不整脈とは?
― 脈の「リズム」がみだれるとき ―

第15回から第18回まで、弁膜症の治療のお話を続けてきました。今回からは、あたらしいテーマに入ります。不整脈です。
健診で「不整脈があります」と言われて、心配になった方。胸がドキドキしたり、脈がとんだ感じがしたりして、気になっている方。「様子を見ましょう」と言われたけれど、それでいいのか不安な方 ―― 不整脈とはいったい何なのか、どんなときに急いだほうがよいのかを、やさしくお話しします。
今回は全体像です。ひとつひとつの病気については、次の回から順にお話ししていきます。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01心臓は「電気」で動いています

心臓は、じつは とても小さな電気 で動いています。心臓の中には電気の通り道があって、決まった順番で電気が流れることで、心臓の部屋がきちんとした順番で縮み、血液が送り出されます。

その出発点が、右の心房の上のほうにある 洞結節(どうけっせつ) です。ここは、いわば心臓の “指揮者”。走れば速く、眠れば遅く ―― 体のようすに合わせて、1分間に打つ回数を決めています。

心臓の中の電気の通り道を示した図。右心房の上にある洞結節で電気が生まれ、心房ぜんたいへ広がり、中継所を通って心室へ伝わる順番を、4つのステップで説明している
図1 洞結節で生まれた電気が、心房ぜんたいへ広がり、中継所を通って心室へ伝わります。この順番が保たれているとき、脈は規則正しく打ちます

この 電気の流れかたが乱れると、脈のリズムがみだれます。これが 不整脈 です。「心臓そのものが弱っている」とは限らず、電気の信号の問題である、というのが大事なところです。

不整脈とは、「脈のリズムがみだれること」の総称です。ひとつの病名ではありません。命にかかわるものから、健康な方にもふつうに見られるものまで、中身は大きく違います。だからこそ、「どの不整脈なのか」を見きわめることが、いちばん大切なのです。

02大きく3つのタイプに分かれます

たくさんの種類がありますが、まずは 「速い」「遅い」「とぶ」 の3つに分けて考えると、ぐっと分かりやすくなります。

正常な脈と、速いタイプ(頻脈)・遅いタイプ(徐脈)・とぶタイプ(期外収縮)の脈の波形を並べて比べた模式図。とぶタイプは早く出る脈のあとに間があく
図2 正常な脈(いちばん上)とくらべた、不整脈の3つのタイプ。速いタイプ・遅いタイプ・とぶタイプで、脈の間かくの乱れかたが違います

① 速いタイプ(頻脈・ひんみゃく)

脈が速くなるタイプです。ドキドキする、息が切れる、胸が苦しい といった症状が出ます。急に始まって急に止まるものもあれば、だらだらと続くものもあります。

このなかでいちばん多く、そして いちばん大切 なのが 心房細動(しんぼうさいどう) です。年齢とともに増える不整脈で、脳梗塞(のうこうそく)を防ぐ治療 が必要になることがあります。とても重要なテーマなので、第21回であらためて、じっくりお話しします。

② 遅いタイプ(徐脈・じょみゃく)

脈が遅くなるタイプです。指揮者である洞結節の元気がなくなったり、電気の通り道の途中で信号が伝わりにくくなったりして起こります。

だるい、疲れやすい、動くと息が切れる、ふらつく ―― こうした症状が、「年のせい」と思われがちなのが、このタイプのやっかいなところです。程度が強いと、脈のリズムを助ける機器(ペースメーカー) を体に入れる治療を考えることがあります。このお話は第23回で。

③ とぶタイプ(期外収縮・きがいしゅうしゅく)

予定より 早いタイミングで脈が1回出て、そのあと間があく タイプです。そのため「脈がとんだ」「一瞬止まった」「胸がドンとした」と感じます。

じつはこれは、健康な方にもごくふつうに見られます。健診の心電図で指摘されて心配になる方がとても多いのですが、心臓に病気がなく、数も少なければ、治療がいらないことがほとんどです。ただし、数がとても多いときや、ほかの心臓の病気がある場合は、きちんと調べておく必要があります。くわしくは第22回でお話しします。

