心臓のはなし、やさしくお届けします

微小血管狭心症ってどんな病気?― 検査では見つけにくい、細い血管の不調 ―

第 12 回心臓の病気について

微小血管狭心症ってどんな病気?
― 検査では見つけにくい、細い血管の不調 ―

「検査では、どこも異常ありませんよ」――そう言われたのに、胸の痛みや圧迫感は消えない。あちこちの科を回っても、原因がわからないまま……。
そんな方の症状のかげに、ときどき隠れているのが、今回お話しする 微小血管狭心症(びしょうけっかんきょうしんしょう) です。心臓カテーテル検査(冠動脈造影)でも見つけにくい、“細い血管”の不調。虚血性心疾患編の締めくくりとして、やさしくお話しします。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01「第3のしくみ」― 見えない細い血管の話

心臓は、休むことなく全身に血液を送り出すポンプです。そのポンプ自身(心臓の筋肉)にも、酸素と栄養を運ぶ専用の血管 ―― 冠動脈(かんどうみゃく) が走っています(第8回・第9回でお話ししたとおりです)。

この冠動脈は、太い一本の川のように始まり、そこから だんだん枝分かれして細くなり、最後は 髪の毛ほどの細さの血管 となって、心臓のすみずみまで血液を届けます。この、いちばん細い血管のことを 微小血管(びしょうけっかん) といいます。

ここで大切なことを一つ。第10回でお話しした 冠動脈造影(心臓カテーテル検査) で写るのは、太い血管までです。その先の微小血管は、あまりに細くて、レントゲンには 写りません。だからこそ「造影では異常なし」と言われても、その奥で不調が起きていることがあるのです。

冠動脈が枝分かれして細くなり、造影で写る太い血管と、写らない髪の毛ほどの微小血管を対比した図

図1 造影で写るのは太い血管まで。その先の「微小血管」は細すぎて写らないため、不調が見過ごされることがあります

これまでの回で、胸の症状(狭心症)を起こす血管のトラブルを2つお話ししてきました。①動脈硬化で血管がいつも狭くなる(労作性狭心症)と、②血管が一時的にけいれんする(冠攣縮性狭心症)です。じつは、これに続く 「第3のしくみ」 があります。それが、③微小血管の不調 ―― 今回の 微小血管狭心症(冠微小血管障害・微小循環障害) です。

第8〜11回は、造影で見える 「大きな血管」 のお話でした。今回はその反対、造影では見えない「細い血管」 のお話です。胸の症状の原因は、太い血管だけとは限らない ―― これが今回いちばんお伝えしたいことです。

02なぜ起きる? 誰に多い?

微小血管の「不調」には、大きく分けて 2つのタイプ があります。どちらも、必要なときに血液をうまく届けられなくなる、という点は共通しています。

  • ① うまく広がらない:心臓がたくさん働くとき、本来は微小血管がパッと広がって血流を増やします。その「広がる力」が弱くなり、血流を増やせなくなるタイプです。
  • ② けいれんする:細い血管が一時的にキュッと縮んで(けいれんして)、血流がとぎれるタイプです。太い血管のけいれん(冠攣縮)の、細い血管版とイメージしてください。

微小血管の不調には「うまく広がらない」「けいれんする」の2つのタイプがあることを示した図

図2 微小血管が「広がりにくい」か「けいれんする」ことで、必要なときに血液が届かず、胸の症状が起こります

更年期前後の女性に、多いことが知られています

微小血管狭心症には、はっきりした特徴があります。更年期前後から閉経後の女性に多いことです。これには、女性ホルモン(エストロゲン)が関係していると考えられています。エストロゲンには 血管を守り、しなやかに保つ働き がありますが、更年期にこのホルモンが減ると、血管が広がりにくくなり、微小血管の不調が起こりやすくなるのです。

もちろん、男性やほかの年代の方にも起こります。また、高血圧・脂質異常(コレステロール)・糖尿病・喫煙といった、動脈硬化と共通する要素も、微小血管に負担をかけると考えられています。

