弁膜症の手術ってどんな治療?
― 心臓の“ドア”を、治す・取り替える ―
第13・14回でお話しした心不全。その おおもとの原因 が、心臓の“ドア”である 弁 の不具合であることは、少なくありません。
息切れやむくみが出てきて、お薬だけでは足りなくなったとき ―― 弁そのものを治す ことが、大きな助けになります。今回は、その 外科手術 のお話です。「手術」と聞くと身構えてしまいますが、どんな治療なのかを知っておくだけで、ずいぶん気持ちが軽くなりますよ。
01どんなときに、手術を考えるの?
弁膜症(第1〜5回)は、心臓の“ドア”がうまく開かない・閉じないために、心臓に負担がかかり続ける病気です。軽いうちは、お薬と定期的な検査で見守ります。お薬は、弁そのものを治すものではなく、心臓の負担をやわらげるためのものだからです。
そして、次のようなときに、手術(弁そのものを治す治療)が検討されます。
- 症状が出てきたとき:息切れ、胸の痛みや圧迫感、失神、むくみなど。心不全のサイン(第13回)が出てきたときです。
- 弁の傷みが強いとき:症状がなくても、心エコー(第6回)で弁の傷みが強く、心臓に無理がかかり始めているとわかったとき。
ここで大切なのは、タイミングです。心臓が弱りきってからでは、手術の負担も大きく、回復も難しくなります。だからこそ、定期的な心エコーで「ちょうどよい時期」を見きわめることが、とても重要なのです。
「症状が出てから考えればいい」ではなく、症状が出る前から、定期的に見ておくこと。えぷろんクリニックでは、心エコーで弁の状態を経過観察し、手術を考える時期にさしかかったら、連携する専門病院へご紹介します。この“橋渡し”が、私たちの大切な役割です。
022つの考え方 ―「治す」か「取り替える」か
弁の手術には、大きく 2つの方法 があります。傷んだドアを 「修理する」 か、「新しいものに取り替える」 か、とイメージしてください。

できるなら 自分の弁を残せる「弁形成術」が望ましいと考えられており、とくに 僧帽弁の閉鎖不全(第3回) では、この方法が選ばれることが多くなっています。一方、弁の傷みが強く、修理では十分に治せない場合には、人工の弁に取り替える「弁置換術」を行います。
03取り替えるなら ― 機械弁と生体弁
人工の弁には、大きく 2種類 あります。どちらが優れている、というものではなく、それぞれに得意・不得意があるとお考えください。

長持ちするが、お薬が必要
とても丈夫で、ほぼ一生使えるのが利点。ただし血のかたまり(血栓)ができやすいため、血液を固まりにくくするお薬を、生涯のみ続ける必要があります。動くときに、かすかな音を感じる方もいます。
お薬は原則不要だが、劣化しうる
血液を固まりにくくするお薬が 原則として要らないのが利点(術後の一定期間や、脈の乱れがある場合などは必要)。ただし 年月とともに傷んでくることがあり、将来もう一度治療が必要になる可能性があります。
どちらを選ぶかは、年齢・持病・出血のリスク・お仕事や生活のしかた・妊娠の希望など、たくさんのことを考え合わせて決まります。一般には、お若い方には長持ちする機械弁が、ご高齢の方にはお薬の要らない生体弁が向くと考えられていますが、これはあくまで大まかな傾向です。
大切なのは、「どちらがよいか」に唯一の正解はないということ。最終的な弁の選択は、患者さんお一人おひとりの背景を十分に考慮したうえで、治療する病院で決まります。気になること・ご希望は、遠慮なく手術する先生にお伝えください。納得して選ぶことが、いちばん大切です。
04手術は、どんなふうに行われるの?
心臓の手術は、全身麻酔で行われます。手術のあいだ、心臓の動きを一時的に止める必要があるため、心臓と肺のはたらきを肩代わりする機械(人工心肺)を使い、その間に弁を治します。眠っているあいだに終わりますので、痛みや苦しさを感じることはありません。
傷の入れ方には、胸の中央を開く昔ながらの方法のほかに、近年は より小さな傷で行う方法 も広がってきました。どの方法が適しているかは、弁の場所や状態、体の状況によって変わりますので、手術する病院の先生とご相談ください。
「ハートチーム」で決めます
弁膜症の治療方針は、ひとりの医師が決めるものではありません。循環器内科医・心臓外科医・麻酔科医・看護師・リハビリスタッフなど、さまざまな専門家がチーム(ハートチーム)で話し合い、その方にとっていちばんよい方法を選びます。
「手術がよいのか」「カテーテルの治療がよいのか」「今はまだ待つべきか」―― こうした判断も、チームで検討されます。どうぞ安心してお任せください。
05手術のあと ― 回復と、これからの生活
手術のあとは、集中治療室で数日過ごしたのち、一般の病棟へ移ります。早いうちから体を動かし始める(心臓リハビリ)のが今の考え方で、少しずつ歩く距離をのばしながら、退院を目指します。入院の期間や進み方は、施設の方針や回復の具合によって変わります。

