししたのが、このタイプです。

② 冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)

冠動脈そのものが、一時的に けいれん(攣縮)を起こして縮こまる タイプです。血管がぎゅっと縮むあいだだけ血液が足りなくなり、症状が出ます。労作とは関係なく、夜間から早朝の、安静にしているときに起こりやすいのが特徴です。

この冠攣縮性狭心症は、欧米の方に比べて、日本人に多いことが知られています。そして、喫煙が最も大きな引き金で、ほかにお酒の飲みすぎ、ストレス、冬場の寒さなどが発作を誘うことがあります。

労作性狭心症は血管がいつも狭く、冠攣縮性狭心症は血管が一時的にけいれんする、2つのタイプを対比した図
図2 同じ狭心症でも、「いつも狭い(労作性)」のか「一時的にけいれんする(冠攣縮性)」のかで、起こり方が変わります
労作性狭心症 冠攣縮性狭心症
血管に起きること 動脈硬化で、いつも狭くなっている 一時的にけいれんして縮む
発作が出るとき 坂・階段・食後・寒さなど、がんばったとき 夜間・早朝の安静時、飲酒後など
特徴 狭さが強いほど、軽い動作でも出やすい 日本人に多い。喫煙が最大の引き金

「どんなときに、胸の症状が出るか」は、タイプを見分けるいちばんの手がかりです。「階段でだけ」なのか、「夜中や明け方に」なのか――受診のときにこの点を教えていただけると、診断や治療の大きな助けになります。

03症状 ― 「予測できる」のが特徴です

狭心症の症状は、「胸の痛み」と表現されることが多いのですが、実際には 「痛み」とは限りません。次のような、さまざまな感じ方をします。

  • 胸の中央が締めつけられる・圧迫される感じ:「重い」「つかえる」「焼けるよう」と表現されることもあります。
  • 放散痛(ほうさんつう):胸だけでなく、左肩・左腕・あご・首・歯・みぞおちなどに広がることがあります。
  • 息苦しさ・冷や汗・気持ち悪さ:胸の症状とあわせて現れることがあります。
  • 持続時間はふつう数分ほど:安静にする、または後述のニトログリセリンで、多くは数分でおさまります。

タイプによって「出るとき」が違います

02でお話しした2つのタイプによって、症状の「出るタイミング」が変わります。これが、見分けの手がかりになります。

  • 労作性:坂道・階段・急ぎ足・食後・寒い外気など、体を動かしたときに決まって出て、休むと治まる。
  • 冠攣縮性夜間から早朝の、安静にしているときに出やすい。お酒を飲んだあとや、過呼吸ぎみのときに誘われることも。

安定狭心症のいちばんの特徴は、症状が 「いつもと同じパターンで、くり返し起こる」 ことです。「この坂で、これくらいの胸の重さが、これくらいの時間」――このパターンが一定であるうちは、「安定」した状態と考えられます。逆に、この パターンが崩れてきたときが要注意です(次の 04 で詳しくお話しします)。

04見逃してはいけない変化 ― 「安定」から「不安定」へ

ここは、今回いちばん大切なところです。「安定」狭心症が、その名のとおり安定しているうちは、あわてる必要はありません。けれども、いつものパターンが崩れてきたとき――それは、急性心筋梗塞の一歩手前かもしれないという危険なサインです。この状態を 不安定狭心症(ふあんていきょうしんしょう) といいます。

狭心症のある方は、次の4つの変化に特に気をつけてください。

  • ① 軽い動作で、あるいは安静時にも出るようになった:これまでより ずっと軽い坂 で出る、じっとしているのに出る。
  • ② 起こる回数が増えた:月に1回だったのが、週に何度も、というように。
  • ③ 痛みが強く、長くなった:これまでより明らかに強い、数分では治まらない。
  • ④ ニトログリセリン(舌下錠)が効きにくくなった:いつもなら効くお薬で、治まらない・何回も必要になる。
安定した狭心症は発作が一定だが、不安定になると発作が強く頻回になり心筋梗塞の危険が高まることを示す図
図3 いつものパターンが崩れ、強く・長く・頻回になってきたら「不安定」のサイン。急いで対応が必要です

