心房細動とは?
― 脈がばらばらになる、いちばん多い不整脈 ―

第19回 で、不整脈のなかで いちばん多く、いちばん大切 なものとしてお名前だけご紹介した不整脈があります。それが 心房細動(しんぼうさいどう) です。
ふしぎな病気です。まったく症状がない方もいるのに、しっかり治療したほうがよい。「どこも悪くないのに、なぜ薬を飲むのか」と感じる方も少なくありません。心房細動とはどんな不整脈で、なぜ治療が必要になるのか。今回はそのお話です。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01心房が、細かくふるえてしまう

第19回でお話ししたとおり、心臓には 電気の通り道 があり、洞結節(どうけっせつ)という“指揮者” がリズムをつくっています。ところが心房細動では、この指揮が乱れ、心房のあちこちが勝手に、細かくふるえた状態 になってしまいます。

正常な脈と心房細動を比べた図。正常では洞結節から規則正しく電気が伝わり脈の間かくがそろうが、心房細動では心房のあちこちが細かくふるえ、脈の間かくがばらばらになる
図1 正常な脈では、洞結節という“指揮者”から規則正しく電気が伝わります(左)。心房細動では心房のあちこちが細かくふるえ、脈の間かくがばらばらになります(右)

こうなると、ふたつのことが起こります。ひとつは、心房がしっかり縮まなくなること。もうひとつは、心室への電気の伝わりかたが不規則になり、脈の間かくがばらばらになることです。手首で脈をふれると、リズムがそろわず、強さもまちまちに感じられます。

はじめのうちは ときどき出ては自然におさまる ことが多く、それが年月とともに 続くようになっていく ことがあります。「前は数時間でおさまっていたのに、最近は続いている」というのは、めずらしくない経過です。

02なぜ起こるの? ― 積み重なるもの

最大の要因は 年齢 です。心房細動は、年齢とともに確実に増えていきます。そこに、いろいろな要因が積み重なって起こりやすくなります。

  • 高血圧 ― 心房に負担がかかり続けます
  • 心不全(第13回)や 弁膜症 ― 心房が引き伸ばされます
  • 糖尿病、甲状腺のはたらきの異常
  • 肥満、お酒の飲みすぎ、喫煙
  • 睡眠時無呼吸 ― 眠っているあいだ、心臓に負担がかかります

この顔ぶれを見て、お気づきでしょうか。後半のいくつかは、手を入れられるものです。心房細動は「年のせいだから仕方ない」だけの病気ではありません。土台を整えることも、りっぱな治療の一部です(07でお話しします)。

03症状 ― 気づかない方も、たくさんいます

動悸、息切れ、胸の違和感、なんとなくだるい、疲れやすい ―― こうした症状が出ます。心房がうまく働かなくなるぶん、心臓が全身に送り出す力も落ちるため、「前より階段がつらい」 という形で現れることもあります。

一方で、まったく症状がない方も、たくさんいらっしゃいます。健診の心電図や、たまたま測った血圧計の表示、脈をふれてみたときに見つかる ―― そういう見つかり方が、決してめずらしくありません。

第19回でお話しした 「症状の強さと、病気の重さは一致しない」 ―― 心房細動は、その代表格です。症状がないことは、心配がないことを意味しません。むしろ、気づかないまま時間が過ぎることのほうが心配です。

04いちばん心配なこと ― 脳梗塞

心房細動の治療がなぜ大切なのか。その最大の理由が 脳梗塞(のうこうそく) です。

心房がしっかり縮まないと、心房のなかで血液がよどみます。よどんだところには 血のかたまり ができやすくなります。そしてそのかたまりが心臓から流れ出し、脳の血管をふさいでしまうことがあるのです。

心房細動から脳梗塞が起こるまでを3段階で示した図。心房が細かくふるえて血液がよどみ、血のかたまりができ、それが流れて脳の血管をふさぐ
図2 心房がしっかり縮まないと血液がよどみ、血のかたまりができます。それが流れていって脳の血管をふさぐと、脳梗塞になります

心房細動が原因の脳梗塞には、こわい特徴があります。できるかたまりが大きくなりやすく、ふさがれる血管も太くなりやすいため、ほかの原因の脳梗塞にくらべて範囲が広く、後遺症が残りやすいと言われています。

「症状がないのに、なぜ薬を飲むのですか」―― この問いへの答えが、ここにあります。飲むのは、いま感じている症状のためではありません。これから起こるかもしれない脳梗塞を防ぐためです。

脳梗塞を疑うサインは、時間との勝負です

次のような症状が 突然 起きたときは、様子を見ずに救急要請してください。

・顔の片側がゆがむ(笑うと片側だけ下がる)
・片方の腕や足に力が入らない/しびれる
・ろれつが回らない・言葉が出ない・話が通じない
・片方が見えにくい/急に強いめまい、立てない

迷わず 119 番

症状が いったん軽くなっても、受診してください。治療は 始まりが早いほど選べる手立てが多くなります。「様子を見て、朝になったら病院へ」―― その数時間が惜しいのです。症状が始まった時刻 を覚えておくと、大きな助けになります。

05治療① 脳梗塞を防ぐ

そこで中心になるのが、血のかたまりができるのを防ぐお薬(抗凝固薬) です。第19回でお話しした 「目的の違う2つのお薬」 のうちの、ひとつめですね。

まぎらわしいのですが、「血液をサラサラにするお薬」(抗血小板薬)とは別物です。心筋梗塞などで使われるお薬とは、ねらいも使いどころも違います。「同じようなものだろう」と考えて、ご自分で置きかえたり、重ねたりしないでください。

飲む方と、飲まない方がいるのはなぜ?

