からだの話と日常 / 医学の歴史・心臓の検査
心臓の中へ細い管を進める「心臓カテーテル」。その歴史には、医師が自分自身を被験者にした実験があります。
1929年、ドイツの医師ヴェルナー・フォルスマンは、自分の腕の静脈からカテーテルを入れ、心臓まで届いたことをX線写真で記録しました。この試みは、後の心臓カテーテル研究につながる重要な一歩となりました。[1]
この記事の目次
1929年、自分の心臓へカテーテルを進めた医師
フォルスマンが考えていたのは、血管を通して心臓へ薬などを届ける方法でした。胸の外から心臓を直接刺す方法に代わる経路を探っていたのです。[1]
彼は自分の左腕の静脈から管を進め、X線で先端が右心房という、全身から戻った血液が入る部屋にあることを確認しました。論文には、管を入れた状態で階段を通ってX線室へ移動したことも記されています。[1]
ただし、これは現在の医療でまねるべき方法ではありません。一人の実験が成功しても、検査の安全性や有用性が証明されたことにはならないからです。
自己実験から27年後、1956年のノーベル賞へ
その後、クールナン、リチャーズらの研究によって、心臓の中の圧力や血液の酸素量などを調べ、心臓・肺の働きを理解する方法へと発展していきます。1941年には、クールナンとレンジズによる人の右心房カテーテル法の報告も発表されました。[2][3]
- 1929年
- フォルスマンが自己実験を報告
- 1940年代
- 後続の研究者が、循環の働きを調べる方法へ発展
- 1956年
- フォルスマン、クールナン、リチャーズの3人がノーベル生理学・医学賞を受賞
自己実験から受賞までは27年。重要なのは、驚くような実験だけでなく、その後の検証が診療に役立つ技術へ育てたことです。フォルスマンが現在の冠動脈造影やステント治療を、その場で完成させたわけではありません。[3][4]
心臓カテーテル検査と、冠動脈の治療は何が違う?
カテーテルとは、体内へ入れる細い管です。「心臓カテーテル」という名前でも、目的によって調べる場所や使用する血管が異なります。[8]
| 区分 | 主に行うこと |
|---|---|
| 右心カテーテル検査 | 静脈から管を進め、心臓や肺へ向かう血管の圧力、血液の流れなどを調べます。心不全や肺高血圧症の評価に用いることがあります。 |
| 冠動脈造影 | 動脈から管を進め、造影剤で心臓の筋肉を養う冠動脈を映し、狭くなった場所などを調べます。 |
| 冠動脈カテーテル治療(PCI) | 必要に応じて、狭くなった冠動脈をバルーンやステントで広げる治療です。検査そのものとは区別します。 |
フォルスマンの実験は、このうち静脈から心臓へ入る方法の歴史につながります。現在、冠動脈造影で狭窄が見つかっても、全員にその場でステント治療を行うわけではなく、症状や病変、全身の状態から判断します。[1][4]
胸痛があれば、すぐカテーテル検査が必要ですか?
いいえ。症状の経過、診察、心電図、採血、心エコーなどを踏まえ、目的に合う検査を選びます。冠動脈CTなど、カテーテルを使わない方法で調べることもあります。一方、急性心筋梗塞などが疑われるときは、緊急の検査・治療が必要になります。[4][8]
検査では出血、血管の損傷、不整脈などが起こる可能性があり、造影剤を使う場合は腎機能や過去のアレルギー歴も確認します。必要性と危険性を比べて選ぶことが大切です。[4][5]
検査を勧められたときは、「何を調べる検査か」「別の方法はあるか」「治療を同時に行う可能性はあるか」を確認してください。服薬の中止・変更は自己判断で行わず、検査担当の医療機関の指示に従います。[4][5]
胸痛・息切れは、受診の緊急性を見極めましょう
症状がいったん治まっていても、歩くと胸が苦しくなる、息切れが増えた、動悸を繰り返す場合は、早めに医療機関へご相談ください。初めての症状や急な悪化があるときは、普段の受診日まで待たないことが大切です。[7]
姫路市で心臓の検査が気になる方へ
えぷろんクリニックでは、循環器内科の視点から診察、心電図、採血などを行い、高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理も含めて相談をお受けしています。カテーテル検査や治療などが必要な場合は、対応する専門医療機関へ紹介します。[7]
「心臓の検査」と聞くと、すぐ大がかりな処置を想像するかもしれません。まずは、何を確かめる必要があるかを整理することが出発点です。
よくある質問
Q1.心臓カテーテル検査は、すべて冠動脈を調べる検査ですか?
違います。右心カテーテル検査は心臓・肺循環の圧力など、冠動脈造影は冠動脈の狭窄などを調べます。目的によって方法が異なります。[4]
Q2.胸痛があれば、必ずカテーテル検査を受けますか?
必ずではありません。症状や心電図、採血、画像検査などから必要性を判断します。ただし、急性心筋梗塞などが疑われる場合には緊急対応が必要です。[4][8]
Q3.カテーテル検査を受けると、必ずステントが入りますか?
いいえ。検査と治療は別です。ステント治療などの必要性は、冠動脈の状態や症状などを踏まえて判断します。[4]
姫路市で胸痛や息切れ、動悸にお悩みの方は、えぷろんクリニックへご相談ください。生活習慣病や心臓の病気が心配な方も、症状や検査結果を確認しながら、必要な検査や専門医療機関との連携を行います。
突然の強い症状がある場合は、通常の受診予約ではなく119番で救急要請してください。
参考文献・公的情報
- Forssmann W. Die Sondierung des Rechten Herzens. Klinische Wochenschrift. 1929;8:2085–2087. doi:10.1007/BF01875120.
- Cournand A, Ranges HA. Catheterization of the Right Auricle in Man. Proc Soc Exp Biol Med. 1941;46:462–466. doi:10.3181/00379727-46-12029.
- Forssmann-Falck R. Werner Forssmann: a pioneer of cardiology. Am J Cardiol. 1997;79:651–660. doi:10.1016/S0002-9149(96)00833-8.
- 米国国立心肺血液研究所(NHLBI). Cardiac Catheterization: Who Needs It. 検査・治療の目的と検査前の評価。
- 米国国立心肺血液研究所(NHLBI). Cardiac Catheterization: Recovery. 検査後の観察と起こりうる合併症。
- 政府広報オンライン. もしものときの救急車の利用法 どんな場合に、どう呼べばいいの? 2025年9月22日。
- えぷろんクリニック. 循環器内科・診療案内. 当院の診療内容。
- 米国国立心肺血液研究所(NHLBI). Cardiac Catheterization. 心臓カテーテル検査の概要。