これら4つの変化は、「あと一歩で心筋梗塞」というサインと考えられています。当てはまるときは、できるだけ早く受診してください。とくに、いつもと違う強い胸の症状が 安静にしていても続く 場合は、迷っている時間が惜しいです。

数分以上続く胸の痛みがあるとき

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迷わず救急車を呼んでください。

狭心症の方が ニトログリセリン(舌下錠)を使っても、数分たっても胸の痛みが治まらない ときは、急性心筋梗塞に移行しているおそれがあります。「大げさかも」と遠慮せず、クリニックではなく、迷わず119番です。詳しくは、前回(第8回・急性心筋梗塞)でもお話ししています。

05どんな検査をするの?

狭心症が疑われるとき、まず大切なのは 「どんなときに、どんな症状が、どのくらい」出るのか という、患者さんご自身のお話です。これが診断のいちばんの手がかりになります。そのうえで、次のような検査を組み合わせていきます。

  • 心電図:発作が起きているときの心電図は、大きな手がかりです。ただし、発作は診察室で都合よく起きてくれるとは限りません。
  • ホルター心電図(24時間心電図):小さな機械を身につけて、日常生活のあいだの心電図を記録します。夜間や早朝に起こる冠攣縮性狭心症を捉えるのに役立ちます。
  • 運動負荷心電図:階段の上り下りや自転車こぎで、あえて心臓に負担をかけ、労作性狭心症のサインが出るかを確かめます。
  • 心エコー図検査:超音波で心臓の動きやポンプ機能を調べます。当院でも当日に行えます。
  • 血液検査:コレステロールや血糖など、動脈硬化のリスクを調べます。
  • 冠動脈CT検査:体を傷つけずに、冠動脈の狭さを立体的に調べられる検査です(連携する専門病院で行います)。

さらに詳しく調べる必要があるときは、冠動脈造影検査(カテーテル検査) を行います。手首や足の付け根の動脈から細い管を入れて、冠動脈を直接撮影する検査です。冠攣縮性狭心症を確かめるための「薬を使った誘発試験」も、この検査のなかで行うことがあります。

安定狭心症の多くは、まず 体を傷つけない検査 で見当をつけることができます。当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)では、心電図・ホルター心電図・心エコー・血液検査などで初期の評価を行い、より詳しい検査が必要な場合は、連携する専門病院へスムーズにご紹介します。検査の進め方や必要性は、施設ごとの方針が優先されますので、通院先の指示に従ってください。

06治療の中心は「お薬」

安定狭心症の治療は、お薬と生活習慣が土台です。急性心筋梗塞のような緊急の処置とは異なり、多くの場合、落ち着いてじっくり取り組むことができます。お薬には、大きく分けて2つの役割があります。

役割① 発作を抑える・防ぐ

発作が起きたときに使うお薬の代表が、ニトログリセリン(舌下錠)です。舌の下に置いて溶かすと、すばやく血管を広げ、発作をやわらげてくれます。座って休みながら使うのが安心です。

発作を予防するお薬は、タイプによって少し変わります。ここは大切なポイントです。

  • 労作性狭心症:心臓の負担を減らすお薬(β遮断薬)や、血管を広げるお薬(カルシウム拮抗薬・硝酸薬)などを使います。
  • 冠攣縮性狭心症カルシウム拮抗薬が治療の主役になります。血管のけいれんをやわらげ、発作を防ぎます。

冠攣縮性狭心症では、一部のお薬(β遮断薬)を単独で使うと、かえって発作が起こりやすくなることがあります。だからこそ、「どちらのタイプか」を見極めることが大切なのです。市販薬や他の病気のお薬とののみ合わせも含め、お薬は必ず医師と相談しながら選びましょう。

役割② 動脈硬化の進行と、心筋梗塞を防ぐ

労作性狭心症のおおもとには、動脈硬化があります。発作を抑えるだけでなく、その先の急性心筋梗塞を防ぐための治療も、同じくらい大切です。

  • 血液をサラサラにするお薬(抗血小板薬):血のかたまり(血栓)ができるのを防ぎます。
  • コレステロールを下げるお薬(スタチンなど):悪玉コレステロール(LDL)をしっかり下げることが、プラークの安定につながります。目標値は一人ひとり異なります。
  • 血圧・血糖を整えるお薬:高血圧や糖尿病がある方は、これらの管理も再発予防のかなめです。

