心臓のはなし、やさしくお届けします

経皮的冠動脈形成術(PCI)ってどんな治療? ― カテーテルで、狭くなった血管を広げる

経皮的冠動脈形成術(PCI)ってどんな治療?
― カテーテルで、狭くなった血管を広げる ―

「検査で血管が狭いと言われ、カテーテル治療を勧められた」
「ステントを入れる、と聞いたけれど、そのあとどうなるの?」
「治療のあと、お薬はずっと続くの?」
――前回の冠動脈造影検査からつながる治療が、経皮的冠動脈形成術(PCI) です。狭くなった冠動脈を、カテーテルで内側から広げる治療。今回は、その中身と、治療後の付き合い方を、やさしくお話しします。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01PCIって、どんな治療?

経皮的冠動脈形成術(けいひてき かんどうみゃく けいせいじゅつ) は、手首や足の付け根の動脈からカテーテルを入れて、狭くなった冠動脈を内側から広げる治療です。英語の頭文字をとって PCI とも呼ばれます。

「経皮的」は「皮膚の上から(カテーテルで)」という意味で、胸を開く手術ではありません。前回(第10回)の冠動脈造影検査と同じ入り口・同じ要領で行うため、体への負担は比較的軽い治療です。検査で狭さの「地図」を見たあと、同意のうえで、その流れでそのまま治療に進むこともあれば、日を改めて行うこともあります

PCIは、狭くなったり詰まりかけたりした血管を広げて、血液の通り道を取り戻す治療です。うまくいけば、胸の症状がやわらぎ、日常が楽になります。

02どんなときに行うの?

PCIには、大きく分けて「急いで行う場合」と「予定して行う場合」があります。

  • 急いで行うPCI急性心筋梗塞(第8回)のように、血管が詰まってしまったとき。一刻も早く血管を開けることが、心臓の筋肉を救います。
  • 予定して行うPCI安定狭心症などで、検査で強い狭窄が見つかったとき。落ち着いて計画的に行います。

安定狭心症の場合、PCIは主に 胸の症状をやわらげること が目的です。命に関わる緊急ではないため、お薬での治療とよく見比べて、その方に合っているかを一緒に考えて決めます。「狭い=すぐにPCI」というわけではありません。

03治療は、どんなふうに進むの?

検査(第10回)と同じ入り口から、次のように進みます。

  • カテーテルを冠動脈まで進める

    検査と同じ要領で、手首などからカテーテルを入れ、狭くなっている場所の近くまで進めます。

  • 細いワイヤーを、狭い場所に通す

    髪の毛ほどの細いガイドワイヤーを、狭くなった部分の先まで通します。これが治療の「レール」になります。

  • バルーン(風船)で広げる

    狭い場所で 小さな風船(バルーン)をふくらませ、血管を内側から押し広げます。

  • ステントを入れて支える

    多くの場合、広げた血管に ステント(網目状の金属の筒) を留置し、内側から支えて、また狭くなるのを防ぎます。

  • 仕上げに、通りを確認する

    もう一度造影して、血液の流れが良くなったことを確かめたら終了です。

なお、カルシウムの沈着(石灰化)が強くて硬い血管では、特殊な器具で下ごしらえをしてから広げることもあります。所要時間や入院の期間は、内容や施設によって異なります。

04バルーンとステント ― 血管を広げて、支える

PCIの中心になるのが、バルーンステントです。

狭い血管をバルーンで広げ、ステントで支える、PCIの3ステップの図
図1 狭い血管を風船で広げ、網目状の金属の筒(ステント)で内側から支えます

バルーンだけで広げると、時間がたって また狭くなってしまう ことがあります。そこで、多くの場合はステントを入れて、広げた状態を保ちます。

現在は、再狭窄(さいきょうさく=また狭くなること)を防ぐ薬で覆われたステント(薬剤溶出性ステント) が広く使われています。ステントの表面にしみ込ませた薬が、血管の内側が過剰に厚くなるのを抑え、再び狭くなりにくくしてくれます。

薬で覆われていないステントは内側が厚くなり再狭窄しやすいが、薬で覆われたステントは広がりが保たれることを比べた図
図2 薬で覆われたステントは、血管の内側が厚くなりすぎるのを抑え、再狭窄を防ぎます(断面のイメージ)

