第 8 回心臓の病気について
急性心筋梗塞ってどんな病気?
― 数分以上続く胸の痛みは、迷わず救急車を ―
「胸が締めつけられるように痛い、それがずっと続く」
「冷や汗が出て、なんとも言えず気持ちが悪い」
「いつもの胸の痛みより、明らかに強い、長い」
――そんなとき、それは 急性心筋梗塞 のサインかもしれません。今回は、命に関わるこの病気について、「いざというときの判断」を中心にやさしくお話しします。
えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。
このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。
01急性心筋梗塞って、どんな病気?
心臓は、休むことなく全身に血液を送り出すポンプです。そのポンプ自身(心臓の筋肉)にも、酸素と栄養を運ぶ専用の血管が走っています。これを 冠動脈(かんどうみゃく) といいます。
急性心筋梗塞(きゅうせいしんきんこうそく) は、この冠動脈が 突然詰まってしまう病気です。血液が流れなくなった先の心臓の筋肉は、酸素と栄養が届かず、時間とともに壊れていきます(壊死)。

図1 心臓自身を養う冠動脈が血のかたまりで詰まり、その先の心筋が壊死していきます
急性心筋梗塞は、時間との勝負の病気です。詰まった血管を1分でも早く開けてあげれば、それだけ多くの心筋を救うことができます。「胸が痛いけど、もう少し様子を見よう」が、命取りになることがあるのです。
02なぜ起こるの? ― 動脈硬化と「プラーク」のはなし
冠動脈が突然詰まる、その引き金は 動脈硬化(どうみゃくこうか) にあります。
動脈硬化が進むと、血管の壁の中に コレステロールなどの「お粥(かゆ)」のようなかたまり(プラーク) ができていきます。これが少しずつ大きくなると、血管の内側が狭くなり、運動したときなどに胸の痛みが出るようになります。これが 「狭心症(きょうしんしょう)」 です。
急性心筋梗塞は、この プラークが突然破れて、その場所で一気に血のかたまり(血栓)ができてしまうことで起こります。血管が完全にふさがってしまい、その先の心筋が壊れ始めるのです。
こんな方は要注意 ― リスク因子
動脈硬化を進めてしまう代表的な要因(リスク因子)が、次のようなものです。これらが多い方ほど、急性心筋梗塞を起こす可能性が高くなります。
- 高血圧:血管の壁を常に押し続け、傷つけます。
- 脂質異常症:悪玉コレステロール(LDL)が高いと、プラークができやすくなります。
- 糖尿病:血管そのものを傷つける大きな原因です。糖尿病の方は、心筋梗塞のリスクが何倍にもなります。
- 喫煙:血管を収縮させ、傷つけ、血栓もできやすくします。やめれば、リスクは下がっていきます。
- 肥満・運動不足:他のリスクと重なって、影響を大きくします。
- 家族歴:ご家族に若くして心筋梗塞や狭心症を起こした方がいる場合は、体質的にリスクがあるかもしれません。
- 年齢・性別:男性は40代から、女性は閉経後から急にリスクが上がります。
これらのリスク因子は、気づいて、向き合えば、減らせるものばかりです。今は症状がなくても、健診の数値が気になる方は、ぜひ早めにご相談ください。
03症状 ― 見逃してはいけないサイン
急性心筋梗塞の症状は、人によってかなり違います。けれども、共通する 「いつもと違う」感覚 があります。
典型的な症状
- 胸の中央が、押しつぶされるような・締めつけられるような痛み:「胸が重い」「象に乗られているよう」と表現されることもあります。
- その痛みが、数分以上続く:ちくっと一瞬で消える痛みとは違い、持続するのが特徴です。
- 冷や汗、吐き気、嘔吐:胸の痛みと一緒に、こうした症状が現れることもあります。
- 息苦しさ、めまい、強い不安感:「このまま死んでしまいそう」という強い恐怖感を覚える方もいます。
- 放散痛(ほうさんつう):痛みが胸だけでなく、左肩・左腕・あご・首・背中などに広がることがあります。

図2 胸の中央が「数分以上続いて痛む」のが基本ですが、あごや左腕、冷や汗などの形で現れることも
注意 ― 「典型的でない」場合があります
気をつけたいのは、典型的な胸の痛みが出ないことがあることです。特に次のような方では、症状がはっきりしないために、見逃されてしまいがちです。
