TAVI(タビ)ってどんな治療?
― 胸を開かずに、弁を新しくする ―

前回(第15回)は、心臓の“ドア”である弁を、胸を開いて 治す・取り替える 外科手術のお話でした。
でも、「手術と言われても、年齢や体力が心配で……」という方も少なくありません。そんな方に大きな道をひらいたのが、今回お話しする TAVI(タビ) です。胸を開かず、心臓も止めずに、カテーテル(細い管)で弁を新しくする ―― そんな治療です。おもに 大動脈弁狭窄症(第2回) に対して行われます。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01TAVIって、どんな治療?

TAVI(タビ) は、経カテーテル大動脈弁置換術の略称です(「経カテーテル大動脈弁留置術」「植え込み術」とも呼ばれます)。大動脈弁狭窄症で硬く開きにくくなった弁を、カテーテルを使って、新しい弁(生体弁)に取り替える 治療です。

いちばんの特徴は、胸を開かず、心臓も止めないこと。おもに 足の付け根の血管 から、折りたたんだ小さな人工弁をカテーテルで心臓まで運び、傷んだ弁の内側で開いて固定します。古い弁は取り除かず、その中に新しい弁を “はめ込む” イメージです。

弁を新しくする治療の道すじの違い。胸を開いて行う外科手術と、足の付け根の血管からカテーテルで行うTAVIを比べた図
図1 どちらも弁を新しくする治療ですが、外科手術は「胸を開いて」、TAVIは「足の付け根の血管からカテーテルで」行います

TAVIで入るのは 生体弁(生体の組織から作られた弁)です。第15回でお話しした機械弁のように、血液を固まりにくくするお薬を生涯のむ必要は、原則ありません。かわりに、年月とともに傷んでくることがあるのは、外科の生体弁と同じです。

02外科手術と、どこが違うの?

TAVIと外科手術は、「どちらが優れている」というものではありません。それぞれに向き・不向きがあり、患者さんに合わせて選ぶ ものです。大きな違いを、並べてみましょう。

TAVI(カテーテル)

体の負担が軽く、回復が早い

胸を開かず、心臓も止めないため、体への負担が軽いのが利点。入院も短く、退院後は比較的早く元の生活に戻れます。入る弁は生体弁で、大動脈弁狭窄症が主な対象です。

外科手術(第15回)

幅広い弁の病気に対応できる

体への負担は大きめですが、さまざまな弁の状態に、確実に対応できるのが強み。機械弁・生体弁を選べ、弁を「治す(形成)」ことも、他の心臓の処置を同時に行うこともできます。

TAVIは、体の負担が軽いぶん、ご高齢の方や、これまで「手術はむずかしい」とされてきた方にも道をひらきました。今では、ご高齢の方(80歳以上が一つの目安)の大動脈弁狭窄症では、標準的な治療のひとつになっています。一方で、弁や血管の形、ほかの心臓の状態によっては、外科手術のほうが適していることもあります。

03どんな方に向いているの?

TAVIが向いているかどうかは、年齢だけでは決まりません。弁や血管の形(CT検査で詳しく調べます)、ほかの病気、体力、そしてご本人の希望まで、たくさんのことを考え合わせて判断します。

  • ご高齢の方:体の負担が軽く、回復が早いことが大きな利点になります。
  • ほかの病気があり、外科手術の負担が心配な方:肺・腎臓・肝臓などにご心配がある方の選択肢になります。
  • 以前に入れた生体弁が傷んできた方:胸を開かずに、その内側へ新しい弁を入れられる場合があります。

決めるのは「ハートチーム」

TAVIがよいか、外科手術がよいか、それとも今はまだ待つべきか ―― この判断は、ひとりの医師が決めるものではありません。第15回でお話しした ハートチーム(循環器内科医・心臓外科医・麻酔科医・看護師など)が、CTや心エコー(第6回)の結果をもちより、チームで話し合って決めます。

最終的にどの治療を選ぶかは、ご本人・ご家族のお気持ちも大切にしながら、治療する病院で決まります。どうぞ、気になることや希望は遠慮なくお伝えください。

04治療は、どんなふうに進むの?