機械弁を入れた方へ ― お薬との、長いお付き合い
機械弁を入れた方は、血液を固まりにくくするお薬(抗凝固薬)を、生涯のみ続けることになります。これは、人工の弁に血のかたまりができて、弁が動かなくなったり、脳梗塞を起こしたりするのを防ぐ、とても大切なお薬です。効き具合を確かめるため、定期的な血液検査も欠かせません。
けっして自己判断で中止しないでください。急にやめると、命にかかわる合併症につながることがあります。そのうえで、次のときは 必ず主治医にご相談を。
・出血したとき(血が止まりにくい、鼻血・歯ぐきの出血が続く、黒い便、身に覚えのないあざ など)
・ほかの治療で、お薬を休む必要があるかもしれないとき(歯科の処置、手術、内視鏡検査 など)
・ほかの病院で新しいお薬を出されたとき、市販薬を使いたいとき(のみ合わせや、食べもので効きが変わることがあります)
なお、出血が止まらないとき、手足が急に動かない・しびれる・ろれつが回らないときは、緊急の対応が必要です。すぐに医療機関を受診してください。
また、人工の弁を入れた方は、細菌が弁につく感染症にも注意が必要です。歯みがきなど、お口の中を清潔に保つことが、心臓を守ることにつながります。歯科を受診するときは、「人工弁が入っている」と必ずお伝えください。なお、発熱が続くときや、傷のまわりが赤く腫れるときは、様子を見すぎず、早めに手術した病院や当院へご連絡ください。
06「手術」と聞いて、不安になったら
心臓の手術と聞けば、こわいと感じるのは当然のことです。でも、弁膜症の手術は長い歴史のなかで積み重ねられてきた治療で、多くの方が元気を取り戻し、日常に戻っておられます。「息切れがなくなって、また旅行に行けるようになった」――そんな声も、めずらしくありません。
それでも迷うとき、わからないことがあるときは、そのままにせず、聞いてください。手術する病院の先生に聞きづらいことでも、かかりつけであれば話しやすい、ということもあるでしょう。えぷろんクリニックでは、手術をすすめられたけれど迷っている、説明された内容をもう一度かみくだいて知りたい――そんなご相談も承っています。
手術の前も、あとも。えぷろんクリニックが伴走します
手術の前:定期的な心エコーで弁の状態を見守り、ちょうどよい時期を見きわめて専門病院へご紹介します。「手術と言われて不安」というご相談も、どうぞ。
手術のあと:退院後の受け皿として、体調・血圧・体重のチェック、お薬の管理(機械弁の方の血液検査を含む)、生活のご相談まで、地元で継続して見守ります。院長は 心不全を専門 とし、兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療に携わっていますので、病院との連携もスムーズです。
07最後に ― 手術は、ゴールではなくスタート
弁膜症の手術は、傷んだ心臓の“ドア”を 治す か 取り替える かして、心臓の負担を根本から軽くする治療です。大切なのは、ちょうどよい時期を逃さないこと、そして 納得して選ぶこと。そのために、日ごろの経過観察と、遠慮のない相談が力になります。
そして手術は、ゴールではなく 元気に過ごすためのスタートです。そのあとの毎日を、地元で一緒に見守らせてください。当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)で、いつでもご相談をお待ちしています。
えぷろんクリニックのご案内
当院について
えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。
- 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
- 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
- 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
- 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
- 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています
診療理念
「心に寄り添い、信頼される医療の提供」
医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。