- ご高齢の方:胸痛がはっきりせず、「なんとなくだるい」「息が苦しい」「気持ちが悪い」が主な訴えのことがあります。
- 糖尿病の方:神経の働きが弱まっているため、痛みを感じにくく、症状が軽く感じられることがあります(無痛性心筋梗塞)。
- 女性:男性と比べて、胸痛よりも疲労感・息苦しさ・吐き気・あごの痛みなどが前面に出ることがあります。
これらに当てはまる方は、「胸が痛くないから大丈夫」とは限りません。「いつもと違う、何か変だ」という感覚を、ぜひ大切にしてください。
04前ぶれを見逃さないで ― 不安定狭心症のサイン
急性心筋梗塞は、「ある日突然」のように見えて、実は前ぶれがあることが少なくありません。その代表が、安定していた狭心症が悪化する「不安定狭心症(ふあんていきょうしんしょう)」です。
これまで安定していた狭心症のある方は、次の3つの変化に特に気をつけてください。
- ① いつもより、痛みが強くなった:同じ動作で、これまでより明らかに痛みが強い。
- ② 痛みが起こる回数が増えた:これまで月に1回だったのが、週に何度も起こるようになった、など。
- ③ 安静にしているときにも、痛みが出るようになった:階段や坂道などの動作と関係なく、じっとしているのに痛みが起こる。
これら3つの変化は、「あと一歩で心筋梗塞」というサインと考えられています。狭心症と診断されている方は、いつもの胸痛と少しでも違う変化を感じたら、迷わず受診してください。夜間や休日であれば、救急車を呼ぶことも選択肢になります。
「ちくっと」と「数分以上続く」の違い
胸の痛みには、心配のいらないものもあります。判断の目安として、次の違いを覚えておいてください。
様子を見てよい
ちくっと一瞬の痛み
「ちくっ」とした一瞬の痛みや、数秒で消える痛み。深呼吸や体の向きで変わる痛み。多くは肋骨や筋肉、神経による痛みで、心臓が原因のことは少ないとされます。
救急車を考えて
数分以上続く胸の痛み
胸の中央が 5分・10分・それ以上 締めつけられるように痛む。冷や汗、吐き気、あごや左腕への放散痛を伴う。これは急性心筋梗塞のサインかもしれません。
05いざというときの対応 ― 迷ったら、119番
この回でいちばんお伝えしたい、大切なメッセージです。
数分以上続く胸の痛みがあるとき
119
迷わず救急車を呼んでください。
「狭心症かもしれないし、ただの肋骨の痛みかも……」と判断するのは、医療者の仕事です。患者さんやご家族には、その見分けがつかなくて当然です。「いつもと違う、強い、長い胸の痛み」を感じたら、迷わず119番です。
こんなとき、特に救急車を
- 胸の中央の痛みが 5分以上続いている
- 胸の痛みに加えて、冷や汗・吐き気・息苦しさ がある
- 意識が遠のく、ふらつく感覚がある
- 狭心症の方で、ニトロ(舌下錠)を使っても痛みがおさまらない
- 狭心症の方で、「いつもと違う」胸痛を感じる
胸の痛みが続くときは、クリニックではなく救急車を呼んでください。急性心筋梗塞は、専門病院での24時間体制の緊急治療(カテーテル治療)が必要な病気です。クリニックを経由していると、その分だけ治療が遅れ、救えるはずだった心臓の筋肉が失われてしまいます。
救急車を待つあいだに
- 無理に動かず、楽な姿勢で安静にします。座っているほうが楽なら、座ったままで構いません。
- 狭心症と診断されていて ニトロ(舌下錠) をお持ちの方は、まず1錠使ってみてください。それで痛みが消えなければ、急性心筋梗塞の可能性が高まります。
- 救急隊が来たら、飲んでいるお薬の情報(お薬手帳) をすぐ渡せるようにしておくと助かります。
06どんな治療をするの? ― カテーテルで、詰まった血管を開ける
救急車で運ばれた病院では、心電図や血液検査などで急性心筋梗塞を診断したあと、できるだけ早く 詰まった冠動脈を開ける治療 が行われます。
カテーテル治療(PCI)が中心
現在の急性心筋梗塞の治療の中心は、経皮的冠動脈インターベンション(けいひてき かんどうみゃく インターベンション、PCI) と呼ばれるカテーテル治療です。
手首や太ももの付け根の動脈から細い管(カテーテル)を冠動脈まで進めて、詰まっている場所で バルーン(風船)を膨らませて血管を広げ、必要に応じて ステント(網目状の金属の筒) を入れて血管を支えます。