施設によって進め方は異なりますが、おおまかな流れは次のようになります。

  1. くわしい検査で、計画を立てる

    造影CTや心エコーで、弁や血管の形・大きさをくわしく調べ、入れる弁の種類やサイズ、どの血管から入れるかを決めます。

  2. 足の付け根から、カテーテルを進める

    多くは足の付け根の血管から、折りたたんだ人工弁をカテーテルで心臓まで運びます(血管の状態によっては、別の場所から入れることもあります)。麻酔の方法は施設によります。

  3. 傷んだ弁の内側で、新しい弁を開く

    大動脈弁の位置で新しい弁を広げて固定します。古い弁は取り除かず、その内側に“はめ込む”かたちです。心臓は止めません。

  4. 数日で回復し、退院へ

    治療後は集中治療室で様子をみたのち、多くは翌日から体を動かし始めます。入院期間は施設や回復の具合によりますが、外科手術より短くなるのが一般的です。

TAVIの流れ。折りたたんだ弁を運び、自己の弁の内側のカテーテル弁の中でバルーンをふくらませて広げ、古い弁の内側に固定する様子を示した図
図2 折りたたんだ弁をカテーテルで運び、大動脈弁の位置で開いて固定します。古い弁は取り除かず、その内側で新しい弁が働きます

05治療のあと ― お薬と、これからの生活

TAVIのあとは、しばらく 血液をサラサラにするお薬(抗血小板薬) をのみます。新しい弁のまわりに血のかたまりができるのを防ぐためで、第11回(ステント治療)でお話ししたお薬と同じ考え方です。どのお薬を、どれくらいの期間のむかは、お一人おひとりの状態によって変わり、主治医が判断します。

お薬は 自己判断でやめないでください。また、機械弁の方と同じく、歯科の処置・手術・内視鏡検査などで、お薬を休む必要があるかもしれないときは、必ず事前に主治医にご相談を。人工の弁を入れた方は お口の中を清潔に保つことも大切で、歯科を受診するときは「人工弁が入っている」とお伝えください。

そして、TAVIは 入れて終わり、ではありません。新しい弁がきちんと働いているか、定期的な心エコーで見守っていくことが大切です。生体弁は年月とともに傷んでくることがあるため、長いお付き合いのなかで、その変化に早めに気づくことが安心につながります。

06治療の前も、あとも ― えぷろんクリニックが伴走します

TAVIは、限られた専門施設で行われる治療です。でも、「その治療にたどり着くまで」と「終わったあと」を支えるのは、身近なかかりつけの大切な役割です。

心臓を専門とする院長が、橋渡しします

治療の前:定期的な心エコー(第6回)で大動脈弁狭窄症の進み具合を見守り、治療を考える時期にさしかかったら、TAVIを行う専門施設へご紹介します。「手術は不安だけれど、体に負担の少ない方法はないか」というご相談も、どうぞ。

治療のあと:退院後の受け皿として、体調・お薬・心エコーでの経過観察を、地元で継続して見守ります。院長は 心不全を専門とし、兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療に携わっていますので、病院との連携もスムーズです。

07最後に ― 「もう年だから」と、あきらめないで

TAVIは、これまで「手術はむずかしい」とされてきた方にも、弁を新しくする道をひらいた治療です。胸を開かず、体の負担が軽く、回復も早い ―― 「もう年だから、我慢するしかない」と思っていた方が、また元気に歩けるようになる。そんな例も、めずらしくありません。

大切なのは、ちょうどよい時期を逃さないこと、そして ひとりで抱えこまず、まず相談することです。息切れや胸の症状、健診での心雑音の指摘 ―― 気になることがあれば、当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)で、いつでもご相談ください。治療の前も、あとも、地元で一緒に見守らせていただきます。

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第17回 僧帽弁のカテーテル治療 ― 弁を「つまんで」直す

今回のTAVIは、大動脈弁を「取り替える」カテーテル治療でした。次回は、僧帽弁(第3回)の逆流に対して、弁を クリップでつまんで直す カテーテル治療のお話。「取り替える」とはまた違う、もうひとつのカテーテル治療をご紹介します。

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CLINIC INFORMATION

当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。