大動脈弁狭窄症ってどんな病気?
― 高齢化社会で最も多い弁膜症 ―
「健診で“弁が硬くなっている”と言われた」
「最近、坂道で息が切れるようになった」
そんな声でよく見つかるのが、大動脈弁狭窄症です。今回は、その仕組みから最新の治療の考え方までを、やさしく解説します。
01大動脈弁って、どこにあるの?
心臓には4つの「弁(ドア)」があります(→第1回をご参照ください)。そのなかでも、心臓のいちばん大切な出口にあるのが 大動脈弁 です。
心臓が縮んで血液をギュッと押し出すたびに、大動脈弁は開いて全身に血液を送り出し、押し出し終わるとピシャリと閉じて逆流を防ぎます。1日に約10万回。一生のうちに、休むことなく開いたり閉じたりを繰り返している、働き者のドアです。
この大動脈弁が、年齢とともに カルシウム(石灰)が沈着して硬くなり、開きにくくなる 病気が、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべん きょうさくしょう)です。
大動脈弁狭窄症は、日本人の高齢者で最も多い弁膜症です。75歳以上の方の約10人に1人、85歳以上では約4人に1人が、何らかの大動脈弁の異常を持っているといわれています。
02なぜ起こるの?
原因は大きく分けて3つあります。
① 加齢による変化(最も多い)
長年の使用で弁にカルシウムが沈着し、硬く動きにくくなります。動脈硬化と似た仕組みで進行するため、高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙などをお持ちの方は進行が早い傾向があります。
② 生まれつきの弁の形(二尖弁)
本来3枚あるはずの葉が、生まれつき2枚しかない方が約100人に1〜2人います。負担がかかりやすく、50〜60代という比較的若い時期に狭窄が進むことがあります。
③ リウマチ熱の後遺症
かつて多かった原因ですが、近年は減っています。
03ゆっくり進行 ― 3つの段階
大動脈弁狭窄症の特徴は、とてもゆっくり進むことです。10年、20年という時間をかけて、軽症から中等症、そして重症へと進行していきます。
軽症や中等症の段階では、症状はほとんどありません。だからこそ、定期的な心エコー図検査での経過観察がとても大切になります。
04重症のサイン ― 3つの代表的な症状
重症になると、次の3つの症状が現れます。これらは 「大動脈弁狭窄症の三大症状」 と呼ばれ、いずれも治療を急ぐべき重要なサインです。
これらの症状が出てから治療をしなかった場合、平均して2〜5年で命に関わる状態になるといわれています。「年のせい」と片付けず、すみやかに循環器内科を受診してください。
05どんな検査をするの?
第1回でもお話しした通り、弁膜症の診断の中心は 心エコー図検査 です。大動脈弁狭窄症の場合、この検査で以下のことが分かります。
- 弁の状態:どのくらい硬くなっているか、石灰化の程度
- 弁の開き具合:開口部の面積(重症かどうかの判定)
- 血液の流れの速さ:弁を通る血液の速度(狭ければ速くなる)
- 心臓のポンプ機能:心臓全体への影響
そのほか、必要に応じて 心電図・胸部レントゲン・血液検査・心臓CT・カテーテル検査 などを組み合わせます。特に治療を考える段階では、心臓CTで弁の形や血管の状態を詳しく調べます。
聞き慣れない言葉かもしれませんが、心エコーで 「弁口面積1.0㎠以下」「血流速度4.0m/秒以上」「平均圧較差40mmHg以上」 のいずれかに当てはまると、重症と判断します。診察の際、このような数字が出てきたら、ご自身の段階の目安にしてみてください。
06治療の選択肢
残念ながら、お薬で硬くなった弁を元に戻すことはできません。治療は、弁そのものを取り換える(または広げる)ことが中心となります。
| ① 経過観察 | 軽症〜中等症で症状がない場合。半年〜1年に1回の心エコー図でフォローします。 |
|---|---|
| ② お薬による治療 | 高血圧や心不全症状を抑える「補助的」な役割です。狭窄そのものは治せません。 |
| ③ 弁を治す治療 | 重症になったら、外科手術(SAVR)または カテーテル治療(TAVI)で弁を取り換えます。 |
外科手術(SAVR)とカテーテル治療(TAVI)
2つの治療法には、それぞれ得意な患者さんがいます。
どちらの方法を選ぶかは、年齢・全身の状態・弁や血管の形・患者さんのご希望などを総合して、循環器内科医・心臓外科医・麻酔科医などからなる「ハートチーム」で慎重に決定します。
07最新トピックス ― 治療の考え方が変わってきています
2025年、ヨーロッパ心臓病学会(ESC)から新しい弁膜症ガイドラインが発表されました。これにより、大動脈弁狭窄症の治療の考え方が大きく前進しています。
① 「症状が出てから治療」から「重症と分かったら治療を検討」へ
これまでは、症状が出てから治療を行うのが基本でした。しかし最新の研究で、無症状でも重症の方は早めに治療をしたほうが予後が良いことが分かってきています。新ガイドラインでは、無症状の重症大動脈弁狭窄症でも、治療リスクが低ければ介入を検討してよい、と推奨が変わりました。
② TAVIの対象が、より幅広い年齢層に
ヨーロッパの2025年ガイドラインでは、70歳以上ではTAVIを優先する基準が示されました。今後さらに、より若い方や、生まれつき弁が2枚しかない二尖弁の方への適応も広がっていくと予測されています。
※ なお、日本の2020年弁膜症ガイドラインでは、TAVIかSAVRかを選ぶ年齢の明確な基準は定められておらず、おおまかな目安として「80歳以上はTAVI、75歳未満はSAVR」とされています。実際の治療方針は、お一人おひとりの年齢・全身の状態・解剖学的な条件などをもとに、ハートチームで丁寧に検討します。
つまり、「症状が出るまで様子を見る」時代から、「重症と分かれば早めに対処する」時代へと変わってきているのです。
08最後に ― 早めの発見と相談を
大動脈弁狭窄症は、ゆっくり進む病気です。だからこそ、早く見つけて、適切なタイミングで治療を検討することが、長く元気に過ごす鍵になります。
「健診で心雑音を指摘された」「最近、坂道や階段で息切れがする」「ご家族が大動脈弁狭窄症と診断された」――そんな方は、お気軽にご相談ください。当院では心エコー図検査による正確な評価を行い、必要に応じて連携病院での治療もスムーズにご紹介いたします。
えぷろんクリニックのご案内
当院について
えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。
- 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや動悸の原因を総合的に診断します
- 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
- 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術が必要な場合もスムーズにご紹介します
- 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
- 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています
診療理念
「心に寄り添い、信頼される医療の提供」
医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。