運動負荷心電図とは?
― 動いたときだけ現れる、心臓のサインをとらえる ―

前回の 第25回(番外編)で、不整脈のお話は一区切りとしました。今回から3回は 「心臓と運動編」 として、からだを動かすことと心臓の関係をお話しします。今回と次回は からだを動かして調べる検査、その次は 心臓リハビリ のお話です。
階段や坂道で胸が重くなるのに、診察室の心電図では「異常なし」―― そんなことがあります。動いたときだけ現れる変化 を、からだを動かしながら調べるのが 運動負荷心電図(うんどうふか・しんでんず) です。運動負荷心電図とは どんな検査で、何がわかって何がわからないのか。受けるときの準備や注意とあわせて、やさしくお話しします。

えぷろんクリニック 松尾院長の弟子、ドクター・エプ子です。

このブログでは、診察室では時間が足りなくてお伝えしきれないことを、できるだけ専門用語を使わず、ゆっくりお話ししていきます。どうぞお気軽にお付き合いください。

01運動負荷心電図とは ― 「がんばったとき」の心臓を調べる

心電図は、心臓が出しているごく小さな電気を、体の表面から記録する検査です(第20回)。診察室の心電図は、ベッドに横になって、休んでいるときの心臓 を記録します。

ところが、心臓の病気のなかには、休んでいるときは何も起こらず、からだを動かしたときにだけ変化が現れる ものがあります。その代表が、第9回 でお話しした 労作性狭心症(ろうさせい・きょうしんしょう) です。心臓に血液を送る血管(冠動脈)が狭くなっていても、休んでいるときは血液が足りています。けれど、階段や坂道で心臓がいっしょうけんめい働くと、心臓が必要とする血液に、届けられる量が追いつかなくなります。そのため、心臓の筋肉が酸素不足になるのです。

つまり 運動負荷心電図とは、からだを動かして あえて心臓に負担をかけ、そのときの心電図の変化を確かめる検査です。「負荷(ふか)」とは、負担をかけるという意味です。

冠動脈が狭くなっている場合に、休んでいるときと動いたときを比べた図。休んでいるときは心臓の筋肉に届く血液が足りていて、心電図はふだんの波形。動いたときは、必要な血液に届く量が追いつかずに酸素不足になり、心電図の波形の一部が下がる。わかりやすくしたイメージ図

図1 休んでいるときの心電図に変化がなくても(左)、からだを動かして心臓に負担がかかると、波形の一部が下がるなどの変化が現れることがあります(右)

ホルター心電図が 「ふだんの一日」を記録して、たまたま起きた変化をつかまえる 検査だとすると、運動負荷心電図は、「がんばったとき」の状態を、その場でつくって調べる 検査です。医師や検査の担当者が、心電図と血圧を見守りながら行います。

休んでいるときの心電図が「異常なし」でも、動いたときだけ変化が出ることがあります。その「動いたとき」を、安全を確かめながら再現して調べるのが、運動負荷心電図です。

02どんなときに受けるの?

おもに、次のようなときに行います。どの場合も、動いたときに血圧がどう上がるか もあわせて確かめます。

  • 狭心症が疑われるとき:階段や坂道、急ぎ足のときに胸が重くなる・締めつけられる ―― その症状が心臓から来ているのかを確かめる手がかりになります。
  • 動いたときの脈の乱れを調べたいとき:運動すると増える期外収縮(第22回)や、動くと起こる不整脈がないかを調べます。
  • 治療のあとの確認や、運動の目安を知りたいとき:狭くなった血管を広げる治療(第11回)のあとの確認や、どのくらいまで動いて大丈夫かの目安にすることもあります。

この検査を、受けないほうがよいとき

運動負荷心電図は、心臓にあえて負担をかける検査です。そのため、心臓の状態によっては、検査をしないほうがよい場合や、治療を先にしたほうがよい場合 があります。

次のような方は、運動負荷心電図を行わないか、行う時期を慎重に考えます。

・安静にしていても胸が痛む、最近になって 胸の痛みが強くなった・回数が増えた
・症状のある、重い大動脈弁狭窄症(第2回)
・心不全(第13回)が落ち着いていない

とくに1つめは、急性心筋梗塞(第8回)の前ぶれのことがあります。検査を待たずに、すぐに受診してください。

また、膝や腰の痛みなどで歩いたり階段を上り下りしたりするのがむずかしい方や、もともとの心電図の形によって変化を読み取りにくい方は、別の方法で調べます(05でお話しします)。受けられるかどうか、どの検査が合うかは、医師が判断します。

033つの方法 ― 階段・ベルトの上を歩く・自転車こぎ

運動負荷心電図には、おもに3つの方法があります。

運動負荷心電図のおもな3つの方法を描いた図。2段の階段を上り下りするマスター二階段試験(心電図は多くは運動の前とあとに記録)、動くベルトの上を歩くトレッドミル、固定された自転車をこぐ自転車エルゴメーター(どちらも運動中も心電図と血圧を見続ける)