03症状の出かたは、人それぞれ

不整脈でむずかしいのは、症状の強さと、病気の重さが、必ずしも一致しないことです。

よくある誤解 ①

症状が強い=重い病気

ドキドキが強くてつらくても、命にかかわらない不整脈はたくさんあります。つらさは本物ですが、それがそのまま危険度を表すわけではありません。

よくある誤解 ②

症状がない=心配ない

逆に、まったく症状がないのに治療が必要な不整脈もあります。心房細動は、その代表です。健診での指摘を、軽く考えないでください。

ですから、「つらいから危ない」「平気だから大丈夫」と ご自分で判断しないこと が、いちばんの安全策です。まずは、どの不整脈なのかを確かめる ―― そこからです。

04急いだほうがよいサイン

ここまでお話ししたとおり、不整脈の 多くは、あわてて受診しなければならないものではありません。「脈がとんだ気がする」「ときどきドキドキする」といった症状であれば、次の診察のときにご相談いただければ十分なことがほとんどです。

そのうえで、そうではない場面があります。次のようなときは、ためらわないでください。

こんなときは、すぐに救急要請を

・意識を失った/意識が遠のいた・失いかけた(気を失って倒れた、目の前が真っ暗になって座りこんだ)

・強い胸の痛みや苦しさをともなう動悸が、おさまらずに続いている

・動悸とともに、冷や汗が出る・呼吸が苦しい・意識がはっきりしない

迷わず 119 番

とくに 意識を失うこと(失神) は、脈が極端に遅くなったり速くなったりして、脳へ血液が届かなくなったサインのことがあります。運転中や入浴中に起これば、それだけでも危険です。一度でもあれば、必ず医療機関にご相談ください。

「これくらいで救急車を呼んでいいのだろうか」と迷われる方は多いのですが、意識が飛んだときは、呼んでいい場面です。どうか遠慮なさらないでください。

05どうやって見つけるの?

不整脈を確かめる方法は、「そのとき出ている脈の乱れを、記録でとらえること」に尽きます。中心になるのは 心電図 です。

脈をみる手首で脈をふれるだけでも、速さやリズムの乱れは分かります。ご自宅でもできる、いちばん手軽な方法です。
心電図診察室で数分でとれる検査。その瞬間の電気の流れを記録します。
長時間の記録不整脈は、都合よく検査中に出てくれるとは限りません。そこで、小さな機械をつけて長い時間記録し続ける方法があります。

「症状はあるのに、心電図では異常なしと言われた」―― これは、不整脈ではとてもよくあることです。異常がなかったのではなく、そのときたまたま出ていなかっただけかもしれません。あきらめずにご相談ください。検査については、次回(第20回)でくわしくお話しします。

腕時計型の機器で「不整脈」と表示されたら

最近は、腕時計型の機器などで脈の乱れを知らせてくれるものがあります。不整脈に気づくきっかけとしては、とても役に立ちます。実際、これがきっかけで心房細動が見つかる方もいらっしゃいます。

ただし、そのまま診断になるわけではありません。表示されたら、医療機関で心電図を確かめるのが基本です。表示された画面や記録が残っていれば、受診のときにお持ちください。診断の助けになります。

06治療の考え方 ― 目的の違う2つのお薬

治療は、どの不整脈かによってまったく違います。ここでは、全体の見取り図だけお伝えしておきます。

まず大前提として、すべての不整脈に治療が必要なわけではありません。「経過をみましょう」も、きちんとした判断のひとつです。そのうえで治療をするとなったとき、大きく次のような方法があります。