入れたステントは、基本的にそのまま血管の中に留まり、時間とともに 体の血管になじんでいきます。取り出す必要はありません。

05治療のあとに続く、大切なお薬

ステントを入れたあと、いちばん大切といってもよいのが、抗血小板薬(こうけっしょうばんやく=血液をサラサラにするお薬) です。ステントの表面に血のかたまり(血栓)ができるのを防ぎ、治療した血管を守ります。

このお薬は、一定期間は2種類(2剤) をのみ、その後は 主治医の判断で1種類(1剤) に減らしていくのが一般的です。減らす時期は、出血のリスクなどをみて、一人ひとり決めていきます。

治療後の抗血小板薬は、はじめは2剤、期間をみて1剤へ、その後も続けることを示した図
図3 抗血小板薬は、はじめ2剤、期間をみて1剤へ。その後も続けます。自己判断での中止は禁物です

抗血小板薬について、いちばん大切な2つのお願いです。
自己判断でやめないでください。勝手に中止すると、ステントが血栓で詰まる「ステント血栓症」の危険があります。まれですが、心臓に大きなダメージを与えます。
歯の治療・手術・内視鏡などの前は、必ず主治医に相談を。勝手にやめるのも、勝手に続けるのも避け、事前に相談して調整してもらいましょう。

06気になること、そして治療後の生活

治療のあとに気になりやすい2つのことと、これからの生活についてです。

  • 再狭窄:薬で覆われたステントのおかげで、同じ場所がまた狭くなることは ぐっと少なくなりました(数%程度)。ただし、喫煙を続けたり、お薬をやめたりすると起こりやすくなります。
  • ステント血栓症:まれですが、起きると心臓へのダメージが大きい合併症です。抗血小板薬をきちんと続けることが、いちばんの予防になります。
Q. 入院期間は?

内容・施設によります

予定して行うPCIでは、短い入院で済むことが多いですが、状態や施設によって異なります。受ける施設の説明に従ってください。

Q. 仕事や運動は?

段階的に、相談しながら

多くの方は、しばらくすると日常の生活に戻れます。仕事や運動の再開時期は、主治医の指示に従って、無理なく段階的に進めましょう。

PCIは「広げて終わり」ではありません

PCIは、狭くなった血管を広げる治療ですが、動脈硬化そのものが治るわけではありません。だからこそ、治療後の お薬と生活習慣 が、これからをいちばん左右します。

禁煙・血圧や脂質・血糖の管理・心臓リハビリテーション・定期受診――こうした地道な取り組みが、再狭窄や新しい病変を防ぎ、治療の効果を長持ちさせます。

07最後に ― 広げた通り道を、長く守るために

経皮的冠動脈形成術(PCI)は、狭くなった血管を広げて、日常を取り戻す治療です。多くの方が、治療後に胸の症状がやわらぎ、生活が楽になります。

そして、その効果を長く保つ「仕上げ」が、お薬を続けることと、生活習慣を整えることです。急性期の治療は連携する専門病院で行われますが、その後の お薬の継続・血圧や採血のチェック・生活のご相談 は、当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)のような身近なクリニックの役目です。専門病院と連携しながら、安心して日常を送っていただけるよう、お手伝いします。

治療を受けたあとに、いちばん覚えておいていただきたいこと。抗血小板薬は、自己判断でやめない。そして、気になることは、やめる前に必ずご相談ください。それが、広げた通り道を長く守る、いちばんの近道です。

NEXT

第12回 微小循環障害 ― 検査では見つかりにくい、細い血管の不調

次回は、いま注目されている「微小循環障害」について。冠動脈造影では見つけにくい、目に見えないほど細い血管の不調が、胸の症状を起こすことがあります。そのしくみを、やさしくお話しします。

えぷろんクリニックのご案内

CLINIC INFORMATION

当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。

夏季休業のお知らせ

平素より当院をご利用いただき、誠にありがとうございます。

誠に勝手ながら、8月17日(月)〜8月19日(水)は夏季休業とさせていただきます。

患者さまにはご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。