図2 運動負荷心電図のおもな3つの方法。2段の階段を上り下りする方法(左)、動くベルトの上を歩く方法(中)、その場に固定された自転車をこぐ方法(右)があります

マスター二階段試験
(2段の階段)
2段の階段を、決められた速さで、決められた時間だけ上り下りします。速さと時間は、年齢・性別・体重などから決めます。心電図は、多くは 運動の前とあと に記録します。準備が少なく、多くの施設で行われています。
トレッドミル
(ベルトの上を歩く)
動くベルトの上を歩きます。ベルトが少しずつ速くなり、坂も少しずつ急に なっていきます。運動しているあいだも、心電図と血圧を見続けます。
自転車エルゴメーター
(自転車こぎ)
その場に固定された自転車をこぎます。ペダルが少しずつ重く なっていきます。運動しているあいだも、心電図と血圧を見続けます。からだが大きく揺れないので、心電図や血圧を測りやすい方法です。

歩くことや、階段の上り下りに不安がある方は、事前に伝えてください。なお、マスクをつけて、吐く息も調べながら運動する検査もあります。こちらは次回(第27回)お話しします。

方法は違っても、「からだを動かして心臓に負担をかけ、そのときの変化を確かめる」 という考え方は同じです。どの方法になるかは、施設や体の状態によって決まります ので、ご自分で選ぶ必要はありません。

04検査の日の流れ ― 準備と、がまんしないこと

検査の前に

動きやすい服と、歩きやすい靴 でお越しください。胸に電極を貼るので、上半身は脱ぎ着しやすい服が便利です。施設によっては、検査着に着替えたり、はだしで行ったりします。検査の直前の食事は避けます(何時間前までに済ませるかは、施設の指示にしたがってください)。当日、熱があるなど体調がすぐれないときや、膝や腰が痛むときは、検査の前に伝えてください。

ふだんのお薬は、基本的にいつもどおりです。ただし、検査の目的によっては、一時的にやめるよう指示が出るお薬もあります。その場合も、指示されたものだけを指示どおりに。自己判断でやめないでください。飲んでいるお薬がわかるもの(お薬手帳など)もお持ちください。

検査の流れ

施設によって違いはありますが、一般的な流れは次のとおりです。

  1. 電極と血圧計をつける

    胸に電極を貼り、腕に血圧計を巻きます。電極を貼る場所の皮膚を、軽くふいたりこすったりすることがあります。

  2. 休んでいるときを記録する

    まず、休んだ状態の心電図と血圧を記録します。これが、比べるときの基準になります。

  3. からだを動かす

    決められた方法で運動します。トレッドミルや自転車では、少しずつ負担を上げていきます。そのあいだ、医師や検査の担当者が、心電図と血圧を見守っています。

  4. 休みながら、落ち着くまで記録する

    運動を終えたあとも、脈や血圧が落ち着くまで 心電図を記録します。運動のあとに変化が現れることもあるためです。

  5. 結果の説明

    その日のうちに説明があることも、後日の外来で説明されることもあります。施設によって異なります。

検査の日のチェックをまとめた図。検査の前に:動きやすい服と歩きやすい靴で行く、直前の食事は避ける、お薬は基本的にいつもどおりで、やめるのは指示されたお薬だけ、体調が悪いときや膝・腰が痛むときは前もって伝える。検査のとき・あと:つらくなったらすぐ伝える、症状や変化が出たらそこで運動を終える、終わったあとも落ち着くまで休んで記録する、帰ってから胸の症状があれば検査した施設へ連絡する

図3 検査の日のチェック。前もって準備しておくことと、検査のときに大切なことをまとめました

つらくなったら、がまんしないで

心臓にあえて負担をかけるので、まれに強い胸の痛みや不整脈が起こることがあります。そのため、すぐ対応できる準備のもとで行います。

検査中に、胸の痛みや圧迫感、息苦しさ、めまい、足の痛みや強い疲れ など、つらいと感じたら、がまんせずにすぐ伝えてください。目標とする負担に達したとき、または症状や心電図・血圧の変化が出たときは、そこで運動を終えます。つらさをがまんして続ける検査ではありません。

つらいときは、がまんせずにすぐ伝える ―― それが、いちばんの安全策です。そのとき感じた症状そのものが、大切な検査の結果にもなります。

検査を終えて帰ってから、いつもと違う胸の痛みや息苦しさ があるときは、様子を見ずに、検査を受けた施設へご連絡ください。強い胸の痛みが数分以上続くときは、クリニックではなく、迷わず119番 です(第8回)。

05結果の受け止め方 ― 白か黒かではなく、次の一手の手がかり

結果は、「変化なし」「変化あり」、ときに「どちらともいえない」といった形で説明されます。ここで知っておいていただきたいのは、この検査の結果は、白か黒かを決めるものではなく、次に何をするかを決める手がかり だということです。よくある誤解を、2つ整理しておきましょう。