急性心筋梗塞では、「いかに早く血管を開けるか」が、その後の心臓の働きを大きく左右します。発症から治療までの時間が短いほど、救える心筋が多くなります。だからこそ、救急車を呼ぶ判断の 「迷わなさ」 がとても大切なのです。
そのほかの治療
- 血液をサラサラにするお薬:再び血栓ができないようにするため、複数のお薬が使われます(抗血小板薬など)。
- 心臓の負担を減らすお薬:血圧や心拍数を整えるお薬を、長く続けていきます。
- 血栓溶解療法:カテーテル治療がすぐに行えない場合に、血栓を溶かすお薬を使うこともあります。
07退院後の生活と、再発を防ぐために
急性心筋梗塞の治療を受けた後の生活は、「もう一度起こさないため」 がいちばんの目標になります。これは、もとになっている動脈硬化への取り組みでもあります。
| お薬の継続 | 抗血小板薬・コレステロールを下げるお薬・心臓を守るお薬など、複数のお薬を 長く続けていくことが基本です。自己判断で中止しないことが、いちばん大切です。 |
|---|---|
| 心臓リハビリテーション | 専門のスタッフのもとで、無理のない運動を段階的に行います。心臓の働きと体力の回復を助けるだけでなく、再発予防にもつながります。 |
| 生活習慣の見直し | 禁煙・減塩・適度な運動・体重管理・お酒の控えめ。一気にすべては難しいので、できることから少しずつ。 |
| リスク因子の管理 | 高血圧・糖尿病・脂質異常症がある方は、これらを しっかり治療し続けることが、再発予防のかなめです。 |
| 定期受診 | 専門病院での定期チェックに加えて、身近なクリニックでの日常的な見守りも大切です。 |
当院でのフォローアップ
急性心筋梗塞の急性期治療は専門病院で行われますが、退院後の長いお付き合いは、地域のクリニックの役目です。
えぷろんクリニックでは、退院後の お薬の継続・血圧や採血のチェック・生活習慣のご相談 を、循環器内科の専門医のもとで行っています。専門病院との連携を保ちながら、患者さんが安心して日常を送れるよう、お手伝いします。
08最後に ― 「迷わなさ」が命を救います
急性心筋梗塞は、命に関わる病気です。けれども、早く治療にたどり着ければ、命を救い、心臓の働きも守ることができる病気でもあります。
そのために必要なのは、立派な医学知識ではなく、「数分以上続く胸の痛みは、迷わず119番」 という、たったひとつの判断です。「もしかしたら大げさかも」と遠慮する必要はありません。救急隊や病院の医師は、その判断を歓迎します。
そして、心筋梗塞を 「起こさないため」「もう一度起こさないため」 の取り組みは、ふだんからの地道な積み重ねです。血圧、コレステロール、血糖、たばこ――気になることがあれば、当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)で、いつでもご相談ください。
もう一度、いちばん大切なことを。数分以上続く胸の痛みは、クリニックではなく、迷わず119番。このひとつを覚えておくだけで、ご自身やご家族の命を救えるかもしれません。
NEXT
第9回 安定狭心症 ― 「日常」のなかで付き合う、もうひとつの冠動脈の病気
次回は、急性心筋梗塞と対になる病気「安定狭心症」について。日常での付き合い方、お薬、カテーテル治療、生活習慣の見直しまで、やさしくお話しします。
えぷろんクリニックのご案内
CLINIC INFORMATION
当院について
えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。
- 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
- 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
- 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
- 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
- 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています
診療理念
「心に寄り添い、信頼される医療の提供」
医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。