安定狭心症は、お薬でしっかりコントロールできる方が多い病気です。症状が落ち着いても、自己判断でお薬をやめないことが、いちばん大切です。気になることがあれば、やめる前に必ずご相談ください。

お薬でうまくいかないときは ― 血行再建という選択肢

お薬でも症状がコントロールしきれない場合や、検査で 血管の狭さが強い ことがわかった場合には、狭くなった血管を広げる 「血行再建(けっこうさいけん)」 という治療が選択肢になります。カテーテルで血管を広げる治療(PCI)や、冠動脈バイパス手術などです。

ここが、急性心筋梗塞との大きな違いです。安定狭心症の血行再建は、多くの場合「緊急」ではありません。検査の結果をもとに、メリットと負担を 患者さんとよく相談して、落ち着いて決めていく ことができます。「すぐに手術」とあわてる必要はありません。カテーテル検査やカテーテル治療については、次回以降のブログで、あらためて詳しくお話しします。

07生活の中でできること ― いちばんの薬は、毎日の習慣

狭心症と長く上手に付き合っていくうえで、お薬と同じくらい大切なのが、毎日の生活習慣です。土台がしっかりしていれば、お薬もよく効き、発作も心筋梗塞も遠ざけることができます。

狭心症の治療は、生活習慣の改善を土台に、お薬、必要な方には血行再建という三段階で考える図
図4 治療は三段階。生活習慣の改善という「土台」があってこそ、お薬も血行再建も生きてきます
  • 禁煙:すべての狭心症で最も大切です。とくに 冠攣縮性狭心症では、たばこが最大の引き金。禁煙だけで発作が減る方もいます。
  • 食事:塩分・脂質を控えめに。野菜や魚を中心に、腹八分目を心がけましょう。
  • 運動:無理のない範囲で、続けられる運動を。ただし 運動の内容は必ず主治医と相談してから始めてください。
  • お酒・寒さ・ストレス:飲みすぎ、冬の朝の冷え込みや入浴前後の急な温度差、強いストレスは、とくに冠攣縮の発作を誘います。
  • 血圧・脂質・血糖の管理:健診の数値が気になる方は、早めの対策を。動脈硬化を進めない、いちばんの近道です。

当院でのフォローアップ

安定狭心症は、身近なクリニックで、長く見守っていける病気です。

えぷろんクリニックでは、お薬の調整、血圧や採血のチェック、禁煙や生活習慣のご相談を、循環器内科の専門医のもとで行っています。より詳しい検査や血行再建が必要なときは、連携する専門病院と協力しながら、安心して日常を送っていただけるようお手伝いします。

08最後に ― 「予告」に、早めに気づいて

安定狭心症は、心臓が前もって出してくれる 「予告サイン」 です。急性心筋梗塞のように突然命を脅かすものではなく、正しく向き合えば、お薬と生活習慣で、日常を守りながら付き合っていける病気です。

「決まった坂道で、決まって胸が重くなる」「夜中や明け方に、胸が締めつけられる」――そんな心当たりがあれば、それは受診のよいきっかけです。当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)で、いつでもご相談ください。

そして、いちばん大切なことを、もう一度。狭心症の いつものパターンが崩れてきたとき――強く、長く、頻回に、安静時にも出る、ニトロが効きにくい。そんなときは、心筋梗塞の一歩手前のサインです。数分以上続く胸の痛みは、迷わず119番を。

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第10回 冠動脈造影検査(カテーテル検査) ― 心臓の血管を、直接のぞいてみる

次回は、狭心症や心筋梗塞の診断で登場する「冠動脈造影検査(カテーテル検査)」について。どんな検査で、何が分かるのか、どんな準備が必要かを、やさしくお話しします。

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CLINIC INFORMATION

当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。

夏季休業のお知らせ

平素より当院をご利用いただき、誠にありがとうございます。

誠に勝手ながら、8月17日(月)〜8月19日(水)は夏季休業とさせていただきます。

患者さまにはご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。