「更年期の胸の痛み」と、微小血管狭心症

更年期のころ、動悸や息切れ、胸の痛みを感じる方は少なくありません。その多くは心配のいらないものですが、なかには 微小血管狭心症 がかくれていることがあります。

心電図や造影で「異常なし」と言われやすく、見過ごされがちな病気です。「更年期だから」と一人で我慢せず、気になる胸の症状は、一度ご相談ください。

03症状 ― ふつうの狭心症と、少し違う

微小血管狭心症の症状も、胸の圧迫感や痛み、息切れ、動悸 など、ふつうの狭心症と似ています。肩こりのような、はっきりしない不快感として現れることもあります。ただ、労作性狭心症(第9回)とは少し違う点 があり、これが見分けの手がかりになります。

労作性狭心症(第9回)

がんばったときに、決まって

坂道・階段など体を動かしたときに出て、休むと数分でおさまる。ニトログリセリン(舌下錠)がよく効く。

微小血管狭心症

労作と関係なく、長めに

動いたときとは限らず、安静時や夜間にも出ることがある。持続時間が長めのことがあり、ニトログリセリンが効きにくい場合もある。

「労作と関係なく出る」「安静にしていても出る」という点は、冠攣縮性狭心症(第9回)とも共通しています。じっさい、この2つは重なって存在することもあります。「どんなときに、どんな症状が、どのくらい続くか」 を覚えておいていただくと、診断の大きな助けになります。

症状の感じ方は一人ひとり違います。大切なのは、「なんとなくおかしい」を放っておかないこと。とくに、これまでになかった胸の症状がくり返すときは、受診のよいきっかけです。

04見逃されやすい ― でも「気のせい」ではありません

ここは、今回いちばんお伝えしたいところです。微小血管狭心症は、心電図でも、造影でも「異常なし」と出やすい病気です。そのため、原因がわからないまま、消化器の科・整形外科・心療内科などをめぐってしまう方も少なくありません。

どうか覚えておいてください。検査で異常が見つからなくても、あなたが感じている胸の症状は、決して「気のせい」ではありません。造影に写らない細い血管の不調は、これまで見つける手立てがなく、見過ごされてきただけなのです。近年ようやく、この病気に光が当たるようになってきました。

一方で、注意も必要です。「どうせ微小血管のせい」と 自己判断で決めつけないこと。同じ胸の痛みでも、太い血管が詰まる急性心筋梗塞(第8回)のように、命にかかわるものが隠れていることもあるからです。いつもと違う強い症状は、必ず医療機関で確かめましょう。

数分以上続く、強い胸の痛みがあるとき

119

迷わず救急車を呼んでください。

強い胸の痛みや圧迫感が 数分以上続く、冷や汗をともなう、安静にしても治まらない ―― こうしたときは、急性心筋梗塞など緊急の病気のおそれがあります。「微小血管のせいかも」と自己判断せず、クリニックではなく、迷わず119番です。詳しくは第8回(急性心筋梗塞)でもお話ししています。

05どんな検査をするの?

微小血管狭心症は「これ一つで確実にわかる」という検査法が、まだ確立していません。そのため、まずは ほかの原因を一つずつ確かめていく ことから始めます。入口は、第9回でお話しした狭心症の検査と同じです。

  • 問診:いつ・どんなときに・どのくらい症状が出るか。これがいちばんの手がかりです。
  • 心電図・ホルター心電図(24時間心電図):発作のときの心臓の状態を捉えます。
  • 心エコー図検査・血液検査:心臓の動きや、動脈硬化のリスクを調べます。当院でも当日に行えます。
  • 冠動脈CT・冠動脈造影(カテーテル検査):太い血管に狭窄がないかを確かめます(第10回)。

こうした検査で 太い血管には問題がない のに症状が続くとき、微小血管の不調が疑われます。より踏み込んで調べる場合には、カテーテル検査のなかで お薬を使った誘発試験 を行ったり、細い血管の血流や広がりやすさを測る特殊な検査 を行うことがあります。ただし、これらは 限られた専門施設 で行われるもので、進め方は 施設ごとの方針が優先されます

診断の第一歩は、体を傷つけない検査で、ほかの原因を見極めることです。当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)では、心電図・ホルター心電図・心エコー・血液検査などで初期の評価を行い、より詳しい検査が必要なときは、連携する専門病院へスムーズにご紹介します。