お薬脈を落ち着かせたり、血のかたまりができるのを防いだり。目的の違う2種類があります(下でご説明します)。
カテーテルによる治療脈の乱れの原因になっている場所に、カテーテルで処置をして、乱れを起こりにくくする方法(アブレーション)。第24回でお話しします。
機器を使う治療脈が遅すぎる方に、リズムを助ける機器(ペースメーカー)を入れる方法など。これは第23回で。

「脈を落ち着かせるお薬」と「血のかたまりを防ぐお薬」

不整脈のお薬で、いちばん混乱しやすいのがここです。この2つは、名前が似ていなくても一緒に処方されることがあり、しかも目的がまったく違います。

目的 ①

脈を落ち着かせるお薬

速すぎる脈をゆるめたり、乱れたリズムを整えたりします。症状をやわらげるためのお薬です。

目的 ②

血のかたまりを防ぐお薬(抗凝固薬)

心臓の中に血のかたまりができ、それが脳へ飛んでいくのを防ぎます。脳梗塞を防ぐためのお薬で、脈の乱れ自体を治すものではありません。

ここが大事なところです。脈が落ち着いて症状がなくなっても、血のかたまりを防ぐお薬が必要な状態は、続いていることがあります。「調子がいいからもういらないだろう」と、自己判断でやめてしまうと、思わぬことにつながりかねません。

血液を固まりにくくするお薬は、自己判断で中止しないでください。急にやめると、命にかかわる合併症につながることがあります。血が止まりにくい・鼻や歯ぐきの出血が続く・黒い便が出る・身に覚えのないあざができる ―― こうしたときは主治医にご相談を。歯科の処置・手術・内視鏡検査などでお薬を休む必要があるかもしれないときは、必ず事前にご相談ください。新しく飲みはじめるお薬や市販薬も、のみ合わせの確認が必要です。

どのお薬を、どう組み合わせるかは、不整脈の種類・ほかの病気・出血のしやすさなどによって、お一人おひとり変わります。主治医が調整していきますので、気になることは遠慮なくお尋ねください。

07「様子を見ましょう」で終わらせないために

健診で不整脈を指摘されて、「大きな病院に行くほどではないと言われたけれど、放っておいていいのか分からない」―― そんなもやもやを抱えたまま、何年も過ごしてしまう方がいらっしゃいます。

まずは、かかりつけで確かめられます

当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)では、心電図・長時間の記録・心エコー図(第6回)・血液検査を院内で行えます。「どの不整脈なのか」「心臓そのものに病気が隠れていないか」を確かめる最初の一歩は、かかりつけで十分にできます。

そのうえで、カテーテルによる治療や機器を使う治療が必要そうなときは、専門の病院へご紹介します。院長は循環器を専門とし、兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療に携わっていますので、病院との連携もスムーズです。治療が済んで落ち着いたら、また地元で見守らせていただきます。

08最後に ― 「不整脈です」と言われたら

「不整脈です」という言葉には、じつに幅があります。治療のいらないものから、しっかり治療したほうがよいものまで、ぜんぶ同じ言葉で呼ばれてしまうのです。だから不安になるのは、当然のことだと思います。

大切なのは、怖がりすぎないこと、そして 放っておかないこと。この両方です。「どの不整脈なのか」がはっきりすれば、多くの場合、心配は必要な範囲まで小さくなります。気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

※ 不整脈の診療の考え方については、日本循環器学会のガイドライン(専門家向け)でも公開されています。より詳しく知りたい方は、あわせてご参照ください。

NEXT

第20回 心電図とホルター心電図 ― 脈の乱れを「つかまえる」検査

不整脈は、検査のときに出てくれるとは限りません。次回は、数分でとる 心電図 と、長い時間つけて記録する ホルター心電図 のお話。何が分かって、何が分からないのか。「異常なし」と言われたときの続きの調べ方まで、やさしくお話しします。

えぷろんクリニックのご案内

CLINIC INFORMATION

当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。