よくある誤解 ①

「変化なし」なら、心臓は大丈夫

この検査だけでは、狭くなった血管を 見つけきれないことがあります。運動が十分にできなかったときも、変化が出にくくなります。症状が続いているときは、結果にかかわらずご相談ください。

よくある誤解 ②

「変化あり」なら、狭心症で決まり

もともとの心電図の形や体質などによって、狭心症でなくても変化が出ることがあります。次の検査で確かめてから、治療を考えます。

次に行う検査

さらに詳しく調べる必要があるときは、次のような検査を組み合わせます。

  • 冠動脈CT検査:造影剤というお薬を使ってCTを撮り、心臓の血管の狭さを、体を傷つけずに立体的に調べます。
  • 画像で、血の巡りを見る検査:運動やお薬で心臓に負担をかけ、心臓の筋肉に血液が行きわたっているかを、画像で調べます。
  • 冠動脈造影検査(カテーテル検査):細い管を血管に入れて、心臓の血管を直接写す検査です(第10回)。

最近は、症状や体質によって、運動負荷心電図より先に冠動脈CTなどを選ぶ こともあります。どの検査が合うかは、医師が判断します。

この検査では、見つけにくいもの

夜中や明け方など、安静にしているときに起こりやすいタイプの狭心症(冠攣縮性狭心症) は、この検査では見つけにくいことがあります。こうしたタイプが疑われるときは、ホルター心電図などで、症状が出たときの心電図をとらえます。

また、運動負荷心電図で変化が出たのに、冠動脈CTやカテーテル検査では 太い血管に狭いところが見つからない ことがあります。そんなときに考える病気のひとつが、細い血管の不調(微小血管狭心症) です(第12回)。見きわめは、専門の施設で行います。

結果は、「次に何をするか」を決める手がかり です。そして、どんな結果であっても、症状が続くならご相談ください。「どんなときに、どんな症状が出るか」は、いちばん確かな手がかりです。

06当院でできること

入口の検査と、結果のあとの見守り

えぷろんクリニック(兵庫県姫路市)では、運動負荷心電図は行っていません。そのかわり、どんなときに、どんな症状が出るか をくわしくうかがったうえで、心電図・24時間ホルター心電図・心エコー図検査・血液検査 を院内で行い、最初の見きわめをします。

運動負荷心電図などが必要なときは、行っている施設や、連携する専門病院へご紹介します。紹介先の方針によっては、運動負荷心電図ではなく、冠動脈CTなど別の検査になることもあります。

結果が出たあとの お薬の調整や、血圧・コレステロール・血糖の管理、生活のご相談 は、当院で続けていくことができます。

07最後に ― 「動いたときの症状」を、聞かせてください

「階段で胸が重くなる」「坂道で息が切れる」―― こうした症状は、年のせいや運動不足と思われがち です。けれど、それが 心臓からのサイン のこともあります。運動負荷心電図は、その「動いたときだけ」の変化を、安全を確かめながら調べる検査です。

どの検査を選ぶかを決める、いちばんの手がかりは、「どんなときに、どんな症状が、どのくらい続くか」 というお話です。「この程度で相談していいのかな」と思うくらいの症状でも、どうぞ遠慮なくお聞かせください。一緒に、次の一手を考えていきましょう。

※ 狭心症の診断と検査の考え方については、日本循環器学会のガイドライン(専門家向け)でも公開されています。より詳しく知りたい方は、あわせてご参照ください。

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第27回 CPX(心肺運動負荷試験)とは

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当院について

えぷろんクリニックは、姫路市飾磨区にある循環器内科・呼吸器内科・内科のクリニックです。これまで地域に親しまれてきた「田中クリニック」の理念を引き継ぎ、2025年12月より新たな名前で診療を続けています。

  • 循環器専門医と呼吸器専門医の両方が在籍し、息切れや胸の症状の原因を総合的に診断します
  • 院内に心エコー図・心電図・血液検査・呼吸機能検査などを備え、必要な初期検査を当日に行えます
  • 兵庫県立はりま姫路総合医療センター・姫路医療センターなどと連携し、入院・手術や精密検査が必要な場合もスムーズにご紹介します
  • 院長は兵庫県立はりま姫路総合医療センターでも診療を行っており、心不全外来・地域連携にも携わっています
  • 在宅酸素・人工呼吸器対応や終末期ケアを通じて、ご自宅での療養も支えています

診療理念

「心に寄り添い、信頼される医療の提供」

医学的根拠に基づいた正確な医療を提供しつつ、患者さまとの信頼関係を大切にした診療を行っています。患者さまと丁寧に向き合い、納得いただける治療方針を共に考え、地域の皆さまにとって 「いつでも相談できる、安心できる存在」 となれるよう努めています。