僧帽弁のカテーテル治療ってどんな治療?
― 弁を「つまんで」直す(M-TEER)―
前回(第16回)は、大動脈弁を 「取り替える」 カテーテル治療(TAVI)のお話でした。カテーテル治療には、もうひとつの方向があります。それが、弁を 「つまんで直す」 治療 ―― 今回お話しする、僧帽弁のカテーテル治療です。
僧帽弁の逆流(僧帽弁閉鎖不全症・第3回)に対して、胸を開かず、逆流するすき間を クリップでつまんで 減らす。手術がむずかしい方にも道をひらいた治療を、やさしくお話しします。
01いろいろな名前がありますが、同じ治療です
この治療には、経皮的僧帽弁接合不全修復術、経カテーテル的僧帽弁形成術、M-TEER(エムティア) など、いくつもの呼び名があります。むずかしそうに見えますが、指しているのは ひとつの同じ治療です。ここでは、いちばんイメージしやすい 「僧帽弁をクリップでつまんで直すカテーテル治療」 として、お話しします。
僧帽弁は、左心房と左心室のあいだにある“ドア”です(第3回)。このドアがきちんと閉じなくなると、血液が逆戻りします。これが 僧帽弁閉鎖不全症(逆流症)。逆流が続くと心臓に負担がかかり、やがて息切れやむくみ(心不全・第13回)につながります。
この治療は、足の付け根の静脈 から細いカテーテルを心臓まで進め、その先につけた クリップ で、僧帽弁の閉じ残ったすき間を つまんで引き合わせ、逆流を減らします。胸を開かず、心臓も止めません。

ポイントは、弁を取り替えるのではなく、今ある弁を活かして“つまんで直す” こと。第16回のTAVI(大動脈弁を取り替える)とは、同じカテーテル治療でも 考え方が違います。だからこそ、どの弁の、どんな状態かによって、向く治療が変わってきます。
02外科手術・TAVIとの、位置づけの違い
僧帽弁の逆流に対する治療は、大きく お薬・外科手術・カテーテル治療 があります。ここまでの回で見てきた治療を、整理してみましょう。
| 治療 | どんな治療か |
|---|---|
| お薬 | 逆流そのものは治せませんが、心臓の負担をやわらげ、症状を抑えます(第14回のうっ血を取るお薬など)。 |
| 外科手術(第15回) | 胸を開いて、弁を「治す(形成)」か「取り替える(置換)」。幅広い状態に確実に対応できますが、体の負担は大きめ。 |
| 今回のカテーテル治療 | 胸を開かず、クリップで弁を「つまんで直す」。体の負担が軽く、外科手術がむずかしい方の選択肢になります。 |
この治療は、「手術のほうが確実だけれど、体力や持病を考えると、開胸手術はむずかしい」 ―― そんな方に、大きな意味を持ちます。ご高齢の方、以前に心臓や胸の手術を受けた方、肺や腎臓などにご心配のある方でも、体への負担を抑えて逆流を減らせる可能性があります。
同じ「カテーテルで弁を治す」でも、大動脈弁は取り替える(TAVI・第16回)/僧帽弁はつまんで直す(今回)。弁ごとに、適した方法が育ってきました。心臓の治療は、体にやさしい方向へ、少しずつ広がっています。
03治療は、どんなふうに進むの?
施設によって進め方は異なりますが、おおまかな流れは次のようになります。
くわしい検査で、向き・不向きを調べる
心エコー(第6回)で、逆流の程度や弁の形をくわしく調べ、この治療が向いているかを見きわめます。とくに、のどから調べる経食道心エコー(第7回)が役立ちます。
足の付け根の静脈から、カテーテルを進める
全身麻酔のもと、足の付け根の静脈からカテーテルを入れ、心臓の中(左心房)まで進めます。心臓は止めません。
すき間を、クリップでつまむ
逆流している弁の合わせ目を、クリップでつまんで引き合わせます。エコーで逆流が減ったことを確かめながら行い、必要に応じてクリップを追加することもあります。
数日で回復し、退院へ
治療後はしばらく様子をみて、多くは早いうちから体を動かし始めます。入院期間は施設や回復の具合によりますが、開胸手術より短くなるのが一般的です。

決めるのは「ハートチーム」
この治療が向いているかどうかは、ひとりの医師が決めるものではありません。第15回・第16回でもお話しした ハートチーム(循環器内科医・心臓外科医・麻酔科医・エコーの専門医・看護師など)が、検査の結果をもちより、チームで話し合って決めます。
「お薬か・手術か・カテーテルか」「今はまだ待つべきか」―― こうした判断も、チームで検討されます。最終的にどの治療を選ぶかは、ご本人・ご家族のお気持ちも大切にしながら、治療する病院で決まります。
04治療のあと ― お薬と、これからの生活
治療のあとは、しばらく 血液をサラサラにするお薬(抗血小板薬) をのむことが多くなります。クリップに血のかたまりができるのを防ぐためで、どのお薬を、どれくらいの期間のむかは、お一人おひとりの状態によって変わり、主治医が判断します。もともと脈の乱れ(心房細動など)があって別の血液のお薬をのんでいる方は、その調整も主治医が行います。
お薬は 自己判断でやめないでください。また、歯科の処置・手術・内視鏡検査などで、お薬を休む必要があるかもしれないときは、必ず事前に主治医にご相談を。クリップの入った弁も、細菌がつく感染症に注意が必要です。お口の中を清潔に保ち、歯科を受診するときは「心臓の弁の治療を受けた」とお伝えください。
そして、この治療も 受けて終わり、ではありません。逆流が十分に減っているか、心臓の状態はどうか、定期的な心エコーで見守っていくことが大切です。逆流が軽くなると、息切れがやわらぎ、心不全での再入院が減ることも期待できます。
05治療の前も、あとも ― えぷろんクリニックが伴走します
僧帽弁のカテーテル治療は、限られた認定施設で行われます。でも、「その治療にたどり着くまで」と「終わったあと」 を地元で支えるのは、かかりつけの大切な役割です。
心臓を専門とする院長が、橋渡しします
治療の前:定期的な心エコー(第6回)で僧帽弁の逆流の進み具合を見守り、治療を考える時期にさしかかったら、認定施設へご紹介します。「開胸手術は不安だけれど、体に負担の少ない方法はないか」というご相談も、どうぞ。
治療のあと:退院後の受け皿として、体調・お薬・心エコーでの経過観察を、地元で継続して見守ります。院長は 心不全を専門とし、兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療に携わっていますので、病院との連携もスムーズです。
06最後に ― 「もう手術はできない」と言われても
かつては、僧帽弁の逆流に対して「手術がむずかしい」となれば、お薬でしのぐしかありませんでした。でも今は、胸を開かずに、つまんで直す という道があります。「もう手術はできないと言われた」という方が、息切れがやわらぎ、また出かけられるようになる ―― そんな例も、めずらしくありません。
大切なのは、ちょうどよい時期を逃さないこと、そして ひとりで抱えこまず、まず相談することです。息切れやむくみ、健診での心雑音の指摘 ―― 気になることがあれば、当院(兵庫県姫路市・えぷろんクリニック)で、いつでもご相談ください。治療の前も、あとも、地元で一緒に見守らせていただきます。
※ 心臓弁膜症の診療の考え方については、日本循環器学会のガイドライン(専門家向け)でも公開されています。より詳しく知りたい方は、あわせてご参照ください。
えぷろんクリニックのご案内
当院について
えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。
- 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
- 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
- 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
- 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
- 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています
診療理念
「心に寄り添い、信頼される医療の提供」
医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。