06治療の中心は「お薬」と「血管を守ること」

「特効薬」と言えるほど確立したお薬は、まだありません。それでも、症状をやわらげ、上手に付き合っていく方法はあります。あきらめる必要はありません。

  • 血管を広げ、けいれんを抑えるお薬(カルシウム拮抗薬):微小血管狭心症では、治療の中心になることが多いお薬です。血管の緊張をやわらげます。
  • 硝酸薬(ニトログリセリンなど):太い血管の発作にはよく効きますが、微小血管では効きにくいことがあるのが、少し違うところです。効き方には個人差があります。
  • 危険因子の管理:血圧・コレステロール・血糖を整えることは、血管を守るうえで欠かせません。

どのお薬をどう組み合わせるかは、症状のタイプや、ほかにお持ちの病気によって、一人ひとり変わります。合うお薬を見つけるまで、少し時間がかかることもありますので、あせらず、主治医と相談しながら調整していきましょう。漢方薬が合う方もいます。

症状が軽くなっても、自己判断でお薬をやめないことが大切です。市販薬や、ほかの病気のお薬とののみ合わせもありますので、気になることは、やめる前に必ずご相談ください。

07生活の中でできること ― 血管を、いたわる毎日

微小血管狭心症と上手に付き合ううえでも、お薬と同じくらい大切なのが、毎日の生活習慣です。血管をいたわる暮らしは、そのまま治療につながります。

  • 禁煙:たばこは、細い血管にも大きな負担をかけます。血管を守る第一歩です。
  • 食事:塩分・脂質を控えめに。野菜や魚を中心に、腹八分目を心がけましょう。
  • 運動:無理のない範囲で、続けられる運動を。ただし 内容は必ず主治医と相談してから始めてください。
  • ストレス・寒暖差・冷え:強いストレスや、急な温度差は、血管のけいれんを誘うことがあります。上手に休息を。
  • 血圧・脂質・血糖の管理:更年期は、体調とともに数値も変わりやすい時期です。健診の結果が気になる方は、早めのご相談を。

当院でのフォローアップ

微小血管狭心症は、身近なクリニックで、長く見守っていける病気です。

えぷろんクリニックでは、お薬の調整、血圧や採血のチェック、禁煙や生活習慣のご相談を、循環器内科の専門医のもとで行っています。診断に迷うときや、より詳しい検査が必要なときは、連携する専門病院と協力しながら、安心して日常を送っていただけるようお手伝いします。

08最後に ― あなたの胸の痛みに、名前を

第8回から続けてきた 虚血性心疾患編 も、今回でひと区切りです。胸の症状を起こす血管のしくみを、3つ振り返ってみましょう。

胸の症状を起こす3つのしくみ(動脈硬化・冠攣縮・微小血管の不調)を並べて示した図

図3 胸の症状を起こす3つのしくみ。今回の微小血管の不調は、造影で見えない“第3のしくみ”です

微小血管狭心症は、まだ広くは知られておらず、診断も治療も発展のとちゅうにある病気です。けれども、正しく向き合えば、お薬と生活習慣で、日常を守りながら付き合っていけるものです。

「検査では異常なし。でも、胸の症状はたしかにある」――もし、そんな心当たりがあれば、それは受診のよいきっかけです。あなたの胸の痛みに、きちんと名前と手当てを。当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)で、いつでもご相談ください。

ここまで、虚血性心疾患編(第8〜12回)にお付き合いいただき、ありがとうございました。じつは 細い血管の不調は、心臓が硬くなるタイプの心不全との関わり も注目されはじめています。次回からは、そんな 「心臓というポンプ」そのもの のお話へと、テーマを移していきます。

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第13回 慢性心不全 ― 心臓というポンプが、疲れてきたら

次回からは新しいテーマ。息切れやむくみとして現れる「慢性心不全」について、どんな状態で、どう向き合っていくのかを、やさしくお話しします。

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CLINIC INFORMATION

当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。

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夏季休業のお知らせ

平素より当院をご利用いただき、誠にありがとうございます。

誠に勝手ながら、8月17日(月)〜8月19日(水)は夏季休業とさせていただきます。

患者さまにはご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。