心房細動があれば全員がこのお薬を飲む、というわけではありません。脳梗塞の起こりやすさは、人によって違うからです。

その見積もりには、年齢、高血圧、糖尿病、心不全、これまでに脳梗塞を起こしたことがあるかどうか ―― といった要素が使われます。こうしたものを ひとつずつではなく、全体として 見ながら、お薬による利益と、出血しやすくなるという不利益 を天秤にかけて決めていきます。

腎臓のはたらき、体重、ほかに飲んでいるお薬、転びやすさ ―― こうしたことも判断に関わります。ですから この見積もりは、主治医が行います。「あの人は飲んでいないのに、なぜ自分は」と感じたときは、遠慮なくお尋ねください。理由は必ずあります。

このお薬は、自己判断で中止しないでください。急にやめると、命にかかわる合併症につながることがあります。血が止まりにくい・鼻や歯ぐきの出血が続く・黒い便が出る・身に覚えのないあざができる ―― こうしたときは主治医にご相談を。歯科の処置・手術・内視鏡検査などでお薬を休む必要があるかもしれないときは、必ず事前にご相談ください。新しく飲みはじめるお薬や市販薬も、のみ合わせの確認が必要です。

06治療② 脈そのものを、どうするか

脳梗塞を防ぐ治療とは 別に、脈そのものへの治療を考えます。大きく2つの方向があります。

速さをおさえる心房細動はそのままでも、脈が速くなりすぎないように調節する考え方です。症状がやわらぎ、心臓の負担も減ります。
リズムを戻す規則正しいリズムに戻す・戻した状態を保つことをめざす考え方です。お薬による方法と、カテーテルによる方法(アブレーション)があります。

どちらを選ぶかは、症状の強さ、心房細動が始まってからの期間、年齢、心臓の状態 などによって変わります。「戻せるものなら戻したい」と思われるのは自然ですが、戻すことが必ずしも良い結果につながるとは限らないのがむずかしいところで、ここは一人ひとり違います。カテーテルによる治療(アブレーション)については、第24回でくわしくお話しします。

大切なのは、脈を落ち着かせる治療と、脳梗塞を防ぐ治療は、別のものだということです。リズムが戻って症状が消えても、脳梗塞を防ぐお薬が引き続き必要な方がいます。「治ったからもういらない」と自己判断しないでください。

07治療③ 土台を整える

近年とくに大切だと考えられているのが、心房細動が起こりやすい“土台”そのものに手を入れることです。02で挙げた要因のうち、手を入れられるものに向き合います。

  • 血圧をきちんと下げる
  • 体重を整える
  • お酒を控える ― 飲みすぎは発作の引き金になります
  • 禁煙する
  • いびきや日中の強い眠気があれば、睡眠時無呼吸を調べる
  • 糖尿病があれば、しっかり治療する

地味に見えるかもしれませんが、これらは お薬やカテーテルと並ぶ、治療の柱のひとつ です。発作の起こりにくさにも、治療のうまくいきやすさにも関わってきます。

当院でできること

えぷろんクリニック(兵庫県姫路市)では、心電図・24時間ホルター心電図(第20回)・心エコー図検査(第6回)・血液検査を院内で行っています。心房細動を見つけること、背景に心臓の病気がないかを確かめること、そのどちらも当院で行えます。

見つかったあとも、お薬の調整、血圧や体重の管理、定期的な検査を続けて見守ります。院長は循環器を専門とし、呼吸器専門医も在籍していますので、睡眠時無呼吸のご相談にも対応できます。カテーテルによる治療が候補になるときは、専門の病院へご紹介します。

08最後に ― 「症状がないのに」と思ったら

心房細動は、静かに見つかって、静かに付き合っていく不整脈です。痛くもかゆくもないのに薬を飲み続けることに、納得しきれない気持ちが出てくるのは、とても自然なことだと思います。

けれど、そのお薬は 「今日の調子」のためではなく、「これからの毎日」を守るため にあります。もし飲むのがつらくなったとき、疑問がわいたときは、やめてしまう前に、必ずご相談ください。理由をご説明することも、別の方法を一緒に考えることもできます。それが、いちばん安全な道です。

※ 心房細動をふくむ不整脈の診療の考え方については、日本循環器学会のガイドライン(専門家向け)でも公開されています。より詳しく知りたい方は、あわせてご参照ください。

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CLINIC INFORMATION

当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。